『ゴブリンスレイヤー』外伝SS【拒絶の死神編】 作:いっかず
北方軍司令部、中央戦略観測室。
薄暗い室内に、南方の教団拠点から転送されてきた「戦闘記録」の魔導映像が青白く浮かび上がっていた。円卓を囲むのは、北方軍の全権を握る司令官と、四つの師団を束ねる将帥たちである。
「――いよいよ始まったようだな。死神の実戦カリキュラム、通称『断罪試験』とやらが」
司令が、映像の中で無造作に転がっている無数の死体を見つめ、低く呟いた。
「最初は『人』。南方のそれなりに名が通った盗賊団――鉄鴉を、たった数分で全滅させたそうです」
第四師団長(影蝕)が、冷淡に被害状況を報告する。
「生存者はゼロ。遺体はすべて内側から破砕されており、武器を抜く暇さえ与えられなかった模様です」
「害意を持つ者は、人間であってもゴブリンと認識させるための実験だな。対象が放つ不純な情念を術式の着火剤にする……実に悪趣味な、あの男らしいやり口だ」
第二師団長(冥府)が、嫌悪感と学術的な関心が混ざり合った声で付け加える。
「魂の汚れを視覚的な『不浄』へ書き換える術式……。その精度は、この最初の試練で十分に証明されたと言えるでしょうな」
「ふん。ケチな小悪党の集まりを一掃した程度では、王都を落とす戦略兵器には程遠いでしょう」
第三師団長(迅雷)が、不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「我らが求めているのは、城門を粉砕し、軍勢を塵に変える絶対的な暴力だ。対人用の暗殺術に毛が生えた程度の力など、我が師団の空爆に比べれば児戯に等しい」
「……ならば、次は望み通りの『暴力』を見ることになる」
司令が冷徹に問いかけた。
「次の相手は?」
「……我が師団の懲罰部隊から送った、鉄甲トロールです」
第一師団長(鋼鉄)が、重苦しい声で応えた。
「鎖で繋がれた飢えた獣。知性もなく、ただ目の前の獲物を磨り潰すだけの、三メートルを超える質量の塊。……あの娘にとって、それはかつての悪夢そのものでしょう」
司令が地図上の一点を見つめ、記憶を紐解く。
「……確かあの娘は、冒険者としての最初の戦いで、小鬼の上位種であるホブゴブリンに敗れていたな。圧倒的な体格差と筋力。それが彼女の心を壊した最初の楔だったはずだ」
「左様。……ホブゴブリンを遥かに上回る巨躯と膂力を持つトロールを、果たして彼女の『拒絶』が押し返せるのか。あるいは、再び絶望に飲み込まれて自壊するのか」
第一師団長が、拳を握りしめながら続けた。
「……これであの娘の『底』が見極められるはずです。神話の怪物に挑む資格があるのかどうかをな」
北方の将軍たちは、固唾を呑んで映像の切り替わりを待った。
一人の少女がトラウマを物理的な破壊力へと昇華させる、残酷な「断罪」の第二段階が、今まさに始まろうとしていた。