其れは、『最高』の【例外】   作:『墓場に非らず』(はかばにあらず)

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 でき上がったので。
 テレジアの着ぐるみの機能をおおまかにご開帳。


番外・着ぐるみ王女の動作確認

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──中央大陸某所。

 

 

『では、動作確認だ。いいか?テレジア』

 

「分かったわ……」

 

 

 とある秘密試験場にて着ぐるみ姿のテレジアが佇んでいた。

 今日は彼女にとって最重要の装備品である着ぐるみの定期動作確認の日だ。

 ……しかしテレジアはどこか微妙な表情をしている。

 

 

「……起きて、ギグ」

 

 

 ……少しだけ躊躇って、テレジアはその『名前』を口にした。

 ──途端、着ぐるみの目がギョロリと動く。

 

 

『──ゲヒャヒャヒャヒャヒャ‼︎お久しぶりだなぁ、姫さん‼︎』

 

「……久しぶりね、ギグ」

 

 

 そしてずるりと、着(・)ぐ(・)る(・)み(・)が(・)勝(・)手(・)に(・)動(・)き(・)、ずるずると太く大きくなる足はがに股に、腕はぼこぼこ膨れた二本とそ(・)の(・)中(・)か(・)ら(・)出(・)て(・)来(・)た(・)幼(・)女(・)の(・)よ(・)う(・)に(・)小(・)さ(・)い(・)二(・)本(・)に(・)分かれ、テレジアの頭を収めた口の中から騒がしい声が聞こえて来る。

 それはテレジアが着る着ぐるみ、正式名称を『対【邪神】抑制防護・動作補助着用システム』の自律操作人工知能『ギグ』が目覚めた証だった。

 

 

「……全く、どうしてこんな性格になったのかしら……」

 

『ゲヒャヒャヒャ‼︎そりゃ姫さんに着られてりゃあそうなるってモンだ!』

 

 

 早い話がテレジアが着ている着ぐるみが『生きた着ぐるみ』になったのであるが……、……なんだかんだ着ぐるみの見た目は気に入ってきているテレジアもテンプレなチンピラそのものな言動のギグの性格はお気に召していない。

 

 

「ギグ、私が【邪神】だからそう成長したって言いたいの?それは職業差別という奴よ」

 

『……ギグ、眷属になってるなら然るべき処置を行うが?』

 

『ゲゲェ⁈悪かったよ、姫さん、旦那ぁ‼︎』

 

 

 ギグは焦ったようにギョロギョロ目を動かし大きい腕をバタバタ振りながら自分の口の中でジト目をするテレジアと、狂いにくい人工知能の参考としてデータを提供した為密かに『ギグがああなったのは私の影響ではないだろうか……』と気にしている『最高』に失言を謝罪した。

 言動はどうあれ、主に忠実な着ぐるみである。

 

 

『とにかく始めるが……、準備はいいか?』

 

『おおとも!』

 

 

 ともあれ、動作確認の開始を予告した『最高』に腕を上げてギグが答え──

 

 

「──あぁ、『最高』さん、喉が渇いたわ」

 

 

 ──テレジアが他愛のない、しかしこれから装備の動作確認を行うという時には不似合いな要望を出す。

 

 

『それも、いいか。紅茶にするぞ』

 

「えぇ、ありがとう」

 

 

 ──しかしそれを『最高』も聞き入れた。

 間もなく、ドローンが運んで来たソーサーとティーカップを揃えた紅茶を手足が伸びて普段より大きくなった着ぐるみから飛び出る小さい腕が受け取る。

 

 

『では始める。今回は伝説級まで行く手筈だからそのつもりで』

 

「分かったわ」

 

『ガッテンだ‼︎』

 

『投入開始』

 

 

 そうして試験場にモンスターが転移投入される。

 ──最初は亜竜級までが、群れを成して。

 既に攻撃体勢にあり、毒液や雷、炎を撃ち放つ。

 

 

『──ヌルいぜぇえぇ‼︎』

 

「……」

 

 

 ──それをギグはあっさり打ち払う。

 口の中のテレジアは何事も無く、着ぐるみの手で紅茶を啜っていた。

 

 

『ゲャハハハハハハハハ‼︎』

 

 

 そうして群れをあっさり蹂躙する。

 

