ひとつの器で六魂共鳴 - 最下層から始まる六人格侵略譚 - 作:z567ug
空気が裂けた。
「――伏せて!」
リーネの声と同時に、湊は地面に叩きつけるように身体を落とした。
直後、また背後の壁が爆ぜる。
瓦礫が弾け、石片が雨のように降り注ぐ。
「……っ、容赦なさすぎだろ!」
「来る、次も!」
間髪入れず、二撃目。
さっきより正確に、さっきより速く。
――狙いが合ってきている。
転がるように回避しながら、湊は歯を食いしばった。
状況は最悪だ。
敵は四人。
近接が二、中距離が一、そして――遠距離が一。
連携も取れている。
対してこちらは、
「……クソ、こっちはボロボロだってのに」
息が荒い。腕が重い。足が言うことを聞かない。
まともにやり合えば、確実に押し潰される。
「みなと!」
「分かってる!」
叫び返す。
逃げるだけじゃ無理だ。
このままじゃ、ジリ貧で終わる。
なら――
「一人だけ落とす」
短く、決める。
全部は無理だ。
だが、一人なら。
「できるの?」
「やるしかない」
リーネの瞳が揺れる。
だがすぐに、強く頷いた。
「……分かった。見る」
「頼む」
湊は深く息を吸った。
肺が痛む。
それでも、意識を沈める。
――切り替える。
『……また私?』
冷たい声が、内側から響く。
暗殺者。
「文句言うな、今はお前が一番マシだ」
『雑ね。でも嫌いじゃないわ』
意識が沈む。
音が遠のく。
代わりに、世界が鮮明になる。
気配が見える。
動きが、読める。
「……行く」
地面を蹴る。
気配を殺し、滑り込む。
正面からは行かない。
死角。
呼吸の隙間。
わずかな“間”に入り込む。
「左、来る!」
リーネの声。
その瞬間、湊は身体をひねる。
刃が掠める。
だが当たらない。
そのまま、懐へ。
――速い。
さっきより、確実に。
だが。
金属音。
また、弾かれる。
「……浅い」
『当然でしょ。力が足りてないもの』
距離が開く。
敵の目が細まる。
警戒が、強くなる。
次の瞬間、横から衝撃。
「ぐっ……!」
吹き飛ばされる。
地面を転がり、息が詰まる。
「みなと!」
「大丈夫だ……!」
強がりだ。
全然大丈夫じゃない。
身体が悲鳴を上げている。
『無理よ、このままじゃ削りきれない』
『戦術の再構築を推奨する』
『時間をかければ押し切られる』
『だが、一つ手はある』
『ああ、さっきのやつな』
『気づいてるだろ?』
……ああ。
分かってる。
さっき、一瞬だけ。
噛み合った感覚があった。
「リーネ!」
「なに!」
「敵の魂になにか変化はないか!」
一瞬の沈黙。
そして。
「……ある!」
力強い返答。
「来る前に、少しだけ……揺れるの!」
それだ。
動きじゃない。
その前。
意志が、動く前兆。
「それ、全部分かるか!」
「完璧じゃないけど……でも!」
「十分だ」
湊は立ち上がる。
脚が震える。
だが、止まらない。
「次、合わせるぞ」
「うん!」
敵が動く。
今度は二人同時。
挟む気だ。
「右、来る!」
リーネの声。
その“前”。
湊はすでに動いていた。
回避。
踏み込み。
死角へ。
相手の視界から外れる。
「今!」
その一声で、全てが噛み合う。
加速。
無駄のない動き。
刃が走る。
――今度は。
確実に。
喉を、断つ。
血が舞う。
男が崩れる。
音を立てて、地面に倒れた。
沈黙。
ほんの一瞬。
「……一人」
湊が呟く。
息が荒い。
だが、確かな手応えがあった。
敵の空気が変わる。
「……排除対象、危険度上昇」
低い声。
冷静だが、確実に警戒している。
「撤退は?」
「不可。“器”の回収を優先」
――来る。
残り三人。
本気だ。
「みなと!」
「分かってる!」
もう戦えない。
今ので、ほぼ限界だ。
「リーネ、抜けられるルートは!」
「……ある! 今ならいける!」
「どっちだ!」
「右、細い通路! その先崩れてる!」
「了解!」
走る。
身体が重い。
だが、止まらない。
背後で気配が迫る。
速い。
だが――
「今、曲がって!」
ギリギリで方向転換。
背後で攻撃が空を切る。
通路に滑り込む。
さらに奥へ。
「もう少し……!」
視界が揺れる。
意識が霞む。
それでも、足を動かす。
最後の角を曲がった瞬間。
崩落。
後ろの通路が塞がれる。
土煙が舞い上がる。
音が、途切れる。
――追ってこない。
「……はぁ……っ」
膝が折れる。
そのまま、崩れるように座り込んだ。
「みなと!」
リーネが駆け寄る。
「大丈夫!?」
「……いや」
息を整えながら、苦笑する。
「大丈夫じゃないな、これ」
全身が痛い。
だが。
「……でも」
顔を上げる。
「生きてる」
それだけで、十分だった。
リーネが、ほっと息を吐く。
「……やったの?」
「いや」
首を振る。
「まだ、“生き延びただけ”だ」
それでも。
さっきより、確実に前に進んでいる。
ひとりじゃない。
それが、こんなにも違うとは思わなかった。
遠くで、瓦礫が崩れる音がした。
敵は、まだ諦めていない。
だが。
今は、届かない。
灰の街の奥で、二人は息を潜める。
そして――
その影は、確かにこの街に“爪痕”を残していた。