窓から漏れるサンサンと輝く太陽の日差しを浴び、わたくしは目を覚まします。
今日もまた、『あなた』との大切な一日が始まる。そう思うだけで、胸の奥がじんわりと温かくなり、幸せな気持ちで満たされていきます。
そうしてわたくしは、ゆっくりと背伸びをし、隣で寝ているはずの『あなた』へ挨拶をします。
「おはようございます……って、あら? いませんね……?」
思わず小首を傾げてしまいます。
わたくしよりも『あなた』が先に目を覚ましているなんて、珍しいこともあるものですね。
いつもなら、寝起きのなでなでとハグがあるはずなのに。それを味わえない朝に、ほんの少しだけ、胸の奥がきゅっと寂しくなりました。
わたくしはベッドから飛び降り、長い廊下をとことこと進み、庭へと向かいます。きっと『あなた』は、朝のラジオ体操をしているのでしょう。
途中、差し入れ用にオレンの実を手に取り、胸元で大事に抱えます。
「うふふっ♪ 『あなた』とわたくしで半分こ♪ もしかしたら……あーん、なんてしてくれるかもしれません♪」
想像するだけで頬がゆるみ、足取りも自然と軽くなります。
大きな玄関の下に設けられた、わたくし専用の小さな入り口をくぐり、外の世界へ。朝の空気はひんやりとしていて、それでいてどこか甘く、心地よいものでした。
そのとき。
『あなた』の声が、風に乗って耳に届きます。
胸が高鳴り、鼓動に背中を押されるように、わたくしは歩く速さを上げました。角を曲がり、オレンの実を差し出すように掲げながら、弾む声で『あなた』に挨拶をします。
「おはようございます♪ 『あな……た……』?」
「うふふっ♪ アリアドスの糸で出来たシルクのように綺麗な髪ですね♪」
「ふ、ふんっ! 別にアンタに撫でられて嬉しくないんだからね!!……♪♪」
「ご主人様♪ わたしにもなでなでしてー♪」
「見てください♪ 『あなた』のためにお花の冠を作ったんですよ♪」
「見ててニャご主人。ワン、ツー、スリー! ……どうニャ? ボクの手品は? この花はご主人のために用意した特別な花ニャ。ボクからの気持ち、受け取って欲しいニャ♪」
『あははっ! みんな、近づかれると少しくすぐったいよ〜』
「………え?」
ポロン、と。
手に持っていたオレンの実が、あっけなく地面へと落ちました。
ころころと転がっていくそれを、わたくしは、追うことができませんでした。視界に映るものを理解できなかったからです。
『あなた』の周りには、見たこともない
しかも、全員、メス。
頬を染め、瞳に熱を宿し、甘えるように、競い合うように、『あなた』へと触れている。
「………???」
脳が、理解を拒みます。
どうして。
どうして『あなた』の隣に、わたくし以外のポケモンがいるのですか。
いいえ、それ自体は問題ではありません。
……いえ、問題ですけど。
けれど。
わたくしに、何の説明もなく。
よりにもよって、全員メスで。
こんなふうに“しゅきしゅき〜♡♡”と、わかりやすくアピールしているだなんて。
そんなの、受け入れられるはずがありません。
すると、『あなた』がわたくしに気づきました。
いつもと同じ、やわらかな笑顔で。
何も知らないままの顔で、手を振ります。
『あ、おーい! うすチュウ!』
その呼び方すら、今は遠く感じてしまいます。
わたくしは、震える足で一歩、また一歩と近づいていきます。胸の奥で、なにかが嫌な音を立てていました。
そして、倒れ込むように『あなた』の胸へ飛び込もうとした、その瞬間。
ガチッ、と。
わたくしの身体が、宙で止められました。
白とピンクの触手と地面から伸びた草の蔓が身体中に絡みつき、そして、正面から「ふんっ……!」と嫉妬を滲ませた声が、鋭く突き刺さります。
『大丈夫かい、うすチュウ? みんなもありがとうね』
『あなた』は、何も疑わずに言いました。
その言葉に、彼女たちは嬉しそうに笑い、抱きつき、頬を染め、控えめにお辞儀をし、それぞれのやり方で、“選ばれよう”としています。
ぽかんと立ち尽くすわたくしに、『あなた』は無邪気に言いました。
『紹介するね! この子たちは、今日から一緒に暮らす新しい家族だよ!』
…………パキッ
わたくしの なかで なにかが こわれるおとが しました。
「………はっ!?」
ガバッと上半身を起こし、息を荒げたまま周りを見渡します。
視界に飛び込んできたのは、見慣れた部屋と、静かな朝の光。
そこには、先ほどまでのメスポケたちの姿はどこにもなく、
「夢……? ……よかった、ですわ……!!」
思わず胸に手を当てます。
ドクドクと早鐘のように打っていた心臓が、時間をかけてゆっくりと落ち着いていくのがわかりました。
夢でよかった。
本当に、本当によかったのです。
あんな光景が現実だなんて、
そんなこと、耐えられるはずがありませんもの。
わたくしは、隣で眠っている
温もりを確かめるように、逃がさないように、ぎゅっと抱きしめました。
規則正しい寝息。
穏やかな体温。
すべてが、“ここにある現実”だと教えてくれます。
「……ふふっ」
ようやく、安心した笑みがこぼれました。
大丈夫。
『あなた』は、ここにいます。
わたくしの、すぐ隣に。
どこにも行かないようにと、指先に少しだけ力を込めながら、わたくしは再び、まぶたを閉じます。
今度こそ、幸せな夢が見られますようにと、祈りながら———
エイプリルフールということで、即興で書きました。(1時間クオリティ)
えぇ、もちろんエイプリルフールネタですよ?
……あれ?
でも、ドレディア以外ぽ こあポケモンに内定していたような……