WORLD END SCRAPYARD~ 廃棄された多元世界で治安がヤバイ女たちと悪運だけで硬派に生きてる   作:Schuld

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 黒金の槌亭。アーモリーで唯一真面と言って良いホテルには様々なルールがある。

 

 武器の携帯禁止などから、紳士淑女として振る舞うことまで。

 

 それは様々な形で客を縛るが、同時に護りもする。

 

 払暁よりしばし。何処の世界からか調達してきたカーテンが朝日を遮っている暗闇に小さな鈴の音が鳴った。

 

 外部と紐で接続されている呼び鈴であり、これの鳴らし方は従業員しか知らない。

 

 つまり、何があっても客を裏切らない人間だけが、外から扉を開けてほしいと促すことができるのだ。

 

「……どうぞ」

 

 浅い微睡みの中にあったアドラー。王位継承権八位の大貴族であったことを拠り所とし、今もなお、そう振る舞っている奇人が絹の寝具より体を持ち上げた。

 

 編んでいない金髪がさらりと黄金の川が滴るが如く裸身を撫でる。

 

 トワイラは一糸まとわぬ姿で眠っていた。古色蒼然とした、このスクラップヤードでは着ていること自体が滑稽でさえあるドレス。それの締め付けからは寝ている間くらい逃れたいのが人情というものである。

 

「失礼いたします、トワイラ伯」

 

「ガベイル、珍しいわね。なにかありまして?」

 

 寝ていたことで僅かに首元に絡んでいた髪をさらっと流し、裸婦画に腕の覚えのある画家に絵筆を折らせ、裸婦像でたしかな実績のある彫刻家に鑿を捨てさせるほど、美しく整った体を惜しげもなく晒しながらトワイラは体を滑らせて、寝台に浅く腰掛けた。

 

 そして、ベッドサイドに置いてあった象牙と銀のシガーホルダーに煙草を突き刺せば、心得たとばかりにゴブが跪いて火を付けた。

 

 彼女に恥じらいはない。何故ならば、使用人とは家具のような物だ。無機物に裸身を晒して恥ずかしがる者がいるだろうか? いたとしたら、それは相当な変態か無機物性愛者のどちらかだろう。

 

「朝の身繕いにお邪魔して申し訳ありませんが、お手紙が届いております」

 

「そう」

 

 ガベイルの後ろにはアドラーとシヴィラツィオの給仕がカートを押しながら続いており、その上にはぬるま湯を注いだ桶やタオルが置いてある。

 

 ルームサービスの一つだ。一度でシケモクではない煙草一本。これが彼女のモーニングルーティーンだった。

 

 全く以て贅沢な煙草の使い方である。世の中には食い詰めて、酷い味のする食料を囓り、場合によっては喉が爛れて死ぬかもしれない水を飲んでいる者もいるというのに。

 

 専門の教育を受けている給仕達に顔を洗われてから、優しく毛足の長いタオルで顔を拭われ、さっぱりとしたトワイラは手紙を受け取り、その長い爪で蝋印を破った。

 

 そして、中にある手紙を開けば、あるのは一枚の紙に〝真っ黒な手形〟が捺されただけの、手紙とも呼べないもの。

 

 しかし、それだけで彼女は全て納得したのか、頷いて畳んだ。

 

「着替えを。それと朝餉は軽い物でかまいませんわ」

 

「畏まりました」

 

 恭しく腰を折った誇り高きドアマンを見送って、トワイラは煙草の煙を吐いた。

 

 まぁ、鬱々しくて好みの連中ではないが、煙草の払いは良いし、敬意を持ってこちらを遇してくるのは悪い相手ではない。

 

 ただ、その秘密結社らしい有様は、少し気に食わないところがあるが。

 

 朝食に蜂蜜とたっぷりのクロテッドクリームを添えたスコーンを味わい、発掘品のパック紅茶を楽しみつつ優雅な時間を過ごしたトワイラは、昼頃、ガベイルに見送られながら愛剣を佩いて市街に出た。

 

 そして一人で仕事をするのもなんなので、弾除けを確保しようといつもの酒場を訪れたが、残念ながら残っているのは反りの合わないデルタだけだった。

 

「あら、今日は痩せ犬だけ? ハジメは?」

 

「さぁな。オレはあいつのナニーじゃねぇよ」

 

 揶揄を軽く受け流しつつ――しかし、しっかり怒りは覚えているらしい。斧に手を添えているのがデルタ流だった――店主力作の酷い味がする酒を飲んでいたデルタ。その隣は空席で、店主も行き先は知らないと首を振った。

 

