ユルゲンはハヤテと一緒に頷いてパラレイド越しにすぐに答えを返した。
「ハンドラー1、遺憾ながらその命令には従えない。この戦隊は先週の戦闘で二名死亡し上に6機が破損したのでジャガーノートを18機しか動かせない。また弾薬も燃料も尽きかけている。この現状のまま出動するのは自殺行為だ。」
「18機でも構いません。それに新たな補給が既に届いているはずです。シュークリームを入れた冷凍箱の中に私のサインが入った命令書があります。」
先ほどまで空輸された補給物資を確認していたシュミットという隊員の一人が「ありました!」と叫んでユルゲンに冷たいままの封筒を手渡した。ユルゲンがその封筒を開くと補給物資輸送の命令書にヴラディレーナ・ミリーゼの署名が書かれていたのが確認できた。なるほど謎の補給物資を送ったのは彼女だろうと戦隊のだれもが悟った。
「今回の作戦を想定して弾薬は57mmを200発、燃料も24機分の往復分を想定した量を補給科のヘリに搭載させました。それにお礼にシュークリームを少々。これでも足りませんか?」
パラレイド越しに会話をしていたハンドラー1はユルゲンの考えを見透かす様に淡々と補給物資の概要を語った。なるほど確かにこれだけ物資があれば1回の作戦は実行可能だ。しかしまだ足りないとユルゲンは考えたので率直にハンドラー1にパラレイド越しに質問をした。
「ハンドラー1、物資の補給には感謝する。しかし最後に一つ足りないものがある。貴殿も時間がないから率直に言うが砲兵の支援だ。俺も軍事は多少かじった事があるが突撃前には敵の反撃の芽を潰す為に火砲による支援が必要の筈だ。よって迎撃砲6門による支援射撃を要請する。それが出来なければこの命令には従えない。自分も隊員達の命が惜しいんでね。」
ユルゲンがそういうとパラレイドの同調はハンドラー1の方から「失礼します」とだけ言われてすぐに切られた。パラレイドの同調が終わった後にハヤテがユルゲンに語り掛けた。
「ハンドラーの女、逃げたか?まぁこれだけ物資が来たとしても80体のレギオン相手に勝てる確率は殆どない。次に連絡が来たとしても相手にするなよ、ユルゲン?」
「分かっている。が、物資はくれたから一応1時間待つ。それまでにハンドラーの女から連絡が来なければこの作戦には乗らない。それで良いな、ハヤテ?」
その後ユルゲンは隊員達に砲弾のジャガーノートへの装填と燃料の注入を命じつつ、ハンドラー1からの返答をまっていたが50分たってもまだ来なかった。あと10分しかない所で流石にユルゲンもハヤテも苛立ちが隠せなかった。
「チッ、やっぱりあの女逃げたな。あの女も結局は他のハンドラー同様に俺達を玩具か何かにして無茶苦茶な突撃をさせようと考えていたのだろ。」
「そうかもしれないな、ハヤテ。戦隊に出動準備までさせていた俺が馬鹿みたいだ。」
ハヤテにそう語っていた間にパラレイドの同調が再開された。再び澄んだ少女の声がユルゲンに語り掛けた。
「こちらミリーゼ大尉。シャプロン・ルージュ、迎撃砲6門による火力支援を取り付けました。ただしこちらからは目標を視認できない関節射撃になる為、どなたか目視でも結構ですので着弾の観測をお願いできますか?」
「!!」
ユルゲンの戦隊の皆が驚きを隠せなかった。ハンドラー1は本当に迎撃砲による支援を取り付けたというのだ。迎撃砲による支援など自分達がこれまでどれだけ申請しても通った事がないというにハンドラー1は50分とはいえ実現できたらしい。ハヤテはどうやらそこが気になって思わずハンドラー1に質問をぶつけた。
「ハンドラー1へ、こちらパーソナルネーム・ミネストレル。迎撃砲の支援を取り付けたというがあんなもの今まで俺達が申請しても通る事は決してなかった。一体どんな魔法を使った?」
「・・・・悪魔の力とでも言えば良いでしょうか?とにかく迎撃砲の支援は取り付けました。これ以外に要請はありますか?」
悪魔の力とはどういう事か聞きはしたかったがユルゲンにはこれ以上は時間が惜しかった。彼は大きく溜息をつくと隊員達に命令を下した。
「出撃する!目標はここより300km北にいる第1戦隊の救援!レギオンは数的に優位な立場にある為、行軍中の交戦は可能な限り避けよ!」
「ありがとうございます。第1戦隊は廃村に立てこもってレギオン相手に持ちこたえています。ですから・・・」
ユルゲンの命令を受けて隊員達は即座に各々のジャガーノートに搭乗するとエンジンを始動させた。ジャガーノートの動力となる300馬力のディーゼルエンジンが機体に徐々に活力を与えていき、獣の咆哮のように後方の排気管から煙を勢いよく出し始めていた。戦隊すべてのジャガーノートが温まってきた所でユルゲンはパラレイド越しに部下に命令を与える。
「陣形は自分の第1小隊を先頭に基本はくさび型で進軍する。問題ないな、ハンドラー1?」
「はい、その陣形で問題ありません。それに私の名はヴラディレーナ・ミリーゼです。貴方達もプロセッサーという無機質な名で呼ばれたら嫌でしょう?ですから貴方達の名を教えてください。」
ハンドラー1ことレーナの答えにはユルゲンのみならずハヤテも他の隊員も呆気にとられた。無人兵器の部品扱いをされてきた自分達の名を知りたいなどと言う物好きなハンドラーは彼女が初めてである。その可笑しさに思わずユルゲンは笑ってしまった。パラレイド越しに彼の笑う声を聞いたレーナは心配そうに「大丈夫ですか?」と彼に聞いてきた。
「いやすまない、ハンドラー・ミリーゼ。つい笑ってしまったよ、自分達はハンドラーから名前で呼ばれる事なんて初めてなんでね。」
自分達はこれまでのハンドラーから今まで名で呼ばれた事などない。豚だのファシストだのどれも非人間化しているにふさわしい名で呼ばれてきたのだ。ほくそ笑みながらユルゲンはミリーゼと名乗るハンドラーに話しかけた。
「ではミリーゼ殿、まずは自分達の事を何と呼ぶかから覚えていただきたい。何せペガサスなんてイマイチな名前では士気は出ないので自分達で勝手に戦隊名を変えさせて貰った。俺達の戦隊名は「鉄(ダス・アイザーン)の戦隊」だ。」
「分かりました、こちらハンドラー・ミリーゼ。ダス・アイザーン戦隊に出撃命令を出します!」