『ゴブリンスレイヤー』外伝SS【拒絶の死神編】   作:いっかず

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第1章:容疑者 小鬼殺し編
プロローグ:盤上からの破棄


天上の、さらに高み

そこには、世界の運命を卓上の遊戯として弄ぶ神々が集っていた。

カチャカチャと、硬質なダイスが振られる音が、銀河の静寂に響く。

 

「……おや、また一つ『欠損』が出たか」

 

混沌の側に座す一柱の神が、卓の下に置かれた「ゴミ箱」へと視線を落とした。

そこには、今日の遊戯で致命的な失敗を喫し、再起不能と見なされた駒たちが無造作に投げ捨てられていた。

 

神は細く長い指を伸ばし、その中から一つの小さな駒を拾い上げる。

それは、かつて白く輝いていたはずの、【白磁等級の冒険者】の駒だった。

 

「ひどい有様だ。塗装は剥げ、小鬼(ゴブリン)の汚泥と悍ましい返り血にまみれている。……救出されたようだが、これではもう使い物にならんか」

 

神が指先で弄ぶその駒には、無数のひび割れが走っていた。

ただ「生き延びてしまった」だけの、魂の抜け殻。

 

秩序の側に座す一柱の神は、新たなダイスを手にしながら、興味なさげに吐き捨てた。

『それはもう、死んだも同然の駒だ。命は繋いだが、心はあの穴の中に置いてきた。一度汚れた駒に、もう出番はないのだよ。次を振るぞ』

 

混沌の神は、その言葉を聞いて口端を歪めた。

 

「相変わらず無慈悲だ。一度汚れた駒には、もう出番はないというのかね。……だが、私はこの『汚れ』が嫌いではない。むしろ、これほどまでに深い絶望に浸かった色彩は、既存の塗料では出せぬ味わいがある」

 

混沌の神は、汚れた白磁の駒を掌の上で転がした。

その指先から漏れ出す黒い霧が、ひび割れた駒の隙間へと染み込んでいく。

 

「捨てられた駒にも、まだ役割はあるはずだ。……そう、例えば。盤面そのものをひっくり返し、他の駒すべてを『不浄』として食い散らかすような……最悪の『バグ』としての役割がね」

 

混沌の神がふっと息を吹きかけると、白磁の駒は黒い炎を纏い、禍々しい影を帯びた「別の何か」へと変じ始めた。

 

『……正気か? それはもはや、遊戯のルールを壊す「毒」だぞ』

 

「くくく、それこそが余興というものだろう? この駒に、神々の出目さえ拒絶する『衝撃』を与えてやろう」

 

混沌の神は、指を離した。

黒く塗り潰され、もはや何者であったかも定かではないその駒は、天上の盤面から、冷たい雨の降る地上へと真っ逆さまに落ちていく。

 

落ちていく先は、秩序の神に見捨てられた、ある一人の犠牲者の元。

世界が彼女を「汚物」として投げ捨てたその瞬間、彼女の絶望は、神の手によって「死神」という名の牙へと書き換えられた。

 

誰にも触れさせず、すべてを拒絶する衝撃の旅路が、ここから始まる。

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