 これが目覚めたギグによる自律稼働モード。

 着ぐるみが自ら動き、脅威に対処する。

 リソースを吸って強(・)化(・)さ(・)れ(・)続(・)け(・)る(・)その性能は極めて高い。

 今のテレジアは膨れ上がった着ぐるみの腹の中で腰掛け、ギグが動かす腕の中から自分で動かす腕だけ外に出して口元に紅茶を運んでいるだけで何もしていない。

 ──【邪神】の自動防御すら発動していない、完全に安全な状態だ。

 

 

『──‼︎』

 

 

 ──とするのを裏切るように毒煙が着ぐるみの頭に吹き掛けられる。

 蔦植物に似たモンスターが突然投入されていた。

 

 

「──ぼぅっとしてたのギグ?視(・)界(・)が(・)遮(・)ら(・)れ(・)た(・)わ(・)」

 

『すまねえな姫さん‼︎調子に乗ってたわ!』

 

 

 ──そ(・)し(・)て(・)開(・)け(・)っ(・)放(・)し(・)の(・)着(・)ぐ(・)る(・)み(・)の(・)口(・)の(・)中(・)に(・)そ(・)の(・)毒(・)煙(・)は(・)一(・)切(・)入(・)っ(・)て(・)い(・)な(・)い(・)。

 不透明の毒煙に視界を遮られただ(・)け(・)のテレジアの叱責に、ギグは元凶を引きちぎって答えた。

 開けっ放しに見える口の間には脅威判別式のバリアが張られている。

 脅威対象を一切通さないそのシステムは、この世界最高峰の自動防御の眼鏡にもかなうものだったらしい。

 当然のように手にする紅茶すら守られ、その成分は一切の変質をしていない。

 

 

『ではそろそろ次の段階に移ってくれ』

 

「分かったわ。ギグ、食(・)べ(・)て(・)」

 

『あいよぉ‼︎』

 

 

 そうしている内に群れも殲滅され、『最高』の声が飛ぶ。

 それに従って空のカップとソーサーをドローンに渡しながらのテレジアの指示で、ギグは──ばくり、と着ぐるみの口を閉じた。

 テレジアが動かしていた腕もずるん、と取り込まれ、着ぐるみに食べられた膨らみがごくり、と胴体に飲み込まれる。

 

 

『ゲッヘッヘェ、どうだ姫さん⁈』

 

 

 まさしく幼子さえ喰らう、モンスターの如き行動だが──、

 

 

『──問題なし、私(【邪神】)は作動してないわ』

 

『こちらでも確認した。まだ行けるな、ギグ』

 

『ああよ‼︎』

 

 

 ──着ぐるみの胴体の中からテレジアの籠ってはいるが平静そのものの声が聞こえる。

 『最高』も特に驚かず、淡々とギグを促す。

 これ以降は、純竜級以(・)上(・)しか投入されない。

 大多数の〈マスター〉にとっても脅威的な敵勢だ。

 

 

「……見てるだけはやっぱり退屈ね。飽々してしまうわ」

 

『『ふむ……、娯楽映像の再生・閲覧機能でも付けるか?』』

 

『真面目に検討してんなよ旦那‼︎』

 

 

 ……だがその脅威も着ぐるみの中に届くどころか表面にかすり傷を付ける事すら叶わない。

 そもそも防護服でもあるこの着ぐるみは恐ろしく防御力が高い。

 超級職奥義クラスですら一切通さず、必要とあらば酸素や水分なども生成できる為無補給・危険環境下でも着用者の生存に問題は無い。

 その気になれば、胴体の中で着ぐるみパジャマ状のインナースーツ・通称『ぎぐすーつ』を着込んで投影される外の映像を鑑賞中のテレジアが一年間『ギグこもる』のも余裕だ。

 過去の【邪神】には精神的ストレスに反応して能力を発動している者も居るので推奨はされないが……。

 

 

『おっとぉ‼︎』

 

『──』

 

「あら」

 

 

 と、動き回っていた映像が止まった。

 ギグの目が見る景色である、投影される映像には一体の重厚そうなゴーレムが姿を見せている。

 

 

『旦那ぁ⁉︎これいいのかよぉ⁉︎同(・)族(・)だろお⁈』

 

『『問題無い。奴もそう柔じゃないからな』』

 

 

 見た目通りの大重量に強いSTRと硬いENDに各種耐性、特殊性が無いだけで伝(・)説(・)級(・)の(・)U(・)B(・)M(・)に(・)匹(・)敵(・)す(・)る(・)ゴーレムと組み合いながら──、──ギグが心配するのは『最高』の同族を倒してしまわないかだけ。

