ひとつの器で六魂共鳴 - 最下層から始まる六人格侵略譚 -   作:z567ug

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第五話 追われる器、走る理由

走る。

ただ、それだけに全神経を使っていた。

「右!」

リーネの声が飛ぶ。

湊は反射的に身体をひねり、崩れかけた壁の隙間に滑り込んだ。直後、背後を何かが掠める。風を切る鋭い音。遅れて、壁が抉れる音が響いた。

振り返る余裕はない。

見なくても分かる。

――さっきの連中とは、明らかに違う。

「距離は!?」

「まだ追ってきてる! 三人、いや……四人!」

「増えてない!?」

「最初から四人!」

「最悪だな!」

路地を抜け、さらに細い通路へ。地面はぬかるみ、足を取られる。まともに走れる環境じゃない。

だが、止まれば終わる。

湊の脳裏で、六つの声が交錯する。

『追跡精度が高い。素人じゃないな』

『足音の間隔からして、訓練された部隊だ』

『分断すべきだな。四対一は分が悪い』

『いや、今の身体で戦うのは危険だ』

『筋繊維の損傷が激しい。無茶は勧めない』

『でもさ、このまま逃げ切れると思う?』

全部、正しい。

そして全部、面倒くさい。

「……分かってるよ」

小さく呟く。

逃げ続けるだけじゃ、いずれ追いつかれる。

なら、どこかで仕掛けるしかない。

「リーネ!」

「なに!」

「この辺で、袋小路になってる場所あるか!?」

「……ある!」

「どっちだ!」

「この先、左、二回曲がった先!」

「了解!」

指示に従い、角を曲がる。さらに曲がる。視界が開ける――行き止まり。

崩れた壁と、積み上げられた瓦礫。

逃げ場はない。

「ここで止まるの!?」

「ここで止める」

湊は振り返った。

呼吸は荒い。視界もまだ完全じゃない。だが、さっきよりはマシだ。

そしてなにより――

隣に、リーネがいる。

「……見えるか?」

「うん」

短い返答。

「位置、全部」

「四人。手前二人が速い。後ろ二人は少し遅い」

「武器は?」

「短剣、槍、あと……遠距離、いる」

「マジか」

嫌な予感が的中した。

数秒後、影が現れる。

路地の入口に、黒い外套の男たち。顔は布で覆われている。無駄な動きが一切ない。

そのうちの一人が、低く呟いた。

「目標確認。“器”を確保する」

湊の口元が歪む。

「やっぱり俺かよ」

「逃げる?」

「いや」

一歩、前に出る。

「ここで一人は削る」

リーネが息を呑む。

「無理だよ、今の状態じゃ――」

「分かってる」

だが、止まらない。

「だから、借りる」

その瞬間。

湊の中で“何か”が切り替わる。

視界が、鋭くなる。

呼吸が、整う。

身体の重さが、別の意味に変わる。

『……私の出番か』

低く、静かな声。

――暗殺者。

気配が、消える。

「……え?」

隣で、リーネが息を呑む。

さっきまで隣にいたはずの湊の“存在感”が、薄れる。

完全に消えたわけじゃない。

だが、“そこにいる”という確信が揺らぐ。

「左から来るやつ、見えるか」

声だけが、背後からした。

「う、うん……!」

「タイミング、合わせろ」

足音。

ひとりが、先行して突っ込んでくる。

速い。迷いがない。一直線。

その瞬間。

「今」

リーネの声。

同時に、湊が動いた。

地面を蹴る音すら、ほとんどしない。

死角から滑り込み、懐へ。

短い動き。

無駄のない一撃。

喉元へ、正確に。

――仕留める。

はずだった。

だが。

金属音。

弾かれる。

「ちっ」

浅い。

相手はとっさに武器で防いでいた。

距離が開く。

「……やるな」

黒外套の男が低く言う。

その声に、感情はない。

「だが、未熟だ」

次の瞬間、空気が震えた。

「伏せて!」

リーネの叫び。

湊は反射で身体を落とす。

直後、背後の壁が爆ぜた。

石片が飛び散る。

「遠距離、あいつか!」

「うん! 後ろの一人!」

「厄介だな!」

視線を走らせる。

四人。

一人削れなかった。

状況は、むしろ悪化している。

『判断が甘い』

『仕留めきれなかったな』

『無理をするなと言っただろう』

『だが、今ので一つ分かった』

『連携すれば、可能性はある』

『ねえ、もう一回やろうよ』

頭の中が騒がしい。

だが、その騒がしさが――妙に心地いい。

「……リーネ」

「なに!」

「次、合わせられるか」

「できる!」

即答。

その迷いのなさに、少しだけ笑う。

「いいな、それ」

「なにが?」

「頼りになる」

リーネが一瞬だけ固まる。

だがすぐに、強く頷いた。

「任せて」

その言葉で、決まる。

逃げるだけじゃない。

戦う。

この街で、生きるために。

この世界で、進むために。

「――もう一回いくぞ」

湊の中で、六つの魂が重なる。

今度は、さっきよりも少しだけ。

噛み合った気がした。

灰の街に、再び戦いの気配が満ちる。

そしてその中心で、

天瀬湊は初めて――

“ひとりじゃない戦い”を、始めた。




第5話まで読んでいただきありがとうございます!

仲間になったほぼ直後に命の危機です。
この世界、優しくない。

今回は「逃げながら戦う」回でした。
そしてようやく、“それっぽい連携”がちょっとだけ出てきました。

とはいえまだグダグダです。
湊も万全じゃないし、六魂もまとまってないし、普通にピンチです。

でもこの「うまくいってない状態」から、
少しずつ噛み合っていくのがこの作品の見せどころだったりします。

あと、敵が普通に強いです。
雑に倒せる相手ではないので、そのあたりも含めて楽しんでもらえたら嬉しいです。

次回はこのまま戦闘続き。
ちゃんと生き残れるのかどうか、お楽しみに。

それでは第6話で!
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