WORLD END SCRAPYARD~ 廃棄された多元世界で治安がヤバイ女たちと悪運だけで硬派に生きてる 作:Schuld
何処かの捨てられた世界に、牛刀を以て鶏をさばく、なる言葉があるという。
まぁ、要するに小事に大袈裟に当たったり、ちょっとした者に大それた道具を使うなと言う意味だ。
しかしながら、それは〝復讐〟という案件には適用されない。
応報は派手であればあるほどいい。相手が傭兵崩れどころか、街で鼻つまみ者のチンピラ集団であろうと。結果が分かりやすい物なら特に。
とあるアーモリー外れ。打ち捨てられた小規模な商店であったと思われる廃屋は、とある無頼の根城になっていた。
なんてことのない連中だ。粗野で、野卑で、ただ腕力には覚えがあるが、傭兵になるほどの気概も度胸もなく、ケチな盗みとカツアゲで食っている、どんな社会にも何故か一定数生まれる半端者。
正道を歩めず、さりとて悪にも傾くことのできない、いわゆる半グレ。
主な生計の立て方は強盗、カツアゲ、そしてポン引きからの
ちょっとした悪さに味を占めた彼等は、やってはいけないことをした。
それをあえて細かく列挙する必要はあるまい。
ただ罪と責任の教会、その帳簿に載るに値することをした。事実はその一点で十分過ぎる。
そして、此度の仕儀において〝罪と責任〟は徹底的な、それこそやり過ぎというほどの沙汰を下した。
デルタとトワイラの雇用だ。
言うなれば一罰百戒。派手に馬鹿がブチ殺されてくれれば、それだけ他の馬鹿が静かになる。
帰結として、本来不要であることが好ましい自分達の仕事が減る。
そのために牛刀を小魚に用いるのと同義であっても躊躇いはなかった。
轟音、そして炸裂。
この日、白昼堂々に廃屋に〝対戦車ロケットランチャー〟が叩き込まれた。
適当に「ここなら沢山死ぬかな?」という山勘でデルタが放ったそれは見事に壁を貫通。そして建物の中で炸裂し、屯していた数人のチンピラを、千人の傭兵が集まっても元に戻せないほど木っ端微塵にした。
それに伴って建物が崩落し、更に数人が巻き込まれる。地階にいたもの、地下で名ばかりの倉庫番をしていた者。例外なく無遠慮に向けられた殺意は巻き込んで押し崩していく。
重なる悲鳴、助けを求める声、誰にか分からぬが謝罪する呻き。
しかし、そんなものは知ったことかと、降り注ぐ死だけが平等だった。
「おー、ちゃんと信管生きてたな」
ガランを音を立てて、ともすれば巨大な鉄パイプのような使い捨ての発射機が投げ捨てられる。
何処かから棄てられて来た対装甲兵器、それを動作保証ナシの札が付いていて安かったため、何となく購入していたデルタがチンピラの塒に叩き込んだのである。
「結構死んだかな?」
「さぁ、でも総浚いの必要はありましてよ」
「後ろは浸かりゃ何があるかわからんドブ川だ。どうせ前にしか逃げて来られねぇよ」
言うまでもないが、これは本来人間に使う物ではない。世界によっては、対人用途に使えば何らかの条約に抵触する可能性すらあった。
されど、この女を咎める物がこの世には、それを上回る暴力しか存在しない時点で、誰にも文句を言う権利はなかった。
仇討ちされるに値することをしたと判断された連中には、特にだ。
「もう一本いっとくか?」
「いいんでなくって? 持って帰っても重いでしょうし」
贅沢にもデルタは足下に転がしてあった、同じ型のロケットランチャーにも手を伸ばす。どうせ捨て値で買った物。派手に吹き飛ばしてスカッとした方が心も晴れる。
それに、どうせ怒られるとしても代表してハジメがハイランダーあたりからお小言を言われるだけで、自分は何も痛くない。
じゃあお言葉に甘えてと、もう一発がブチ込まれた。この真っ昼間から誰憚ることなくアーモリーで戦争を始めようなんて馬鹿は、幾ら世界が広いとは言えそういるまい。
言うまでもなく後日、ハジメは珍しく笑顔で怒気を放つ天上人から呼び出されて、ものすごく詰められるのだが、アーモリーで〝その気にやせたらヤバイ女五選〟の二人がテンションを上げてしまっているのだから、どうしようもなかった。
