WORLD END SCRAPYARD~ 廃棄された多元世界で治安がヤバイ女たちと悪運だけで硬派に生きてる   作:Schuld

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「ハジメ、そんな無茶してたらアンタ、マジでその内に死ぬよ」

 

「何だよ今更」

 

 場所はアーモリー中枢部間際。アンの工房。

 

 そこでハジメは、60グレインものダブルベース(コルダイト)火薬を詰め込んで、二度もブッ放した愛銃にガタが来ていないかの点検に訪れていた。

 

 彼も銃の整備に慣れてはいるが、親方として扱われるフィッターほどではない。それ故、手指の延長となった愛銃の微妙な肌感覚でさえ違和感がなくとも、産みの親に里帰りさせて調子を伺いに来ていたのだ。

 

「言って無茶なカスタムじゃなかったろ? お前の腕前とマスター・ロールスビーの仕事を信頼してるし、敬意も払ってるんだぜ」

 

 受け取ったアーモリー・リボルバーを器用にガンスピンし、重心の感覚を体に馴染ませる。それを虚空に投げて左手の中指で受け取って、逆方向に回転。こちらも狂いなく、左右どちらの手であっても狙いを付けられることを実感し、イモータンは愛銃の絶好調さに顔をほころばせた。

 

「アンタの守護天使のこっちゃないよ。たしかに元の、この世界に棄てられて来た時のアーモリーが作ってた酷い鉄の……オールド・ウォーカーなら銃腔破裂で死んでたろうけどね」

 

 アーモリー・リボルバーの歴史は長い。棄てられて来た無人の工場をペルディトゥスのドワーフたちが見つけ出し、そこに様々な技術屋が集結してブループリントのみならず、数十挺の納品を待っていた〝お手本〟も保存されていたのだ。

 

 だが、それはお世辞にもできの良い物ではなかった。

 

 使っている鉄の質は甘く、鍛造も荒くて密度が低く不純物も多い上、フィッティングも雑としかいいようがない。恐らく、大量生産の弊害であろうが、ドワーフの職工達は自分達ならば〝完璧な物が造れる〟と思い至り、今のアーモリー・リボルバーに昇華された。

 

 年間百挺ほどしか作られない理想の逸品を素体とし、その中でも親方作品という例外を使っての暴挙。

 

 しかし、問題はそこではない。

 

「アンタ、何と戦ってんだい。そんな弾ぁばっか使う相手と戦ってたら……」

 

「俺は天下のイモータンだぜ。バッドラック、ハーフデッド、色々好き勝手言われてるしな」

 

 そんな俺に何を今更とガンスピンをやめて、ショルダーホルスターに愛銃を帰巣させるハジメ。

 

 しかし、その姿を見てアンは溜息を吐くばかり。

 

「そんな今にも泣きそうな面で、自分の二つ名を並べる傭兵がいていいもんかい……」

 

「……俺ぁそんな面してたか?」

 

 ポカンとしてみせるハジメに、自覚がないあたりいよいよ末期だなとガンスミスは頭を振った。

 

 不死身、不運、そしてくたばり損ない。

 

 それらは全て蛮勇と戦歴を誇る傭兵からすれば誉れ名であろうが、ハジメにとっては最早忌名でしかなかろう。

 

 彼がそれだけ生き急ぐ、いや、死に急ぐ理由なんてアンは知らない。

 

 所詮はただのガンスリンガーとガンスミスにすぎないのだから。

 

 だが、この男からは生に倦んだ臭いがするのだ。

 

 普通なら、ここまで行けば弾の詰まった弾を頭に添える。

 

 だが、彼は〝それをして尚も死ねなかった男〟だから、今もこうして立っている。

 

 今更首を括ったとして、どうこうなるものでもなかろう。なればこそ、これならば死ねるのではと思って鉄火場に実を投じる。そうとしか思えない生き方は、生き残るための武器を作るガンスミスには痛々しくてならなかった。

 

「今にも泣き出しそうなガキみたいな面してんよ、アンタはいつもね」

 

