ひとつの器で六魂共鳴 - 最下層から始まる六人格侵略譚 -   作:z567ug

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第二十九話 選別の先

エルダリア南端。

辺境の集落。

石造りの家が並び、

整然としているはずの街並みは――どこか荒れていた。

 

「……」

九条 恒一は、その通りを歩いていた。

視線の先。

人だかり。

怒号。

罵声。

そして――

 

「離せ!!」

男の叫び。

 

数人の兵士が、一人の青年を取り押さえていた。

「貴様がそこの店から果物を盗んだんだろ?」

「食料窃取で貴様を処分する!」

 

「聞いてくれ!俺は――」

殴られる。

 

「言い訳をするんじゃない!」

 

地面に叩きつけられる青年。

周囲の人間は、ただ見ているだけだった。

兵士の一人が剣を抜く。

 

「待て」

九条の声。

全員の視線が集まる。

 

「……なんだお前は?」

 

兵士の一人が九条の背格好を見て気付く。

「貴様っ!昨日隣の村で小隊を全滅させた男だな?」

 

「あいつらは罪人だ」

九条は淡々と返す。

「おい、青年」

青年を見る。

「お前は、食料を盗んだのか」

 

「……っ」

青年は歯を食いしばる。

「……ああ、盗んだ」

「だけど――」

声が震える。

「妹が、もう三日も何も食ってないんだ……!」

 

沈黙。

 

「働いても遅いとか理由を付けて金をよこさない」

「配給も来るわけじゃない」

「盗んででも手に入れるしか生きれなかったんだよ!」

拳が震える。

「だから……だから俺が……」

言葉が途切れる。

 

九条は、静かに聞いていた。

「……なるほど」

短く、呟く。

 

兵士が笑う。

「聞いただろ?」

「理由がどうあれ盗みは犯罪だ!」

「犯罪を犯すような人間は処分せよとの規則だ」

 

九条は、兵士を見る。

「その規則とやらは、正しいのか?」

 

「当たり前だ」

「秩序を保つためのものだ」

「例外を認めれば崩壊する」

 

沈黙。

九条の目が、わずかに細くなる。

「……秩序」

「その秩序は特権階級のためだけのものなんじゃないか?」

ゆっくりと、視線を戻す。

 

青年。

震えている。

必死に、何かを守ろうとしている。

 

九条が問う。

「……妹は、どこだ?」

 

「……家にいる」

「熱もあるし衰弱してて歩けないんだ」

 

九条は、しばらく黙った。

風が吹く。

周囲の空気が、張り詰める。

やがて。

「……おいそこの兵士」

九条が口を開く。

「そいつは、解放しろ」

 

「は?」

兵士が顔をしかめる。

「秩序のためだ、こいつは処分するんだよ!」

 

「理解している」

「だが――」

一瞬、間が空く。

「青年の事情を聞いた上で処分するべきか?」

「その秩序とやらは本当に守るべきものなのか?」

 

沈黙。

周囲がざわつく。

「事情なんか関係ねぇ!」

「ふざけるな」

兵士が一歩前に出る。

「そんな事を許せばどうなるか分かっているのか?」

「都合のいい事情を並べて全員が同じことをやる」

「秩序は崩壊だ!」

 

九条は、静かに答える。

「ならば」

視線が鋭くなる。

「不正をしてる人間を粛清するのがお前らの仕事だろう?」

 

「……なに?」

 

「働いても金が与えられない」

「病気にもなり食うのに困り犯罪を犯す」

「捕まえたら事情も聞かず処分する」

「それが“正しい秩序”なのか?」

 

沈黙。

兵士が、苛立ちを隠さず剣を構える。

「下級民はただ使われて壊れたら捨てる」

「それが下級民の宿命なんだよ!」

 

九条は、ため息をついた。

「……そうか」

一歩、踏み出す。

「ならば」

低く。

「オレはその秩序ごと、否定する」

 

地面が震える。

「――《四元素支配》」

 

土が隆起する。

兵士の足を拘束する。

「なっ――!?」

「足が…動かねぇ!」

 

雷を纏った錆びた剣。

一瞬。

それで終わった。

音もなく、兵士が崩れる。

静寂。

誰も動かない。

 

九条は、青年を見た。

「その果物はオレが買う、行け」

短く言う。

「妹を助けろ」

 

「……あ……」

青年は立ち上がる。

だが、足が止まる。

「……なんで」

震える声。

「俺、盗んじまったのに…」

「なんで助けるんだ?」

 

九条は、少しだけ考えた。

「盗みは犯罪だ」

「罪は時間をかけてでも償え」

「その時間をオレがお前にやる」

 

青年は、何も言えずに走り去る。

沈黙。

 

九条は振り返り、果物屋の店主に金を渡す。

「これで足りるか?」

 

「へ…へい、大丈夫です」

 

周囲の人間たちが、ざわめく。

「……あんな事しちまってワシら下級民に粛清が来るんじゃ?」

「昨日も兵を殺したらしい…」

「やだわぁ傍迷惑な事してくれたわね…」

「早く憲兵に知らせんと、とばっちりくうぞ」

 

小さな声。

だが、確実に広がっていく。

九条は、それを聞いていた。

 

「……」

拳を握る。

「……分からない」

小さく呟く。

「正しいことをしているはずだ」

空を見上げる。

「だが、なぜ――」

言葉が止まる。

 

答えは、出ない。

ただ一つ、確かなのは。

 

「……この世界は、やはり歪んでいる」

 

そして。

その歪みを正すために。

自分がいる。

そう、信じて疑わなかった。

 

――だがその正しさは。

静かに、

世界との“ズレ”を広げていく。

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