WORLD END SCRAPYARD~ 廃棄された多元世界で治安がヤバイ女たちと悪運だけで硬派に生きてる   作:Schuld

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 オーガの少年、名はシャシュトゥといった。

 

 彼の部族では三五を成人とするため――平均年齢は一五〇ほどだという――ハジメよりは大分年上だが、まだ大人の証明たる髭も生え揃っていないことも相まって少年であることに違いはない。

 

「で、俺に弟子入り? 何を思ってだ。見ての通り剣なんぞぶら下げてないし、白兵戦は手習い程度のモンだ」

 

 ハジメは跪かれたままだとやりづらいと、半ば強引に隣の席に座らせたオーガを眇めに見やった。それにしても、身長差がありすぎて首が痛いと思いながら。

 

 彼は見ての通りガチガチの前衛だ。まぁ破片程度なら防げるであろう煮革の鎧、シヴィラツィオでは持ち上げることも困難そうな厚みの長剣。露出した部分に走る無数の疵痕からして、前線の生物であることに違いはない。

 

 何よりもオーガとは〈大柄〉な種族であるため、ハジメ達が得手とする文明の利器を扱えない。それ故、銃を持てるがため棄てられる前の世界では地位が低かった〈小柄〉なゴブが台頭したのだ。

 

「教えられる物があるかどうか……」

 

「ウチの部族の教えなんです。どれだけの戦場にいても最後に立っているヤツことが最強だって」

 

「あん?」

 

「だとすると、あんな状況で生き残れる戦士は他にいません。ケチを付けたヤツまで死んだ! だから、師匠は俺が知る限り最強の戦士なんです!」

 

 熱弁されてもイマイチ理解ができないハジメであったが――あと弟子入りを認めた覚えもない――けれど、まぁ屈強な前衛は使い道があるかとも思った。

 

 オーガは武の種族だ。

 

 トロウルと違って高度な知性を持ち、同時に小口径、22口径や38口径くらいならば急所に当たらねば耐えるだけの屈強さがある。逆側に座らせたナナが持っているような鉄パイプであれば、たとえ百叩きにされたところでケロッとしているだろう。

 

 一方で、その巨体ならではの前方投影面積によって射撃戦となると、途端に弱い。

 

 威力に特化し、時に大型のミュータントでさえ葬り去るアーモリー・リボルバーの一撃は勿論、ナナが買ったトラップドア・ライフルでも当たり所が悪ければ即死するだろう。巨躯の割りに俊敏に動けはするが、それも白兵武器の方が早く届く距離で戦えばの話であり、50mも距離を空けられれば鴨撃ちだ。

 

 だが、殴り合いであれば、オーガはこの世界でトロウルと同率一位だ。

 

 錬磨した武を携え、10kgを優に超える長剣をブン回す筋肉の塊が大暴れしたならば、たとえ上等な防弾プレートを装備した兵士とて雑草を刈るのと同じように払われる。

 

 近接戦闘にさえ持ち込めれば、正にオーガは比類なき戦士と言えた。

 

 しかしながら、雑多な世界が棄てられて、ケオスのごった煮となったスクラップヤードにおいては、それこそが難題なのだ。

 

 彼を白兵戦の間合いにまで送り込めれば勝ち確といってもいいが、前提があまりに難しい。

 

 そして、普通に射撃戦によって生き残ってきたハジメには、オーガに適した戦法など思い当たらぬ。

 

「そう言われてもねぇ……剣術の勝手なんて体育の剣道くらいでしか……」

 

「自分が知りたいのは生き残り方なんです。戦士は最後の最後まで立っていたヤツが勝者なんです。それで、このクソ溜めみたいな世界で〝イモータン〟なんて呼ばれてるんなら、最強の戦士って訳じゃないですか!」

 

「そんなもんか……?」

 

 ふーむと椅子を漕ぐハジメであるが、ここまで言われるとどうにも弱い。特に一度命を拾ってやった相手ともなると、さっさと失せろと無碍にするのも気が咎める。

 

 何よりも、シャシュトゥは諦めが悪そうだ。自分とここに居合わせるまで、戦士としては屈辱に他ならないであろう床磨きまでやって待ち続けたが我慢強さ。

 

 そして、この思い込みの強さは、一度や二度蹴ったところで折れてくれるだろうか。

 

 多分、否だろうなと思いつつ、ハジメは煙草を咥えた。

 

「どうぞ!」

 

「……悪いな」

 

 するとどうだ、オーガの戦士はポケットを探っている間にマッチを取りだして火を付けてきたではないか。簡単に作れるため――といっても、製造者の健康を度外視した黄燐製だが――安価に手に入るマッチなれど、シケモク一本と一箱が等価であることを考えれば、食事代を一食分、自分のために使わせたに等しい。

 

「あー……」

 

「連れてってやれよ」

 

 客同士のことには滅多に干渉しない店主が言い、ハジメは素直に驚いた。

 

 このジジイ、人間関係に気なんて遣えたのかと。

 

