WORLD END SCRAPYARD~ 廃棄された多元世界で治安がヤバイ女たちと悪運だけで硬派に生きてる   作:Schuld

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 拳が肉を穿つ音というよりも、それは硬質な物を粉砕する音に近かった。

 

 肉が潰れ、頬骨が割れて、鼻骨が歪む。そして、眼底骨に罅が入って片目が僅かに膨らんだ。

 

「ごかっ……!?」

 

 デルタの拳は並ではない。〈ローン・サバイバー〉として生き抜いてきた彼女は、同じ極限状態で生き抜いてきた敵と何度も殴り合ってきたため、拳は微細骨折を繰り返し、その修復の度に強固に、強大になって凄まじい硬度の塊となっている。

 

 その上、手の甲に〝守る〟のではなく〝破壊する〟ために鋲を打った強固なボイルドレザーの手袋を纏っているのだ。

 

 それが身長170cm、体重72kg、体脂肪率17%という怪物めいたスペックから繰り出されればどうなるか。

 

 人間の頭なんぞ、時機を逸したカボチャやスイカのように拉げるのだ。

 

「がっ……なっ……」

 

「よし、手加減できたな」

 

「いや、何か面白おかしい感じに仕上がってますわよ?」

 

 思いっきり踏み込み、腰、胸、腕の捻転が加わった見事な右フックを食らった男は、片足が瓦礫に潰されながら吊り下げられていることもあって、見事にサンドバッグの如くぶらりと後ろに押されて戻ってくる。

 

 痛みの閾値を超えて、頭部が歪んだことを未だ痛みと認識できていないのだろう。何が起こったか分かっていないようだが、目の前に武装した女二人がいれば状況もゆっくりだが呑み込めよう。

 

 周りを見回せば惨殺死体の山。

 

 何より、彼は半端者であったが裏社会には多少詳しかった。

 

 そして、傭兵界隈で絶対に怒らせてはいけない女は幾人かいるが、その中でも〝加減を知らないから一等ヤバイ〟と言われている、核地雷級の女が二人揃っていれば事情も分かろう。

 

「なっ、なっ、テメェ等は……」

 

「まぁ、仕事だよ。罪と責任の教会だ」

 

「何が原因か、分かっていまして?」

 

 足りなそうなおつむですから、分かってなくても無理はないでしょうけどと嘯くトワイラに吠えようとした男だが、あまりの激痛に上手く言葉を吐き出すことができなかった。

 

 当たり前だ。頬骨の粉砕骨折を始め、頭骨はボロボロ。唇を少し動かすだけで激痛がする。今は大怪我によって大量分泌されたアドレナリンで多少マシだろうが、それが落ち着けば悶絶するほどの痛みに化けて、その身を苛むこととなろう。

 

「さて、面倒臭いから詳細を省くが、結論だけ言うとお前は死ぬことになる訳だが……」

 

「ま、待ってくれ! 俺達が何を……」

 

「知ったこっちゃねぇよ。死ぬべきだと言われたから死ぬ。それだけだ」

 

 えーとと呟きながら、デルタは挟まれている足を見た。開放骨折しており、血が止めどなく溢れている。重要な血管が傷付いたのか、放っておいて止まることはないだろう。

 

「大した勢いじゃねぇから、失血死にゃ一日くらいかかるな。いや、その前に頭に血が弾って弾けるか?」

 

「まぁ、どちらにせよ相当苦しいでしょうね。直に興奮が冷めて痛みが這い寄ってくるでしょう」

 

「ふっ、ふざ、ふざけんな! なんでおれが……」

 

「自覚がねぇのが最悪だなぁ」

 

 しかし、死ぬからいいかとデルタは色々な説明を擲つことにした。

 

 こういうヤツらに自分が何をしでかして死ぬことになったかを説明したところで、出てくるのは絞められる鶏の悲鳴にも劣る、無様な命乞いが精々だ。だとしたならば、耳を汚すのも馬鹿らしいし、本題だけ歌わせれば良い。

 

 ハジメはあれでいて性格が悪いから、己が何故に斯くも無様でゆっくりと苦しい死に方をするのか、死ぬまで悔いてろと語って聞かせるのだろうが、デルタにそんな趣味はない。

 

 むしろ、面倒臭いの一点に尽きる。

 

「とりあえずアレだ、他にも塒あんだろ? 言えよ。そうしたら、ほれ」

 

 額にスメリィ・ガンを突きつける。

 

 お前の未来は変わらないと冷たい銃口が語っていた。

 