 当人はいつも探すのが面倒くさいと言って愚痴っているが、ハジメはハジメで個人的にお声の掛かることの多い傭兵だ。あっちで新人共を纏めて欲しいとか、センシティブな調査をしてほしいとか、取りづらい球を方々から放られて忙しくしていることもある。

 

 これといって言伝を残さず姿を消したということは、今もまた、普通の傭兵であれば依頼するのが面倒な案件に当たっているのだろう。

 

「まぁ、貴方でもいいですわ。ちょっと付き合いなさいな」

 

「仕事か」

 

 それ以外なら絶対にお断りだと含みのある言葉に、トワイラも仕事でなければ誰がお前を余暇の楽しみなんぞに誘うかと鼻を鳴らした。

 

「例の教会でしてよ」

 

「ああ、あすこか。なら話が早くて助かる」

 

 じゃあ行くかと酒場を出て行く背中を見て、誰かが呟いた。

 

「ヤベーぞ、アーモリーの二大暴力装置女がブレーキなしで出て行っちまった」と。

 

 今日外出しようとしていた者達は“急に気分が変わって”塒に引き上げ、仕事を後回しにできる者はそうした。

 

 それ以外の者達は姿勢を低く、そしてゆっくりと銃把に手をかけながら道を歩くこととなる。

 

 さて、そんなことも知らぬ二人はとある鉄扉が壊れた暗渠から地下に入った。そこには転々と蝋燭が焚かれており、定期的に殺鼠剤が撒かれているのかツンと嫌な臭いがする。

 

 陰気ではあるが、有り触れた下水道は近代的な造りでコンクリートの地肌が剥き出しである。

 

 ゆるやかに、しかし確実に深くへと潜っていく道を歩くこと十数分。急に道の雰囲気が変わった。

 

「陰気ですわねぇ」

 

「ただの興味本位を追い返すにゃちょうどいいんだろ」

 

 道々に頭蓋骨が転がっている。様々な種族の肉が剥がれ落ち、君の悪い白さや黄ばみを見せるしゃれこうべ達は、無言で来る者を威圧する。

 

 その密度は進むにつれて増していき、遂には壁を囲むように装飾しているではないか。積み上がった頭骨が壁を為し、隙間を他の骨が埋めていく。下水道は、いつの間にやら悪趣味なカタコンベへと様相を変えていた。

 

 その最奥に一つの建物が鎮座している。元は雨水を溜めるために作られただろう、飛び石のような通路がなければ脛まで汚水に浸かりそうな不安定な場所にそれは立っていた。

 

 古びた教会のような、聖堂のような、何とも言えない造りの建物だ。様々な様式を混ぜた上、割らなかったような歪な造りは厳かなれど異様さが目立つ。

 

 その上、焚かれている篝火は何の原理か紫色に揺らめいていた。

 

 看板もシンボルも掲げていない。

 

 しかし、この訪れたこともなければ、見たこともない建物の名を知る者はアーモリーに多い。

 

「さてと、ようやく着きましたわね」

 

「今日も盛況なようで何よりだ」

 

 罪と責任の教会。

 

 この地において、仇討ちのみを斡旋する変わったフィクサーがいる地であった。

 

 飛び石を渡って入り込めば、酷く濃い血の匂いが教会に立ちこめていた。

 

 広いホールで晒し者にされた、死ぬに死ねぬ有様になった様々な人類が磔台に固定されて責め苦から立ち上る、芳醇にして生臭い復讐の色香。

 

 彼等の首には、一様に看板が提げられていた。

 

 不思議な文字。どこの世界とも類似性がないが、一瞥すれば〝識字能力〟がない者でさえ意味を理解させる、紫色に淡く輝く象形文字だ。

 

 ある者には「私は戦友を見捨てました」と書き記した板が吊されている。

 

 隣の人物には「謂れのない密告で友人を戒めました」と書かれており、更に隣の女性は「夫を裏切り酷く貶めました」と記してある。それを囲むようにして〝下半身〟を酷く痛めつけられている男達の背には「私達は姦淫者です」と流血が止まらぬ傷で刻み込まれている。

 

 ありとあらゆる〝裏切り〟の罪がそこに書かれていた。

 

 正に罪と責任の教会だ。ここでは全ての裏切りに対する仇討ちが斡旋され、それに相応しい〝使徒〟を差し向けるべく調査が行われる。

 

 そして、仕事が果たされて尚も満足がいかなかった場合、ここで〝永劫の贖罪〟に晒されるのだ。

 

 決して死ぬことなく、手が休められることもなく、そして許されることもなく。

 

