ひとつの器で六魂共鳴 - 最下層から始まる六人格侵略譚 - 作:z567ug
ローデルの街は、アッシュクロウとは違っていた。
門をくぐった瞬間、まず感じたのは
――人の“生活”だった。
石造りの建物。
行き交う人々。
露店から漂う、焼けた匂い。
完全に平和ではない。
だが、“死んでいない”。
「……だいぶマシだな」
湊は周囲を見渡しながら呟く。
「うん。ここはまだ、“普通”に近いから」
リーネが答える。
その直後。
湊の腹が鳴った。
「……まず金だな」
「うん」
即答だった。
「食料も水も減ってる。先に売るもの売らないと詰む」
「魔石、あるよね」
湊はポーチから取り出す。
灰色に濁った、小さな結晶。
先ほどの戦闘で得たものだ。
『換金は優先事項だ』
ガイゼル。
『空腹では戦えぬでござる』
宗十郎。
『早く食わせろ』
羅豪。
「お前ら食い気強すぎない?」
市場の一角。
“魔石買取”と雑に書かれた看板の店に入る。
「……なんだ、ガキか」
店主がこちらを一瞥する。
「魔石を売りたいんだが」
湊は無駄なく本題に入った。
「ほう」
店主が結晶を受け取り、光にかざす。
「……粗いな。低級だ」
「それでもいい。いくらだ」
少しの沈黙。
「……これ全部で、このくらいだ」
提示された金額は、決して高くはない。
だが――
「売る」
即決だった。
『判断が早いな』
ガイゼル。
『妥当でござる』
宗十郎。
「値切る余裕もねぇしな」
金を受け取る。
重みは軽い。
だが、確実に“行動できる余裕”だった。
「よし」
「これでごはん買えるね」
外に出る。
空気が少しだけ軽く感じた。
そのまま露店へ。
「これ何だと思う?」
湊が指差したのは、ぬめった球体。
「……たぶん食べ物」
「“たぶん”で食べ物扱いされるの怖いな」
『毒の可能性は』
ガイゼル。
『無粋でござるな。見た目からして怪しい』
宗十郎。
『やめときなさい』
シア。
『食えそうだろ!』
羅豪。
「食うな」
店主がじっと見ていた。
「……買うのか?」
「買いません」
即答。
リーネがくすっと笑う。
「みなと、ちょっと変」
「今の状況で正常なやついるか?」
別の露店。
串焼きのようなもの。
煙と香りが食欲を刺激する。
「……これはさすがに安全そうだな」
「うん、それは大丈夫だと思う」
『栄養は必要だ』
ガイゼル。
『戦う前の腹ごしらえでござる』
宗十郎。
「買うか」
串を二本購入。
「……うま」
「うん」
リーネの表情が、少し柔らぐ。
「こういうの、久しぶり?」
「うん。ちゃんとしたのは」
そのまま歩き出す。
「で、情報集めだな」
「うん」
何人かに声をかける。
反応は様々だった。
無視、警戒、短い返答。
だが、共通して出てくる情報がある。
「北の港町に行けば分かる」
「そこに“いる”」
統べる存在。
名前は出ない。
だが、全員が知っている。
「……気に入らねぇな」
湊が呟いた、そのとき。
リーネの表情が固まる。
「……来る」
「はい再登場」
路地の奥。
影が動く。
「見つけたぞ」
「……“器”」
「ほんと好きだなお前ら」
『戦闘準備』
ガイゼル。
「任せる」
意識を沈める。
切り替わる。
「――来い」
羅豪。
踏み込む。
拳がぶつかる。
敵も強い。
連携が取れている。
「数が多いな!」
「右!」
リーネ。
合わせる。
崩す。
叩く。
囲まれる。
「……切り替え」
静かになる。
「無駄が多い」
宗十郎。
一閃。
『後方』
ガイゼル。
対応。
崩す。
「――終わりだ」
静寂。
「……っはぁ……」
湊に戻る。
「……勝った」
「……うん」
リーネの声は弱い。
「どうした」
「……私、役に立ってない」
「は?」
「みなとが戦ってるのに、私は……」
「いや、めちゃくちゃ役立ってたけど」
「でも――」
「お前の声なかったら、普通に終わってる」
リーネが顔を上げる。
「ほんとに?」
「ほんとに」
少しの間。
「……もっと、ちゃんと役に立ちたい」
「じゃあそのうちな」
「今は、それで十分だ」
風が吹く。
――二人が去り少し後。
「……あらぁ」
瓦礫と血の残るその場に、ひとりの男が立っていた。
死体を見下ろす。
ゆっくりとしゃがみ込み、指で血をなぞる。
「全滅、ねぇ」
くすり、と笑った。
「やるじゃない、“器”」
背後に気配。
「シーマ様」
「このまま追いますか?」
「いいえ」
即答だった。
「まだ未完成よ」
立ち上がる。
「でも――」
「壊れないなら、それはそれで“美しい”わねぇ」
男は楽しげに目を細めた。
「もう少し、見てあげましょうか」
灰の街に、溶けるように。
その姿は静かに消えた。