 しかし、それを少しでも楽な方向に向けることはできる。

 

「で? どうする? 楽しくおしゃべりして楽に逝くか? それとも意地張って苦しむか? オレは別にどっちでも良い。ここにいねぇ生き残りを探すのに煙草数本ありゃ足りるからな」

 

「なめっんな! おれを誰だと思っていやがる! おれの手下は百からいるんだぞ! 直にテメェらをとっ捕まえて、使い古したオナ……」

 

「その割には静かですわねぇ」

 

「っ……」

 

 手下が百人いる、というのはある程度盛っているのかもしれないが、近い人数はいるのだろう。実際、この場で戮殺された悪漢の数は二桁中盤に近い。対戦車ロケットで木っ端微塵にしたせいで、正確なキルカウントは難しいが、かなりの人数を殺したことはたしかだ。

 

 そして、三人が黙り込めば、この場に滞留するのは僅かな瓦礫が降り注ぐだけの沈黙だ。澱のように溜まっていく空虚な無音に、頭目は助けが来ないことを悟って血の気を引かせた。

 

 街中に散っている連中は、この騒ぎを聞きつけてやって来てくれるだろうか?

 

 いや、そんな気骨のある連中はいるまい。何となくで集まって、暴力で統制し、ちょっとした飴で統制したチンピラ集団に過ぎないのだ。命をかけてまで自分を守ろうという人間がどれくらいいるか?

 

 応えは、この虚無が返してくれる。

 

「要するにお前の将来も人望もこんなもんだ。で、改めて聞くが、血だらだら流して、その内にやってくる激痛にのた打ち廻って死ぬの、どっちがいい?」

 

「あら痩せ犬、まだ選択肢がないでもないですわよ?」

 

「どんなだよ」

 

「片足引きちぎって地面に落ちて、傷口を縛れば辛うじて助かるかも?」

 

 トワイラの言にデルタは鼻を鳴らした。この女は、分かっていてそういうことを言うから性根が腐っているとしか言いようがないのだ。

 

 それだけの覚悟が決められる男だったら、こんな半端な悪さをして、〝罪と責任〟の逆鱗を擽ることもなかろうに。

 

 何よりも、痛みを受け容れてでも命を繋ごうとすることができる人間は、もっとマシな選択肢を取っている。

 

 こんないつ傭兵にカチ込まれるかもわからない場所で、小悪党をやっているよりも、大きな商売に手を付けるなり、傭兵団を組織するなりしてのし上がることもできただろう。

 

 だが、それが叶わない程度の気概しか持っていないから、彼等はしょせん半グレなのだ。

 

 本物の暴力には叶わない、見せかけのアウトロー。

 

 鉄火場で鍛えられた真性の暴力装置が〝経費相手持ち〟などという首輪を放された瞬間、抗う術もないのは道理であった。

 

「そんな気合い入った男だったら、んなことになってねぇよ。とっくに足引きちぎって逃げてら」

 

「まったく、殿方は情けない。ちょっと血が出ただけでぴぃぴぃ泣き叫ぶんですもの」

 

 女二人に嘲られて、彼も限界が来たのだろう。怒声を上げようとした瞬間、凄まじい痛みが体を駆け抜けて動きが止まった。

 

 アドレナリンが切れたのである。

 

 苦悶に身悶えすれば、傷口が動いて更なる痛みを生み、体が反射で動いて再び激痛を生むという負の螺旋。

 

 これが助かる見込みのないまま続く? その絶望に、失血以外の理由で男の顔が蒼白に染まった。

 

 激痛に悶えつつ唇の端から血を垂れ流していたら、二人は興味を失ったようにそれぞれ煙草を吹かし始めた。喋れるようになるまで待ってやるとでもいいたいのだが、まずは激痛が収まらないと言葉を吐き出すことさえできない。

 

 下から煙で燻されて、悶死することを防ぐために脳が脳内麻薬を発して、辛うじて冷静さが帰ってきた。

 

 これに耐えるのは無理だと理性が告げる。晒され続けて正気が保つわけがない。その上、死が訪れるにしても一日はかかる?

 

 臆病にして卑小な本能が欲した物。

 

 それは開放だった。

 

「いた……い……くっ……いた……くそ……」

 

 必死に地面に落ちている自分の拳銃に手を伸ばすが、辛うじて届かない。指先が銃把に触れ、微かに動かすことはできるが、宙づりになって揺れる体に合わせてカタカタと、まるで嘲笑うように動くばかり。

 

 死は近いようであまりに遠い。それが甘く感じ、男は叫んだ。

 

「分かった! 教える! だから、だから……」

 

 終わりをくれ!!

