——雄英高校・屋内訓練場──
巨大な扉が開き、オールマイトが満面の笑みで堂々と登場し。
「今日の授業は……屋内対人戦闘訓練だァァァ!!」
クラスが一瞬にして沸く。興奮の声が飛び交う中、オールマイトはくじ引きの箱を掲げて説明を続ける。
「ペアをくじで決め、ヒーロー側 vs ヴィラン側! 仮想核兵器の奪取か、相手の捕獲で勝負だ! さぁ、始めよ──!」
合図をしようとしたオールマイトを止め、八百万百が静かに手を挙げた。
「なんだい?」
「先生、生徒は21名ですので……1人余ってしまうのでは?」
「…………」
「…………」
オールマイトの笑顔が一瞬で凍りつく。明らかに「やっちまった」という顔で、額に汗が浮かぶ。
「む、むむむ……確かにその通りだ……!」
クラスがざわつき始める中、グラウンドの端に一人静かに立っていた残火が、ゆっくりと口を開いた。
「オールマイト。俺は一人で良い」
「えッ!? ……ん“ん“、そ、そしたらお願いしようかな! 残火少年、一人でヴィラン側を務めてくれるか!?」
「構わない」
残火は淡々と頷き、大剣を背負ったまま訓練場の中央へ歩み出る。その背中からは、すでに小さな赤黒い火の粉が舞い始めていた。
──これまでの試合──
緑谷出久 vs 爆豪勝己の試合では、予想通り(?)大荒れ。
爆破と超パワーの衝突で建物が半壊し、オールマイトが慌てて制止する事態に。
クラスメイトたちは「またか……」と苦笑いしながらも、次なる試合に期待を寄せていた。
そして──残火の番。
オールマイトがマイクを握り、声を張り上げる。
「次は……守人残火君だ! 相手は──ヒーロー側、チームとして……轟焦凍君と切島鋭児郎君のコンビ! 残火君は一人でヴィラン側! 仮想核兵器を守り抜け!」
クラスがどよめく。
「え、一人で轟と切島!?」
「マジかよ……あの大剣持ちと当たったらヤバくね?」
「残火くん……本当に一人で大丈夫かな……」
轟焦凍は無表情で、しかし警戒を強めて残火を見据える。切島は拳を握りしめ、笑顔で叫ぶ。
「よっしゃ! 対決だぜ、守人! 全力で来いよ!」
残火は静かに大剣の柄に手をかけ、わずかに口元を曲げる。
「貴様らも全力で来い」
深紅の瞳が、ほんの一瞬、赤く輝いた。
オールマイトがスタートの合図を出す。
「スタート!」
その瞬間──残火の周囲に赤黒い炎が渦を巻き始め、訓練場全体の空気が熱を帯びる。クラスメイトたちは息を呑み、緑谷はブツブツと呟く
「……守人くん……本気になったら……どうなるんだろう……」
──ビル内部──
「これで、先ほどの凍結捕縛は通用せん」
残火は初手から轟の「ビルごと凍結」という荒業を最も警戒していたのだ。だからこそ、侵入と同時に大剣に手をやる。
「
螺旋の大剣が震え、杖形態へ変形。紅蓮の宝玉が輝き、二つの火球が生まれる。火球は周囲の酸素を貪るように膨張し、瞬時に人型へと凝縮した。
【
赤黒い炎でできた二体の精霊が、残火の両脇に並ぶ。その姿はまるで燃え盛る影のように揺らめき、熱波を放つ。
「貴様らはここで核兵器を守れ。ただし、怪我をさせるな。良いな?」
精霊たちは無言で頷く。残火は満足げに小さく息を吐き、ゆっくりと歩を進める、
──モニタールーム──
クラスメイトたちの視線が、モニターに釘付けになる。
「残火君あんな事も出来るんやね」
「凄い! 火を使役し人数差をひっくり返したこれで勝負の行方は分からなくなった」
「だけど流石に轟と切島に勝つのは荷が重くないか?」
「でも最悪、残火君にはあの超火力があるよ?」
「う〜ん……オールマイト先生はどう思いますか?」
「そうだね〜若干だけど残火君が有利かな?」
オールマイトは腕を組み、静かに答える。
「若干だが……残火少年が有利かな」
「それはどうしてですか?」
「簡単な話だ。轟少年たちは、まだ残火少年の『炎の精霊』を知らない。そして何より、轟少年の氷と残火少年の炎は……相性が最悪だ。辛い戦いになるぞ」
「なるほど〜」
「そんなことより接敵するよ。画面をよく見て」
──ビル内部──
「おやおや。相手は君か、轟」
残火の声が静かに響く。
「残火……!」
「君に出し惜しみはしてられんな」
残火は大剣を構え、一気に距離を詰め横薙ぎの一閃が空気を切り裂く。
「あぁ……俺も出し惜しみはしない」
轟は即座に右足を踏み込み、巨大な氷の壁を展開。
しかし──
