沢渡ココのかくれんぼ禁忌自爆魔女化BADENDのその後のお話


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此処からあてぃしへ

 

事切れたヒロを無造作に放り捨てて、ココは嗤った。

 

全員殺した。

通常の手段では死なない者も、例外なく。

看守はともかくメルルまで蘇ってきたのは予想外だったが、それも最早、結末を変えるほどの出来事ではなくて。

 

「あー、そっかそっかぁ、あてぃしを殺した黒幕ってオマエだったんだぁ・・・じゃあ早速コイツの使いどころじゃん・・・?」

 

魔女殺しの薬、トレデキム。

それを目にした彼女はいっちょまえに泣き叫んでやめてくださいとかなんとか喚いていたが、聞き流して。

引き倒し、胸を抉り、腹を割いて、そこに薬をたっぷり流し込んでやった。

その結果を見届けながら、ふと思い出したココはぼやく。

 

「やば、オマエが最後だってヒロっちに嘘ついちったじゃん・・・ま、いっか、大して変わんないし?」

 

血に染まる廊下を見渡して、ココはもう一度、嗤う。

嗚呼、今度こそ、全員殺した。

 

 

 

「あは、アハハハ・・・これであてぃしの勝ち」

 

かくれんぼは、終わった。

もうこの屋敷に、自分を殺せる者は居ない。

 

「アハハハハハハ!!」

 

魔女化の影響は、外見以上に、その内に色濃く表れていた。

兼ねてから言われていた通りの殺人衝動。

歯向かってきたヤツを返り討ちにして、逃げ惑うヤツを追いかけて、隠れているヤツを炙り出すのは愉しかった。

それまで怯える側だった仕返しのように、ココはそれに身を任せて、そしてその感覚に酔っていた。

・・・のは、数秒前までの話。

 

「・・・なーんてさぁ」

 

スン、とココはわざとらしく笑うのをやめた。

さっきまで無限に湧き上がるような気がしていた殺意と高揚感は、今は消え失せていた。

恐らく、もうその相手がいないと分かっているせいだろう。

燃え尽き症候群に近い感覚で、ココはぼんやりとそこに立っていた。

 

もう一度周囲を見渡して、次いで自身の異常に長く伸びた爪と、そこにべっとりとこびりついた乾きつつある複数人分の血を眺めて、ココは低く、溜息をつく。

 

「はあ・・・キモ」

 

魔女化のせいで自分がやった所業にどこか現実感がなかったが、五感だけはその気持ち悪さを伝えてくる。

この感覚は初めてではないけれど、とココは思って、思い出して。

けれど今度は、その時とは立場が逆だと気がついた。

快楽のままに自分が殺した側なのだ。

殺人鬼、という単語が脳裏を過ぎる。

それは本当は、自分が最も憎んでいる存在だったはずの。

 

「これじゃ、あてぃしもアイツとおんなじ・・・」

 

その瞬間に、ベキ、と嫌な音がした。

それは身体のどこかがさらに罅割れた音だ。

魔女化は心への負荷によって進行していき、やがてはなれはてという化け物に変じる。

既に自分は、その一歩手前というところなのだろう。

 

ココは手先が血塗れなのも構わずに、顔を覆った。

自分はただ殺されたくなかっただけなのに。

無事に家に帰れればそれで良かったのに。

確かに、もう誰かに殺される心配はなくなったのかもしれないが、これでは。

 

「もう帰れないじゃん・・・」

 

もはや推しにはもう会えないという事実が、じわじわと心を蝕んでいくのが分かる。

自分も長くないことは、なんとなく分かった。

そのこと自体に絶望しそうになったココは、本能に従って半ば思考停止をする。

得体の知れないものから身を守るのは得意だった。

昔から。

 

 

 

しかしじっとそこに立っていると、錆臭い匂いで気が滅入った。

何もしていないと結局また現実に苛まれてしまいそうだったココは、とにかく何かをしようと思い立つ。

暇潰しでも、なんでもいい、とココはぐるぐる考え。

そして、なんというか色々と、見納めにしよう、と思って。

魔女化によって強まった魔法を、ココは使うことにした。

 

ココの魔法は【千里眼】。

此処ではないどこかを見るための魔法。

ぎょろり、とココの体にいくつもある瞳が動いて、その光景を見る。

諸々の発動条件があったはずのそれには、今はより多くの使い方がある。

もう一度、血染めの周囲を、そして()()()()()()()()を見渡して。

ココはまず一言。

 

「・・・なぁんだ、みんな殺る時は殺っちゃってんじゃん」

 

ココは別の自分が得た知識と経験を、魔法によって共有した。

自身の末路や、トレデキムの在処、魔女の秘密の一端を、先んじて知ることができた。

思えばそのせいでこの惨劇を引き起こしてしまった気がしないでもないが、そういう経緯だっただけに、ココはそれが可能な条件が今の自分にも当てはまることを知っていたのだった。

魔女化した自分は、別の世界の自分と繋がれる。

 

「エマっち、ヒロっち、お嬢、ヤンキー・・・うわ、ノアっちなんてパターンもあんの?」

 

