『ゴブリンスレイヤー』外伝SS【拒絶の死神編】   作:いっかず

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第80話:影の処刑

辺境の街、第二街区。運河沿いに建ち並ぶ旧い倉庫街の一角に、不気味な腐敗臭と、鼻を突く毒々しい薬品の臭いが立ち込めていた。

 

「――さっさと運べ! 街が更地になる前にこの『商品』を港から運び出すんだ。これを王都の裏社会に売り捌けば、俺たちは一生遊んで暮らせるんだからな!」

 

青白い肌に血管を浮き上がらせた男――密輸組織『黒蛇商会』の首領が、重い木箱を運ぶ部下たちを怒鳴りつけていた。部下たちはもはや言葉を発さず、吸血鬼の呪いによって理性なき屍食鬼と化し、ただ黙々と「不浄の毒」を積み上げていた。

 

その時、倉庫の重厚な鉄扉が、音もなく内側へ向かって「陥没」した。

 

――――――――…………ド、ン。

 

火花を散らしてひしゃげた鉄の塊。その向こう側から、濡れた黒いマントを翻し、死神が姿を現した。

 

「来たな、死神……! だが、俺をあの『鉄烏』のような出来損ないのグールと一緒にしないでほしいな」

 

首領は怯むどころか、歪んだ笑みを浮かべて宙に指を走らせた。周囲の瓦礫や刃物が、彼の【念動力(サイコキネシス)】によって浮き上がり、彼の周囲を囲う「不可視の盾」となる。

 

「俺はあの方から直々に血を与えられた選ばれし者だ! 貴様の衝撃など、俺の力でねじ伏せてやる! ……かかれッ!!」

 

首領の号令と共に、十数体のグールたちが一斉に襲いかかった。だが、女武闘家の瞳の曼荼羅は、彼らの醜悪な生への執着を、冷徹にスキャンしていた。

 

『――ふん。他者の心を壊して小銭を稼ぎ、自分が死にたくなければ化け物の靴を舐めるか』

 

脳内の【不浄の指針】が、これまでになく毒々しい声で吐き捨てる。

 

『救いようのない、不浄の極致だな。依代よ、見えるか? こやつらの魂にこびりついた、あの洞窟のゴミ共と同じ卑劣な「色」が。躊躇う必要はない。これらはもはや生命ですらない、ただの不潔な汚泥だ』

 

「…………」

 

その言葉が、女武闘家の心の奥底、凍りついていたはずの「怒り」を激しく揺さぶった。

彼女の脳裏に、毒を塗ったナイフを刺され、苦悶の表情で倒れ伏した友の顔が、鮮烈な色彩を取り戻してフラッシュバックする。

 

「……毒。……卑劣な、ゴブリン……」

 

彼女の右掌に、周囲の空気を歪ませるほどの高密度な拒絶の魔力が集束する。

 

「……あの子の命を奪った……その毒を……絶対に、許さない……!!」

 

「死ねッ!!」

 

首領が念動力で数十本のナイフを一斉に放った。

だが、そのすべてが彼女に届く数メートル手前で、まるで時間が停止したかのように空中で静止した。

 

「――拒絶」

 

――――――――ドォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!

 

空気が爆ぜたのではない。

彼女の「嫌悪」が、首領の展開していた念動力という概念ごと、空間をすり鉢で挽くように粉砕したのだ。

 

「が、はっ……!? 俺の防壁が……押し潰される……ッ!!?」

 

首領の肉体は、自らの放ったナイフと共に「く」の字に折れ曲がり、倉庫の壁ごと粉々に粉砕された。グールたちも、叫びを上げる間もなく赤い飛沫となって消滅した。

 

だが、彼女の「掃除」はそれでは終わらなかった。

彼女は右掌を床に叩きつけるように向けた。

 

「全部……消えて」

 

――――――――…………。

 

爆発音すら上がらなかった。

倉庫内に積まれていた大量の違法薬物、呪具、そして不浄な魂の残滓。それら全てが、指向性の衝撃波によって原子レベルで「排斥」され、跡形もなく消去された。

 

数秒後。

運河のほとりに立っていたのは、ただ四角い「虚無」の跡地を見つめる死神だけだった。

 

『――掃除、完了だ。残る巣穴は、あと三つ』

 

不浄の指針が満足げに拍動する。

女武闘家は、かつての友の無念を晴らすかのように、返り血一つない己の拳を強く握りしめた。

 

臨界点まで、あと四日。

一人の少女を地獄へ誘った「毒」という名の不浄は、いま、彼女自身の手によって、この街から完全に根絶された。

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