 さもありなん、ギグが自律稼働しなければならない状況とは伝(・)説(・)級(・)の(・)U(・)B(・)M(・)な(・)ど(・)塵(・)芥(・)に(・)し(・)か(・)な(・)ら(・)な(・)い(・)危(・)機(・)。

 自分より上の守り手達が居ない状況であっても、倒されるどころか傷一つ与えられる事すらあってはならない。

 

 

『自分の心配をしなさい、ギグ。他のもまだ残ってるわ』

 

『そうだなぁ姫さん‼︎そうさせて貰うわ!ありがとうなぁ‼︎』

 

『──!』

 

 

 自分の胴体の中からの主の声にギグは答えてあっさりゴーレムを放り投げ──、──ず(・)ぐ(・)り(・)と(・)腕(・)を(・)増(・)や(・)し(・)、尻(・)尾(・)を(・)伸(・)ば(・)し(・)た(・)。

 

 

『オラオラァ‼︎』

 

 

 そうして背後から迫るモンスターを引き裂き、千切り潰す。

 ──造形や変形、機能の都合上生体系素材の割合も多いこの着ぐるみは手足尻尾をはじめとした各部分の伸縮・追加も自在だ。

 今は2Mにも満たない大きさだが、もっと大きくなる事だってできはする──様々な都合上、やりはしないが。

 

 

『──よし、これで戦闘は終了だ。基準形態に戻ってくれ』

 

『分かったわ。出して、ギグ』

 

『あいよぉ‼︎ちょっと待ってなあ!──グア、ッ』

 

「──ふぅ」

 

 

 そうしてゴーレム以外のモンスターは全て光の塵となって戦闘は終わり、手足と尻尾が膨れ上がっていた着ぐるみはぐずぐずと縮んで行き──、──口を開けてテレジアの顔を出し、元の子供サイズの着ぐるみに戻った。

 

 

『──……』

 

『では次の段階だ。着用に問題は無いか、テレジア?』

 

「ええ、大丈夫みたいよ」

 

『オレのチェックも問題無いぜえ‼︎』

 

 

 投入された中で唯一の生存者であるゴーレムも──……少し落ち込んでしょんぼりした様子で──転送帰還される中、次の段階に入るテレジアは着ぐるみの手を握っては開いたり、足を片方ずつ上げては下ろしたり、腰を振って尻尾をぶんぶん動かしたりしながら『最高』に答える。

 ギグはまだ起動しているが、今着ぐるみを動かしているのは正真正銘テレジア。

 ──これからしばしテレジアは、その着ぐるみが象るモンスターになるのだ。

 

 

『なら、状況開始だ』

 

「ええ、暴れるわよ」

 

『ゲヒャヒャヒャ‼︎やっちまいな姫さん‼︎』

 

 

 これから様々な形状のオブジェクトが飛び出した試験場を駆けるのは、紛れも無いテレジアの意思によるもの。

 ちょこんと立つ小さなモンスターの、口の中で小さくテレジアは笑った。

 

 

「よっ」

 

 

 まずは横向きに飛び出た四角柱の上に軽々飛び乗る。

 ──アルテア城内の人間が見れば驚くだろう、病弱であるテレジアが着ぐるみのまま戦闘系のジョブに就いた者の様な動きをするのだから。

 

 

「1、2、3……」

 

 

 もっともそれは身体(器)がか弱いだけで、ジョブ(【邪神】)としてのステータスはその限りではないのだが。

 ただ現在は普段の繕ったよりは上くらいの身体能力で纏った着ぐるみを動かしているのだが──、──それでも縦横に突き出る柱を跳び回るその動きは身軽だ。

 

 

「えい、っ」

 

 

 そもそも着ぐるみとは服(・)なのだ。

 着ても動けない“檻”になってしまえば、最悪それを危険と判断して【邪神】が成長しかねない。

 だからこそその作りは柔軟であり、尚且つ人工筋肉による非機械型パワードスーツにも似たアシスト構造で着用者の動きを邪魔せず、強力に補助する。

 先程の戦闘試験のように大きくなっていても、テレジア(着用者)ならば自在に動ける。

 

 

「!」

 

 

 ──当然、小さくなっても堅牢さは健在である。

 

 

「……眩しいわね」

 

 

