モヒカン・ゴッド    作:菌床

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モヒカン・ゴッド 後編

 

 モヒカン・ゴッドが降り立った国は天地だった。

 常に戦乱の絶えない国であり、様々な勢力が乱立して拡大しては分裂してを繰り返し続ける。

 名目上は将軍が治めているが、その将軍にさえ牙を向く勢力もいる程だ。

 そんな国に降り立ったモヒカン・ゴッドは、とある事件に巻き込まれる事になる。

 

 それは【式姫】がとある戦場にて敵味方を皆殺しにした事から始まった。

 無差別化する事で出力を引き上げた式神による広範囲呪殺。

 強力ではあるが味方ごと鏖殺した事で、雇い主の大名に叱責される事になる。

 流石の大名も今代の【式姫】は曲者だとは知っていたのだが、流石に味方ごと殺すイカレた修羅だとは想定外だったのだ。

 だが、それでもなお過小評価だったと身をもって知る事になる。

 

 何と【式姫】は、味方殺しを叱責した大名を殺害したのだ。

 普通大名を殺せば指名手配され、天地の修羅達に群がられて討伐されるだろう。

 だが【式姫】はなんと、その場に居た全員を殺せば目撃者が居ないから完全犯罪という暴論で押し通ろうとしたのである。

 或いは、指名手配されてたとしても、自分を殺しに来る者たちが多く来ることは望ましいと考えたのかもしれない。

 

 だが、一つだけ【式姫】の想定外の事があった。

 それは、その場にモヒカン・ゴッドが紛れ込んでいた事。

 城を抜け出して城下町へ出歩いていた姫の落とし物を届けに来たモヒカン・ゴッドは、何と無く嫌な予感がして城に忍び込む事にしていたのである。

 城内にはこの世ならざる殺され方をした兵士の死体が散乱しており、その先で式神の素材として加工されそうになっている姫を見つけたのだ。

 

 助けようと考えたが、相手は超級職である【式姫】。

 対してこの時のモヒカン・ゴッドは何のジョブにも就いていないレベルゼロ。

 《看破》など無くとも相手の力量を感じ取り、どうしたものかと考える。

 どうやら相手はこちらに気がついていない様子、ならばこの場は逃げて【式姫】の凶行を知らせに行くべきなのでは無いかと。

 しかし、その場合は間違い無く目の前の姫は死ぬだろう。

 

 それを見過ごすのは、神として看過出来なかった。

 

 その時孵化したのが、メイデンwithテリトリーのガブリエル。

 持ち得たスキルは《福音》。

 その効果は()()()()()()()()()()()()()()()というもの。

 二四時間のクールタイムを要するが、バフ故にどんな防御スキルや耐性を無視して状態異常を通せる凶悪なスキル。

 

 そしてもう一つは《天使の微笑み》。

 対象一体に低確率の【即死】を与える汎用スキル。

 これはエンブリオとしてのスキルというより、天使という種族の汎用スキルに分類される。

 故にメイデン形態でしか使用出来ず隙だらけでしか無いスキルだが、【式姫】は姫の絶望を深めるために敢えて受ける選択をした。

 ダメージと状態異常を肩代わりする式神を呼び出していた事も、理由の一つではあるのだろう。

 

 だが、その慢心故に【式姫】は死んだ。

 

 ガブリエルの【即死】は式神もブローチも素通りし、その命を終わらせた。

 致命的なダメージを無効化するブローチも、ダメージと状態異常を引き受ける式神も、バフを防ぐ仕組みは付いていない。

 レベルゼロの第一形態のエンブリオで凖<超級>を討伐するという大金星だが、この事件がモヒカン・ゴッドのエンブリオの方向性を定めたともいえる。

 

 相手は圧倒的な格上で、ダメージと状態異常を肩代わりする式神が侍っている。

 その状態で相手を殺す手段をモヒカン・ゴッドのパーソナルから導き出したのが、【呪胎通告 ガブリエル】。

 呪いを祝福として与える、神の如き傲慢なエンブリオである。

 

 ◆

 

 雲を突き抜け一台のバイク飛び出した。

 道がない空中を超音速で駆け抜けながら、嵐の壁抜けようと旋回する。

 力場の足場を作り出すバイク、古代伝説級特典武具【自道走行 ランウェイスター】が無ければ、とっくに空の藻屑にされている事だろう。

 