「客でもねぇデケぇのが居座ってると邪魔でしかたねぇ。それにこの木偶の坊、お前さんが来るまでにモップを三本も折りやがった」

 

 が、それは気遣いではなく、シンプルに邪魔だっただけのようだ。実際、誰が掃除なんてするんだと思うような有様に用意されたモップは、オーガの力に耐えきれる構造をしているはずもなし。それは慣れもしない掃除をすればへし折れもするだろうとも。

 

「……しゃーねーなー……」

 

 バリバリと頭を掻いて、ハジメは彼を仲間にすることを決めた。

 

 酒の味は酷いし、環境も最悪だが、ドンパチをやらかして何人死なせても出禁を喰らわない店は貴重なのだ。そこの店主に嫌われても仕方がないので、多少の鬱陶しさは嚥下することにしたらしい。

 

「次の仕事付き合え。強面が役に立つこともある」

 

「うっす! ……って、強面?」

 

「ああ、イカツい面は立ってるだけで威圧感があらぁな」

 

「……俺、部族の中じゃ童顔だって笑われてたんすけど」

 

「「……マジ?」」

 

 ハジメとナナの声が重なった。

 

 巌のようにゴツゴツとした輪郭、落ち窪んだ金壺眼の下でギラギラと光る金の目と、親指ほどはあるぞろりと長い下顎部の牙。鋼色の短い髪を後ろに流し、小さな三つ編みを作った姿はシヴィラツィオとサバイバーズの価値観からすれば、巨体も相まって威圧感が凄まじい。子供ならば、鉢合わせした瞬間に泣き出すであろう。

 

 しかし、事実としてシャシュトゥの容姿はオーガからすれば子供っぽい。髭が生えるのが遅くて顎がつるりとしているのもあるが、もっとゴツゴツと頬骨が張っていたり、顎が二つに分かれていたりするのが男らしさとして好まれる。あとは、牙の長さももう少しある方が、獰猛だとして好かれる。

 

 その何れも持ち合わせていない彼は、正に童顔ではあるのだ。

 

「イカツいとか初めて言われやした」

 

「……まぁ、お前の自認がどうあれ、交渉の場面では役立つって覚えとけ」

 

 やっぱ違う種族の価値観は分からねぇなと思いつつ、ハジメは支度金として煙草を二十本ずつ渡した。シャシュトゥは固辞しようとしたが、最低限先輩である自分が後輩を使う以上の筋だと言えば、その手の拘りに理解があるらしい彼はきちんと受け取ってくれた。

 

「じゃ、結成を祝って乾杯と行くか。マスター、マシなのを頼むぜ」

 

「あいよ」

 

 こつんと並べらられるショットグラスに隻眼の店主は欠けた指で、危なっかしくアルコールを注いだ。

 

 正しく、酒ではなくアルコールと呼びたくなる物だ。

 

 今度は何を蒸留したか分からないが、濁った水のような液体から目を刺すようなツンとした物が上がってくる。

 

 ただ、他の客も文句を言いながら飲んでいるあたり、作るのに失敗してメチルアルコールになったような代物ではないのだろう。

 

「じゃ、乾杯」

 

「……乾杯」

 

「乾杯!」

 

 ぐっとグラスが傾けられ……ぶふっと吹き上がり、小さな虹が二つ。

 

 酒精のきつさと拙さに負けて、ニュービー二人が盛大に吹き出したのだ。

 

「なにこれ!? 舌っ、舌が抉れる!?」

 

「ぐぁぁぁぁ!? 喉がっ、喉が!?」

 

「なんでぇ、割とマシな出来映えだぞ今日のは」

 

 ハジメも〝酷い味〟だとは思うが〝呑めなくもない〟と芋を醸造したウォッカの遠縁らしき――これをウォッカと呼ぶのはカルカロフが許さないだろう――液体を呷って、まぁこんな物かという顔をする。

 

 その晩、二人はほんの少し呑み込んだだけでも相当に酷い悪い酔いをしたため、仕方なしにハジメが〝安息の枕亭〟に放り込んでやったそうな。

 

 それから二日、同じ酒場で本当に仕事が来るのかと並んでい待っていると、酔客達の雰囲気が変わった。

 

 上等なお仕着せを着た男が三人。構成はオーガが一人、シヴィラツィオが一人、かなり生身パーツの多いフラグメンテ・マキナが一人。

 

「ハジメ様」

 

「ハイランダーの遣いか。待ってたぜ」

 

 恭しく頭を下げた彼等は、ハイランダーの子飼いだ。この煤けた街の中でも品位を失わないために上等な服を着せられた彼等を見間違う者はいない。

 

 この間はたまたまクインを捕まえたようだが、今日はハジメが酒場に屯している情報を仕入れたのか、態々向こうからやって来たようだ。

 

「行くぞ」

 

「う、うっす」

 

 緊張したように立ち上がるシャシュトゥと、警戒して無言のナナを引き連れ訪れたハイランダーの館。

 

 しかし、今回は彼女の部屋ではなく、控えめな応接間に案内され、そこには伯爵と呼ばれているシヴィラツィオがいた。

 

