ひとつの器で六魂共鳴 - 最下層から始まる六人格侵略譚 -   作:z567ug

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第二十八話 正しさの剣

そこは、実にこの世界の4分の1を占める大陸。

天冠大陸《エルダリア》。

空は高く、澄み渡り。

大地は豊かで、整備されている。

道は舗装され、

建物は均一に並び、

人々は整然と行き交う。

――美しい。

誰が見ても、そう思うだろう。

そんなエルダリアの最南。

辺境の地。

 

「……」

男が一人、立っていた。

九条 恒一。

まだ若い。

湊と同じくらいの年齢だろうか。

だが、その目には迷いがない。

視線の先。

荷車。

そして――縛られた人間。

 

「……お願いです……」

か細い声。

膝をついた男が、頭を下げていた。

「サハギンの群れに船がやられて…」

「どうか…娘だけでも……」

 

「うるせぇな」

兵士が吐き捨てる。

「お前は下級民の義務である下位大陸からの徴収に失敗した」

「価値のないものは処分する規則だ」

「変えはいくらでも居る」

 

その横で、

小さな少女が震えている。

「……やだ……」

 

「ガキは上級の方々に献上できるかもしれん」

「連れて行け、親は殺して構わん」

 

「隊長、この女、年はいってますがいい身体してますよ」

「殺す前に遊んでも?」

兵士。

 

「まったく…」

「遊んだ後は確実に処分するんだぞ?」

 

「へへ…もちろんでさぁ」

 

夫婦が引きずられる。

少女の手が離れる。

 

「――」

 

九条が、一歩踏み出す。

「待て!」

 

空気が止まる。

兵士達が振り返る。

 

「……なんだお前?」

 

「オレは曲がった事が大嫌いでな」

「お前らがやってる事が正しいとは到底思えん」

「…虫唾が走るんだよっ!」

 

急な口上に兵士達は呆気に取られる。

 

「は?」

 

笑いが漏れる。

「何言ってんだこいつ」

「ここじゃそれがルールなんだよ!」

 

九条は、少しだけ目を細める。

「……ルール」

 

「そうだ」

「文句あるならこの世界の頂点である」

「エクシード様にでも言ってみたらどうだ?」

隊長が皮肉混じりに言う。

 

別の兵士も笑いながら同調する。

「いやいや、無理ですよ隊長」

「こんな下級民、王都にすら入れないですってぇ」

 

沈黙。

「……なるほど」

一歩。

また一歩。

距離が詰まる。

手には落ちていた錆だらけの剣。

 

「おい、止ま――」

言い終わる前に。

 

「――」

 

一閃。

音が遅れる。

隊長の首が、落ちた。

 

「……は?」

 

もう一人。

反応する前に。

 

「――」

 

崩れる。

静寂。

 

少女が、震えたまま立ち尽くす。

「……た、すけ……」

 

九条は、倒れた男を見る。

「……お前らは間違っている」

 

返り血を浴びて鮮血に染まる九条。

「…ルクス…これを正せということか」

小さく呟く。

そして、少女を見る。

「もう、大丈夫だ」

 

少女の目に、恐怖が浮かぶ。

「……え……」

一歩、後ずさる。

 

九条は気づかない。

「安心しろ」

「悪は排除した」

 

その言葉に。

少女は、さらに下がった。

「……こわい……」

 

沈黙。

九条の動きが止まる。

 

「……なぜだ」

理解できない。

「ただ助けただけなのに…」

 

だが。

少女は、震えていた。

その時。

 

「おいおいおい……どうなってんだ?」

声。

 

振り返る。

数人の兵士。

少女達家族の家と思われる家屋から出てくる。

 

「隊長!!」

「やったのは貴様かっ!?」

惨状を見て1人の兵士が言う。

九条が、静かに答える。

「彼らは、悪だ…」

「悪はオレが粛清する」

 

別の兵士が九条の元へ詰め寄る。

「おい、やってくれたな!」

「下級民のくせに!」

 

沈黙。

「……そうか」

 

九条の目が、わずかに冷える。

「随分とこの世界には悪が多いんだな」

 

九条の目の前まで兵士が迫る。

「何を言っている」

「下級民がっ!」

兵士が剣を振りかぶり九条目掛けて振り下ろす。

 

その瞬間。

地面が軋む。

 

「――《四元素支配》」

低い声。

土が隆起する。

兵士の足元を絡め取る。

 

「なっ――!?」

動きを止める。

 

次の瞬間。

九条の手に持たれた錆だらけの剣。

バチッ――

雷が走る。

雷が2mほどの剣の形を成す。

 

「……っ!」

「なんだそれは――」

 

一瞬。

それで終わった。

 

「――」

 

音もなく。

全員、崩れる。

沈黙。

雷が消える。

九条は、静かに息を吐く。

 

「……排除した」

 

それだけ。

振り返る。

少女達家族は、いない。

逃げていた。

 

九条は、立ち尽くす。

「……なぜだ」

理解できない。

「悪を打ち倒した…」

「正しいことをしたはずなのに…」

 

風が吹く。

誰もいない道。

ただ、血だけが残る。

 

九条は、空を見る。

「……この世界は」

静かに。

「歪んでいる」

拳を握る。

「ならば」

目に、光が宿る。

「オレが…正す!」

 

その言葉に、

一切の迷いはなかった。

――それは、救いか。

――それとも。

世界を変える、もう一つの意思が。

静かに、動き出した。

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