大剣から迸る赤黒い業火が、氷を瞬時に溶かし始める。氷の表面がジュウジュウと音を立て、蒸気が噴き出す。
「くっ……氷が……!」
「よそ見している暇はないぞ」
残火の斬撃が縦横無尽に舞う。横、縦、斜め──軌跡が炎の残像を残し、轟を追い詰める。
「ッ! いい加減にしろ!」
轟が苛立ちを露わにし、左手を振り上げる。部屋全体を凍らせるほどの氷結波が炸裂する。
「しまった……!」
やり過ぎた──と思った瞬間。
残火の姿が消えていた。
「大技を適当に出すのは頂けんな」
背後から響く冷たい声。氷の壁を掻い潜り、下段から切り上げの一閃。
炎の軌跡が轟の腹部を掠め──
「ぐあッ!」
衝撃で轟の身体が吹き飛び、壁に叩きつけられる。意識が一瞬途切れ、膝をつく。残火は大剣をゆっくりと下ろし、静かに呟く。
「……終わりだ」
その言葉と同時に、オールマイトの声が訓練場全体に響いた。
「ヴィラン側・守人残火の勝利! どうやら炎の精霊は切島少年を捕らえたようだな!」
「スゲェェ!!」
「人数差をひっくり返してほんとに勝っちゃった」
「ケロ……凄いわね」
「それじゃあ諸君残火君達が帰ってきたら早速教室で反省会をしよう」
そして帰ってきた残火達と共に皆教室へと戻っていく。
──翌日──
「なんだ?」
雄英に登校中、残火は校門前に人だかりが出来ていた。その中の一人が残火に気づき駆け寄ってくる。
「すみません、オールマイトについてお聞かせください」
「まずは何者か聞いても?」
「あぁすみません私マスコミで……」
「あぁなるほど理解したオールマイトの学校生活が気になるのだな?」
「そっそうです」
「良き先生だぞ? ただカンペをチラチラ見ていたかな」
「なるほどオールマイトでも教師は初心者と言うことですね」
マスコミのお姉さんは頷きながらメモ用紙に殴り書いていく。
「そうだな、オールマイトも人間だ。最初から何でも出来るわけではない」
「それは……そうですね」
残火は人だかりの外側を通り過ぎようとしたが、ふと足を止める。
「だから忠告だ。節度を持って仕事に励め。以上だ」
残火はそう言い終え足早に雄英に入って行く。
「……何あの子本当に高校生?」
──1年A組教室・数日後──
朝のホームルーム。相澤消太がいつものように寝袋から顔を出し、淡々と告げる。
「今日からクラス委員の選出だ。立候補するか、推薦するか、好きにしろ」
「学校っぽいイベント来たぁぁぁ!!!」
教室が沸き立つ中、飯田天哉が勢いよく立ち上がる。
「私が立候補いたします! 規律と秩序を重んじ、クラスをまとめ上げる所存です!」
当然の流れで、飯田が委員長に選ばれそうになる。
しかし──
緑谷が小さく手を挙げる。
「あの……守人くんも、副委員とか……どうかなって……」
クラスが一瞬静まる。
残火は窓際の席で、静かに本を読んでいた。
ゆっくりと顔を上げ、深紅の瞳で緑谷を見る。
「……俺が?」
「う、うん……守人くんって、すごく冷静で判断力あるし……みんなの意見もちゃんと聞いてくれそうだし……」
残火はしばらく沈黙した後、静かに息を吐く。
「……面倒だな」
クラスが「えー!」と軽くブーイング。残火は小さく口元を曲げ──珍しく、わずかな笑みを見せる。
「冗談だ、だが俺は八百万を副委員長に推薦しよう」
「えッ!?」
「八百万を?」
「そうだ」
教室がどよめく。
「私がですか?」
「汝なら飯田と共に良き委員長と副委員長になると思った」
「……それなら謹んでお受けいたしますわ」
「決まったな。副委員長は八百万。委員長は飯田。文句ある奴は今言え」
その決定に誰も文句を言わなかった。
──USJ入り口──
バスから降り立ったクラスメイトたちは、巨大なドーム状の施設を前に興奮を抑えきれない様子だった。13号先生が手を広げて迎える。
「ようこそ、USJへ! ここはあらゆる災害を再現した訓練場です。今日は私と相澤先生が担当します」
相澤が寝袋から這い出て、だるそうに。
「救助は個性だけじゃどうにもならん。頭を使え。……さっさと始めるぞ」
13号が施設の中央へ案内しようとしたその瞬間──
空気が歪んだ。
黒い霧が広がり、ワープゲートが開く。
ワープゲートからは、首を掻きむしりながらヴィランがゆっくりと現れる。その後ろから、無数のヴィランがぞろぞろと出てくる。
「なんだ? 入試みたいにもう始まってるみたいなやつか?」
「お前等全員動くな! あれはヴィランだ!」