ココは見ていた。

魔女化した誰かに殺される自分の姿を。

いくつかそれらを眺めて、自分達がそういう展開に陥った時、そのオチはどの場合でも大して変わらないことを知った。

魔女に変じてしまえば、それまでその人がどんなに優しかろうが、高潔だろうが、周囲とどれだけ仲が良かろうが、結局は皆を殺す。

つまりこの世界では、それが自分だったというだけの話。

 

「みんな綺麗事言っといてさぁ、くじ引きでしかないってことじゃん。いや~あてぃしだけじゃなくて良かった~」

 

あえてわざと、あっけらかんと言ってみたが。

それで怒るような人ももういないことを思い出して、ちっ、と舌打ちした。

 

それは気休めにもならなかった。

 

正直言って、牢屋敷のみんなを殺したことには特に罪悪感のようなものはなかった。

ココにとっては大して関わりのない、得体の知れない連中でしかなかった。

こうして別の世界で過ごしていた日々を見るまでは。

 

べちゃ、と血溜まりを踏んで、ココは立ち止まった。

足元に転がる黒いリボンの持ち主を見て。

その時、ちょうど【千里眼】もまた、彼女を見ていた。

 

「・・・ナノカさあ・・・」

 

自分がここで魔女化していなかったら、という世界のココが、焼却炉の扉を開ける。

暗転。

額をさすりながら、言う。

 

「マジでそういう事はちゃんと言えっての・・・」

 

看守を殺さないでくれ、とだけ言われたら、自分は歯牙にもかけないと思うが。

お姉ちゃんを救いたいの、と、もしそこまで告げられていたら、きっと踏みとどまっただろうと思う。

だって、自分もまたかつては、姉だったのだから。

 

けれど結局、そうはならない。

自分はその道に辿り着いていないし、ナノカにもまた、そうする選択肢はない。

ココは垣間見た顛末についてどういう感情を抱くべきか、少し迷って。

結局途中でそれを放棄した。

 

「あてぃし、オマエには謝んねーから。これでイーブンな」

 

見下ろして、ココは吐き捨てるように言った。

そうでも言わないと、また心がざわついてしまう気がしたから。

 

 

 

歩いているうちに、屋敷の外まで出て、気がつけば湖のほとりに立っていた。

アリサがここによく来ていたらしいことを思い出して、ふーん悪くないじゃん、と独り言ちる。

自分の場合は心を落ち着ける空間として屋内に引きこもっていることが多かったが、今はどこも血生臭くて、とてもではないがそうは居られない。

 

湖面の傍に立って、ココはそこに映る、魔女化した自分の姿を視界に入れた。

 

「うっわ、キモ。目ぇどうなってんだよマジで・・・うぇ、吐きそ」

 

変わり果てた自分の姿は中々にダメージを与えてきた。

が、ここで吐いたら水面が大変悲惨なことになるのは確定なので、どうにか堪える。

汚れた爪先も湖面に浸して洗いたかったのだが、それも同様に水が濁るのが嫌だという気持ちの方が勝つ。

それにどうせ、手を染めた赤色はきっともう、消えはしない。

 

「魔女んなって、みーんな殺して・・・あとは化け物になるだけ、か」

 

思ってたよりロスタイムが長いな、とココは若干うんざりしていた。

ココはいざと言う時には騒ぎ立てるタイプだが、こうも後戻りも出来ない段階まで行きついてしまった後では、流石に無駄に足掻こうという気も起きない。

終わるならさっさと終わって欲しかった。

そして、隠れていた時の恐怖だけでその場でなれはてた別の自分のことを思い浮かべながら、ふと首を傾げる。

何故、自分はまだ、なれはて化しないのか。

不思議と心は凪いでいた。

 

ココは思う。

理由は、なんとなく分かっていた。

 

それはきっと、ある事が分かってしまったからだろう。

そのせいで、絶望するよりも先に胸を満たした想いが、瀬戸際でそれを食い止めていた。

自分が気づいてしまったその真実を、孤独に抱えたまま朽ち果てるのが、どうしても嫌だったのだ。

そして湖を見つめたココは、まだ自分が出来ることがあることに気がついた。

 

 

 

そうして【千里眼】が映すのは、そして、最後に。

 

「あーあ、()()()()()()()()は幸せそうで良いなあ・・・いや、マジでムカつくな割と」

 

魔女化したココが見ることが出来たのは、何も不幸な末路に行きついた世界だけではない。

こうならなかった世界、この先の時間、ありえたはずの日々。

そこに生きる自分自身とその周囲の少女達を、ココは見ることが出来る。

 

「・・・なあ、ハッピーエンドのあてぃし。聞こえてる?」

 

湖面に映る自分の姿を見つめながら、ココは呟いた。

 

