ここだけ"状態異常無効化"パッチの入ったナレ死おっさん   作:糖分至上主義

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子供は言いました「おじさん、一緒についてきて!!」

「たぁぁぁああのもぉぉぉおおおお!」

 

氷塊に閉ざされたかのような空間の中、薄氷を引き裂くが如く若草を思わせる声が鳴り響く。

室内の全員が固まる中、年のころは11,12ほどだろうか、子供が二人、シャッターを少し持ち上げて入ってくる。

 

「あのお!お仕事について話を聞いてきたんですけど!!」

「メ、メナぁ……。ぜったいにいまじゃないよぅ、うぅぅ」

「あ、そっか。俺はメナ!こっちはエメラーダ。仕事を手伝ってくれる人をさがしにきました!」

 

びゅうびゅうと風がふく。

ヤゲンの腕は空をつかみ、ウィルは極度の緊張からか気絶する。

プリオーニは相変わらず床の上で転がっているだけであり、ジョーだけは逃げ出す隙を窺っていた。

 

遠くから眺めていたカミさんだけが空気のズレを飲み込んで、ここぞとばかりに声を張り上げる。

 

「ご苦労様ヤゲン。さ、これ以上痛いメに会いたくないんならお仲間連れてさっさと失せな、この馬鹿ガキどもが!次来たらタダじゃ置かないよ」

 

岩同士がぶつかるような音を立てながら、己の拳をもう一方の手のひらにたたきつけるカミさん。

さすがにこの場の趨勢を悟ったのか、猫のようにしなやかな足どりでジョーが2人の首元まですり抜け、そして引き摺りながら逃げていく。

 

ヤゲンは両手首をグリグリと回し、伸びをする。それからようやく、この場に乱入してきた二人の子供のほうを向いた。

 

「も、もうかえろうよぉ……」

 

一人は泣いている子供。エメラーダと呼ばれた子供だったか。

どこか心配になるくらいに体を震わせている様子は、左右にあるおさげと合わさってウサギのような印象を覚えさせた。

 

「ふぉぉぉぉ。これが、大人……! 」

 

もう一人はプリオーニの呑み残したグラスを興味深そうに見つめている子供。

好奇心が強く燈った翠の瞳を輝かせながら、都度、酒の香りを扇いでは奇声を発している。

 

「……カミさんの知り合いか?」

「んなわけないだろう。あんな力仕事もろくにできなさそうな子供二人、雇う余裕なんてありゃしないさ」

「だろうな」

 

こそこそと二人で会話をするヤゲン達。

なんとなく、本当に少しだけあの世界の美しさを信じていそうな無垢な生命に、こちらから声をかけるのは喉の奥が締まったからだ。

 

「……。ッ!……ん!」

「ハ!いけない、いけない。あの!!お仕事を手伝ってほしいんですけど!」

 

場を動かしたのはまたしてもメナであった。

ガラスの中に浮かぶ茶色の液体と氷山を、天井につるされた温かみのない無機質な電灯へかざしていたメナは、袖を強く引っ張るエメラーダによって用件を思い出す。

 

互いを見つめあうカミさんとヤゲン。

口を弓なりに曲げるヤゲンと、目を閉じて上を見上げるカミさん。

 

「……仕事ったってアンタラ、いったい何の仕事だい?子供のお使いなら別をあたっとくれ」

「あ、それなら大丈夫です!中型ランペイジの討伐依頼を手伝ってもらおうかなって」

「こ、ここに行ったら手伝ってくださるって聞いて……。だから……」

ランペイジ。

1度人類を絶滅の淵まで追いやった人類の敵にして、新時代を作る土台となった化け物共。

確かに子供二人で人生初めての仕事が小型以外なら、適応者の集りがある組合などに協力を仰ぐのもうなずける。

ここがその「組合」などと呼ばれる場所であれば、だが。

 

「依頼主って何処のどいつだ、なんて聞いてもどうせ裏の奴らだろ。安く買い叩かれて終わりだ。やめときなお前ら」

 

ついついヤゲンも口をはさむ。というよりも、子供までもを利用せんとする人非人に、であったが。

非正規の適応者が仕事を受けようとすると、どうしても裏を通したものになってしまう。そうなると最低価格の料金かつ、危険度が未知数という意味の分からない依頼を受けることとなる。

 

「悪いことは言わねえから、どっかの組合に行くんだな。そこならもっと低い賃金かもしれねえが、よっぽど安全だぜ」

 