「……そうかねぇ」

 

「特にコイツを研ぎに出した後はね」

 

 言って、アンは一つの包みを卓の上に滑らせた。

 

「ああ、コイツも仕上げてくれたのか。助かるよ」

 

「研ぎは専門に任せなよ。ったく、セラミック刃なんて神経削ってたまんないね」

 

 ハジメが取りだしたのは一本のフルタングナイフだ。茎から刃まで一体化した頑丈さ特化のナイフであり、片刃の無骨なシルエットを描くそれは鋼ではなく、特種硬質セラミックによってできている。

 

 〈サバイバーズ〉の世界から発掘された物であり、元は金属検知器を潜り抜けるために作られたのだろう。固定具も柄も全て木材がセラミックで構成され、故にこそ彼はあの娼館にボディチェックを潜り抜けて持ち込むことができたのだ。

 

 実用重視の使い込まれた黒檀性の木材には名前が刻んである。

 

 雑に掘られたそれはハジメの名前ではなかった。今となっては、由来すら分からない世界の文字で書かれた、彼だけが読むことができるものだった。

 

「うん、良い出来だ。何だかんだ言ってやってくれるから助かるよ」

 

「……物持ちが良いのは美徳だけどね、たまにゃ棄てることを覚えなよ」

 

 じゃないとアンタが重みで潰れちまうと続けようとしたところで、アンの口が止まった。

 

 虚のような目がこちらを見ている。

 

 ナイフを手に、指先で鋭さを確かめるように持った彼は、顔を僅かに傾けて下から覗き込むように逆光の中に立つ。

 

 そのザマがとても生者のように見えなくて、アンは一瞬息を飲んだ。

 

「何を持つかは、俺が、決める」

 

 影が言葉を吐き出した。低く、重く、地面に滴るような言葉。どろりと粘性を帯びているとさえ思えるそれは、折れた魂から流れる血のようだ。

 

 しかし、冷たく冷えてはいない。熱く、触れれば滾るようだ。

 

 彼は折れた心を叩き直して、積層構造にして無理矢理形を保っているのではないかと、鍛冶もやっているアンは思った。

 

 幾重にも折り返されて、叩いて叩いて不純物を取り除いた鋼。それを幾度繰り返せば、こんな模様になるのだろう。

 

「……分かったよ。好きにしな」

 

「お前さんが、深入りしない気質でよかったよ」

 

 ナイフが鞘に収められ、固定具のパチンと留まる音が世界を切り替えるように塗り替えた。ハジメは何事もなかったかのように、いつも通りの半眼で顔を上げる。しかし、光の加減によって石榴石のような色合いをしたヘーゼルの目は、鈍い赤のままだった。

 

「オタクくん、いる?」

 

 さて、どうしたものかとアンが思っていると、正に場の悪い空気を入れ換えるように扉が開いた。

 

 ナナだ。彼女は寝ているトリニティを起こして――特定の方法のノックがされれば、彼女は部屋の外からでもスリープモードを解除する――行き先を聞いてみたところ、今日はここに行く予定だったと教えて貰ったのだ。

 

「ん? なんだナナか。お前、よくここが分かったな」

 

「トリニティさんから聞いた。って、うわ、凄い店……銃だらけ……」

 

「いらっしゃい、新しい小さなお客さん」

 

 話題を変えるのに丁度良いタイミングで訪れたお客に、アンはサービスしてやりたい気持ちになったが、どうやらそれをするにはまだ早そうだ。

 

 武装は棄てる機会を失ったのか、未だにスクールバックに括り付けた鉄パイプ。それから、明らかに適応品ではなさそうな背負い紐を通したトラップドアライフル。手入れはそれなりに行き届いているし、モノ自体もそこまで悪くないが、まぁシケモク十本で買えるような発掘品であろう。

 

 まだまだ、部品一つ一つがハンドメイドの工房でお客と呼んでやるには立場が届いていない。

 

 ここでは一番安い、中折れ式の散弾銃でさえ上物煙草二十本するのだから。

 

