復讐の始まりは“怒り”と共に~怯える事なく生きるために、俺は大罪を継承し最強になる~   作:異世界叙事詩専門店【Geist】

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第二十話 【黒晶迷宮ノクティルム】

 エルナらと離れ、翌日。

 【ノクティルム】を攻略するべく、宿を出て中央広場へと向かう。

 

 〈ヴァルグレイア〉は【ノクティルム】をきっかけに出来た街であり、その理由は【ノクティルム】の魔物から産出される魔石に由来する。

 黒に澄んだ魔石は普通の魔石よりも含まれる魔力が強く、中でも闇属性の魔法と親和性が高いのだとか。

 

 ちなみに、魔石が涙のように見える事から“冥夜の魔涙”や“夜哭冥晶(ラメント)”などの名前がつけられている。

 【黒晶迷宮ノクティルム】という名前にも過去につけられた名前があり、【深潜夜装聯奧迷宮(アビサル・ノクス・ネクサ=メイズ)ノクティルム・ペスカ】と呼んでいたらしい。

 ……長ったらしく意味も良く分からないので、分かりやすい【黒晶迷宮】の方が定着した。

 

「さて、レア。【ノクティルム】に着いたわけだが、俺達はまだCランクだから第二階層までしか行けない。だから、さっさと第二階層まで行って、依頼受けまくって昇級試験受けるぞ」

 

「うん。カイとならすぐだね。……で、カイ。気付いてるよね?」

 

 何にだろうか。

 心当たりは無いと断言出来る。

 が、俺がいつどこで何をやらかしているか分からない。

 とりあえず流すしかない。

 

「……ああ。やっぱ、レアも気付いてたか」

 

「うん。私の《嫉妬(エンヴィ)》が、他の《大罪》を検知してる」

 

 ああ、その事か。

 良かった、俺は何もしてなかったみたいだ。

 

 確かに、昨日の夜くらいから《憤怒(ラース)》が《大罪》の残滓を感じ取っていた。

 勿論レアの事ではない。

 レアの《嫉妬》とは〈グレイヴ村〉の祀り物の効果で、二つで一つ、つまり異体同心となった。

 そのおかげか、大体レアのいる場所がどれくらい離れていて、どの方角かが何となく魔力ではない何かで分かる。

 

「まあ、向こうから来たら迎え撃つだけだ」

 

「ん。私達なら勝てる」

 

 そうだな。

 個々でも拮抗出来る程の力があれば、数の利も含めて中々な有利を得ているだろう。

 まあ、相手が個であればの話だが。

 もしかしたら俺達のように共鳴している可能性はある。

 

「ああ。とりあえずは【ノクティルム】の攻略だな」

 

 門番に冒険者証書を見せ、中へと入っていく。

 入口付近は人が多いが、迷宮は中々に広いのでいつしか人を見かけなくなる。

 

 そうして魔物を倒しつつ10分程経っただろうか。

 探知魔法で下層への道を探しつつ歩いているので、ほぼ最短で中部屋、第一階層のボスがいるであろう部屋の扉前へ着いた。

 

「レア。確か、第一階層のボスは負ける程では無いはずだ。だが、途中で形態変化と手下の再召喚があるから気を付けろ」

 

「うん、分かった。」

 

 前はその形態変化を侮って負けかけた。

 近距離攻撃ばかりだったのに急に遠距離攻撃になり、それに手こずっている間に再召喚された手下に横から突かれた。

 結果大分ギリギリの勝利となり、俺がより情報収集をするようになったきっかけだ。

 

「よし、じゃあ開けるぞ」

 

「準備出来てるよ」

 

 レアの瞳が深緑に光り、魔力が高まっていく。

 俺も《怒気解放(ブレイズギア)》を発動させて《怒剣ラグナ・レイジ》を構える。

 

 扉を開けると、部屋の中に人の数倍はある大蜘蛛がいた。

 

 “深潜糸王(アビス・ウィーバー) ノクティルム=タナトスピア”。

 

 黒く鈍く光る外骨格に、冥色の魔力紋様が背中に刻み込まれている。

 目が八つあり、今は前方四つが赤く光っている。

 

「行くぞ」

 

「ん。縛れ、《嫉茨共生(シンバイオシスエンヴィ)》」

 

 レアの足元から数本の茨がタナトスピアへと向かって行く。

 しかし、タナトスピアの魔力から生み出された子蜘蛛がそれを阻む。

 そして跳躍し、跳びかかってくる。

 

 レアをさっと抱きかかえ避ける。

 当のレアは俺が助けてくれると完全に信用し、避ける素振りも見せなかった。

 ……俺も信用してやろうじゃねえの。

 

 タナトスピアへと肉薄し、まずは足を切り落としていく。

 《怒炎顕現(インパルスフレア)》を怒剣に纏わせ、前足の一本を斬ろうとする。

 しかし、少し切りこみが入った程度で切り離れはしない。

 

「燃え盛れ!」

 

 ルクスの呼びかけに《憤怒》が応える。

 火力が上がり、タナトスピアの足が一本落ちた。

 これならいける。

 

 俺に群がる子蜘蛛は全て、レアが茨で捕らえて縛り切って処理している。

 勿論定期的にタナトスピアにも飛ばしているが、今のところ全て弾かれている。

 

 良い援護だ。

 俺一人では、もう少し面倒だった。

 もう一度跳躍し、俺の頭上を越えレアの方へ跳ぼうとする。

 

「逃がさねえよ?」

 