 「ヒャッハー!? なんて規模の魔法使いやがる! 【地神】に迫る規模じゃねぇかよ!」

 『かの“魔法最強”に例えられるとは光栄だなぁ。方向性は違うけど楽しんで逝ってねー』

 

 【嵐王】ケイデンスの巨大な嵐の壁が<ウェルキン・アライアンス>を包み込み、嵐を圧縮した球体が機雷の如くその周囲を幾つも漂っている。

 あらゆる物を引き寄せ、触れれば即座に全身を砕く風の粉砕機。

 かの“魔法最強”を連想させるほどの規模の魔法が幾つも同時に発動しており、その誰か一つでもモヒカン・ゴッドを殺すには余りある威力だろう。

 更にはその合間を縫って影の鳥が飛来する。

 【飛将軍】リーフのペリュトン、亜音速で飛来する固定ダメージの生体追尾弾だ。

 だが、モヒカン・ゴッドに近づいた影鳥は即座に【即死】した。

 

 「ダメですオーナー! 相性最悪です! 近づくだけで死ぬのでペリュトンでは攻撃出来ません!」

 『成る程ねぇ、どうやら即死の射程範囲は二キロ辺りかな? 最大MPの問題か、能力の制限なのかは知らないけど。何処に居ても問答無用で即死なんて無法は出来ないらしいね』

 「ヒャッハー! 姿見せずに声だけで語りかけてくるとは無礼な奴だ! その傲慢さを後悔させてやる!」

 

 罵声を浴びせるモヒカン・ゴッドだが、ケイデンスの予想は当たっていた。

 

 【占師】というジョブがある。

 ステータスはMPとSPが良く成長し、バフ・デバフに状態異常を扱える多芸なジョブだ。

 付与術師系統と呪術師系統の中間のような性質を持ち、使い方は式神に近い不思議なジョブである。

 

 そして【占師】のスキル《予言》は、自身で任意の効果を設定して発動させることができる。

 自由度がかなり高いが、ティアンにもマスターにも使おうという者は現れなかった。

 何故なら、燃費が悪い上に使い勝手が最悪なのだ。

 例として【付与術師】と同じ量のバフを与える場合は、範囲次第だが最低でも数倍の消費と()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 長大なチャージ時間を設定することで、ようやく同じ下級職程度の強化を施せる、それが【占師】。

 本来なら戦う場所を予め把握しておき、複数の条件を課した上で何日もチャージしてから様々なバフ・デバフを与える運用をする。

 そのため、ログアウトする必要のあるマスターではまともに運用する事は難しく、例えとしてその場で亜竜級モンスターの群を【即死】させようとするならば、【地神】並みのMPを必要とするだろう効率の悪さ。

 予め戦闘するタイミングを把握していなければまともに運用することも出来ないクソジョブだが、それを活用できるマスターが現れたのだ。

 

  そう、あらゆる耐性を素通りするガブリエルの《福音》と組み合わせれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 勿論デバフや状態異常に限った場合だが、それでも凶悪性は変わらない。

 蝿を殺せるか怪しい程度の効果しかなく、危機察知能力に優れた相手でも認識しずらいほどの力で防ぎ得ない死を齎す。

 まさしく、神の如き理不尽さと言えるだろう。

 

 だが、それでも自身の力量を超えた範囲に効果を与える事は出来ない。

 占師系統預言者派生超級職である【大預言者】の《予言》のスキルレベルはEX。

 自由度がかなり高くなり、効果を弱めたり制限を設ける事で範囲を拡張する事は可能だが、モヒカン・ゴッドの扱えるリソースには限りがある。

 そしてそのリソースでは、この距離から【飛将軍】と<ウェルキン・アライアンス>には効果を及ぼせない。

 

 (MPとSPは特典武具で尽きる事はないが、嵐の壁の向こう側にある【飛将軍】には届かない。このままだと魔法ですり潰されるな……!)

