ひとつの器で六魂共鳴 - 最下層から始まる六人格侵略譚 -   作:z567ug

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第九話 届かない背中

ローデルの街を出て、どれくらい進んだだろうか。

道は徐々に荒れていた。

街道と呼べるほど整備されていた道は、いつの間にか途切れ、今ではただの踏み固められた地面に変わっている。

その先に広がるのは、岩と灰の荒野だった。

「……やっぱ外は外で地獄だな」

湊は小さく呟く。

「でも、港町に近づくほど人は増えると思う」

リーネが言った。

「この辺はまだ少ないだけ」

「なるほどな……」

 

歩きながら、湊は周囲を警戒する。

リーネの索敵があるとはいえ、完全ではない。

そして――

(前よりは、動けるようになったけど)

戦えるのは、自分じゃない。

あくまで“借りている力”だ。

 

『思考が遅い』

ガイゼルの声。

『戦闘において迷いは死に直結する』

 

「分かってるって」

 

『ならば割り切れ。主導権は我らにある』

 

「それも気に入らねぇんだよなぁ……」

ぼそっと返す。

 

『無粋でござるな』

宗十郎。

『勝つための力を借りることに、恥はない』

『うるせぇ!細けぇこと考えるな!』

羅豪。

『……あなた、本当に単純ね』

シア。

 

「お前らほんと仲悪いな」

 

そのときだった。

リーネの足が止まる。

 

「……来る」

「どっち?」

「前。……一体。でも、結構強そう」

 

空気が変わる。

前方。

岩の影から現れたのは――

巨大な影。

 

「……デカくね?」

 

四足の獣。

だがその身体は、前に相手にした魔物とは比較にならない。

筋肉が異常に膨れ上がり、皮膚は黒く硬質化している。

目は濁っていない。

明確な“殺意”を持っている。

 

『脅威度、高』

ガイゼルの声が低くなる。

『正面戦闘は非推奨』

『面白ぇじゃねぇか!』

羅豪。

『無謀でござる』

宗十郎。

 

「……どうする」

湊が短く問う。

 

『接触し、能力を確認。即離脱』

ガイゼル。

 

「了解」

 

意識を沈める。

切り替わる。

 

「――来い」

羅豪。

 

地面を蹴る。

魔物も動いた。

速い。

拳を打つ。

だが――

 

「硬ぇ!」

 

弾かれる。

直後、反撃。

 

「っ!」

 

腕で受けるが、吹き飛ばされる。

 

『交代』

 

一瞬で静まる。

 

「……厄介だな」

宗十郎。

 

最小の動きで距離を取る。

斬る。

 

だが――

 

「浅い」

 

刃が通らない。

 

『防御性能が異常だ』

ガイゼル。

『長期戦は危険』

 

「撤退か」

 

『撤退』

 

「心得た!」

 

その瞬間。

魔物が吠えた。

地面が震える。

 

「ちっ!」

 

全力で距離を取る。

 

「リーネ!」

「こっち!」

 

リーネの声に従い、走る。

追ってくる。

速い。

 

「まだ来るでござるか!」

 

『直線は避けろ』

ガイゼル。

 

曲がる。

飛ぶ。

滑る。

数分。

ようやく。

気配が遠ざかった。

 

「……はぁ……」

 

湊に戻る。

膝に手をつき、息を整える。

 

「……危なかったな」

「うん……」

 

リーネの声は、どこか沈んでいた。

 

「でも、逃げ切れた」

「……うん」

 

その返事は、少し遅れた。

 

「どうした」

「……やっぱり、何もできなかった」

 

湊は少しだけ黙る。

 

「いや、あれ無理ゲーだろ」

「でも」

 

リーネは拳を握る。

 

「みなとは戦ってた」

「いや戦ってたのは俺じゃなくて――」

 

言いかけて、やめた。

 

「……とにかく、無事だった。それでいい」

「……うん」

 

だが、その顔は納得していない。

しばらく歩く。

沈黙が続く。

やがて。

 

「……少し先、見てくる」

 

リーネが言った。

 

「え?」

「さっきの、まだ近くにいるかもしれないから」

「いや、それ俺も――」

「すぐ戻る」

 

そう言って。

リーネは、走り出した。

 

「……おい」

 

止める間もなかった。

 

「……は?」

 

数秒の沈黙。

 

「……いやいやいや」

 

『追うべきだ』

ガイゼル。

 

「だよな!?」

 

『単独行動は危険でござる』

宗十郎。

『あの子、無茶する顔してたわよ』

シア。

『行くぞ!』

羅豪。

 

「最初からそのつもりだ!」

 

走り出す。

リーネの足跡。

気配。

微かに残っている。

 

(あいつ……)

 

胸の奥がざわつく。

 

(さっきの、気にして……)

 

走る。

ひたすら走る。

やがて。

 

「……いた」

 

だが、その瞬間。

 

「――っ!」

 

視界の先。

さっきの魔物。

そして――

リーネが、ひとりで向き合っていた。

 

「……おい、マジかよ」

 

一歩、踏み出す。

だが。

間に合わない距離。

 

「……くそっ」

 

湊は、さらに加速した。

 

――その先にあるものも知らずに。

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