ひとつの器で六魂共鳴 - 最下層から始まる六人格侵略譚 -   作:z567ug

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第三十話 守るということ

森を、駆ける。

 

「……チッ」

九条 恒一は、低く舌打ちした。

 

背後。

気配。

複数。

 

(まだ来るか)

 

枝を蹴り、加速。

木々の間を縫うように進む。

 

ヒュン――

矢が飛ぶ。

首を傾け、避ける。

 

「逃がすな!!」

兵士の怒声。

 

(数は……十か)

振り返らない。

止まらない。

 

(ここで殲滅してもいいが――)

一瞬、思考。

だが。

 

(無駄だ)

一部隊を潰しても、次が来る。

(今は……)

 

距離を取る。

跳躍。

斜面を滑り降りる。

視界が開ける。

 

その先――

小さな集落。

 

(……)

一瞬、迷う。

だが、足は止まらない。

そのまま突っ切る。

 

集落の外れ。

崩れかけた小屋。

その前で――

足を止めた。

 

「……」

 

呼吸を整える。

背後の気配は、遠のいた。

 

(撒いたか)

 

静かに扉へ手をかける。

ギィ……

開く。

中。

藁の上。

一人の少女。

そして。

 

「……誰だ」

男が立ち上がる。

鋭い目。

 

「ここは……」

九条は、短く言う。

「通りすがりだ」

 

男――サイクスが、九条に気付く。

「あ、あんた、昨日助けてくれた…」

 

沈黙。

 

「……にいちゃん……」

少女が、か細く呼ぶ。

 

サイクスの表情が変わる。

「……悪い」

「今は余裕がねぇんだ」

 

九条の視線が、少女へ向く。

(……衰弱している)

呼吸が浅い。

体温も高い。

 

「……薬は?」

 

「昨日も言っただろ?金がねぇんだ…」

即答だった。

 

「食い物も足りねぇ」

「働いても金は入らねぇ」

「配給も来ねぇ」

吐き捨てるように言う。

「……死ぬのを待つしかねぇんだ」

 

沈黙。

 

九条は、しばらく考えた。

「……ここを使わせてもらうぞ」

 

「は?」

 

「しばらく居る」

 

「はぁ!?」

「助けてくれたのは感謝してるが」

「あんたを世話する余裕は無い」

 

「食料は確保する」

 

「……」

 

「その代わりここを使う」

「どうだ?」

 

沈黙。

サイクスが、九条を見る。

数秒。

やがて――

 

「……勝手にしろ」

吐き捨てる。

 

それから。

九条は、森へ入った。

 

数時間後。

ドサッ

獣の死体が落ちる。

 

「……こんなもんか」

血抜き。

解体。

動きに迷いはない。

 

小屋へ戻る。

 

「……っ!?」

サイクスが目を見開く。

「あんた……」

 

「九条だ」

 

「え?」

 

「名前…いいから食え」

 

「ん…あぁ、ありがとう」

「俺はサイクスだ、妹はリーリア」

横になっているリーリアの方を指さす。

 

火を起こす。

肉を焼く。

匂いが広がる。

 

リーリアが、わずかに目を開ける。

「……にい、ちゃん……」

 

「大丈夫だ」

サイクスが頭を撫でる。

 

「食えるか?」

小さく頷く。

九条は、何も言わず皿を差し出した。

 

それが、始まりだった。

 

翌日。

九条はまた森へ。

狩る。

運ぶ。

そのまた翌日も。

繰り返す。

 

サイクスも動いた。

街へ行き、

 

果物屋へ頭を下げる。

「……すみませんでした」

 

深く。

「働かせてください」

 

最初は追い返される。

だが。

 

「……チッ」

「わかった、働いてきな」

下働きとして雇われる。

 

金が入る。

薬を買う。

水を運ぶ。

 

リーリアは、少しずつ回復していった。

「……こうい」

 

ある日。

九条が振り返る。

「なんだ?」

 

「……ありがとう」

沈黙。

九条は、答えなかった。

 

そんな日々が、続いた。

短い。

だが、確かな時間。

 

そして。

その終わりは――突然来た。

 

夕暮れ。

サイクスが、帰路を歩く。

背後。

重装の男が後をつける。

 

「……やっと見つけたぞ」

憲兵大隊長。

ローエン。

目が、笑っている。

 

「いい隠れ場所じゃねぇか」

 

サイクスの入っていった家を隠れて覗き込む。

そこには元気になったリーリアの姿。

一足早く戻っていた九条の姿。

明るく2人に話しかけるサイクスの姿があった。

 

「やはりこいつらといやがったか…」

「…いいこと思いついた」

「地獄を見せてやるよ」

サイクスは不適な笑みを浮かべ去っていった。

 

 

翌日早朝。

小屋。

九条は既に狩りへ。

リーリアとサイクスが眠っている。

扉が――

バンッ!!

吹き飛ぶ。

 

「――なっ!?」

サイクスが立ち上がる。

 

「やぁ」

ローエンが入ってくる。

後ろに兵。

「邪魔するぜ」

 

「…な…なんですか?憲兵さん」

サイクスが前に出る。

 

ローエンが笑みを浮かべながら問う。

「ここで黒髪の男を匿ってるな?」

九条の事。

 

「な、なに言ってるんですか」

「見てください」

「妹と2人暮らしです!」

サイクスは咄嗟に誤魔化す。

だが。

 

「ならその血まみれの錆びた剣は誰のだ?」

「お前のじゃ無いよなぁ?」

 

言い訳が浮かばない。

追い詰められるサイクス。

堪らず飛びかかる。

だが。

ドスッ

止まる。

 

「……えっ?」

腹に、剣。

 

「雑魚が」

引き抜く。

血が溢れる。

 

「……リー……リア……」

崩れる。

 

「……にい、ちゃん……?」

リーリアが目を覚ます。

 

「お、起きたか!」

ローエンが笑う。

 

「来い」

腕を掴む。

 

「やだ……」

 

「うるせぇ!」

引きずる。

 

サイクスが、手を伸ばす。

「……ま、て……」

 

踏みつける。

「邪魔だ、死にかけが!」

 

そして。

壁へ。

血を掬い――

書く。

 

「妹は預かった」

「中央広場へ来い」

ニヤリ。

リーリアを連れて去る。

 

静寂。

血。

倒れたサイクス。

 

扉が開く。

九条が戻る。

 

「……」

止まる。

理解するまで、時間がかかる。

ゆっくりと歩く。

サイクスの元へ。

しゃがむ。

 

「……」

 

呼吸は、もうない。

目を閉じる。

壁を見る。

血文字。

 

「……中央広場」

 

沈黙。

拳が、震える。

だが。

まだ、爆発しない。

 

「……」

 

サイクスをその場に残し扉を出る。

振り返らない。

迷わない。

九条は、歩き出した。

 

その背にあるのは。

怒りか。

それとも――

まだ言葉にならない何かだった。

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