 

 状態異常とデバフを反転させる神話級特典武具でモヒカン・ゴッドのリソースが尽きる事はないが、ケイデンスの魔法を喰らえばひとたまりも無い。

 装備品で補ってはいるが、【大預言者】は本来支援職であり物理ステータスはカスなのだ。

 

 「ヒャッハー! この神を見つめるのは当然の事だ。だがなケイデンス、あいにくとこれは集団戦でな」

 

 その瞬間、嵐の壁を抜けて複数の存在が現れる。

 

 「ヒャッハー! コイツらこそ神の使徒よ!」

 「ハッ! 忘れてもらっちゃ困るで【嵐王】。神さんだけやないで、ここにおる全員がお前の敵や! 後、使徒になった覚えはないで!?」

 

 それは竜の如き戦闘機であり。

 追尾弾を放つマスターであり。

 空飛ぶ漕船であった。

 

 問答無用の広範囲即死という脅威影に隠れた彼らこそが本命。

 

 「絶体絶命ですね! ですが負けませんよ! トッカーン!」

 

 嵐の壁を突破して来た者達へペリュトンを差し向け、次々と消し飛ばしていく。

 たが、彼らもやられているばかりでは無い。

 多種多様な攻撃がリーフへ向かって殺到し大爆発を引き起こす。

 

 「やったか!?」

 「ひとたまりもあるまい!」

 「おい馬鹿それフラグ!」

 

 リーフは高い攻撃性を有するビルドを組んでいる。

 しかし、それに対して防御性能は殆どない。

 ペリュトンは優秀なミサイルではあっても盾では無いのだから。

 マスターであるリーフを倒せばペリュトンは消えるしか無いならば、優先して狙うのは当然の事。

 複数のマスターの必殺スキルをまともに喰らえば、物理ステータスが大して育たない将軍シリーズでは耐えられない。

 

 もっとも、ここに【嵐王】が居なければな話だが。

 

 「そういう使い方も有るんかい。全く器用な奴やな!」

 

 そこには、数十近い球体がリーフを守るように展開されていた。

 轟音を立てながら動くソレは、まさに圧縮された嵐そのもの。

 その攻撃能力を活用した攻勢防御によって、集中砲火からリーフを守り切ったのである。

 先ほどまでモヒカン・ゴッドを包囲していたソレを、防衛にために使用したのだ。

 多くのマスターが息を呑むが、それも仕方が無い事だろう。

 嵐の壁を展開しながら、これだけの大魔法を複数同時に操作するなど人間業とは思えない。

 明らかに常軌を逸している。

 

 「確かにお前は凄い奴や【嵐王】。けど、その処理能力にも限界は有るみたいやな」

 

 そう呟くのは炎で影鳥を焼き払うガンドール。

 総攻撃でも【飛将軍】は落ちず、影鳥による被害は拡大していく。

 拠点を覆う結界も健在であり、その周囲には【嵐王】が展開されているため近づけない。

 だが、それでもガンドールは笑っていた。

 

 「一瞬、ほんの一瞬で良かったたんや。その時間があれば届くと思うとったで」

 

 ケイデンスが己の判断ミスを悔いは間も無く、喧しい声が響き渡る。

 

 「ヒャッハー! 神! 降臨!」

 

 嵐の壁を突き破って現れたのはモヒカンを生やした世紀末風な男、モヒカン・ゴッドが現れた。

 ケイデンスが突如現れた皇国勢力に意識を向けたその一瞬の隙をついて、お手玉の隙間を縫って嵐の壁をぶち抜いたのだ。

 モヒカン・ゴッドが派手に動いてヘイトを集め、その隙に残りの皇国勢力が総攻撃をして拠点を攻める。

 もしも防がれたとしても、その時点でケイデンスの処理や能力はこちらに裂かざるおえないのだから、モヒカン・ゴッドが近づく隙を作れる。

 

 互いが互いに囮であり本命なのだ。

 

 「ヒャッハー! 敵味方識別、範囲最大、効果は──」

 

 それはこれから起こる未来の予言。

 その言葉が紡ぎ終わった瞬間、確定した未来として現実のものとなる。

 まさに神託と言っていい代物だ。

 

 「ヒャッハー! 汚物は成仏だぜぇ!」

 

 そして傲慢な死という福音が宣告されようとしている。

 抗う事など不可能。

 どんな耐性も、どんな結界も、どんな防御スキルも無意味でしか無い。

 何故ならばそれらは有害なモノを拒絶する仕組みであり、有益なモノを防ぐ事は出来ないのだから。

 

 この瞬間、皇国勢力は勝利を確信した。

 

 ◆

 

 【嵐王】ケイデンス

 否、【傲慢魔王】ケイデンスはこの状況でとある決断をした。

 それは手札を一枚切って、この状況を覆そうというものだ。

 この状況を覆すにはそれしか無く、何よりも勝利を確信した相手が予想外の手札で逆転される光景が楽しそうだと考えたという点も大きい。

 