 

 そう嘆願されて、やっとかとデルタは地面に煙草を押しつけて、面倒臭そうに立ち上がった。そして、ホルスターから斧を取りだして、数度の素振りの後、煙草臭い息を吐き付けながら言った。

 

「拠点は?」

 

「あ、あと一箇所! ここから更に東に行った廃屋! そこで薬を捌いてる!」

 

「非戦闘員は?」

 

「よ、夜にパーティーやってるだけで、昼には……」

 

「オーケー、隠しごとしてたら、このまま帰るけど、言い残すことあるか?」

 

「何も嘘は吐いてねぇ! 頼む! 喋るだけでイテェんだ!」

 

「そっか、じゃあ……」

 

 デルタは思いっきり斧を振り上げ、やっとかと目を閉じた男の……膝に叩き込んだ。

 

「っ!? いぃ~~~~~~~~~~!?」

 

 無様に地面へと転がる頭目。ただでさえ骨折している頭部をぶつけて襲いかかる苦痛はどれほどか。

 

「好き勝手やったヤツが最期だけ思うように迎えられる? 調子のんな。手前で何とかしろ」

 

「まぁ、妥当ですわね」

 

 斧から血糊を払ったデルタは、そのまま男を置いて上階への階段に向かう。酷い有様だが、煙草か酒くらいは残っているだろうと思って。

 

 瓦礫を蹴飛ばしながら、辛うじて安定している足場を通れば、三階に鉄扉が崩れた部屋があった。鎖を使って錠をかけていたことからして、何かしら貴重品を保管していたのだろうと見込んだデルタは、中を見て歓声を上げた。

 

 色々な人間からカツアゲや強盗してきたであろう煙草の束。

 

 これからシケモクに加工するであろう、バラして分配してあった煙草の葉っぱ。

 

 質はさておくとして、瓶に入っているだけでマシな品質であろう酒。

 

 それから、大きな彼女好みのオモチャ。

 

「なんだ、湿気てると思ったけどいいじゃねぇか」

 

 彼女はいそいそと対戦車ロケットを閉まっていた大型バッグに戦利品を詰め込んでいく。下から負け犬の遠吠えが聞こえてきたが、知ったことではなかった。

 

 もう必要のなくなった者達から貰える物を貰っていき、その中でトワイラは一つの酒瓶に注目した。

 

 どこかで隊商を揺するか襲うかでもしたのだろう。北渡り、ガラス化した焦土が広がる中で必死に農業を行っている〝クレーターランド〟名物の葡萄酒があった。

 

 この世界においても非常に、正に奇跡的な品質のワインであり、彼女の舌を納得させ得るに足る数少ない逸品だ。

 

 トワイラは抜き身のまま持ち歩いていた剣を軽く振るい、その飲み口を切り裂いて開封する。

 

「って、おいおい、もったいねーな、なにしてんだ」

 

 そして、ドバドバとグラス数杯分は地面にぶちまけたではないか。

 

「この建物で玩弄され、無惨に殺された者への鎮魂ですわ」

 

「お貴族様のやることは、相変わらず分からねぇなぁ……」

 

 呆れるデルタを余所に、残ったワインを呷って満足そうに貴族は笑った。この崇高さは、痩せ犬傭兵には死んでも理解できまいと。

 

「オレにも寄越せよ」

 

「安酒が似合いの犬にこの味が分かって?」

 

「巫山戯んな。テメェだけ一等良いのを味わわせてたまるか」

 

 瓶を引ったくったデルタも血のように紅い葡萄酒を楽しみ、やはり片目の親父が作った密造酒とは違うと、舌を抜けて行く馥郁とした芳香に唸った。

 

「これは肉が欲しくなるな。油がたっぷりなのがいい」

 

「そうですわね。それに内臓のソースがかかっていると尚素敵ですわ」

 

「えぇ……肝のソース……? きしょくわる」

 

「失礼な小娘ですわね、伝統ある調理法でしてよ」

 

 肉の味付けはあーだーこーだと言い合いを始めた二人の会話を割るように、階下から銃声が響いた。恐らく、彼にも自決に使える程度の武器を見つけることができるだけの〈悪運〉はあったらしい。

 

 しかし、それを二人が気にすることはなかった…………。




戦利品も漁れるからハック&スラッシュはお得。尚、真面に撃ち合うと死ぬので、今のようにちゃんと奇襲しましょう。
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