今この時、自分が【千里眼】で見ているココは、この島に連れてこられた初日の、なんにも知らないココ。

何故かすでに魔女化している二階堂ヒロに言われるままに魔女裁判に参加させられて、大魔女を召喚する儀式を手伝わされている沢渡ココだった。

ヒロのなりふり構わない心無い口撃によって同じく魔女化した彼女は、それでもまだ他の少女達を信じられるかどうかを確かめるべく、今まさに【千里眼】を使おうとしている。

そのココもまた、自分と繋がる。

 

あてぃしがあてぃしを見ている。

あてぃしもあてぃしを見ている。

 

だから、何か伝えたいことがあるなら今しかない。

まだ終わっていない、何も起きていないから何も知らない、とぼけた呑気なあてぃしに。

 

「オマエさ、今まで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()こと、あったじゃん?」

 

自分も経験したそのことを、口にする。

 

ココの【千里眼】は誰かが自分を見ていることでその相手を俯瞰できる。

配信や写真でも起き得るそれを、今までココは上手く活用していたと思う。

しかし、その魔法で唯一分からなかったことがある。

何をトリガーとしたのか分からないそれが突然発動する、そんなことが時折あったのだ。

それもすぐ近くで、その相手も誰なのかまったく見えない視点で、自分の姿だけが見える状態で。

 

そういうときは大抵、何なんだ、と魔法が見せるその視点の方をじっと、逆に見つめ返していたりしたのだが、結局原因は分からず仕舞いで。

牢屋敷に来てからはその頻度が増えて、猫が何もない壁見つめるやつみたいだからやめろ、とアリサに不気味がられたのを覚えている。

 

「教えてやるよ、それ、気のせいじゃなかった。あてぃしは・・・オマエは、見られてたんだ」

 

今もココは見られている。

魔女化してその精度が上がったせいか、今はよりはっきりとそれを感じて、そのおかげで。

それでも姿の見えないその視線の主を、ようやくココは理解したのだった。

 

「ずっとさ、見てくれてたんだよ・・・誰にって首傾げんなって、気づけし」

 

多分この伝言は、今は大魔女絡みで忙しい向こうのココの頭に沁み込むには時間がかかるだろう。

膨大な情報の奔流を整理し終えて、このあてぃしの配信を記憶のアーカイブから拾い上げるのは、全てが終わった後のことだろう。

それでいい。

 

「だから、島から出て、家に帰れたらさ」

 

この事実は此処と同じぐらい静かな場所で、一人で紐解いて貰いたいから。

 

「あてぃしなら大丈夫だから・・・もう見守っててくれなくてもいいからさって、言えよな」

 

 

 

「・・・これでよしと」

 

自分から自分への、独りよがりな配信を終えて。

ココは少しだけ清々しい気分で、空を仰いだ。

少しかぶいてポケットに両手を突っ込むと、それぞれの手が硬いものを捉える。

右手が拾ったのは、牢屋敷で配信に使っていた、ぜんぜんアプリが入っていなくてさっぱり使えないスマホ。

もう使う事はない、とそれを湖に投げ捨てる。

そして左手の内にあったのは・・・ガラスの小瓶だった。

中身は、空。

 

「・・・トレデキム、使い切っちゃってんじゃん・・・」

 

ココはそれを見て、本当はまだ自分の末路を選べたことに気がついた。

魔女化した時点で自暴自棄になって、感情に任せて、その先のことを深く考えていなかったのだ。

死なない連中に景気良く使ってしまったせいで、自分に使うという手段があることをすっかり忘れていた。

あるいは、死にたくないという気持ちだけが先行したのか。

どのみち、覆水盆に返らずだった。

 

体育座りをして、ココは膝の間に顔を埋めた。

 

「ごめんね、こんなあてぃしで・・・」

 

誰にともなく、ココは呟く。

返事はないと分かっていても、きっと声は届いていると信じて、喋る。

 

「マジ親不孝だよね。お姉ちゃんも失格だし」

 

唯一の心残りがなくなったおかげか、あるいは、そのせいか。

魔女化は再び進行していた。

 

もっといくつも可能性はあったのに、自分がはずれくじを引いたことへの苛立ち。

自分が殺す側に回ってしまい、その様さえも見られてしまっていたという、羞恥。

あの日も、今日も、生き残ってしまったことへの、罪悪感が。

それまでどうにか誤魔化していた絶望に、爪を立てる。

 

「でも、ヒロっちがなんとかしてくれっからさ。アイツ、あてぃしの前ではずーっと嫌な奴だったけどさ、なんだかんだ生きててくれないと困るっていうか・・・いや、あてぃしは殺しちゃったけど・・・」

 

自らの奥底から何かが這い出てくるような不快感。

伴って、罅割れ、音を立てて変異していく身体。

それらを努めて視界に入れないようにしながら、ココは喋り続ける。

 

「まあ、このあてぃしは終わりだけど、託したから・・・大丈夫なあてぃしもいるからさ、心配しないでよ」

 

声が上ずる。

 

「だから、だからさ」

 

安心させようとして、笑ってみせるのには失敗して。

くしゃくしゃの泣き笑いで。

 

 

 

「だからもう、こんなあてぃしを見ないでよ」

 

その沢渡ココが発した、人としての言葉は。

それが最後だった。

 


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