復讐の始まりは“怒り”と共に~怯える事なく生きるために、俺は大罪を継承し最強になる~ 作:異世界叙事詩専門店【Geist】
日が暮れ始めている。
ノクスフェルと戦ったのは夜だったはずなのに。
「……レア。そろそろあいつらんとこ行くぞ」
「えぇ……。もうちょっと休ませて……」
お前が始めたんだろうが……。
〈ヴァルグレイア〉にも行かなければならないし、時間が無い。
「んな事言ってねえで、しょうがねえだろ。さっさと服着ろ」
「んぅ……。分かった……」
渋々服を着出す。
そういえば、レアの服は変わっていないが、何回も戦闘で傷ついているはずだ。
どうなっているんだ?
「なあ。レアの服は何でボロボロになっても直るんだ?」
「これは私の魔力を実体化させた物だよ。昔、習ったの」
少し懐かしむように教えてくれた。
嫌いな過去の中にも、大事な思い出があるんだろうな。
「へえ、便利だな。……ほら、行くぞ」
レアに手を差し伸べ、立ち上がらせる。
少し微笑んで手を取った。
「ふふ、ありがと」
テントをしまい、ガルドらの拠点へと向かう。
少し距離があるため、ルクスは急ぐために一つの手段を取る事にした。
「なあ、レア。ちょっと止まってくれるか」
「ん、どうしたの? 忘れ物?」
「いや、ちょっと気を付けろよ。よっと――」
「!?」
レアを抱き上げて走った方が早いと思い、さっと抱きかかえる。
突然の事に吃驚したレアは目を少し見開いた。
「ど、どうしたの……?」
「こっちの方が早いからな。ちゃんと掴まっとけよ」
「う、うん……」
《
レアを守るように魔力で覆っているので風などは防がれている。
レアがルクスをぎゅっと抱きしめ、顔を赤らめながら小声で何かを言っているが、ルクスには風切り音で何も聞こえていない。
そうして数分程で拠点に着いた。
「ほら、着いたぞ。気を付けて降りろ」
「……え? も、もうちょっとだけ……」
何を我儘な……。
まあ、しょうがない。
これくらい良いだろう。
仕方ないのでレアを抱えたままガルドらを呼ぶ。
「おい、ガルド! いるか!」
大声で中に呼び掛けると、バタバタと騒がしい音が聞こえてくる。
「カイさん! 魔物は、村はどうなったんですか!?」
「ああ、ノクスフェルは殺した。村に被害は出ていないはずだ」
「本当ですか……! 俺達の〈グレイヴ村〉は返って来たんだ……!! お前ら、英雄様の来訪だ、全員出てこい!」
ガルドが手下を呼ぶ。
しかし、英雄様など気恥ずかしい。
そんな大層な呼び方はしないでほしいものだが。
ガルドの呼び声に前の8人、それに女子供までもが出てきた。
ここにそんなにいたのか……。
「……そういえばお二人、随分と仲良くなりましたね?」
ガルドの問いに少し困惑し、今自分がレアをかかえている事に対してだと気付く。
「まあ、色々あってな。よっと」
レアが恥ずかしそうにしているので、さっと降ろしてやる。
こうなるのは分かっていたのだから、さっき降りれば良かったものを……。
「で、ノクスフェルに関してだが、死骸の方は俺の方で回収しておいた。村に戻っても問題は無いだろう。冒険者ギルドの方には今から報告しに行くから、誰か着いてきてくれ」
「本当に……本当に、私達の村は取り戻せたのですか?」
ガルドの隣に子供を抱えて立っていた女が聞いてきた。
「村がどうなってるかは知らん。ただ、魔物は殺した。その事実だけじゃ不足か?」
「いえ、そんな事は……。ありがとうございます……。心より感謝申し上げます……」
女が頭を下げるのにつれられ、全員が俺に対して礼をしてくる。
……クソ。
別に、俺は人助けがしたかったわけじゃない。
「皆嬉しそうだよ。良かったね、ルクス」
恥ずかしさから俯いていたレアがそう言ってくる。
……まあ、そうだな。
結果として人の為になっただけだ。