 彼は相手を想定外の事態で驚かせる事を好む。

 それは相手を楽しませるということでは無く、慌てふためく相手を見て自分が楽しむことが目的なのだ。

 相手のことを考えない、この上なく傲慢な性格といえる彼が【傲慢魔王】の座に就いたことは運命的なモノを感じずにはいられない。

 

 ──《黄の印》は使わなくて良いかな。

 ── 【縮致歩辿 シャシージー】の《終末時計》で十分でしょ。

 

 過程をスキップする特典武具の力で、大規模な魔法を行使して辺り一体を吹き飛ばせば良いだろう。

 例えブローチで防いだとしても、吹き荒れる暴風の破砕機の中では度重なる判定で確実に死ぬ。

 手札を全て切らなくとも十分に対処可能な状態であり、彼らを全滅させた後は隠れるなりして今回の戦争の重要な場面で大番狂せをしてみるのも良いかも知れない。

 

 ケイデンスは高い思考能力を持つ人物だが、往々にして相手の隠している手札のことはあまり考えない性だ。

 相手を驚かせて自分が楽しむという癖故か、傲慢な気質故かは分からない。

 彼の気質は大局を見て先を予想する軍師というよりは、揃ったデータから一つのことに集中して突き詰める研究者に近いのだろう。

 

 ──ガブリエルのスキルは状況証拠から見て、状態異常やデバフをバフとして判定させるこうかだろうね。

 ──なら、干渉そのものを拒絶する【傲慢魔王】には届かない。

 

 【傲慢魔王】のスキル《インナー・ポジション(対外特権)》は、この世界の異物からの干渉を防ぐ効果を持つ。

 この世界にとって異物であるマスター、エンブリオ、特典武具、モンスターからの干渉を完全に遮断する。

 この世界のほぼ全ての存在からの干渉を受け付けなくなる、最強クラスの防御スキル。

 当然バフだろうと異物からの干渉は受け付けない。

 自身の攻撃も防ぐため自爆の心配もなく大規模魔法を扱う事も可能な点でも、ケイデンスとの相性は良好といえるだろう。

 

 ──【大預言者】がスキルを使う前に殺す。

 ──もしも間に合わなくても、こっちは生き残れるから問題ないしね。

 

 相手の方が早くても問題無い、どうせ自分には通じない。

 彼らは今自分が勝利すると考えている事だろう。

 勝ったと思った所から、大逆転された相手の反応を想像する。

 自分が勝つと信じて疑わない、まさに傲慢な考え。

 

 だが、ケイデンスは知らない。

 今相手にしている存在が、自身を神と疑わぬ傲慢さを持つ事を。

 傲慢と傲慢が対立するならば、()()()()()()()()()()()()()

 何せエンブリオとは心の写身。

 ならば、より一点に集中し特化した方が上回るのは自明の理。

 

 ◆

 

 クヌート王を知っているだろうか。

 十一世紀初頭にイングランド、デンマーク、ノルウェーを支配し『北海帝国』と呼ばれる巨大な支配領域を持つ大王だ。

 そんな彼は莫大な権力を持つのだが、彼の臣下はその権力に追従し増長する者が多く現れた。

 挙げ句の果てには、『クヌート王の権力は神さえ凌駕する』、と言い出す程であったという。

 そうして増長し過剰な称賛を行う臣下を憂慮したクヌート王は、かの有名な逸話であるパフォーマンスを行う。

 

 それは王たる自身の権力で波を止めて見せるというもの。

 

 王の権力が絶対であり神さえ凌駕するというならば、波を止めて自身の足を濡らさないよう命じるとその通りになる筈だと。

 しかし、彼がどれ程の権力を持とうとも魔法もスキルも存在しない世界ではそのような事は起こり得ない。

 

 そして、ごく普通に波が彼の足を濡らした。

 

 この事から王の持つ権力は人の範疇にあり、全知全能なる神には及ばない事を臣下達の戒めとして示して見せたのだ。

 天と地と海、世界を統べるものは神を置いて他にはなし。

 王の権力の無力さ、人が増長せぬよう戒めとして後世でも語られる謙虚な王の逸話である。

 

 だが、もしもその傲慢さを貫き通せる者が居たならば。

 

 ──それは神と呼んでも差し支えないのでは無いだろうか。

 

 ◆

 

 (──は?)

