『ゴブリンスレイヤー』外伝SS【拒絶の死神編】   作:いっかず

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第4話:囁く残響

「……ギルドに報告に戻るぞ。ここでの調査はこれ以上、意味をなさない」

 

鉄兜の奥から響くゴブリンスレイヤーの声は、いつも以上に重く、冷ややかだった。

足元に広がる惨状を一度だけ一瞥し、彼は踵を返す。もはやここには、彼が狩るべき「生きた小鬼」は一匹も残っていない。

 

「賛成よ。こんな薄気味悪い場所、一刻も早くおさらばしたいわ……」

 

妖精弓手が、自分の腕をさすりながら早足で彼の後に続く。

精霊のささやきさえもが、この場所の異常な死の気配に怯えて沈黙している。

1党は気を失った村娘を抱え、不気味な静寂を背にして洞窟を後にした。

足音が遠ざかり、入り口からの光が届かなくなる

鉱人道士と蜥蜴僧侶も、言葉少なに出口へと向かった。

 

だが、最後尾を歩いていた女神官だけが、ふと足を止めた。

 

(………………せ)

 

「え……?」

 

洞窟の奥、光の届かない闇の向こうから、何かが聞こえた気がした。

それは風の音にしては、あまりにも「人の情動」が混じりすぎていた。

 

(……ゴブリンを、殺せ……)

 

震える、少女のような悲痛な声。

それは呪詛のようでもあり、助けを求める泣き声のようでもあった。

 

「どうした?」

 

異変を察知したゴブリンスレイヤーが立ち止まり、振り返る。

 

「……あ、いえ。何でもありません」

 

女神官は慌てて首を振った。

 

「……行きましょう。早く、お日様の下へ」

 

自分を納得させるようにそう言い残し、女神官は仲間の元へと駆け寄った。

一行の足音が遠ざかり、洞窟の入り口から光が消えていく。

 

静寂が戻った巣穴。

その入り口近く、突き出した岩陰に、影が一つ。

 

漆黒のボロボロのフードを纏ったその人影は、去りゆく一行の背中を、じっと見つめていた。

フードの奥で、曼荼羅のような模様が浮かぶ瞳が、妖しく明滅する。

 

彼女の視界に映る一行は、眩い「善意」の光と、それ以上に混じり合う複雑な「感情」の渦だった。

 

(……ゴブリン……。……いいえ、まだ……違う……)

 

人影は、枯れ葉が舞うような音一つ立てず、背後の闇へと溶けるように立ち去った。

その後に残されたのは、ただ、無残に打ち捨てられた小鬼たちの死骸だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

空虚な洞窟を後にして、ゴブリンスレイヤー一行は辺境の街へと帰還した。

しかし、西門の堅牢な石造りの門を潜った瞬間、一行を待ち受けていたのは、いつもの活気ある夕暮れの風景ではなかった。

 

「…………え?」

 

女神官が、小さく声を漏らして足を止めた。

街道を行き交う街の人々が、一行――いや、その先頭を歩く鉄兜の男の姿を認めた瞬間、示し合わせたかのように動きを止めたのだ。

 

ざわめきが止み、代わりに不気味な沈黙が広がる。

母親は子供の目を覆い、路地の奥へと急ぎ足で隠れる。露店の主は、並べていた商品を慌てて片付け、目を逸らした。

 

「何か……あったのでしょうか?」

 

女神官が不安げに尋ねる。彼女の聖印を握る指先が、周囲から放たれる刺すような「拒絶」の視線に震えていた。

 

「何よ、さっきから。みんな変な目つきでこっちを見て……。まるで、私たちが何か悪いことでもしたみたいじゃない」

 

妖精弓手が尖った耳を不快そうに震わせ、周囲を睨みつける。だが、彼女と目が合った男は、幽霊でも見たかのように顔を真っ白にして逃げ去った。

 

「戦場の殺気とはまた異なる、湿った冷たさを感じますな。……拙僧らを見る目が、以前とは明らかに異なっております」

 

蜥蜴僧侶が重厚な法輪を鳴らし、油断なく辺りを探る。人々の瞳に宿っているのは、単なる敬遠ではなく、魂の底から怯えるような「恐怖」だった。

 

「ふむ、酒の味も一気に落ちそうな、嫌な空気じゃな。……かみきり丸。お主、留守の間に何か恨みを買うような真似でもしたか?」

 

鉱人道士が眉をひそめて問うが、ゴブリンスレイヤーは足を止めることなく、一定の歩調でギルドへの道を突き進んでいた。

 

「…………」

 

鉄兜の覗き窓から漏れる赤い眼光は、周囲の「変化」を冷静に走査していた。

住民たちの呼吸の乱れ、震える指先、そして自分に向けられる隠しきれない嫌悪。

 

「俺に関わる何かが起きた。……それも、致命的な何かが」

 

ゴブリンスレイヤーの低く、乾いた声が響く。

 

「俺がここにいる理由。それを根底から揺るがす事態だ。……ギルドに行けば、すべて分かるはずだ」

 

静まり返った大通りを抜け、一行は逃げ場のない真実が待つ、冒険者ギルドの扉へと手をかけた。

 

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