強いて言うのであれば、今日この日、その場にいることができなかったハジメの運が悪いと言うべきだろう。
何せ今回の依頼、経費は向こう持ちなのだ。
そりゃあ暴を思うが儘に振るって良いと分かれば、遠慮なんぞ吹っ飛ぼうという物だ。
「ほれ、さっさといけ前線豚」
「誤射したら逆さに吊して革を剥いでやりますからね雌犬」
ボルトを退きっぱなしにすることで発射を防ぐという、雑極まりない安全装置を解除したデルタに急かされて、トワイラはあくまで優雅に抜剣。
そして、その場で垂直に数度飛んだかと思えば、凄まじい勢いで駆け出した。
「何が……何が……」
「ご機嫌如何?」
そして、門扉の後ろで瓦礫の余塵を浴び、轟音によって狂った三半規管のせいでしゃがみ込んでいた男の上から大上段で剣を振りかぶる。
「えっ?」
それが男の最後に残した言葉だ。担い手以外には〝50kgもの鉄塊〟として振る舞う。それが剣を振るう速さで駆け抜けたのであれば、見舞われるのは斬撃というよりも圧倒的物理エネルギーによる打擲だ。
当人が〝斬りたい〟と加減して行ったなら結果は違っただろうが、その対物ライフルを超える威力は逆袈裟に入った上半身を血煙と化した。
そして、踊るようなステップを刻み、門扉から離れた所で蹲っていた男の首も飛ばす。彼は運悪く、少し残っていた窓硝子のシャワーを顔に浴びていたのだろう。
だが、そんなことはどうでもいい。
殺せる時に殺す。半端に生かしておいては禍根が出る。それが傭兵達の流儀だ。
やると決めたら根っこから総浚いにするのは、復讐者を生み出さないようにするという点において最良の方法なのだ。
「畜生! 死ねぇ!!」
気合いを入れるために叫ばずにはいられなかったのだろう。屋上に屯していたおかげで、累が及ばなかった生き残りが、粗雑なパイプガンを構えて、傾いだ転落防止柵から身を乗り出した。
しかし、それは悪手だ。トワイラは来ると分かっている攻撃くらい、幅広の愛剣を構えて受け止めるくらいのことはできるし、況してや追いかけて射撃ポジションについていたデルタに攻撃の発起を教えるような声を上げてはならない。
単射に設定されたスメリィ・ガンが、高精度のボルトと本体が擦れ合わさる鈴のように澄んだ音を上げて、男の額に汎用弾とも呼ばれる9mmを叩き込んだ。頭蓋を貫通し、高速による貫通力を保った弾丸は後頭部から脳漿や骨片を引き連れて虚空へ進発。
即死した男の体は、糸が切れた人形のようにがくりと頽れた。
「ふざけ……」
「ガッファ!!」
仲間が殺られたことに憤って狙いを付ける男の、何処からか奪ってきただろうピカティニーレイルもなしに括り付けられていたホロサイトが砕け、同時に持ち主の頭も大きく傾いだ。どうやら薄いとはいえ遮蔽物を貫通した弾丸は威力が微かに削げ、眼底骨を割って頭蓋の中に入ったはよかったが、更に貫く力はなかったようで中でピンボールのように暴れ廻ったのだ。
そして、仲間の死に驚いて顔をそちらに向けてしまった男も、仰向けにドッと倒れた。横向きになった頭部のど真ん中、耳の穴に弾丸がストライクして脳味噌を攪拌されて何が起こったかも分からぬまま逝った。
三つの標的をなぞるように銃口で捉え、交差する瞬間に引き金を絞る射法は一瞬で三人の敵を葬り去った。
実に美事な手際だ。完璧に銃の癖を知った上で、自力がなければやれない離れ業。これくらいやれないと波濤の如く押し寄せるゾンビが当たり前のように群れ、それから逃げるようにして残った文明の残滓を啜って生きる〈ローン・サバイバー〉はやっていけないと当人は言うだろうが、それを生き延びた実績と経験は、やはりこの地において凄まじく強力な武器なのだ。
「まだ気配がするな……突っ込むか」
「わたくしが行きますわ。岩を引っ剥がされた虫の対処はそちらで」
「その表現止めろ。オレ、足が一杯ある虫嫌いなんだよ」
そんなことを言いつつ、必要とあれば茹でるか焼くかして食ってきたサバイバーズの言葉を無視し、伯爵閣下は敵の射線を切るように窓から内部へと突入した。
