特別特撮ヲタク 禪院直哉 作:特撮ヲタク
「ばあちゃんが言ってたで、弱いモノ虐めはダサいって」
飄々と突然その男は現れた。
和風の装いとは似ても似つかない金髪の吊り目の男。
何処かともなく溝の中のカスの様な気配を漂わせている。
特級呪霊 漏湖は戦慄していた。
自身が腕を刎ね蹴り飛ばされるまで気付かなかった眼前の男に。
(ありえん!この儂が人間風情に接近を許し、ましては腕まで刎ねられるとは…!)
漏湖は同胞の陀艮を討ったと思われる術師3名を戦闘不能にしようとした直後にこの眼前の男に腕を刎ねられ野外まで蹴り飛ばされたのだ。
「貴様は何者だ…!」
腕を再生させ体勢を立て直しながら眼前のダガーを弄る男に問いかける。
「禪院直哉、天を征く男や」
酷く醜い醜悪な笑みを浮かべながらその男は言った。
◆◆◆
(俺は天才なんやって)
若き日の禪院直哉は朝の八時にワクワクとした少年の顔で屋敷の廊下を小走りしていた。
(皆言っとる、父ちゃんの次の当主は俺やって)
若さ故の全能感、そして周囲の期待が彼の自尊心を肥大化させていた。
(禪院家には落ちこぼれがいるんやって)
故に傲慢に
(男のくせに呪力が一ミリもないんやって)
故に残酷に
(どんなショボくれた人なんやろ)
他者を見下す存在に
(どんな惨めな顔しとんのやろ)
なる筈だった。
廊下の角を曲がる前に部屋から聞き慣れない音が聞こえる。
どうしても気になり直哉は本来の目的よりもそちらを優先し襖を開けてしまった。
其処には直哉が見下す分家の術師のない出来損ないの子供達がテレビを囲んで何かを見ていた。
「何見とんのや」
直哉がそう言うと直哉の存在に気づいた分家の子供達は顔を青ざめ頭を畳に付ける。
直哉は舌打ちした、質問にすら答えられないクズ共に。
直哉は手前の分家の坊主頭の子供の襟を掴みながら言う。
「答えろやカス」
涙目になりながら坊主頭は答える。
「か、仮面ライダーでず!仮面ライダークウガ!」
聞き覚えのある名前だった、ガキ向けの下らない娯楽番組。正に出来損ないのカス共が見るのに相応しい番組だろう。
「はっ、カスらしくカスみたいな趣味しとんな」
何時もの直哉ならそのまま立ち去っただろうが今日は何故かそのまま周囲の出来損ない共を退けてテレビの前に座った。
精々下らないカス番組を嗤ってやろうと
しかしその思惑はまたたく間に砕かれることになる。
長野県で謎の古代遺跡で発掘された謎の遺物によって古代の怪物【グロンギ】が目覚め殺戮の遊戯を開始しそれに巻き込まれた何処にでもいる2000の特技を持つだけの一般人が腹に古代遺物の一つのベルトを取り込んでしまい古代の超戦士【仮面ライダークウガ】となり弱々しくも立ち向かっていく姿に何故か直哉は目を離せなかった。
「………」
声が出なかった、初めて魂の底から震わされる様な感覚だった。
今まで強さとは絶対的な力だと思っていた直哉の価値観が崩れていくようだった。
自分よりも強い相手に立ち向かい
自らを犠牲にし
誰かを守ろうとする
その姿を直哉は弱者だとカスだと吐き捨てる事は出来なかった。
直哉は無言で立ち上がると周囲の出来損ない共が不安げな視線を向けていることに気づいた。
直哉は舌打ちをして部屋から出てドカドカと足音を立てながら廊下を歩いていた。
(なんや!あのカス番組は!)
直哉は内心で悪態をつく
(偶々遺物に適応出来ただけやろ!あんなの借り物の力や!絶対にあんな奴が強いなんて認めへん!)
お気に入りの扇をうぐいす張りの廊下に投げつけ昂る気を鎮める。
それで仮面ライダーについて考える事は辞めた筈だった。
それだと言うのに日曜に近づく程、直哉の心は仮面ライダーの事で埋め尽くされていた。
直哉は日曜の七時半、自分の部屋にあるテレビのチャンネルを決して仮面ライダーを観るつもりでは無いが◯レ東に合わせる。
そして部屋の畳で寝そべっていると何故か仮面ライダーが放送され始めたので仕方なく【見てやる】ことにした。
そんな事を直哉は日曜になる度に行っていった。
時には主人公の葛藤に胸を熱くさせ。
(なんでや…!なんで見逃すんや…!ソイツは人殺しの怪物や!分かりあえるはずがないやろ!)
残虐なグロンギの殺戮の遊戯に腸を煮えくりかえし
(ドブカスがぁ…!)
主人公の苦しみを分からずに主人公を責める無能な連中に怒り。
(なんでや…!必死にコイツが守ってきたのになんでそない非道いこと言えるんや!人の心とか無いんか!)
強大な力の代償を背負いながら立ち上がる主人公、そしてそれを支える人々の姿
決して美しい英雄譚ではない
一人一人が紡ぐ歪な想い
直哉にはそれが何よりも美しく見えてしまった。
多くの挫折を傷を経験しながら
果てしない戦いの末に
どこまでも純粋で深い闇をその歪な想いを胸に討ち払った主人公
しかし歴史には残らない戦い
それでも知っている人たちがいる。
そんな物語。
2001年1月21日
全てを終え旅人に戻った主人公の姿をうつして物語は幕を下ろした。
そしてその物語に直哉はどうしようもない程、焦がれてしまった。