復讐の始まりは“怒り”と共に~怯える事なく生きるために、俺は大罪を継承し最強になる~ 作:異世界叙事詩専門店【Geist】
ギルドの地図を見ながら、次の目的地を決める。
出来るだけ王都から離れる方向で、それなりに強い魔物が出てくる迷宮が良い。
〈ダリウム〉は王都から西の方向にある。
であるならば更に西に向かうべきだ。
その方向であれば、一つだけ心当たりがある。
《
ここからだと、馬車でいくつかの町を経由して三日程かかるだろうな。
その名は〈ヴァルグレイア〉。
そこにある【ノクティルム迷宮】が適しているだろう。
準備はもう既に昨日の時点で出来ている。
早速出発する事にしよう。
町の外に馬車乗り場があるため、外へ向かう。
そして門の辺りへ近づいた時に、何やら騒がしい事に気付いた。
何があったんだ?
誰かが喧嘩でもしているんだろうか。
人の間を抜け、外へ出る。
その先には――。
「あ、ルク……カイ。やっと会えたね」
一旦中に戻る事にした。
「ちょっと、どこ行くの」
蔦で俺の動きを止めやがった。
「おい、離せ。何でここまで来てんだよ」
「貴方の魔力の痕跡を辿って来たの。結構薄かったから、頑張ったんだよ」
褒めてとでも言いたげなどや顔で言い放ってくる少女。
ふざけているのか。
「はぁ……? ちょっと目立つからこっち来い」
蔦を引きちぎって茂みへ連れて行く。
冒険者共からあらぬ誤解を受けている気もするが、気にしない。
後でシメる。
「何が目的だ?」
「貴方の傍にいたい。それだけ」
真っ直ぐな言葉に思考が止まる。
だが、少女の瞳は嘘をついているように思えなかった。
「おかしいだろ、それは……」
「そう。でも、貴方もおかしいよ。あんなに怒りを抱えて生きてるのに、誰も傷つけようとしない」
返す言葉が見つからない。
「私には分かるよ。貴方の裏切られた気持ちも、自分に対する怒りも、惨めさも。だから、私は貴方を手に入れたいと思ったの」
少女は手を広げ、抱き着いてくる。
「私、ちゃんと制御するから。一緒にいても……暴走したりしないから」
それは、言い訳のような懇願のような、歪で純粋な告白だった。
ルクスは静かに少女を見下ろし、思考する。
これは……《嫉妬》の力による依存か?
いや……魔力の力を感じない。
俺の中に彼女の言葉が引っかかっている。
「……お前の名前は?」
「無いよ。あるにはあるけど、昔のは嫌い。だから、ルクスが決めて?」
どこまでも、危うい笑み。
純真な瞳に、想いに、つい吸い込まれてしまう。
「変な名前でもいいよ。ルクスが呼んでくれるなら、何だって良い」
名前すら他人に委ねる執着。
その姿勢は、もはや従属に近い。
「……はぁ。“レア”。文句は言うなよ」
「レア……ふふっ、嬉しい。じゃあ、今日から私は“レア”ね。ずっと、ね」
その笑みは、純粋に見えて、どこか壊れていた。
恍惚とした表情で、満足げにずっと反芻している。
ルクスはそんなレアを放って無言で歩き出す。
後ろからレアが自然に並びかけてくるのを、拒絶せず、追い払わず、ただ受け入れた。
「ねぇ。ルクスは次、どこに行くつもり?」
「〈ヴァルグレイア〉だ。そこで俺は、もっと強くなる」
「そっか。じゃあ私、カイの盾になるね。魔獣も、敵も、女の子も……ね?」
「……最後のは、いらない」
そのやりとりに、自分でも僅かに苦笑がこぼれたのを、ルクスは否定できなかった。
怒りの中にも、静かな温もりが芽生えはじめている――そんな感覚が、どこかで生まれていた。
レアを連れて馬車に乗り、ひとまずは数個先の町を目指す。
しかし道中はやる事が無いので、レアから色々と質問攻めされている。
「カイの好きな料理は何?」
「特には無いが……。強いて言うならばシチューだな」
「分かった。作れるようになっとくね」
流石に人前ではルクスではなくカイと呼ぶように言った。
まあ、本人も分かっていたようだが。
結局レアの目的は何なんだ?
俺の傍にいたいだと?
裏切られ、捨てられたこの俺に?
