便利さのはずが、世界も感情も静かに失われていく。
何も覚えていない未来に、私は立ち尽くす。
本作には、嫌な記憶を消す薬によって感情や日常が失われていく描写があります。
暗く静かな世界の描写や、心理的ショックを感じる場面がありますので、苦手な方はご注意ください。
初投稿ですが、楽しんでいただけると幸いです。
目の前にあるテレビでは、笑顔のニュースキャスターがペラペラと喋っている。
最新の研究で嫌な記憶を消せる薬が開発されました!
これでストレスを緩和し、より良い未来へとつながっていくでしょう!
…ほしい!
「お母さん!私これほしい!」
「だめよ、」
「何でー?昨日担任に叱られた記憶消したいー」
「怪しいものに手を出してはいけませんよ」
「はーい……」
もうケチだなぁ、
「それより、早く学校行きなさい」
「分かってまーす」
あの薬が日常になったら楽なのかな、
ま、今日テストだし深く考えないようにしなきゃ
「おっはよー!」
「おはよー」
えーすごーい
まじ?早速ってことなん?
うちもほしいんだけど〜
「あの人だかり何?」
「あぁ、記憶を消せる薬できたじゃん?金持ちの子が買ったらしいの」
「すご、高かったやんあれ」
「まじやばいよね」
「それ」
〜〜w〜〜〜!
記憶を消せる薬を買った子が早速飲んだらしい。
昨日の数時間の記憶が無いんだと。
大方説教の時間かな。
嫌な記憶を消せる薬が発売されてから、とっても期間が経っていた頃、それは日常に溶け込んでいた。
私でも気軽に買えるぐらいの金額にもなっている。
好奇心で薬局にあるそれに手を伸ばし、お金を出して口に含む。
ん?何か記憶が無い気がする。
所詮こんなものか。
とんだ無駄遣いだったかもしれない。
明日から薬はやめだやめー
うぅ、お母さんとめっちゃ喧嘩した……
!、薬あったんだ!
…飲むか、
お、直前までの記憶が全然無い。
薬を飲んでたから嫌なことがあったんだろう。
それから私は嫌なことがある度、薬を飲むようになっていった。
「ねぇねぇ、この花、めちゃいい匂いじゃない?」
「うーん、そう?無臭に感じるんだけど、」
「え?こんなに香ってるのに…」
「鼻詰まったかなー」
「そうなんじゃない?」
んー、鼻が詰まってる感じはしないけどそうなんでしょ!
「見てみて!このぬいぐるみ可愛くないかしら?」
「わ、猫のぬいぐるみ?」
「そう!あなたのために買ってきたの」
「ありがと!もらうね!」
「えぇ、とってもふわふわよ!」
ふわふわしないけど…
ていうか何も感じない…
変だなぁ、
「今日はあなたの大好物のカレーよ!」
「え、ほんと!」
「早速食べてねー」
「いただきます!……?」
食べても食べても味がしない…
ただただ食感だけがする。
まぁ、明日には治ってるでしょう。
おやすみなさーい
起きたら家がとても静かだった。
今までこんな静かだったことなんてちょっとしかない。
珍しいけど、少し寂しい。
今日は休日だから、本でも読むか……
あぁ、もう夜。
朝からずっと何も聞こえてなかったことに今、気が付いた。
朝の記憶でも消すか。
明日は何をしよう。
やけに暗い。
瞼を開けたと思っても真っ暗なままだ。
布団に入っている感じもしないし、まるで暗闇の中、宙に浮かんでいるみたいだ。
何も聴こえない、何も見えない、何も感じない
誰か助けて、
怖くて怖くて涙が出る。
実際、涙が出ているかは分からないが、気持ちはとても動揺している。
手が震えている気がする。
目が痙攣している気がする。
私は、どうなっているんだろう。
私は、どうすればよいのだろう。
私は、どうすればよかったのだろう。
ある日の朝、真面目な顔をしたニュースキャスターが鋭い声で喋っていた。
最新の研究で、嫌な記憶を消す薬は、重大な副作用が出てしまう、と発表されました。
嫌な記憶を消す薬を使用する際は十分お気を付けください。
どうか、皆さんの未来が消えませんように。
最後まで読んでくださりありがとうございました!
初めての投稿作品ですが、楽しんでいただけていたら嬉しいです。