「おかしいですね、先日頂いたカリキュラムではオールマイトもここにいるはずなのですが……」
「なんだよ折角こんなに引き連れてきたのにいないのかよ。オールマイト、平和の象徴……子供を殺せば出てくるかな?」
「全員下がってろ、俺がやる」
そう言い相澤はヴィランの集団を相手取った
「そんな先生一人じゃ……」
「先生は俺達を逃がそうとしているのだ、早く逃げるぞ!」
「判断が早いですねぇ」
黒い霧状のヴィランが生徒たちの前へ立ちはだかる、しかし13号が応戦する。
「させませんブラックホール!」
「飯田! 汝だけでも行くのだ! 先生たちを呼べ!」
「ッ! 分かった!」
飯田はフルスロットルで入り口まで走っていくが背後には。
「ぐぁ……」
ワープによって自身の個性を食らい13号ダウンしている。そして黒霧のヴィランは行かせまいと飯田に向かう。
「逃がしません!」
「させると思うか?」
「ッ!」
飯田を追いかけようとする、ヴィランに大剣を叩きつけ霧散させる。
「卵といえど流石はヒーロー……いい動きです」
「お褒めに預かり光栄だな」
「ですが……」
「ひッ!」
「他の子達はまだらしいですね」
「しまった!」
そう言いヴィランは霧を全体に広げ全員を飲み込む。
「くそ!」
ワープした先は瓦礫が敷き詰められた場所であった。
「おのれおのれおのれ!!!」
残火は激怒していた。ヴィランを霧散させた事に良い気になり他のクラスメイトの事を気にする事を忘れていた。
「こいつが生徒か……さっさとヤッちまおうぜ」
「そうだな、悪いがお前にはここで死んでもらう」
「散れ雑魚ども」
一瞬で──死なない程度に、正確に焼き切る。
炎の残滓が瓦礫を焦がす。
「……すぐに行かなくては」
そう言い残し残火は走る。クラスメイトの心配は胸にしまい、先ずは先生の元へ──救援を呼ぶために。
──USJ入り口──
「相澤先生! ッッッ!!!」
「あぁ? もう来たのかよ」
そこには血まみれの相澤に馬乗りになり骨を折っている黒いヴィラン、そして今まさに蛙吹に触れようとしているトップと思われるヴィラン。
「…………」
「どうした? 今さら怖気づいたか?」
「……よい」
「なんだって?」
「もうよい……ここにいるヴィランは、全員根絶やしだ」
瞬間、ドス黒い殺気が溢れ出す。それは空気を重くし、周囲の音を飲み込み、脳無でさえ怯えて後ずさる。
「
残り火の大剣が激しく震え、形を変える。螺旋の刃が収束し、更に禍々しい大鎌へと変貌。刃先から赤黒い炎が滴り落ち、地面を溶かす。
「先ずは……誰の許可なく蛙吹に触れようとしておる」
「は?」
「ケロ!?」
一閃、ヴィランの触れようとしていた腕が手首から切飛ばされる。
「ガッッ!」
「死ぬがよい」
今度は首を狙って振り下ろす──が、
「危ない!」
間一髪でワープさせ首が飛ぶ事はなかった。
「邪魔くさいな貴様」
「脳無ゥ!! あいつを殺せェ!!」
半狂乱になりながら脳無に指示し巨大な脳無が咆哮し、残火に向かって突進する。
残火は大鎌を構え直し、静かに微笑む。
──それは、冷たい、死の微笑みだった。
「死ぬがよい」
大鎌から放たれた黒炎の斬撃が、弧を描いて脳無を両断。傷口から黒い炎が噴き出し、瞬時に花弁のように広がる。黒い花が咲き乱れ、脳無の巨体を内側から焼き尽くす。
「ギィィィ!!」
「馬鹿が! 斬撃程度じそいつは止まんねえ! やれ脳無そいつの頭をかち割れ!!」
「ガギャァァ!!」
「なんだ!」
脳無の断面から黒炎が立ち上り、超再生が追いつかない。焼け焦げた肉が剥がれ落ち、再生する前に再び燃える。
「言ってなかったな、死神の花は
「なんだよ……チートじゃねぇかそんなの」
「さて次はお前達だ大人しく首を出せい」
「ここは撤退しますよ弔」
「クソクソクソ!!」
そう言い残しヴィラン達は黒い霧に呑まれ撤退していく。ただ一人、黒炎に焼かれ続ける脳無だけが残して。
残火は大鎌をゆっくりと下ろす。黒い花がゆっくりと萎れ、脳無の巨体が崩れ落ちる。
「……終わったか」
相澤が血まみれのまま、かすかに息を吐く。
「守人……お前……」
蛙吹が震える声で。
「ケロ……ありがとう……」
「うぉぉ! ありがとな守人、死んだかと思ったよぉ!!」
「ありがとう、守人くん。君がいなかったら蛙吹さんがどうなっていたか」
残火は静かに振り返り、深紅の瞳を細める。
「……礼はいらん。ただ友を守っただけだ」
そして遠くから、オールマイトと先生たちの足音が響き始める。