 

 その瞬間何が起こったのか、ケイデンスには理解出来なかった。

 特典武具により蓄えたMPを使用して、周囲の空域を全て撹拌する大規模魔法を即座に発動した筈だった。

 《終末時計》は過程をスキップする効果であり、込めたMPと使用者のAGIによって省ける過程の長さは変わるが、今回の魔法を発動するまでに必要な過程を省くには十分なのは間違いない。

 そして、もう一つ分かることがある。

 

 (う、動けない…!)

 

 全く動くことが出来ないのだ。

 しかも、周囲は真っ暗で何も見えないし何も感じない。

 まるでアバターの意識が飛んだ時に送られるという、待機スペースにも似た感覚を味わっている。

 

 (何が、何が起こった!? あらゆる感覚が停止した……のか? 一体何をしたんだ。隠していた特典武具? 或いは何らかのジョブスキル?)

 

 様々な思考がとめど無く流れるが、次の瞬間には肉体の全ての運動が停止した事でデスペナルィとなる。

 こうして、【傲慢魔王】ケイデンスは、伏した手札を何も晒すことなく敗退したのであった。

 

 ◆

 

 <ウェルキン・アライアンス>攻略部隊の面々は、眼前の奇妙な光景に困惑していた。

 

 彼らの目の前には黒い球体が鎮座している。

 

 球体といっても、その大きさは遠近感を狂わせるほどに巨大であり、<ウェルキン・アライアンス>の拠点を完全に包み込んでいた。

 全く光を通していないようで、まるで空間に空いた陥穽のようにも見える。

 

 「なんや……コレ? 【嵐王】の防御魔法かいな?」

 

 ガンドール含めた皇国勢力は、モヒカン・ゴッドの【即死】に対応する何らかの方策かと警戒する。

 こちらには一切の影響を与えていないのだが、戦闘中に飛んで行ったミサイルは先端が触れた瞬間不自然な爆発をしたためそう考えたのだ。

 

 「ヒャッハー! コイツは俺がやった事だから気にしなくて良いぜ! 何かこうしないとヤバそうな予感がしたからな、感謝して良いぜ!」

 「は、はぁ……」

 

 要領を得ない発言によって更に困惑させられる。

 だが、モヒカン・ゴッドが突然意味不明な事を言い出すことは周知の事実だ。

 真っ当な精神をしていないからこそ強力なエンブリオになったのだろうと、逆に納得する者も多い。

 もっとも、大佐が居れば『おっと、エンブリオからパーソナルを考察するのはマナー違反だせ』と、言うだろうが。

 

 「てか攻撃通らんし、どないすんねんコレ? <宝>があるか確かめられんやろ」

 「ヒャッハー! 一分で解除されるから問題無いぜ!」

 「まあ、それならええけど」

 

 モヒカン・ゴッドが何をしたのか。

 それを端的にいうならば、<ウェルキン・アライアンス>周辺の全てを停止させたのだ。

 

 人も、空気も、光も、そして魔法も含めた全てが【麻痺】している。

 

 【麻痺】は動きを鈍くさせる状態異常だが、正確には対象のAGIを低下させている。

 モヒカン・ゴッドは【大預言者】のスキル《予言》で【麻痺】を選択し、<ウェルキン・アライアンス>周辺全てに効果を与えたのだ。

 強力な状態異常だが、メジャーな状態異常でもあるため高額な装備品にはおまけで耐性が付いていることが多く対策は容易だ。

 当然レジストもしやすく、大抵のマスターからすればさほどな脅威では無い。

 確かにガブリエルのスキル《福音》は、状態異常やデバフをバフとして扱わせる効果であるため範囲内の全ての生物は効果を受けるだろう。

 だが、いかにバフ扱いさせたところで、生物以外の存在に対しては効果対象外でしか無く意味が無い。

 

 『如何ですか主よ。これぞ私の力です!』

 「ヒャッハー! 流石は俺のエンブリオ! 俺の命令に世界を従わせるとは良い働きだ!」

 

 それを可能にするのが【呪胎告知 ガブリエル】の必殺スキル。

 

 ──《崇高なる神の宣告》。

 

 このスキルの効果は、『状態異常を対象が対抗出来ない判定に変換する』というもの。

 例えとして、一定レベル以下からの干渉を無効化するスキルを持っていたならば、無効化出来ないレベルの相手からの干渉として変換される。

 分類としては、相手が耐性を持っていない状態異常を与える【ウェンディゴ】に近い効果だろう。

 どんな相手も状態異常にすれば勝てるというジャイアントキリング、それがガブリエルのメイデンとしての在り方だ。

 クールタイムが二四時間必要だが、まさに力を一点集中して敵を倒すメイデンらしいスキルといえる。

 