有り得ない。
何かしらの真意があると見て良いと……。
普段の俺ならそう割り切っていたのだが。
レアの言動や姿からはそのようなものは一切感じない。
そして何より《憤怒》が敵意を感じ取っていない。
これで俺を騙していたというのならばあっぱれと称えても良い。
最早それでも良いから信じるのも、また人生といったところか。
だが、俺はもう何も信じたくない。
裏切られるのは、もうこりごりだ。
幾つかの馬車を乗り継ぎ、〈ヴァルグレイア〉までもう少しのところまで来た。
変わらずレアにべったりとくっつかれている。
もうこの数日で慣れたものだ。
そういう風に思っていると、不意に大声が聞こえてきた。
「止まれ! ここを通りたければ金を払いな!」
ここら辺は規制などあるわけもない。
山賊の類だろうか?
通過料金を取るだけとは、何とも自信の無い山賊だな。
「一人当たり金貨1枚だ! 払えなければ荷物を置いて帰れ!」
ふむ。
別に払えない事は無いが、何故こいつらに金を落としてやらねばならない。
「どうする?」
「ぶっ潰す。こんな奴ら、いたって無駄だろ」
レアが山賊の処遇を聞いて来たので即答する。
人に迷惑をかける存在など、必要は無い。
「オラァ! さっさと出てこいや!」
山賊が大声で威嚇しているので、言葉の通り降りてやる。
ざっと8人程だろうか。
装備はそこまで強くない。
並の冒険者より少し整っている程度だろうか。
……弱いな。
「レア。拘束しろ」
「! 分かった」
ルクスに頼られたのが余程嬉しいのか、声色に凄まじい喜びがあった。
レアの瞳が緑に光り、地面から茨が生える。
山賊達に成す術があるはずもなく、無様に捕らえられる。
「よぉ。あんたら、ここで死にたいか?」
最悪のファーストコンタクトである。
が、相手は善人なはずもないので容赦はしない。
「ひぃっ。か、勘弁してくれ! 何でもやるから!」
恐らくリーダー格の者だろうか、髭の生えたおっさんが頭を下げながら頼んでくる。
「へえ。だが、お前らはまたここに戻ってくるだろ? だったら殺すしかねえよな?」
《怒剣ラグナ・レイジ》を顕現させ、肩に刃を当てながら問う。
「くぁっ! しない! もう二度としないから、せめて仲間だけでも助けてくれ! 俺の首ならやる!」
ん?
山賊にそのような絆があったとは驚きだな。
「ガルドさん! 寧ろ俺らが死ぬべきだ! あんたには妻も子供もいるだろ!」
「そうだ! 親父にだけ責任があるわけじゃない!」
何やら子分達が口々に色々言っている。
……もしやこいつらは、やりたくてやっているわけではない?
であるならば、最初に金、あるいは荷物を取るだけで暴力沙汰に出なかったのも納得だな。
単純に人から強奪したいのであれば、殺せばいいだけだしな。
実際、こいつらの装備はしっかりしており、常人ならば勝てそうにもない。
「なあ。あんたら、自分達が悪事を働いている自覚はあるか?」
そう問うも、皆俯くばかりで返答が無い。
少しして、リーダーのガルドと呼ばれていた男が答えた。
「……当たり前だろ。人を脅して不当に金を奪うだなんて。……でもな、俺達だって困ってんだ。それは、こんな事をして良い理由にはならないが」
「ふーん。何があったんだ? 聞かせてくれよ」
「……俺達は元々、近くの村に住んでたんだ。だが、少し前に俺達じゃ到底勝ちようもないくらいの魔物が現れた。そのせいで、働く事も出来ねえし〈ヴァルグレイア〉じゃ俺達の仕事なんか無い。だからこうするしかなかった」
成程。
8人もの男が揃っていて尚倒せない程の魔物か。
……気になるな。
「俺をその村に案内しろ。レア、拘束を解いてやれ」
「ん」
茨がスッと消えた。
ていうか、痛そうだなあれ。
俺に対しては蔦だったけど、茨も使えるのか。
ガルドが困惑したような表情で問う。
「俺達の村を……助けてくれるのか?」
「別に、助けるだとかそんな高尚な事はしない。ただ、俺が強いやつと戦いたいだけだ」
ガルドが目を輝かせながら礼を言う。
「かたじけない……。お前らも頭下げろ!」
おっさんに礼など言われてもそこまで嬉しくない。
……だがまあ、苦しんでいる人がいるのならば見捨てる事はしたくない。
「ほら行くぞ、さっさと歩け」
「へえ! こっちです」
山賊の後をレアと共に着いていく。
レア。
小声で
『本当は人助けがしたいくせに。見栄張っちゃって』
とか言ってたの聞こえてたからな?
戒めるためにも腕を抓っておく。
「痛い……。でも、気持ち良い……」
……俺は多分、こいつを対処出来ない。
読んで頂きありがとうございます!
3/21に第十三話~第二十話までのアップロードを予定しているので、是非読んで頂けると幸いです。
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