復讐の始まりは“怒り”と共に~怯える事なく生きるために、俺は大罪を継承し最強になる~   作:異世界叙事詩専門店【Geist】

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第十一話 原初の謎

 朝靄が街を覆っていた。

 

 俺の共鳴体を倒してから数日が経った。

 グレイもしっかりと俺の事を黙っていてくれ、報告も鳥を見たというだけにしてくれた。

 

 掲示板に近づき、依頼の紙を一枚剥がす。

 内容は、近郊の廃墟に現れた正体不明の魔力反応の調査。

 難度はCとあるが、俺の目にはそれ以上の危険が潜んでいるように思えた。

 

「また一人で行くのか? カイ」

 

 声をかけてきたのは、総合受付のセルダだった。

 厳格だが公正で、俺の実力を理解している数少ない人物だ。

 

「他の依頼者が嫌がってるんだ。だったら、俺がやらないといけない」

 

 別にそんな正義感は持ち合わせていない。

 全くの嘘であるが、恐らくこの街で一番強いのは俺だ。

 仮にC難度でないとした場合、被害が出てしまう。

 

 目立つわけにもいかないが、俺がスルーしたせいで人が死ぬのはもっと嫌だ。

 

「ふぅん。……最近の噂、気にならないわけじゃないけど……。まあ、あんたならいいか」

 

 彼女は小さくため息をつくと、調査対象の地図を差し出した。

 

「気をつけてね。魔力が死んだ空間が広がってるらしい。いつもの魔物とも違う感じだって」

 

「了解。戻ったら報告する」

 

 

 街を離れ、北の丘陵地帯に点在する廃墟群へ向かう。

 目的地は、かつて魔術研究所だったという小型の遺構──現在は誰も近づかない“魔力死地”となっていた。

 

 空気は重く、冷たい。

 魔素が流れていない空間はまるで、世界から拒絶されたような圧迫感を漂わせていた。

 

 石造りの門をくぐると、足元の苔がざくりと音を立てる。

 そしてゆっくりと気配を探る。

 

 ……気配はある。だが、魔物とは違う。

 それは、もっと感情に近いものだ。

 怒りでも、憎しみでもない。

 もっと冷たい、歪んだ“執念”。

 

 と、その瞬間――

 

「──カイ、か」

 

 耳元で囁くような声が聞こえた。

 

 振り返るが、誰もいない。

 だが、直後、空間が歪む。

 

 廃墟の中心、崩れた研究装置の残骸から黒い靄が立ち上る。

 靄はやがて、一振りの剣の“幻影”を形作った。

 

 これは……。

 それは確かに見覚えのある形。

 《怒剣ラグナ・レイジ》──一度消える前の、まだ柄が白かった状態だった。

 俺の怒りの象徴であり、俺の始まりの剣。

 

 だが、今のそれは明らかに実体ではなかった。

 

「残響……?」

 

 俺の声に応えるように、黒剣の幻影が震える。

 周囲の空間に魔力が渦巻き、一際強い圧力が発生する。

 

 その時だった。

 

 幻影の黒剣がスッと浮かび上がり刃先で、ある一点を指し示す。

 崩れた床の奥に、小さな石碑のようなものが埋まっていた。

 

「これは……?」

 

 慎重に手を伸ばすと、碑面にわずかな文字が刻まれている。

 

 《ラスト・エンヴィ──嫉妬、触れるなかれ》

 

 ……エンヴィ?

 俺の中で警鐘が鳴る。

 

 《棘抱く者(ソーンベアラー)》と名乗った少女。

 彼女が放っていた黒紫の魔力と、この碑から漂う気配は同じだ。

 

 まさか、これは……《嫉妬(エンヴィ)》の痕跡──?

 

 そのとき、黒剣の幻影が揺れ、煙のように空へと消えた。

 同時に、碑の周囲の魔力が一気に霧散する。

 

 まるで、嫉妬の存在を隠すかのように。

 

「……この近辺には、まだ何かあるだろ」

 

 ちょっとしたイラつきから、近くの壁に軽く拳を打ちつけた。

 

 憤怒、嫉妬──大罪の力は決して一人の物語で完結するものではない。

 すでに、何人もの継承者が、この世界に点在している。

 

 そして、誰かがそれを集めようとしている気配すらある。

 

 ……俺は、どうする。

 

 怒りに身を任せるだけでは、真実には辿りつけない。

 だが、その怒りこそが、俺の力の源であることも確かだ。

 

 迷いの中、拳を握りしめる。

 

 ――そして、とりあえずは一つに目的を決めた。

 