その事実は、受け入れても良いだろう。
「……ああ。だが、レアがいなければ俺は死んでいた。レアのおかげで俺は生きている。ありがとな」
真っ直ぐに感謝を伝える。
少し困ったように微笑んでいた。
その表情が、瞳が、ルクスにはとても可憐に思え、つい抱き寄せる。
「まあ、そんなわけだ。俺は一度〈ヴァルグレイア〉に行く。明日の昼、報酬を受け取りに来るから、ああ、お前で良いや。ガルド、お前も来い」
ギルドへの報告をするためにガルドを連れて行く事にする。
拒否権は無い。
「分かりました。では、退避させておいた馬がいるので、厩へご案内します」
ガルドの案内を受け、厩へと向かう。
簡素な小屋に馬が二頭いた。
「ああ、そうだ。一頭はマルクが使ってるんだった……」
「俺とレアが一頭に乗れば良いだろ。日が暮れない内にさっさと行くぞ」
「すみません、では」
馬が心なしか怯えているような気がする。
だが、そんな事は気にせずにさっと馬に乗り、〈ヴァルグレイア〉を目指す。
「道案内は頼んだぞ」
「お任せ下さい」
そのまま30分程馬に揺られながら走り、大都市が見えてきた。
〈商業都市ヴァルグレイア〉。
王都から遠く西に離れているが、西側諸国との貿易により大都市となった。
【地下迷宮ノクティルム】や、【王立大書庫シュターツ・ビブリオ】なども有名だ。
門が見え、門番が数人立っているのが見える。
そのまま門の前まで行く。
「馬は隣の厩へ。身分証明書の提出をよろしくお願いします」
「ああ、冒険者証書で頼む」
馬から降りて魔導石から証書を取り出し、見せる。
ガルドも同じ様に証書を出す。
しかし、レアは固まっていた。
「……おい、レア? もしかして、お前……」
降りるのを補助しながら小声で聞く。
「……カイ、ごめんね。私、持ってない」
てへ、と少し茶目っ気を見せながらふざけて言っているが、状況はそれを許さない。
「やばい……。どうしようか。なんか、昔のでいいからねえの?」
「……あ、そういえば……」
そう言いながら、ふっと何かを取り出す。
お前、空間収納魔法使えたのかよ……。
「これ、で、お願いします」
そうぎこちなく、門番に良く分からないカード? のようなものを渡す。
「申し訳ありませんが、これは一体……?」
「えっと、昔……50年くらい前に作った冒険者ギルドの証書、なんだけど……」
困ったようにこっちに視線を向けてくるが、それどころではない。
50年前……!?
「レア、お前、何歳だよ!?」
一応小声で聞いてみる。
「女性に年齢は聞くべきじゃないと思う。……けど、大体100歳くらい。多分。……分かんない、もっとかも」
自分の年齢も覚えてねえのかよ……。
てか、何でそんな見た目若いんだよ。
ていうか100歳超えてる割には精神年齢が――
「いってぇ!」
腕を思いっきり抓られた。
心なしか棘も刺さっている気がする。
無言でいじけているレアを慰めながら、門番が慌てて色んな所に連絡しているのを眺める。
連絡用魔導石が置いてあるだなんて、結構栄えているんだな。
いやー、全く。
問題ばっか引き起こさないでほしいものだが。
「……只今確認が取れました。入門を許可します」
何とか正規の物であると分かったようだ。
良かった良かった。
【ノクティルム】に行くどころか、〈ヴァルグレイア〉にすら入れないと思った。
「……カイ、ごめんね?」
腕の中のレアが上目遣いで謝ってくる。
「別に良いさ。お前がどこの出身だろうが、どれだけ生きていようが関係無い」
「ふふ。ありがと」
どうにか機嫌を治す事に成功したようだ。
ふう。
さて、ガルドが馬を繋いで来てくれたようだし、さっさと中に入るか。
報告と、夕食、あと宿も取らねえとな。
非常に、大変だった。
今日はさっさと寝よう。
21時に十七話~二十話を更新します。