ダス・アイザーン戦隊はジャガーノート18機でハヤテ率いる第2小隊を先頭に第4と第5小隊を左右の警戒に当たらせてくさび型の陣形を作りながら第1戦隊のいる廃村へと向けて進軍していた。
くさび型の陣形の中で戦隊全体と第一小隊の指揮官を兼ねていたユルゲンはレーナからより詳しい事情を教えてもらう事が出来た。なんでも第1戦隊に物資を届けていた補給科のヘリが対空型に撃ち落されてしまったのでその救援に駆け付けた所、まんまとレギオンの待ち伏せにあったという。
何でそんな古典的な待ち伏せを予測できなかったのかとレーナに問い詰めたかったがこの女のハンドラーとの共闘も今回限りだと考えてユルゲンは黙る事にした。行軍中もパラレイド越しに話しかけてくるレーナからダス・アイザーン戦隊の隊員の名前を教えて欲しいと改めて質問される。他の隊員、特にシュミットからケラケラと笑われる中でユルゲンはひとまずレーナに隊員それぞれの名前を彼女に教える事にした。
「・・・でフォックストロット05がハンス・シュミット、フォックストロット06がピエール・デュカキスだ。ハンドラー・ミリーゼ、これで戦隊の名前はひとまず言ったと思うが?」
「いいえシャプロン・ルージュ、まだ貴方の名を聞いていません。貴方の名前は?」
しばしジャガーノートの操縦室の中で一瞬ユルゲンは沈黙したが時間が惜しいので溜息をついてから自身の名を教えた。
「マイヤーだ。ただのユルゲン・マイヤーーだよ、満足かハンドラー・ミリーゼ?」
「えぇ、ありがとうございますマイヤー大尉。」
エイティシックスと規定された自分達に階級など意味が無いというのに律儀に階級と一緒に名を呼ぶレーナがどこか可笑しく感じて思わずユルゲンは苦笑いしてしまう。作戦まではまだ時間があった為、ユルゲンはジャガーノートの操縦室に用意してあった水筒を開けると中のものを一杯分軽く飲んだ。飲んだ時の気持ち良くなる感覚が唐突にやってくるのをレーナもパラレイド越しに感じる事が出来た。
「マイヤー大尉、貴方まさかお酒を飲んでいるのですか!?」
「あぁ、コルンっていう酒を飲んでいた。景気付けに丁度いい。」
「・・・士気高揚の為にも仕方ありません。飲みすぎない様にお願いします。」
「理解があって助かるよ、ハンドラー・ミリーゼ。」
パラレイド越しのレーナは仕方がないとでも言いたげに溜息をつく。戦隊の資料を見るにあたってユルゲンはレーナと同じ未成年だったからだ。他の未成年の隊員達もやはり一口ではあるが酒を飲み始めた。レーナには飲むのをやめろと言う事は出来ても止める力はなかった。
「で一杯やったのでハンドラー、質問だが良いか?包囲されている第1戦隊の具体的な状況は?」
「はい、マイヤー大尉。スピアヘッド戦隊は廃村に立て籠っていると言いましたが遠距離砲撃型ジャガーノート1個小隊分を建物の屋上など一番高い所に配置して包囲しているレギオンの戦車型(レーヴェ)を砲撃しています。残りのジャガーノートは建物やその瓦礫を遮蔽物にしながら近寄ってくる斥候型(アーマイゼ)と近接猟(グラウ)兵型(ヴォルフ)の部隊を12.7mmで撃退しています現在の第1戦隊の残存戦力は17機です。」
ユルゲンはジャガーノートを操作しつつレーナの話す戦況を持っていたラミネートされた地図と照らし合わせながら聞きつつ、ラミネート越しにペンで地図に印をつけ終えるとユルゲンはレーナに質問を始めた。
「成程理解できた。思ったより悪い状況だな。レギオンには当然情報を伝達する方法があるだろうから近寄ってくるレギオンはスピアヘッド戦隊の戦力を確認する為の囮だろう。そこで戦車型(レーヴェ)がどんどん攻撃して来て俺達の救援が必要になったと・・・?」
「迎撃砲で第1戦隊を巻き添えにする訳にはいかず第1戦区で第1戦隊以外に戦闘任務を受け持つ部隊は貴方達と聞いたのでやむを得ない判断でした。廃村まではあとどの位で着きますか?」
ユルゲンはパネルを確認した。ジャガーノートの最高速度は、スペック上は時速69.2kmだが非合理的な57mm滑腔砲を装備している事に加えて不整地を走っている事から実際には62km程度しか速度が出ていない。問題の廃村は70km先だ。
「ざっと1時間近くだ。こちらにもジャガーノートの遠距離砲撃型はあるから遠距離からの砲撃を行う事ができる。そうなら40分に短縮できる。それとハンドラー、こちらに砲弾観測を行う者はいるが迎撃砲の準備は?」
「装填が間もなく終わる頃です。第1、第5戦隊も巻き添えをくらわない様に主力の多い包囲の南側へ砲撃を行う事にしました。ちょうど貴方達が到着する方向です。到着の5分前に砲撃を開始します」
レーナに見えないのにユルゲンは彼女の回答に頷くとパラレイド越しに隊員へ命令を下した。
「シャプロンルージュより各隊員へ、聞いての通りだ。このハンドラーが約束した迎撃砲の真偽の程は不明だが燃料と弾薬を補給された礼はある。戦隊このまま隊形を維持しつつ側面に注意しながら前進せよ!」