ひとつの器で六魂共鳴 - 最下層から始まる六人格侵略譚 - 作:z567ug
中央広場。
石畳。
噴水。
そして――人。
ざわめき。
笑い声。
好奇の視線。
その中心に。
九条 恒一は、立っていた。
「……」
静かに、周囲を見る。
視線。
逸らされる者。
面白がる者。
関わらないようにする者。
(……異様だな)
だが。
「――来たか」
声。
振り返る。
壇上。
ローエンが立っていた。
その足元。
「……っ」
九条の視線が、止まる。
リーリア。
地面に、転がされていた。
「あ…あぁう…」
目の焦点が合っていない。
明らかになにかの中毒。
破かれた服。
陵辱の痕。
だが――
生きている。
わずかに、呼吸。
「……リーリア」
一歩、踏み出す。
「止まれ」
ローエン。
軽く、顎を上げる。
「いいぞ、その顔」
笑う。
「探してたんだろ?」
「……何をした」
低い声。
「何って?」
肩をすくめる。
「見たらわかるだろ?」
「遊んでやったんだよ」
「ガキのくせになかなか良かったぜぇ」
周囲の兵が笑う。
「薬も使ったしな」
「面白かったぜ」
ざわめき。
誰も、止めない。
九条の足が、止まる。
「……」
視界が、揺れる。
(……違う)
違う。
(まだ……間に合う)
そう思った。
「……返せ」
「は?」
「その子を……返せ」
沈黙。
ローエンが、目を細める。
「……ああ」
ニヤリ。
「壊れたおもちゃで良けりゃな」
足で蹴る。
ゴロッ
リーリアが、転がる。
九条の方へ。
「……!」
駆ける。
その瞬間――
パシュッ
音。
遅れて。
「……っ」
リーリアの体が、跳ねた。
胸。
赤。
時間が、止まる。
「……あ」
九条の足が、止まる。
理解が、追いつかない。
「あぁーあ」
ローエンが笑う。
「動くなって言っただろ?」
ボウガンを、構えたまま。
「……」
九条は、ゆっくりと近づく。
膝をつく。
「……リーリア」
触れる。
体温。
まだ、ある。
「……こう……い……」
微かな声。
「……いる」
「……ここにいる」
「……ごめんね……」
「……」
「……こわ……かった……」
小さく。
本当に、小さく。
「……ありがと……」
そのまま。
力が、抜けた。
「……」
静寂。
音が、消える。
九条は、動かない。
何も、言わない。
ただ。
リーリアを抱きしめる。
「…なぁんだ…終わりか?」
ローエンの声。
「つまんねぇな」
兵が笑う。
野次馬がざわめく。
誰かが言う。
「自業自得だろ」
「下級民なのに歯向かうからだ」
「巻き込まれたら迷惑なんだよ」
――
「……」
九条の指が、わずかに動く。
「……」
ゆっくりと。
顔を上げる。
目。
光が――ない。
「……そうか」
小さく。
呟く。
「……そういうことか」
立ち上がる。
血が、垂れる。
「……」
周囲を見る。
一人ずつ。
兵。
市民。
ローエン。
全員を。
「……分かった」
その声は、静かだった。
「……お前らは全員」
一歩。
踏み出す。
「……悪だ…」
地面が、軋む。
「――《四元素支配》」
低い声。
空気が、変わる。
「土纏」
地面が隆起する。
広場全体。
足元を、掴む。
「なっ――!?」
兵が叫ぶ。
「動けねぇ!?」
「な、なんだこれは!!」
逃げようとする市民。
だが、遅い。
「雷光剣」
バチッ――
雷が走る。
九条の手に、剣が形を成す。
長く。
鋭く。
「……」
一歩。
踏み込む。
「や、やめろ!!」
兵が叫ぶ。
「俺たちは命令で――」
言い終わる前に。
「――」
斬る。
音もなく。
崩れる。
「……あ……」
次。
次。
次。
「ま、待ってくれ!!」
「俺たちは憲兵じゃない、関係ないだろ!!」
関係ない。
区別しない。
斬る。
「助け――」
斬る。
逃げる背中。
斬る。
叫び。
悲鳴。
血。
それでも。
九条の表情は、変わらない。
「……」
無言。
ただ、処理する。
「……っ!」
ローエンが後退る。
「て、てめぇ……!」
槍を構える。
「調子に――」
「――遅い」
一瞬。
距離が、消える。
「……え?」
視界が、ずれる。
遅れて。
崩れる。
ローエンが、地に落ちた。
沈黙。
広場には。
もう誰も、いなかった。
沢山の屍が転がっているだけ。
「……」
九条は、動かない。
呼吸だけが、ある。
やがて。
ゆっくりと。
リーリアの元へ戻る。
しゃがむ。
「……」
抱き上げる。
軽い。
あまりにも。
「……」
何も言わない。
そのまま。
歩き出す。
森。
小屋の裏。
サイクスの隣に、穴を掘る。
静かに。
埋める。
「……」
土をかける。
終わる。
手を止める。
沈黙。
長い、沈黙。
「……」
九条は、空を見上げた。
「……守れなかった」
小さく。
呟く。
「……正しかったはずだ」
拳を握る。
「……なのに」
風が吹く。
答えは、ない。
ただ。
「……」
目を閉じる。
開く。
「……」
確実に。
何かが、ズレ始めていた。
九条は、立ち上がる。
振り返らない。
「……変えてやる…」
進む。
その一歩は。
以前よりも、重く。
そして。
わずかに――冷たかった。