『ゴブリンスレイヤー』外伝SS【拒絶の死神編】   作:いっかず

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第26話:4度目の検分

北方軍司令部、戦略観測室。

魔法投影機が映し出すのは、加護という絶対の守りを持っていたはずの闇人の無残な死骸。沈黙を破ったのは、司令の震えるような呟きだった。

 

「力を攻略したのみならず、神が定めた『理』すらも、あの娘は踏み越えたか」

 

物理的な質量を粉砕するまでは、まだ理解の範疇だった。だが、世界の法則そのものである「加護」を、ただの定義の上書きで無効化してみせた事実に、彼は底知れぬ恐怖を覚えていた。

 

「左様です。己の放つ衝撃を『武器(矢)』ではなく、空間から対象を排斥する『現象(拒絶)』であると定義し直し、世界の法則そのものを上書きした……」

 

第四師団長が、信じがたい記録を読み上げるように言葉を継ぐ。

「技術や魔力の問題ではない。彼女の精神が、世界のルールそのものを拒絶し始めている証拠です」

 

「あのような方法で加護を破るなど、これまで数多の戦場を見てきましたが初めて見ました。理屈をぶつけるのではない、理屈そのものを自分に都合よく書き換える……。それはもはや、個人の異能の域を逸脱しつつあります」

 

第二師団長(冥府)が、畏怖と狂信の混じった瞳で記録映像を見つめる。

 

「……まぐれではなかったようだな。質量を粉砕し、概念を貫いた。……認めよう、あの小娘は『戦略兵器』としての資格を得つつある」

 

それまで懐疑的だった第三師団長も、腕を組み、重々しく首を振った。

 

「だが……司祭は満足しておらん。更なる地獄を、あの娘に用意している」

 

第一師団長が、重苦しく円卓を叩いた。彼には分かっていた。司祭が次に求めるのは、彼女の力が「外部からの干渉」に対してどれほど不変であるかという証明であることを。

司令が地図上の駒を次に進める。

 

「……さて、質量と概念の次はどうする?」

 

司令の問いに、第四師団長が次の標的の魔導図を広げた。そこに描かれていたのは、無数の触手と巨大な単眼を持つ、悪夢のような異形。

 

「四度目の相手は『ビホルダー』です。以前、水の街にて魔神王の残党が、転移の鏡を守るために配置していたあの魔物。その同等種を司祭が確保しました」

 

「……成る程。《解呪(ディスペル)》の邪眼か」

 

司令は、自らの手元にある戦術書を閉じ、冷たい笑みを浮かべた。

 

「あの邪眼の視界にある限り、全ての魔導は解体され、霧散する。あの子の『拒絶』が魂から生み出される一種の術式であるならば、あの眼に射すくめられた瞬間、彼女はただの無力な少女へと引き戻されることになるな」

 

「我ら魔導師にとっては天敵の魔物です」

 

第二師団長が、自らの杖を強く握りしめた。

「もし『拒絶』が消されれば、彼女は生身で、あの死の熱線と対峙せねばならない。……司祭殿は、彼女の力の『出所』が、神や魔導といった既存のシステムに依存しているかどうかを、ここで見極めるつもりでしょう」

 

「魔法を無効化する眼と、万物を拒絶する掌か。……四番目の試練、開始させろ」

 

司令の命令が、暗い通信網を伝って地下闘技場へと届けられた。

知恵も加護も通用しない「死の視線」に対し、一人の少女が絶望の中でどう向き合うのか。

その行方が、北方軍の「究極の兵器」の完成を決定づけようとしていた。

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