 今の形態(基準形態)が最も長い時間を過ごす形態なのだ。

 容易く──否、余程の事があったとしても壊れるどころか傷付いてしまってすら話にならない。

 だから魔法・非魔法問わず放たれる超級職奥義クラスの火力の中でも、せいぜい初夏の眩しい日光くらいの眩しさしかテレジアには届けていない。

 

 

「……ん」

 

 

 ただしそれが不快でないという事ではないので……、……テレジアは着ぐるみの口を上下から押さえて少し狭める。

 外からテレジアの顔は見えにくくなったが、別に口の中に伝わる眩しさが変わった訳ではない。

 眩しさが気になったならばバリアを調節すればいいのだから。

 

 

「(……がおー)」

 

 

 ──……ただ、ちょっとした言い訳を作っただけだ。

 

 

「……がおー」

 

 

 殴って、叩いて発射装置を止める最中に子供のような、……【邪神】のジョブが代替脳となっており、精神年齢が高いテレジアが素面で出すにはやや恥ずかしい、そんな吠え声を上げても仕方ないだろうという。

 

 

「……、がおー」

 

 

 今の私はぎょろりとした目、牙の生えた口、爪の生えた手足、振り回す尻尾を備えたモンスターなのだから、と。

 ……律儀に何も喋らないギグや、モニタリングしている『最高』には間違いなくバレてしまっているが、……それでも口の隙間から外を見るテレジアは言い訳を作らずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ」

 

「よし、お疲れ様。テレジア」

 

『お疲れ様である』

 

『良い暴れっぷりだったぜぇ、姫さん‼︎』

 

 

 動作確認を終え、ペタペタと着ぐるみの足音を鳴らしながら歩いて来たテレジアを『最高』とドーマウス──見守る時はいつも固唾を飲んで見守っている──が試験場併設の監視室で出迎える。

 

 

「あ、そうだ。ギグ、リソース排出を」

 

『なんだ、忘れてたのかあ?──ゲエッ』

 

「……その出し方はやめてと言っているでしょう」

 

 

 そこでギグの声を聞いてうっかり忘れてた──そこで終わりの『完璧』ではないからな。とは本人談──項目を思い出した『最高』の言葉でギグは口内から粘液に塗れた何かを出す。

 赤い結晶の形をしたその正体は固体化したリソースであり、回復やレベルアップなど様々な用途に使いうる代物である。

 ……ただテレジアにとって、顔のすぐ近くで生物的な出し方をされるのは苦情ものだ。

 

 

「んっ……、脱ぐわよ?」

 

『ゲエッ⁉︎そんな殺生なぁ⁈』

 

 

 ずるっ、とフードを外すように着ぐるみの頭を背中側に脱いでギグに脅しをかける。

 制御を誤って粘液が顔に掛かったという事は無いが、あのリソース結晶の出し方はテレジアにとって生理的に不快感が有る。

 なのでギグが悲嘆の声を上げるレベルの脅しを口にする。

 

 

『そこまで嘆かずとも割と脱いでいるではないか……』

 

「自分が目覚めてる間は着てて欲しいという事だろう、そう作られたのだから」

 

『旦那ぁ……!』

 

 

 日常の中でまぁまぁ脱ぎ着されてるのを目撃している──プライベートなので公への露出は然程無い──ドーマウスに対し、『最高』はリソース結晶を拾って収納しつつその悲嘆に同じ被造物として理解を示し、ギグに感嘆の声を上げられる。

 

 

「ただ動作確認の後だからしばらく脱いでおけ、テレジア」

 

「ん」

 

『旦那ぁ……!』

 

 

 だがまぁそれはそれとして動作確認での軽い高揚状態を沈める為にも着ぐるみを脱いでおく事を『最高』は勧め、テレジアも了解して着ぐるみの首元に手指をかける。

 ギグは一転して悲嘆の声を上げる。

 

 

『あぁぁぁぁぁ……』

 

『これも毎回の事であるではないか……』

 

「悲しい事はいつだって悲しいものだ」

 

『それもそうであるな』

 

 

 そうしてテレジアが下に手指を動かしていくと着ぐるみの前面が縦に裂けて、開いていく。

 このモンスターの着ぐるみに一見ファスナーの類いは無いが、分子レベルのマジックテープのような結合/分離機構が備わっており様々な形の脱ぎ着ができる。

 それでいて一度結合すればそこは他の部分同様の防護力を誇り、僅かな綻びにもならない。

 

