WORLD END SCRAPYARD~ 廃棄された多元世界で治安がヤバイ女たちと悪運だけで硬派に生きてる   作:Schuld

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 攻略した廃墟より更に外れ。ポツンと建っている隠れ家には丁度良さそうな廃墟を見つけた二人は、人の出入りと遠間に聞こえる作業音から敵の存在を感知していた。

 

 これが普段なら余計な人死にが出ないよう、クインが斥候に出て中にいる人間の質をたしかめたり、トリニティがセンサーで人数を調べたり色々とするのだが、二人はそこまで気が長くない。

 

 元々薬を商っているような連中だ。買いに来るような顧客にも碌な者はいるまい。中に詰めている製造業者も、プッシャーも、死んだどころで誰もが「ああ、そう」で終わらせてしまうのが、この巷だ。

 

 特に、あれが頭目とあれば、渡世の仁義を切っているとは思えない。ハイランダーが街の安寧のため、敢えて安全性が高い物を流通させている方針に従っているはずもなし。

 

 つまり、全員ブチ殺したところで褒められこそすれ、怒られる謂れはない。

 

 そういった構図を脳内で描いた二人は、じゃあ簡単にコトを済ませるにはどうすればいいかを考えた。

 

「中に入って鼠を一匹一匹撃ち殺すのも面倒だよな」

 

「でも、あのロケットはもう残ってないでしょう?」

 

「現品限り、性能非保証の投げ売り品だったからな」

 

 やっぱり二発は奢りすぎだったか? と思うデルタだったが、まぁ別の物を使えば良いかと大型のポストンバッグを漁った。

 

 中から取りだしたのは、如何にも穏便な要素が詰まっているとは思えない缶だった。その上部には安全用のピンと噴出機能が備わっていることからして、スモークグレネードのような構造をしているのだろうが、ただ煙を吹き出すだけで、斯様な警告色に塗る必要は何処にもあるまい。

 

 つまりは、碌な物ではない。

 

「これ、窓から投げ込んできてくれ」

 

「擲弾ですの? 効果が薄いんじゃなくって?」

 

「いや、投げ売りの化学兵器ガスグレネードらしい。糜爛(びらん)ガスが入っているとか」

 

 大抵の〈シヴィラツィオ〉世界では条約で禁止されているが、そんなもの知ったことかと作る人間は何処にでもいる。特に世界が根底から違うとなれば尚更だ。

 

 このガスグレネードに充填されているのはホスゲンオキシム剤。悪名高きマスタードガスがオモチャに思えるほどの腐食性と痛痒性を持つ、実に悪辣な毒性が強いガスであり、その効果は服越しにでさえ皮膚を焼き、吸い込めば気管支を再建不能なまでに痛めつける。

 

 そして、目などの露出した粘膜系にも非常に効果的であり、その威力は悪魔的だ。

 

「吸い込むなよ。放り込んだからすぐ離れろ」

 

「どこでこういうもの仕入れてくるのかしら。それよりも、持ち歩いて怖ろしくないのかしら」

 

「弾も爆弾も運が悪かったら暴発するだろ。それといっしょだ。へーきへーき」

 

 トワイラには有効危害半径内の人間が触れれば、接触部位が壊死し、呼吸器に肺水腫を引き起こして、眼球を激痛によって機能不全に陥らせる化学兵器をバッグへ適当に放り込んでおける精神が良く分からなかった。

 

 廃棄世界からの発掘品だというのならば、安全性なんぞ担保されていないのは当然。うっかり中でぶつかって缶が拉げるなどしたら、地獄を見るのは自分だと言うことを、この女は分かっているのだろうか。

 

 しかし、実際にそうなっていないのが〈悪運〉のなせる業というべきか。少なくとも今、投げ寄越された缶は大人しい。

 

 だったら、使うのも悪くないかとトワイラは開き直った。

 

「投げたら直ぐ逃げろよ。そいつは敵も味方も識別しねぇからな」

 

「分かってますわよ」

 

 念のために瘴気避けのヴェイルを被ったトリニティは、堂々とした歩みで廃屋へと近づいていった。

 

 上物は背の高さを出すためか、入り口が半地下の階段に繋がっている建物の表に用心棒はいない。ただ、扉の前には人が立っているのだろう。

 

 そして、ぐるりと建物を見回せば、侵入防止のためか、窓の殆どが木の板を張り付けて塞いであった。

 

 これは好都合とグレネードを投げ込む場所を探すと、壁の高いところに小さな窓があった。換気用のそれは開け放たれており、流石にここから入り込むことも、逃げ出すこともできないため開け放たれている。

 

 トワイラは数歩距離を取ったのち、僅かな助走で壁に取り付き、その僅かな凹凸を蹴って跳躍。高さ3mはあろうかという小窓に取り付くと、片手で器用にぶら下がった。

 

 そして、ガスグレネードのピンに歯を引っ掛けて引っこ抜く仕度をすると、少し離れた唯一の出入り口を狙うようにしてデルタが伏せていた。

 