命の危険に物品の消耗、よしんば討伐に成功ようが市場の知識がなければ騙されて終わり。

どう転んでも日雇いの労働者と同じくらいの依頼料では割に合わないのだ。

 

「でも俺ら、そろそろ金を稼がねーとさ。孤児院から追い出されちまうよ」

「私たちだけだったら、どうとでもなる……んですけど。私たちが居なくなったら、あの子たちがまた同じことをさせられる、だけ、です」

 

―――どこかの孤児院出身か。まあ可哀想だが、俺はどうともできねえしな。どっかにいるイイヤツを探すんだな。

 

昔は児童養護など呼ばれていた施設も、現在では孤児院として一部の企業により運営されている。

運営側とて善意のみで行っている訳ではなく、生き残れるものを重点的に集めて、育成および自企業の強化へと組み込まれていく。要は青田買いだ。それも異様に安い。

その点で言うと、きっとこの2人は「適応者」としての才能が保証されているとも言える。

 

「やっぱり悪いけど、あんたらのお眼鏡に叶うような奴はウチにはいないよ。少なくとも此処は組合なんかじゃないからね」

「その件に関してはだいじょおび!おじさん、一緒についてきて!!」

「え……。え……⁉」

「ほらエメも!おじさん、ついてきて、ってして!」

「あぅうあ……つ、ついてきてくださいいぃ」

 

話は終わったものとして、カウンターで安物のエールと手製の魚皮を干したもので祝杯を挙げていたヤゲンは思わず吹き出す。

 

「馬鹿言ってんじゃねえ!俺がなんでおまえらみたいなのと!!」

「でもおじさん強いじゃん!さっきの、かっちょよかったよ」

「……ハァア?」

「……えと、お、お願いします!!!」

 

膝に縋りつくように、メナに至っては椅子ごとヤゲンを揺らして「手伝ってくれ」と訴えかける。

ヤゲンの脳裏をかすめるのはずいぶんと前の記憶。

10年と少しという時間は、引き結んだ口元を緩めてしまいそうになる記憶を、あの若獅子のような少年と大鷲のような少女と歩んだ軌跡を少しも薄めてはくれなかった。

 

なればこそ、ヤゲンは力強く拒絶を口にしなければならなかった。

 

「それでも俺は……その話を―――」

 

「いーや。アンタはその話を受けな、ヤゲン」

 

しかしそれを言葉にしようと開きかけた口は巨大な手のひらによって覆い隠された。

カミさんがヤゲンと肩を組むようにして、胸元に抱き込んだのだ。

 

「カミさん。勘弁してくれよ、俺は餓鬼とはもう組まねえっ―――」

「知ってるに決まってるだろ、アンタはこういう世間の道理も知らなそうな餓鬼とは仕事をしない。……だって、旨みが少ないもんねえ。それにいつもより命の危機に瀕する可能性もある。挙句の果てにはまともな報酬だって期待できやしない」

「んだ、分ってんならそれ以上に納得のいく言い訳もクソもないだろ。俺ゃあ、やっぱり受けんぜ」

 

「だから私が理由をやる」

 

ドカンっ、と音を立ててカウンターの上にまとめられた貨幣が置かれる。

 

「は?」

「今までの酒代を全て帳消し、そんでも足りないってんなら依頼料の増額。こんだけあんなら相場の3倍はくだらないよ?さ、これで()()()()()()()、無くなっただろ。さっさと首を縦に振るんだね」

「……」

 

ヤゲンの両奥歯にかかる力が次第に強くなる。

相手の真意を探るようにヤゲンは相手を見つめ、それを受けた女主人もいっさい視線を切らさず睨み返す。この時ばかりは何か空気を読み取ったメナが、待てと言われた子犬のように静かに、そしてジッとヤゲンを見つめていた。

 

呼吸の音すら鮮明に聞こえそうな空気の中、エメラーダの顔が白くなりはじめた頃にヤゲンがふいっと視線を逸らした。

 

「……おい餓鬼共、俺はお前らが泣き言言っても無視すっかんな」

 

見る見るうちに輝きを増すメナの瞳。

研磨され、飾られたエメラルドは最も親しい友人へと光をこぼす。

 

「ぃぃぃいいいやっほおおおい!!!エメ、やったね!ね、ね!!」

「やめて、吐く、から…。まッ、ほんと‥‥‥ゥ」

 

真っ白になったエメラーダは口の橋から虹色を溢した。

 

 

 

 

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