それにしても酷い有様だ。対戦車ロケットの破壊力は建物の中を広く舐め尽くし、着弾地点からコーン状に広がった破壊が部屋を酷く損壊せしめていた。デルタが使った66mm対戦車ロケットは、主力戦車に使うには威力不足となっていた骨董品であるが、建物を破壊し、内部の人間を傷付けるには十分過ぎたのである。
そして、着弾と衝撃は建物を揺らして脆くなっていた部分を破壊し、構造体の外殻を保ったままで中を手酷く破壊している。
これは、ロケットが戦車の装甲を貫通した後、破片や熱で内部の搭乗者を殺傷することで無力化する設計であったからだろう。考え抜かれた構造は建物相手でも有効に働き、殆どの敵を排除していた。
「ひっ!?」
「ご機嫌如何?」
それでも建物全体を倒壊させることはできない程度なので〈悪運〉に恵まれた生き残りが数人いた。
だが、それもここで尽きる。無慈悲な首切り役人でもあったトワイラの刃は敵を選ばず、ただ斬り伏せる。紅い煙となって散華した敵が広がり、殺戮の悲鳴が響き渡る。
すると、待ち伏せしようとしていた生き残りも泡を食って逃げ出し始めた。
怪我を覚悟で二階から飛ぶ者、辛うじて崩壊を免れた階段から降りて逃げ出そうとする者、めいめいに命を繋ぐべく必死に這い出していく。
だが、全てデルタの射線内だ。彼女はスメリィ・ガンが生まれた世界の人間であれば、この精度は有り得ないというピンポイントの射撃で急所を射貫いて確実に殺していく。
着地の隙、一瞬の硬直、安全圏を探そうと愚かにも速度を落として周囲を見回す瞬間。動きが緩くなった刹那に弾丸を叩き込み倒していく彼女は、呆れていた。
ケツを捲る時は焦ったら終わりなのだ。後ろを見ず一直線。攻撃が来るかどうかは気配で察し、ひたすらに走って射線に飛び込む。それを繰り返すか、逃げ込む場所がないから数秒ごとに軌道を変えてジグザグと走れば良い。相手が放つ弾のご機嫌が良いか、腕前がヘボならば当たることもあるまい。
しかし、本当にトーシロの集団だなと、残弾が少なくなってきた弾の弾倉を入れ替えながら、デルタは深い溜息を吐いた。
これだから馬鹿は嫌なのだ。人間は数が多くなれば気が大きくなる。ハジメとやらが言っていた〝脱個性化の法則〟というやつだ。
人間は群れれば残酷な行為を平気でするようになる。
そんなはずもないのに、大人数となることでありもしない、責任が希薄化するように感じてしまうのだ。自分は遠巻きに関わっただけだから、全員でやったことだから、みんながやっているから真似しただけ。
全て唾棄すべき甘ったれた物言い。正当化には程遠い。
〝罪と責任〟は関与と静止しなかったこと、全てを罪と考える。
言い訳にしようが稚拙も稚拙、あまりにも阿呆で愚かな物言いだ。厳格な罪と責任の教会のみならず、少なくともデルタには通用しない。トワイラにも、ハジメにも鼻で嗤われよう。
十人が一人を嬲り殺したとしよう。では、その罪は十等分されるのか?
一人一人が十分の一ずつ、軽減された痛みを味わい、僅かの血を捻り出せば償いとなるのか。
否だ。断じて否だ。
集団で犯した罪は集団で償うべきである。少なくとも罪と責任の教会は、そう考えている。
だからこそ、この人より暴力を振るうハードルが低かった愚か者共が、集団によって膨れ上がった暴力性を一人の女性に向けたならば。
それは全員が等価に支払うべきである。
「あらかた終わりましたわ」
「ごくろーさん……ソイツは?」
「ハジメがいつも言っているでしょう? 訊ける口を一個は残しておけと」
元よりボロであったが、より酷く半壊した建物。その地階に開いた穴から一人の男が宙づりの状態で死に損なっていた。
他の面子より状態の良い服。ズボンに突き刺していたのが転がった、廃棄世界製と思しきパルスピストル。ここをしめていた頭目格と見て間違いなかろう。
まぁ運のない話だ。
では、細かい話を聞こうかとデルタは煤で汚れた顔面を思いっきりぶん殴った…………。
そしたらなぁ、デルタの姐御がなぁ、一人でロケットランチャーを担いでなぁ……(例の画像)