復讐の始まりは“怒り”と共に~怯える事なく生きるために、俺は大罪を継承し最強になる~ 作:異世界叙事詩専門店【Geist】
俺は弱い。
だから、人に頼らなければならない。
しかし誰も信用出来ない。
だが――レアは信用しても良いかもしれない。
レアは、俺を命懸けで守ってくれた。
ならば、それに応えてやらなければならない。
蔦を掻き分け、外へ出る。
見れば、レアが必死にノクスフェルの攻撃を避けていた。
急がなければ。
必死にレアの方へと走る。
ルクスの脳内でカチン、という音がした。
更に怒剣の声が聞こえてくる。
『憤怒の継承者よ。汝の肉体は更なる怒りに耐え得る。激情を制御せよ』
どうやら《
身体中から魔力が迸り、ほぼ全快といっても良い程には治った。
これなら間に合いそうだと、少し安堵する。
ノクスフェルの動きが先程よりもしっかりと見える。
レアが躓き、諦めてノクスフェルを見上げている。
「すまない。遅くなった」
「……! ふふっ……。ルクス、よかったぁ……」
座り込んでいるレアに手を差し伸べるルクス。
ノクスフェルと二人を阻むように《
ルクスの手を取り、レアが立ち上がった。
そして、熱がっているノクスフェルを見てルクスに疑問を投げかける。
「熱くないね。どうやってるの?」
「これは俺とレア以外を焼く炎だ」
そのまま説明しようとするが、二人の脳内に音声が走る。
『宣告。《憤怒》、《嫉妬》の共鳴を確認。《大罪》の
二人の感情が共有されていく。
詳細までは分からないが、どれ程の苦痛を受けたかがしかと伝わってくる。
レアは、確かに俺と同じ様に裏切られ、苦しんでいた。
だが、俺と相対した時から、それら負の感情が消え、悦楽、歓喜、そして――愛情、好意へと変わっている。
レアの言動は本心から来ているものだった。
レアにも俺の感情が共有されたようで、不意に抱き着いてきた。
「……私と同じ。凄く嫌な事だったけど、そのおかげでルクスに会えたから、運命だったのかも」
少し微笑みながらそう言うレアに、先程までは感じなかった感情が込み上げてくる。
つい、頭に手を伸ばし、優しく撫でながら返答する。
「……そうだな。俺達は、運命共同体だ」
「……!! ふふ、嬉しい」
レアは更に笑みを浮かべ、ルクスの胸に顔を埋める。
レアから共有されている喜びに、ルクスの頬が少し緩む。
しかしそんな雰囲気を壊す様に、ノクスフェルの鳴き声が響く。
「グアアァァァ!!」
「うるせえな。空気読めねえのか?」
「ね。あんな害獣、堕としちゃお?」
レアがそう言いながら、炎を突き破って茨を飛ばす。
ノクスフェルが焦ったように急降下して避ける。
……!
もしかして、これならいけるか?
「レア。俺の《怒炎顕現》であいつの視界を遮るから、落とせるか?」
「うん。任せて」
それ以外は口にしていないが、放つタイミングは完璧だった。
まずはルクスの《怒炎顕現》が面で放たれ、上に避けたノクスフェルをレアの《
完全に纏わり付き、もう外れる事は無い。
そのまま無様にノクスフェルが落ちて来る。
ドン! と地面に激突し、バタバタともがいている。
「よくもやってくれたな?」
そう吐き捨てながら《怒剣ラグナ・レイジ》を顕現させる。
剣から溢れ出る黒炎は、ルクスの怒りを表している。
「死にやがれ」
拘束されているノクスフェルの首を綺麗に真っ二つにする。
探知魔法から魔力反応が消えたので、恐らく死んだのだろう。
「やったね。……ねえ、ルク――」
レアがルクスに話しかけようとするが、ふらっと倒れかける。
それをルクスがさっと受け止める。
「お疲れさん。……ありがとな」
魔導石からテントを取り出し、中で寝かせる。
しかし、俺も中々に疲れているのだが、寝具が一つしかない。
……仕方ない。
レアの目が覚めた。
何か温かいものに包まれているような感覚がして、目を開ける。
「……っ!」
ルクスに、抱きしめられてた。
びっくりした……!!
私から少し距離を取っていたような気がしてたのに、そんな、大胆な……。
でも、私の事信じてくれるようになったって事だよね。
凄く、嬉しい。
ルクスと感情が共有されるようになったおかげで、ルクスから私に対して好意を感じてるのが分かる。
だったら多分、私からもルクスにこの気持ちが伝わってるのかな。
……それはちょっと恥ずかしいけど、でも、ちょっと嬉しいかも。
私の本心が伝わってるって事だから。
……さっきのルクス、かっこよかったな。
あの状況で、ほとんど諦めてたけど。
でも、私の為に頑張ってくれた。
私がルクスの為に命を懸けたから、ルクスも私の為に命を懸けてくれる。
その覚悟が、決意が、私を認めてくれたという事実。
ルクスの苦しみは、痛いくらい分かる。
だって、私も同じ気持ちを味わったから。
「運命共同体……。ふふっ」
先程ルクスに言われた言葉を思い出す。
それは、今後も一緒にいるという約束のような言葉。
私を受け入れて、共に歩んでくれる。
ルクス、大好きだよ。
目が覚めた。
なんか身体が重い。
広がった視界の先には、俺の上で満足気に寝ているレアがいた。
……ん?
何で俺もレアも服着てねえんだ?
寝る前まで着てたよな。
……まさか、こいつ。
「おい、起きろ。おい。何やってんだお前」
「んっ……。あ、ルクス、おはよう」
「おはようじゃねえ。レア、お前まさか……」
「ルクスが勝手にしろっていうから、襲っちゃった」
ちろりと舌を覗かせながらそう言う。
妖艶な雰囲気に呑まれそうになるが、文句の一つでも言わないと気が済まない。
しかし、自分が勝手にしろと言ったのもそれは事実であり、何とも言えない気分になる。
「はぁ……。まあ、別に良いけどさ。そういえば、さっき何を言いかけたんだ?」
「さっき……っていうと、寝る前?」
「ああ。お前が気絶する前に、俺の名前を呼んで何か言おうとしてたと思うんだが」
「えっと、ね。その、ちょっと、恥ずかしいんだけど……」
もじもじと顔を赤らめながら言い渋るレア。
こんな事しておきながら、今更何を言おうというのだ。
「その、ルクス。ルクスの事、大好きだよ……って」
言葉が詰まる。
感情の共有が無くとも、それが本心であると分かる。
であるならば、俺が返す言葉は一つだろう。
「……俺も、愛してる。レア」
レアから喜色が伝わってくる。
少し恥ずかしいが、まあ、言うべき事は言わなければならない。
そういえば、山賊共に報告しないとな。
「ねえ、ルクス……。続き、しよ……?」
続きも何も、俺は寝ていたので記憶は無いが。
「……覚悟しろよ」
〈グレイヴ村〉には平和が訪れたものの、山賊達が心待ちにしている成果報告は日が暮れ始めた頃だった。