 ただ、期限が過ぎれば頭蓋を引き抜かれ、聖堂を飾る一部となって、死して尚も赦されることなく存在し続けることになるのだ。

 

「ようこそ、トワイラ様、デルタ様」

 

 ホールから奥に向かおうとすると、一人の女性が二人を出迎えた。

 

 その何とも形容しがたい有様を、人種に当てはめるのであれば〈フラグメンテ・マキナ〉であろうか。

 

 しかし、それを人間と呼んでいいものか。十人に聞けば、十人が人間と言うよりも機械に固定された部品だと答えただろう。

 

 愛らしい白髪の童女、その右目はカメラアイに入れ替えられており、肋骨のラインに従って切り取られた腹の代わりに、太いシリンダーと細い二本のシリンダーが支える腰椎が生えており、足は鳥のような逆向きの関節を描いている。

 

 一糸まとわぬ上体、その両腕は付け根から喪われており、右側には三本の作業用アームが備わり、左腕には中型の多砲身機関銃が据えられているではないか。更に右肩に担ぐようにして折りたたまれているのは、擲弾の発射筒であろう。左肩には、銃身を三つ束ねた超大口径のショットガン。

 

 正に人体を戦うためだけに拡充したような姿である。

 

「よう、ヴィント」

 

「ご機嫌如何?」

 

「我が主のおかげで恙なく過ごさせていただいております」

 

 彼女の名はヴァイサー・ヴィント。古い異国の言葉で白い風を意味する。

 

 有事となれば、その鳥足の逆関節からもたらされる凄まじい跳躍によって立体機動的な攻撃を行い、身体各所に埋め込まれたスラスターで圧倒的な暴を振りまく聖堂の守護者だ。

 

 そして、導かれたホールの奥、玉座の間というべきか、拝殿と呼ぶべきか悩ましい場所にそれはいた。

 

 黒い髪をした乙女。しかし、軽やかなヴィントとは対照的に、彼女はどこまでも重工であった。

 

 巨大な玉座の如き装置に磔にされた、二の腕と臍から先を削ぎ落とした上体。彼女も左目がカメラアイと置換されていたが、どういうわけか顎から下がなく、舌がダランと垂れている。

 

 肉体を固定する椅子の下部は履帯を履いた無限軌道。重厚な装甲板で守られており、肩の延長に位置する場所に固定式の大型チェインガンが物騒に煌めき、大口径弾が連なるベルトリンクが飾りのように輝いている。

 

 そして、両肩には何があっても揺るぎそうにない、重工にして巨大な盾がアームで畳まれていた。これを前面に展開し、地面に食い込ませれば、対戦車野砲でさえ虚しく表面を削るだけだろうという分厚さ。そして、支えきる圧倒的なペイロードを持った鉄量が突撃すれば、道を妨げた者は漏れなく粉砕されることであろう。

 

「フェルス、お前は相変わらず無口だな」

 

「そもそも口が訊けない相手には無粋なジョークですわね」

 

 彼女の名はシュヴァルツァー・フェルス。同じく、古い言葉で黒い岩を意味する。

 

 主の前に立ちはだかる巌として無言を貫く彼女は、皮肉も何も聞いているのか聞いていないのか、巨大な重機の腕が招き入れるように動した。

 

 そして、白と黒の極限まで戦うために拡充された、人間の業を戯画化したかのような二人が王座の間に着く者にひれ伏す。

 

 瞑目し、何も語らぬ主。その肌は青く、伏せられた目には白い刺青の縁取りが飾られ、側頭部から延びるのは獣の角か。また、耳も獣のそれであり、青い気と白い房が伸びている。

 

 楚々と膝をピッタリ合わせて座る姿は女性のようにも見えるが、このナリからしてそれはアテにならない。

 

 瞑目して口を噤んだナニカの前には、一冊の手帳が置かれていた。

 

「じゃ、片付けて参りますわ」

 

「払いはよろしくな」

 

 来客を瞑目無言で迎え入れ、何も言わずに送り出すその異形。

 

 名を名乗らず、語りもしないそれを、アーモリーの住人はただ〝罪と責任〟と呼び、畏怖していた。

 

 いつか、この存在が自らの名を仇討ち役のため、帳面に纏めてしまわぬように願いながら…………。




カルカロフにハストゥール出してんだから自分もNPC化しろよ、ということで満を持して自分がNPCフィクサーになってしまいました。従僕二人は完全な趣味です。
あと色々喋るとキャラが崩れそうだから無言です。なんやったら敵対してもいいんやで。

とりあえず私のNPCとしてのスタンスは、NTR、ダメ、絶対、です。
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