「お召しと伺い参上仕りました、伯爵」

 

 古風なフルプレートアーマーを私服のように着こなした、豊かな髭と波打つ黒髪が麗しい武人を前に深々と腰を折ったハジメは、座るように促されたが、一度は断る奥ゆかしさを見せた後、二度目の指示に従って長椅子に座った。

 

 ただ、シャシュトゥは〝サイズが合わないせいで〟立ったままになってしまったが。

 

「我等が麗しの天上人様はいかがなさいましたか?」

 

「今は〝お楽しみ〟の最中だ。混じりたいか? お前なら三日、いや五日は出てこられんぞ」

 

「ああ……」

 

 色々察したハジメは深く聞くことはせず――よくお誘いを受けるが断っていることもあったし――差し出された物を見た。

 

「パッチ?」

 

 目の前に置かれたのは一枚のシートだった。掌大の大きさをしており、つるりとした表面は白く艶やかだ。裏面は薄らと青い色を帯びており、使う前に粘着力を落とさないために科別のシートが貼ってある。

 

 ハジメにはこれが棄てられる前の世界で、父親が使っていた低周波治療器のパッドにしか見えなかったが、本体に繋がるコードは見えない。

 

 となるとフラグメンテ・マキナの世界からもたらされた超技術の治療用具かと思ったが、それならば態々見せたりはするまい。

 

「これはヒロイック・チケットと呼ばれている」

 

「幸福の招待状? それまた大仰な」

 

「電子麻薬だからな」

 

 聞いて、ハジメは嫌な物を触ったとばかりに机に投げた。

 

 こんな世界に堕ちて来ても、彼は少なくとも麻薬には触れずに来た。注射器で血管に流し込むような物から、魔法的な物、電子的な物すべてにだ。

 

 それは元の世界で培われてきた本能的な嫌悪もあるのだろうが、スクラップヤードでそれに溺れたら最後だという自覚があったからだろう。

 

 実際、名うての傭兵であっても、煙草の使い道に飽いた末、薬に溺れて腕を錆び付かせ、道端の死体に成り果てていった例は枚挙に暇がない。

 

 こんな長生きすることが楽しいと思えない巷であっても、斯様な死に様は御免だと思うハジメには、全く近づきたくないものであった。

 

「なんでそんな物がアーモリーに……」

 

「出所は依然不明だが、アド・イティレネから流れてきていると思われる。フラグメンテ・マキナ共が電脳にインストールするソフトを改造した物で、人間の報酬系を無理矢理に刺激して快楽を引き出すそうだ」

 

「そりゃまた悪辣な……」

 

 フラグメンテ・マキナの多くは電脳と呼ばれる電算機を脳に搭載しているため、PCのソフトのように知識をインストールすることで技能を習得でき、世界が棄てられる前は必要に応じて、その場でゼネラリストにもスペシャリストにもなっていたそうだが、スクラップヤードでは彼等しか使えないため価値が低い物だった。

 

 しかし、これはその原理を根底に置き、電気刺激によって様々な種族の脳にある報酬系などを刺激。猛烈な快楽を外的刺激によって生み出すそうだ。

 

「だが、二等品もいいところだ。ハズレが多すぎてはな」

 

「ハズレ……ってことは、致死率が高いと?」

 

 問いに伯爵は、厳かに頷いた。

 

 巷に出回り始めたこの薬、市場の幾つかを席巻しているそうだが、まだ大分造りが甘い。

 

 様々な種族に適応させる途上。ベータ版のような代物らしく、使用者の中にはニューロンが焼け付いて廃人になった者もいるそうだ。

 

 あまりに危険である。こんな物が経済圏に紛れ込み、まかり間違って蔓延して、そこら中で口から煙を吐いた死体が量産されては堪った物ではない。

 

「これの出所を探ると同時、対処療法でも構わないから潰せるだけ潰せ。麻薬で街が汚染されるとやりづらい」

 

「畏まりました。私もこんな物が寝床にしている街に蔓延っては、枕を高くして眠れませんからね」

 

 故に街の安堵をハイランダーから託されている伯爵は、これに対処するべく信頼できる傭兵を内々に雇って、邪悪な麻薬ビジネスを叩き潰そうとしているのだ。

 

「覚えを幾つか当たって探りを入れます」

 

「ああ、報酬は基本給で煙草十本用意した。上物をだ。仕事によってはボーナスを支給しよう」

 

 その気前の良さにナナとシャシュトゥは驚いた。シケモクではない煙草十本。普通では中々お目にかかれない大変なものではないか。

 

 そして、ハジメはそれに驚きもしない。むしろ、厄介事の規模に対して当然だと言わんばかり。

 

「行くぞ」

 

 この界隈、煙草の量と質は、仕事の難易度、つまり死の危険と正比例する。

 

 もしかして自分は大変な男に目を付けられたのではないかと、二人は今更になって気付いた…………。

 

 




というわけで今回はシティランです。初心者講習としてはお約束ですね!
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