 その代わり、製品保証付き。部品は全て調整して、銃弾の不良以外での不発があれば全額返納というプライドを掲げての商売だ。ナナがここでの銃を手に入れるのには、まだまだ仕事の積み重ねが足りないだろう。

 

「で、なんだ。仕事か?」

 

「ああ、うん、ハストゥール……さん、から」

 

「……くそ、今日は矢鱈と黄色が目に五月蠅いなと思ったら、それかよ」

 

 ハジメは一つ舌打ちをして、頭を掻いた。

 

 道端で見かけた空のパッケージ、珍しく道端で逞しく咲いた花、それから爪が割れることを防ぐためにアンがしているネイルアート。どれも黄色だ。

 

 朝からどーにも嫌な予感はしていたのだ。しかし、その由来がアーモリーでもカルカロフに勝るとも劣らぬクセの強い女だとは。

 

「まぁいい、受けちまったらしかたねぇ」

 

「なんか、トリニティさんかオタクくんを連れてくのがいいって」

 

「あん? じゃあトリニティでもよかったじゃねぇか。アイツも暇してたろ」

 

 他の彼女なりに尊敬に値する相手がさんづけなのに、自分はオタク〝くん〟なのがちょっと腑に落ちなかったハジメだが、訝るように問うだけで済ませた。前も聞いてみたが、オタクくんはオタクくんでしょ、などと答えになっていない答えが返ってきたから。

 

「トリニティさん、まだ左腕のサーボモーターが馴染んでないって」

 

「ああ、そういやイジったんだっけ。ナノマシンが定着するまで云々言ってたな」

 

 少し前のマイセリウム・メサイア事件の報酬は大きく、トリニティは意気揚々と適合する声帯パーツがないかとハジメを引っ張って市場に出かけた。

 

 しかし、結果は賽の目の具合が悪かったのか全滅。仕方なしに、ガタが来ていた左腕部の関節部品を交換するのに留めたようだ。新しい部品は全く企画が違う物を何とか適合させるため、極小機械群で侵食する必要があり、しばらく腕を動かさない方がよいと彼女は自身の診断プログラムから察した。

 

 それ故、大人しくしていることを望んだようだ。

 

 そして、お鉢が回ってきたハジメは、また面倒な案件だなと眇めにルーズリーフを見やった。

 

「なるほど、何人か知った面がいるな」

 

「えっ、マジ?」

 

「ナナ、お前も顔を覚えるようにしとけよ。傭兵の流動性は高いが、腕の立つヤツは覚えておいた方がいい」

 

「わ、分かった……」

 

 じゃあ行くかとハジメはアーモリー・リボルバーの座りをたしかめて、アンの工房の出口に向かう。ありがとうよと感謝のために手を振りつつ。

 

「いや、行くって何処に? 死体って普通にそこらに棄てられるんじゃ?」

 

「モルグだよ、モルグ。死体置き場って言った方が分かりやすいか」

 

「へっ!? えっ!? そんなのこの街にあるの!? 溝に叩き込んで終わりのスクラップヤードで!?」

 

 一応、スクラップヤードにもモルグはある。焼却炉が備わったそれは、生前の意志に従って荼毘に付してもらいたい者が、予め金を払って自分の葬儀を用意する風変わりな場所だ。

 

 また、それ以外に高品質の義肢を埋め込んだ名うての傭兵が死んだ場合、運び込んで部品を解体して得ようとする目的もある、決して慈善事業でも穏やかな葬儀屋ではない。

 

「陰気くさいところだが、死人のことは死人としゃべくってるヤツに聞くのが一番だ。お前も場所くらい覚えとけ。知り合いが消えたと思ったら、ここで寝てることなんてザラだぜ」

 

「……うん」

 

 邪魔したなと去って行く背を見送りつつ、ありゃどうしようもないとアンは諦めを混ぜて溜息を吐いた…………。




ハジメくんの心は折って追って、重ねて叩いて鍛えてあります。

遅くとも、また来週には更新いたしますのでご期待あれ。
コメントなどお待ちしております。
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