 もっと強くならなければならない。

 誰にも負ける事が無いよう、そして原初の謎を解く。

 

 何も見えないならば、全てが見えるよう焼き尽くすまでだ。

 

 

 

 ダリウムへと帰って来た。

 とりあえずはギルドに報告しに行かなければならないが、町の中に入る前に少し試してみたい事がある。

 

 近くの茂みに入り、怒りを湧かせる。

 《怒気解放(ブレイズギア)》を発動させ、怒剣に呼び掛ける。

 

 すると、どこからともなく怒剣が出現した。

 どうやら、魔導石に入れずとも収納出来るようになったようだ。

 

「おお、すげえな。……でも別に魔導石あるからそこまで恩恵は無い……か?」

 

 まあ、確かに手ぶらでも取り出せるのは便利ではあるのだが。

 収納魔導石を置いていく場面は無い上に、無くす事も基本的に有り得ない。

 

 だが、万が一に備えてこの方法で保管した方が良さそうだ。

 魔導石は高価なので、常人ならばかなり便利だったんだろうな。

 

 確認したい事は終わったので街へと入る。

 ちなみに《怒気解放(ブレイズギア)》を使わなくても剣は取り出せた。

 

 とりあえずはギルドに報告しに行くか。

 

 

「セルダ、依頼完了したぞ」

 

「おお、おかえり。無事だったな。何か変わった点は?」

 

 怒剣の幻影や、《嫉妬(エンヴィ)》に関する碑石など言えるわけがない。

 そのため、申し訳ないが嘘をつく。

 

「いや、特に何も無かった。魔物も出なかったし」

 

「了解だ。……よし、これが報酬の銀貨20枚だ。お疲れ様」

 

 労いの言葉と共に報酬を受け取る。

 脳が空腹を訴えているので、昼と夕方の間の微妙な時間だが、食事を摂る事にする。

 

 【エアフォルク ダリウム支部】

 

 王都にもあった、ギルド内にある酒場兼食事処である。

 ちなみに、ほとんどのギルドにあるらしい。

 無いのは余程田舎か、元々あった有名な飲食店がそのまま併合された場所くらいである。

 

 昼食には遅く、夕食には早いので客は少ない。

 時間を持て余している飲んだくれくらいである。

 

 適当に空いているカウンター席に座る。

 メニューを見て、良さげな料理を探す。

 

 豚のステーキ定食が銀貨3枚程か。

 これにしよう。

 

「豚のステーキ定食を頼む」

 

「あいよ。数分待ってな」

 

 店主がそう言って作業へと取り掛かる。

 暇なので、ついでに何か聞いてみるか。

 

「料理中すまない、少し聞きたい事があるんだが大丈夫か?」

 

「ん? 別にいいが、何だ?」

 

 強面の割に物腰の柔らかい店主だ。

 

「最近、ここら辺で異変などはあるか? 人の行動や、場所、魔物、何でも良い」

 

 もしかしたら俺が来たせいで、継承者が何かをしてきている可能性がある。

 俺が引き起こしている事ならば、俺が対処しなければならない。

 

「んー、あんま聞かねえなあ。……ああ、そういえば数日前に誰かが何か言ってたな」

 

「詳しく聞いても良いか?」

 

「ああ。その前にほら、出来たぞ」

 

 定食の入った盆を渡してくる。

 至って普通の料理だが、店主の腕前のおかげか中々に美味そうだ。

 

「何だったっけな。確か、隣町にボロボロの少女の保護されたそうだ。ここら辺じゃあんまそういう事はねえから、どっかから逃げ出した奴隷なんじゃねえかとか言ってたな」

 

 ……恐らく《棘抱く者(ソーンベアラー)》の事だろうな。

 無事保護されたようで何よりだ。

 

 ちなみに、奴隷が逃げ出すと何が起こるかというと、貴族が探しに来る。

 少女ともなれば恐らく違法な愛玩奴隷であると推測されるため、証拠隠滅の為に目撃情報のあった町をひっくり返して探し出す。

 もし匿ってでもいれば、秘密裡に処刑されるのは間違いないだろう。

 

 であるため、こうして噂として流れてきているのだろうな。

 まあ、それ以外に特に無いようだから平和ではあるのだろうが。

 

「御馳走さん、美味かったよ。お代だ」

 

「毎度あり、兄ちゃんも気を付けなよ」

 

「ああ、また来る」

 

 銀貨を渡し、店を出る。

 

 そろそろもう少し遠くの迷宮に行く必要が出てきたかもしれないな。

 俺はもっと強くなりたい。

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