復讐の始まりは“怒り”と共に~怯える事なく生きるために、俺は大罪を継承し最強になる~ 作:異世界叙事詩専門店【Geist】
村から東の方へ向かっている最中、探知魔法が大きな魔力の接近を感知した。
「……来たな」
「うん。どうやって戦う?」
ノクスフェルは大きな鳥だ。
俺の主な攻撃方法は剣。
遠距離攻撃は《
さて、どうしたものか。
「……分からん」
「えぇ……。じゃあ、とりあえず私が縛って落とせるか、頑張ってみるね」
「そうか。俺も自分で何とか出来ないかやってみる」
うーむ。
炎を飛ばすだけでは、恐らく避けられる。
しかし、《
まあ、その場で実行するしかないか。
今考えても仕方がない。
「キョアアアアァァァ!!!!」
ノクスフェルが咆哮と共にやって来た。
まあ、一応試してみるか。
距離はおよそ50メートル程。
「《
ルクスの怒りが滾り、眼が紅く光る。
そして放たれた炎がノクスフェルへと飛んでいく。
しかし、距離もあってかサッと避けられた。
「チッ。まあ、だろうな」
「私も……《
レアの瞳が深緑に光り、辺りの地面からノクスフェルへと魔力から成った茨が飛んでいく。
《怒炎顕現》よりも速く、僅かにノクスフェルの羽を掠った。
「もうちょっと……」
惜しいな。
だが、恐らくレアの茨ではノクスフェルを倒すには至らない。
それに、以前俺と戦った時の様にすぐ魔力が底を尽きてしまうだろう。
俺がやらなければ。
俺が、あいつを殺す。
俺はもっと強くなる。
《
しかし、何度《怒炎顕現》を撃っても当たらないのは分かり切っている。
ならばどうするべきか?
「来い……!」
ルクスの掛け声に《怒剣ラグナ・レイジ》が応じる。
黒い魔力が集まり、剣の形を成す。
「直接叩き切ってやる」
《
脚に魔力を巡らせ、力を高める。
そして思い切り跳躍する。
「クソッ……!」
あと少し届かなかった。
避けたノクスフェルが溜めている動作をしている。
「キュアァァアアアア!!!!」
「うっせ!!」
さっきとは違い、至近距離での咆哮。
頭にキーンと響き、頭が真っ白になる。
やばい。
思考が出来ない。
俺はどうやってこいつを倒せばいい?
どうやって斬ればいい?
何も分からない。
何も思いつかない。
どうしよう。
俺はこいつに成す術なく殺されるのか?
おかしい。
俺は強くなったはずだ。
俺は、力を得たはずだ。
ルクスの思考が止まり、脳が感情に染まる。
不意に身体の力が抜け、空中を落下していく。
今までの怒り、勝てると驕っていた自分に対する怒り、自分を見下ろすノクスフェルへの怒り。
思い出した裏切りへの哀しみ、自分を見捨てた世界に対する哀しみ、何も出来ない自分への哀しみ。
無力感、孤独感、空虚感が――そして恐怖が、脳を支配する。
無情にも、墜落していくルクスをノクスフェルが追撃する。
「ギュアアァァ!!」
鳴き声と共に翼をはばたかせた。
羽から黒い風が飛んでいき、ルクスの身体を抉る。
「ぐあっ……」
痛い。
でも、《
だから、大丈夫。
そういう風に思うも、回復は一向に始まらない。
「あえ……?」
おかしい。
何でだ?
《憤怒》が上手く発動しない。
俺の身体が、普段通りに動かない。
こんなのは初めてだ。
俺は……死ぬのか?
こんなところで?
まだ何も出来ていない。
まだ、俺はあいつらに文句の一言も言えてない。
ロカの企みを止める事も出来てない。
俺が、《大罪》を継承した俺が、やらなきゃいけないのに。
もう、誰にも、何にも負けたくなかったのに。
成す術無く命を奪われるしかないのか?
何も奪わせないと、そう自分に、《憤怒》に誓ったはずなのに。
「ふざ……けんな……」
俺は、もっと強くなると決めたんだ。
そのために、ここに来たんじゃないのか。
あいつらに復讐するために。
もっと、強くなるために。
ルクスの《憤怒》が力を取り戻し始める。
しかし、理性が奪われれば奪われる程、逆に《憤怒》は発動を止める。
だが、どうやって勝つんだ?
俺には、ノクスフェルを殺す方法が無い。
ならば、俺に残された道は死しか無い。
怖い。
嫌だ。
死にたくない。
また、あの時と同じだ。
地下迷宮の中部屋に取り残された時と同じ。
死を待つのみ。
絶望の中でただ、時間が過ぎるのを待つだけ。
……もう、いいや。
全てが面倒くさい。
死ねば全部終わる。
死んでしまえば、もう何も奪われる事は無い。
それで良いじゃないか。
全てから解放されるなら、それも悪くない。
裏切られたあの惨めさも、痛みも、哀しみも。
全部、全部無くなるんだ。
恐怖に支配された脳は、死を迎合するかのように思考を止めている。
理性などとうに無い。
しかし、そんなルクスを目覚めさせる声が届いた。
『だめ……! ルクス、諦めちゃ、だめ……!!』
レアの声がする。
そういえば、俺は何でまだ死んでないんだ?
視界が暗い。
でも、これは夜の暗さじゃない。
少し冷静になって来た。
倒れている俺を守っているのは……これは、蔦?
まさか、レアが……。
俺がノクスフェルに殺されないように……?
であるならば、レアは今魔力をこっちに使っており、自分を守れていないはずだ。
あんなにひ弱なのに、俺を守るために?
……何と、情けない。
新たに力を得て、魔物に勝ち、そして今回も勝てると、そう思っていた。
何と傲慢な。
ただの記録士だった者が、そんな簡単に強くなれるわけがないだろう。
身体能力に優れているわけでもない、知り合って間もない少女が俺の為に身体を張っているというのに、俺は何をしていた?
死んでしまえばいいやだと?
何を甘えた事言ってるんだ。
「クソがっ……!」
自分に対する怒りが沸々と沸きあがってくる。
《憤怒》が力を取り戻していく。
今度は感情に理性を奪われていても、怒りだけがどんどんと募る。
ノクスフェルにつけられた黒い傷が治っていく。
《怒気解放》を発動。
俺は弱い。
だから――。