『ゴブリンスレイヤー』外伝SS【拒絶の死神編】 作:いっかず
時は第1話の惨劇の直後に遡ります
第13話:泥の中の誓い
洞窟の外は、すべてを洗い流そうとするかのように激しい雨が降っていた。
ゴブリンスレイヤーは、血と泥にまみれた女武闘家を背負い、一歩一歩、確かな足取りで山を下りていた。その横では、女神官が震える手で二つの包みを抱え、必死についてきている。
包みの中身は、あの日、共に希望を語り合った仲間の遺品だ。
折れ曲がった青年剣士の剣。そして、無残に裂けた女魔術師の帽子。
それらはあまりにも軽く、失われた命の重さとは不釣り合いだった。
「……あ、あ……」
背負われた女武闘家の唇から、微かな吐息が漏れる。
虚ろな瞳が、前を行くゴブリンスレイヤーの、傷だらけで無骨な鉄兜を見つめていた。
(……この人は、一人で……。油断せず、あんなに慎重に、ゴブリンを殺していた……)
彼女の脳裏に、自分たちの慢心が招いた地獄がフラッシュバックする。
暗闇への軽視。数への油断。そして、自分たちが「特別」だという根拠のない自信。
(私も……もし、この人みたいに……。油断せず、慎重に戦えていたら。……そうすれば、みんな……死なずに済んだのかな……)
彼女の細い指が、ゴブリンスレイヤーの革鎧をぎゅっと掴んだ。
自分たちの甘さが、仲間を殺し、自分を壊した。その残酷な対比が、彼女の心に深い傷となって刻まれていく。
ゴブリンスレイヤーは、背中の少女の震えを感じ取ったが、歩みを止めることはなかった。
「……ゴブリンスレイヤーさん、彼女、とても苦しそうで……」
女神官が涙声で訴える。ゴブリンスレイヤーは前を見据えたまま、低く、乾いた声で言った。
「……悔やむな。今は、息をすることだけを考えろ。……生き残ったのなら、次は死なない方法を考えればいい。それだけだ」
それは彼なりの、生き残った者への冷徹で、かつ真摯な激励だった。だが、その言葉は彼女の中で歪んだ形で反響した。
(死なない方法……。そう、この人みたいになれば……。小鬼を殺す『機械』になれば……もう、あんな思いは……)
やがて、遠くに神殿の灯りが見えてきた。
女神官は女武闘家の手をそっと握り、祈るように言葉をかける。
「……ゆっくり、養生してくださいね。大丈夫です。……生きてさえいれば、きっと、やり直せますから。また、あのお日様の下を歩ける日が、必ず来ます」
女神官の温かな涙が、女武闘家の頬に落ちた。
女武闘家はそれに応える力もなく、ただ、遠ざかっていく洞窟の闇と、自分を救った鉄兜の背中を、交互に見つめていた。
やり直せる。
女神官のその言葉を、彼女はこの時、心の底から信じたいと願った。
雨音にかき消され、少女の小さなすすり泣きが、泥の中に沈んでいった。