 だが、本当に恐ろしいのはその適用範囲にある。

 《崇高なる神の宣告》の効果を受けた状態異常は、相手が抵抗出来ない判定に変化するが、それは何もスキルによる防御だけが対象では無い。

 本来その状態異常が意味を成さない存在に対しても、その効果を発揮するようになるのだ。

 神話級<UBM>などは、その強力な力によって周囲の存在に影響を与える事がある。

 

 ガブリエルの場合、空間自体に効果を付与できる【大預言者】と組み合わせれば、それに近い現象が発生するのだ。

 

 波も、風も、大地も、その全てがその言葉に従う。

 止まれと言えば止まり、死ねと言えば死ぬ事になる。

 人の権力の頂点でも世界を従わせるとは出来ない。

 だが、神の権力ならば万象がその通りに変化する。

 例え魔王であろうと、その権力には逆らえなかったのだ。

 

 だが、それならば【即死】でいいと思うかもしれない。

 しかし、本来であれば【即死】させたとしても、過程を省略して放たれる大規模魔法は止まらず皇国勢力を壊滅させていた事だろう。

 故に、モヒカン・ゴッドは【麻痺】によって範囲内の全てを停止させる事を選んだのだ。

 

 『主はまるで未来が見えているように動く時が有りますよね。もしかして、超能力者なんですか?』

 「ヒャッハー! 馬鹿め、俺は超能力者では無い──神だ!」

 『あ、ハイ』

 

 モヒカン・ゴッドは意味不明な行動をするが、後々になるとそれが最適解だったと判明する事が多い。

 思考が繋がっているガブリエルからしても、完全にその場の思い付きとしか思えない行動だ。

 思えば自分が生まれた時、【式姫】が事件を起こした時も、城に忍び込むという指名手配確実な行為が結果的に最良の結果に辿り着いた。

 最早、最適解に辿り着く星の下に産まれたとしか考えられない。

 いや、或いは何を選んでも最適解になるからこそ、自分のようなエンブリオになったのかも知れない。

 

 「いやー、それにしても順調に勝てたよな」

 「だな、想定外の事態にならなくて良かったぜ」

 「【飛将軍】も【嵐王】も事前の情報通りに強かったが、まあ驚くほどじゃ無かったな」

 

 全てが停止した事で黒く染まっていた球体が消えていく。

 その後、無人になった<ウェルキン・アライアンス>の拠点が爆破される。

 なんとも呆気ない終わり方に、少し肩透かしを喰らう面々。

 確かに強敵ではあったが、想定を超える事態にはなら無かったからだ。

 

 「気緩めんとさっさと撤収するで! まだまだやる事は山積みなんやからな!」

 「はーい!」

 「了解でーす!」

 「ヒャッハー!」

 

 ガンドールの声に応じて皇国側のマスター達が帰還していく。

 結局<ウェルキン・アライアンス>には<旗>は無く、敵勢力の拠点一つを潰しただけに過ぎない。

 航空戦略は使い道が多いため、こんな所で無駄に使える時間は無いのだ。

 こうして各々が作戦成功の達成感と、次の戦いへの仄かな緊張を持ちながらこのゲーム最大の空中戦は終結した。

 

 これはもしもの想定だが、ケイデンスが最初から手札を惜しまず切っていればモヒカン・ゴッドは敗北していた。

 モヒカン・ゴッドにケイデンスの大規模魔法を防ぐ術は少なく、強力な状態異常も《予言》の効果範囲内に収めなければ無意味。

 手札の数ではケイデンスが圧倒的に優っていた。

 だが、どれだけ多くの手札を持とうとも、使わなければ無いのと同じ。

 

 多くの手札を持つが、その手札を出し惜しんだ魔王と、一枚の手札で全てを捩じ伏せんとする神。

 どちらが勝利するかなど、分かり切った事だったのかも知れない。

 

 『主よ、次は何処へ行くのですか?』

 「ヒャッハー! 当然──何処までもだ!」

 

 彼方を見れば、どこまでも続く空にはモヒカンが揺れている。

 我が物顔で風を切って進むその姿はどこまでも傲慢で、どこまでも自由だった。

 





 
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