ひとつの器で六魂共鳴 - 最下層から始まる六人格侵略譚 - 作:z567ug
ローデルの街を出て、どれくらい進んだだろうか。
道は徐々に荒れていた。
街道と呼べるほど整備されていた道は、いつの間にか途切れ、今ではただの踏み固められた地面に変わっている。
その先に広がるのは、岩と灰の荒野だった。
「……やっぱ外は外で地獄だな」
湊は小さく呟く。
「でも、港町に近づくほど人は増えると思う」
リーネが言った。
「この辺はまだ少ないだけ」
「なるほどな……」
歩きながら、湊は周囲を警戒する。
リーネの索敵があるとはいえ、完全ではない。
そして――
(前よりは、動けるようになったけど)
戦えるのは、自分じゃない。
あくまで“借りている力”だ。
『思考が遅い』
ガイゼルの声。
『戦闘において迷いは死に直結する』
「分かってるって」
『ならば割り切れ。主導権は我らにある』
「それも気に入らねぇんだよなぁ……」
ぼそっと返す。
『無粋でござるな』
宗十郎。
『勝つための力を借りることに、恥はない』
『うるせぇ!細けぇこと考えるな!』
羅豪。
『……あなた、本当に単純ね』
シア。
「お前らほんと仲悪いな」
そのときだった。
リーネの足が止まる。
「……来る」
「どっち?」
「前。……一体。でも、結構強そう」
空気が変わる。
前方。
岩の影から現れたのは――
巨大な影。
「……デカくね?」
四足の獣。
だがその身体は、前に相手にした魔物とは比較にならない。
筋肉が異常に膨れ上がり、皮膚は黒く硬質化している。
目は濁っていない。
明確な“殺意”を持っている。
『脅威度、高』
ガイゼルの声が低くなる。
『正面戦闘は非推奨』
『面白ぇじゃねぇか!』
羅豪。
『無謀でござる』
宗十郎。
「……どうする」
湊が短く問う。
『接触し、能力を確認。即離脱』
ガイゼル。
「了解」
意識を沈める。
切り替わる。
「――来い」
羅豪。
地面を蹴る。
魔物も動いた。
速い。
拳を打つ。
だが――
「硬ぇ!」
弾かれる。
直後、反撃。
「っ!」
腕で受けるが、吹き飛ばされる。
『交代』
一瞬で静まる。
「……厄介だな」
宗十郎。
最小の動きで距離を取る。
斬る。
だが――
「浅い」
刃が通らない。
『防御性能が異常だ』
ガイゼル。
『長期戦は危険』
「撤退か」
『撤退』
「心得た!」
その瞬間。
魔物が吠えた。
地面が震える。
「ちっ!」
全力で距離を取る。
「リーネ!」
「こっち!」
リーネの声に従い、走る。
追ってくる。
速い。
「まだ来るでござるか!」
『直線は避けろ』
ガイゼル。
曲がる。
飛ぶ。
滑る。
数分。
ようやく。
気配が遠ざかった。
「……はぁ……」
湊に戻る。
膝に手をつき、息を整える。
「……危なかったな」
「うん……」
リーネの声は、どこか沈んでいた。
「でも、逃げ切れた」
「……うん」
その返事は、少し遅れた。
「どうした」
「……やっぱり、何もできなかった」
湊は少しだけ黙る。
「いや、あれ無理ゲーだろ」
「でも」
リーネは拳を握る。
「みなとは戦ってた」
「いや戦ってたのは俺じゃなくて――」
言いかけて、やめた。
「……とにかく、無事だった。それでいい」
「……うん」
だが、その顔は納得していない。
しばらく歩く。
沈黙が続く。
やがて。
「……少し先、見てくる」
リーネが言った。
「え?」
「さっきの、まだ近くにいるかもしれないから」
「いや、それ俺も――」
「すぐ戻る」
そう言って。
リーネは、走り出した。
「……おい」
止める間もなかった。
「……は?」
数秒の沈黙。
「……いやいやいや」
『追うべきだ』
ガイゼル。
「だよな!?」
『単独行動は危険でござる』
宗十郎。
『あの子、無茶する顔してたわよ』
シア。
『行くぞ!』
羅豪。
「最初からそのつもりだ!」
走り出す。
リーネの足跡。
気配。
微かに残っている。
(あいつ……)
胸の奥がざわつく。
(さっきの、気にして……)
走る。
ひたすら走る。
やがて。
「……いた」
だが、その瞬間。
「――っ!」
視界の先。
さっきの魔物。
そして――
リーネが、ひとりで向き合っていた。
「……おい、マジかよ」
一歩、踏み出す。
だが。
間に合わない距離。
「……くそっ」
湊は、さらに加速した。
――その先にあるものも知らずに。