 レアを傷付けようとしているタナトスピアに怒りが湧き、《怒気解放》の段階が上がる。

 そしてタナトスピアと同じ高さまで跳び上がり、黒炎を纏った蹴りを喰らわせる。

 ピキッと音を立てて壁に叩きつけられた。

 

「レア! 縛らなくて良いから、動きを鈍くさせる事は出来るか?」

 

 茨で子蜘蛛を処理しているレアに大声で聞く。

 頷いているので、その間俺が子蜘蛛を処理するためにレアの隣に戻る。

 

「俺が守るから集中して良いぞ」

 

「ん」

 

 返事は最小限。

 だが、互いに意思の疎通は出来ている。

 レアが魔力を練り、俺が迫る子蜘蛛やタナトスピアの吐きだした糸を弾く。

 

 レアがこちらを向いたので、恐らく準備が出来たのだろう。

 まずは俺の《怒炎顕現》でタナトスピアの意識を逸らす。

 

「《怒炎顕現(インパルスフレア)》ッ!」

 

 迫る黒炎に怯み、上へ跳躍して天井に張り付く。

 その瞬間を、レアの茨が狙っていた。

 

「《嫉茨侵花(エンヴィ・パラサイト)》」

 

 先程と同じ様に直線で茨が向かっていく。

 しかし、《嫉茨共生(シンバイオシスエンヴィ)》とは違い、数本の茨が絡まっている。

 そしてタナトスピアの目前まで接近し、広がった。

 花が開くように全身を包み込み、縛りつく。

 

 《嫉茨共生》との違いは、レアの支配域から外れて自立しながら相手に縛りつくというものである。

 完全な拘束は出来ないが、行動阻害なら可能だ。

 更に様々な付加能力があるらしい。

 

「よし、叩き切ってやる」

 

 全速力で駆け、タナトスピアへ斬りかかる。

 本体に斬りかかったが、傷がついたのみ。

 仕方ないので、一旦足を三本程切り落としておいた。

 

「チッ、形態変化か」

 

 魔力で出来た純白の繭に閉じこもり、力を高めている。

 すぐにパカッと繭が割れていき中からタナトスピアが這い出てくる。

 

 【深潜夜装聯奧迷宮(アビサル・ノクス・ネクサ=メイズ)ノクティルム・ペスカ 第一階層支配者(ファーストルーラー)

 “深潜糸王(アビス・ウィーバー) ノクティルム=タナトスピア・ソヴリン”

 

 第二形態、真の姿だ。

 目は全て赤く光り、足も再生している。

 そしてここからは糸吐きによる子蜘蛛の援護、遠距離攻撃を主軸に戦いだす。

 が、魔力をそっちに回しているせいで装甲を貫くのは先程よりも容易い。

 

「レア。頼んだぞ」

 

「ん。任せて」

 

 レアが子蜘蛛の発生を予感した場所に茨を設置しておき、全てを捕らえる。

 もう、俺を邪魔する者はいない。

 と思っていたのだが、タナトスピアがレアに糸を飛ばした。

 

「おいおい、危ねえな。俺の大事な恋人を傷付けようとすんじゃねえ」

 

 その怒りから火力の上がった《怒炎顕現(インパルスフレア)》が糸を焼き焦がす。

 レアは絶対に攻撃させない。

 怒剣に魔力を込め、火力を最大にして思いっきり斬りかかる。

 

「《怒火斬刃(フレイム・エッジ)》!!」

 

 至近距離で黒炎の斬撃が命中する。

 勿論耐えられるはずもなく、段々と焼き焦げていき、最終的には魔力の残滓となった。

 タナトスピアの死骸のあった場所には拳大の大きさの夜哭冥晶(ラメント)が落ちていた。

 

「よし、討伐完了だ」

 

 夜哭冥晶を魔導石にしまい、レアの元へと向かう。

 タナトスピアの死亡と共に子蜘蛛も消えたようで、レアもこっちへトコトコと駆け寄って来ている。

 

 思いっ切り抱きしめ、頭を撫でる。

 

「レア。お前がいなきゃもっと大変だった」

 

「ルクスの為だったら何だってするよ。だから、置いてかないでね……?」

 

「当たり前だろ。レアみたいな、最高の恋人を置いていく馬鹿がどこにいる」

 

 もっとレアには自信を持ってもらいたいものだ。

 俺がお前を取り残していくはずがあるわけもない。

 俺の隣にはレアがいないと駄目だ。

 

 

 

 そのまま二人は第二階層へと降りて行った。

 

 尚、【ノクティルム】第四階層にて。

 

「あぁ、私にもっと、貴方の欲を見せて頂戴!」

 

 桃色の長髪をたなびかせて女性が舞っている。

 その手には金属製の扇があり、迫りくる魔物を処理しつつ、冒険者に話しかけている。

 

「あーあ、貴方も堕ちちゃったわね。これで貴方も“新人類”よ。喜びなさい!」

 

 女性の元へふらふらと歩いていく冒険者。

 屈強な肉体はその精神攻撃には意味が無く、成す術もない。

 その女性の背後には既に多くの冒険者が並んでいる。

 

 その様相はまるで、女性を神と崇めているかのようにも見える。

 彼らは決して自我を失っているわけではない。

 だが、思考能力は存在しない。

 己の欲そのものこそが、全ての行動原理となっている。

 

「さぁーて、そろそろ《大罪》から解放してあげなきゃ。新世界はすぐそこよ」

 

 その後も女性は、上機嫌に魔物を切り刻んでいた。

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