 

「よいしょ」

 

『ああ、ぁ……』

 

 

 そうして腰元まで裂け目を届かせたテレジアは着ぐるみから這い出し、ギグは力無く声を出し、白目を剥く。

 通気性の欠片も無さそうな着ぐるみを脱いだテレジアだが、ずっとその王族らしからぬ簡素な服装でいたかのように汗一つかいてない。

 

 

「どうする?入浴、ないしシャワーを浴びるか?」

 

「今日はいいわ、しばらく休むけど」

 

『……ぁ、……ぁ……』

 

 

 それは特典武具の【きぐるみしりーず】の大半のように着用者の快適な温度に調整する機能があるからだ。

 この着ぐるみで高温多湿な夏の東京に繰り出したとしても楽々『ギグ生活』ができるだろう。

 もちろん南極の冬のような凍え凍り付く寒さも通さない。

 更に肌の保湿・老廃物の分解など美容機能も備わっており、それは長時間の着用後にいきなりドレスに着替え、化粧を施して社交界に顔を出しても通用するものに着用者を整えてくれる。

 ……もっとも衛生面や精神面・整備などの都合上、一日の間でも時折脱ぐ事を推奨されているが。

 テレジアもその説明を遵守している。

 

 

「そうか、一応水分補給はしておけよ。飲んだのは紅茶一杯だけだからな」

 

「分かったわ、お水をお願い」

 

「了解した」

 

 

 それでなくとも着ぐるみを着て動き回ったのだ、潜在的にはかなりの水分を消費しているだろう──……ジョブの頂点の一つたる【邪神】に適用されるとは思えないが。

 それでも『最高』はテレジアを人として気遣い、もっと楽な手段が幾らでも使えるのに飲料水をわざわざ歩いて取りに行っている。

 それは『最高』の『最高』としての拘りなのだろう。

 

 

「ドー」

 

『うむ』

 

「ありがとう」

 

 

 何ら選択無く、世界の命運に関わる立場に就かされてしまっているテレジアは甘んじてそれに甘える。

 脱いだ裂け目をぴたりと閉じ、抱えた着ぐるみをずるずる引きずって、ドーマウスのクッションのような横腹にもたれかかる。

 

 

「…………」

 

 

 ……ドーマウスの哺乳類めいた感触の横腹にもたれかかりながら、ぐにぐにした感触の着ぐるみをぐにぐに抱えているのは、……少し癖になる。

 そう感じるテレジアである。

 

 

「ほら」

 

「ありがとう、『最高』さん」

 

 

 やがて『最高』が地球のペットボトルに酷似した透明の容器を手に戻り、見えるようにキャップを開けて渡してくれる。

 ご丁寧に表記の一つに〈Beru-5〉と書かれたラベルまで巻かれたその飲料水を、テレジアはこくこくと飲む。

 

 

「ぷはっ、……」

 

 

 ……腕の中で白目を剥く、着ぐるみを見る。

 

 

「……いつまでショックを受けているの、ギグ。着るわよ」

 

『──マジか、姫さん‼︎』

 

 

 ぐるん、と黒目が現れ、歓喜の声を上げる。

 ……やっぱり着ぐるみは着ていてこそだ。

 そうテレジアは思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んっ……」

 

 

 首元から腰元までずずず、と縦に裂け目を入れる。

 ……この少し抵抗のあるぐにぐにした感触もまた、いい。

 

 

「よいしょ……」

 

 

 裂け目に踏み入り、手足を履いて、胴体に入り、着ぐるみを着る。

 ……ぐにぐにした着心地は、気持ち良くて、わくわくする。

 

 

「……ん」

 

 

 ぐいぐいと裂け目を閉じて……、……着ぐるみの頭を被る。

 ……あとは頭を被るだけになった時。

 頭に手をかけた時。

 喉元から頭を被って一瞬、暗闇になって、ぐにぐにに包まれて、目に見える景色が口の形に切り抜かれた時、……どきどきしてる。

 

 

「…………」

 

 

 ぐいぐいと裂け目を全部閉じて、着ぐるみを着終わる。

 ぎょろりとした丸い目、爪の生えた手足、振り回す尻尾を備え、牙の生えた口の中に子供の頭が入った、ぐにぐにした体のモンスターになってしまった。

 ぐにぐにした着心地は動くとぐにぐにまとわり付いて、気持ち良い。

 着終わる頃には身体に馴染んで、本当に変身してしまったみたいだ。

 ……顔が出てるのは、恥ずかしいけど。

 同時に私が変身している証でもあって。

 

 

『嬉しそうだなぁ、姫さん』

 

「そうかしら?」

 

 

 【邪(・)神(・)】と(・)〈終(・)焉(・)〉以(・)外(・)に(・)な(・)れ(・)な(・)い(・)筈(・)の(・)私(・)が(・)。

 

 ……ちっぽけだけど一匹のモンスターと一つになって、【邪神】でも〈終焉〉でもないものになれたのは、確かに嬉しいのかも、しれない。

 

 

「ドー、背中を貸して貰えるかしら」

 

『うむ、存分にするのである』

 

「ありがとう。…………ん……」

 

 

 ドーの背中に登って、腹ばいで抱き着く。

 ぐにぐにの体でドーに抱き着くとまた、何とも言えない心地良さがある。

 

 

「ごゆっくり、な」

 

「うん…………」

 

 

 今、この時は心ゆくまでその心地良さを味わう事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 






:テレジア
 なんだかんだ着ぐるみを気に入っている。
 ……ところで某LS仮面はこの人の事どう判定するのだろう……。

:ギグ
 着ぐるみに搭載された人工知能。
 チンピラ口調だがテレジアには忠実。
 脱がれるのはショック。
 『≒着ぐるみ』なのだが、普段から起動している訳ではないので『=(・)着ぐるみ』とは見られていない節がある。
 ……ヒール時の迅羽と微妙に口調が被ってる。

:『最高』
 友であり、人であらん、と努めている。
 今回は別室の窓から見守っていたが、古代伝説級以上のテストが必要な時はこの人かドーマウスが出張る。

:ドーマウス
 抱き心地がいい。

:ゴーレムくん
 色々あって、『最高』に拾われた。
 特殊性は無いが、伝説級は伝説級でもギーガナイト(モンスター)ではなくガルドランダ(UBM)級の力がある。
 多分ビシュマルあたりと良い勝負ができる。
 ゴーレム界のスーパースターでもある『最高』にはキラキラした感じの気配を向ける。
 『最高』にいいところ見せられなくてしょんぼり。

:秘密試験場
 中央大陸のどこか、アルテア王城からテレジアがある程度の時間赴いても問題にならない、そんな所にある。

:〈Beru-5〉
 これも着ぐるみを手掛けた製作者によって作られた。
 柔らかくて飲みやすい味のおいしい水。
 超長期間の保存も可能。

:着ぐるみ
 ぼんやり爬虫〜両生類系なモンスターの着ぐるみ。
 すげー機能詰まってる。
 できあがるのに決戦兵器一つ完成させるのに迫る手間がかかってる。
└リソース吸収
 邪神に流れ込むリソースを吸い取る為の機能。
 テレジアの周りには『王都アルテアのセーブポイント機能→王都の守護結界→王城の結界→(テレジアの居室の結界)→『最高』→ドーマウス』、最後にこの着ぐるみと多段のリソース吸収機構が存在している。
 リソースを使って機能の強化もできる。
└変形
 腕や尻尾を増やしたり、大きくなったりできる。
 仮にテレジアが身長2m以上のナイスバディな成年女性に成長したとしても、それに合わせてこの着ぐるみもサイズを変えられる。
└脅威遮断・防護
 素で鎧ホロビマル・略して鎧マルと同等以上の防護力を誇る上、それと同等の脅威判別式のバリアまで貼れる。
 ……更に【邪神】の眷属化始め、変性系能力への耐性すらある。
 空間破壊や高重力にも高い耐性があり、空間跳躍も中には入れない。
└着用者保護・補助
 着たまま無補給・危険環境下に一年居ても余裕で健康状態での生存ができる。
 最低でも前衛系超級職並みのパワーアシストもある。
 着心地はぐにぐにした独特の気持ちよさがあるが、着っぱなしは余り推奨されない。
└リソース排出
 吸収したリソースを結晶体として排出できる。
 ……万が一眷属化した時、迅速にレベルダウンする為の機構。
└『ぎぐすーつ』
 着ぐるみパジャマじみたのも備えてる。
 これも高防御力。
└楽しい
 ……着ていると、モンスターになったみたいで、変身願望が満たされ、楽しい。
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