 構えているのは大型の軽機関銃だ。さっき襲った拠点で虎の子として鉄扉の倉庫に守られていた切り札。彼女が思わず喜んだ大きなオモチャだ。

 

 その銃にはベルトリンクされた弾薬が詰め込まれた50発装填のボックスマガジンが装填されており、スメリィ・ガンとは比べものにならない発射レートと、大口径弾による死を撒き散らす仕度がされている。

 

 伏せ撃ちの姿勢を取ったデルタが右手を上げて親指を立てたので、トリニティはピンを引っこ抜き、二本とも一気に小窓から放り投げた。

 

「なっ!? あああああああ!?」

 

「きゃぁぁぁ!!」

 

「なんっ、なんだこれ!? 襲撃だ! にげっ、がっ目が! 目が!!」

 

 中で凄まじい悲鳴が響き渡り、絶叫が荒野に木霊する。前もって注意を受けていたトワイラは、投げ込むのと同時に窓から飛び降りていたが、やはりヤバいブツだったのかと冷や汗を掻いた。

 

 たしかに前の世界では毒ガスの魔法を使ってくる魔法使いはいたし、それで戦場を満たして戦術的な攻撃をされたこともあったが、魔法で対応可能だった。

 

 だが今は、そうではない。ガスマスクを被らなければ意味がなく、それでいて今回使ったガスは服を貫いて肌を焼き、一度吸い込めば息ができなくなって、そのまま死に至ることもある。

 

 本当に〈シヴィラツィオ〉や〈サバイバーズ〉が考える物は優雅さに欠ける。

 

 内部からドタバタと激しく暴れる音が響き、人間と家具、人同士がぶつかる鈍い音が入り口へと向かっていく。ガスが広がる速度は早く、目をやられた者は出口に逃げようとすることさえ間に合っていないようだ。

 

 そして、やっとのことで逃げ出せば……連続する銃声。指切り射撃で影が見える度に、追い立てられた敵が倒れていった。胸に弾を貰った者は大口径故に即死し、そのまま仰向けに倒れて秩序もなく逃げてきた仲間を巻き込んでいく。

 

 そして階段からまたガスの中に叩き込まれ、死体に押し潰されて悶えながら苦しむばかり。

 

 必死に死体を退けて立ち上がったとしても、もう外には向かえない。軽機関銃の銃口がこちらを狙っており、一か八かで跳び出した物は曳光弾混じりの弾幕に撃ち倒されていった。

 

 そうするともう、できるだけガスが上がってこない場所に居座って、どうしようかとない頭を絞るばかり。

 

 だが、それを黙って見ているデルタではない。スリングに担いで持ち上げた軽機関銃を単発で放ちながら頭を上げられないよう牽制しつつ肉薄。

 

 そして、腰元に一つだけ据えてあったボール型の手榴弾を手に取った。

 

「ほい、お疲れ」

 

 破片手榴弾だ。こちらはアーモリーでも有り触れたもので、対戦車ロケットと同じく動作保証ナシであれば結構手軽に売っており、時にカチコミや抗争で放り込んだり放り込まれたりするものだ。

 

 実際、負けが込みすぎて頭がどこか遠くに行ってしまった者が、いつもの酒場に放り投げてきたこともあるほどだ。

 

 まぁ、その時は信管が腐っていたのか、ハジメの足下に転がったそれは爆発せず、投げ込んだ馬鹿が酒場中から撃たれて蜂の巣になって終わった訳だが。

 

 しかし、今回は正しく働いたらしい。盛大な爆炎を伴うでもなく、ばふんと巨大な怪物の吐息めいた音が轟き、盛大に塵と人間の煙が唯一の脱出口から噴出した。

 

 これで何とか目をやられることなく、出口まで到達できた者達も一掃できただろう。

 

「終わりかしら」

 

「中で呻き声がしてるから、もうちっと見張っとこう。その内にガスで死ぬだろうが、煙草の一本か二本もやってりゃ静かになるだろうよ」

 

 言って手近な地面にしゃがみ込み、煙草に火を付けるデルタ。トワイラもシガレットホルダーに煙草を差し込んで、壁にもたれ掛かりながら優雅に一服する。

 

 呻き声は下から響き続けていたが、建物の中、それも窓を密閉してしまったこともあって逃げ場がない。中々晴れることのないガスに巻かれて、少しずつ声は小さくなっていった。

 

 高度な医療を受けられれば何とかなるかもしれないが、そんなものは疾うの昔に売り切れて久しいスクラップヤードでは、高望みもいいところだ。大量の綺麗な水で付着した場所を洗い、肺まで洗浄しようというのは設備的にも技術的にも不可能。

 

 中に残った者達に待っているのは、死のみだ。あるいは完全な非生体部品系のフラグメンテ・マキナならば何の効果も発揮していなかっただろうが、混乱から逃げることはできまい。

 

 今、外が死んだような静寂に支配されている中、おっかなびっくり顔を出さずにいられるだけの度胸があるかどうか。

 

「しかし、ちっとやり過ぎたかな」

 

「あら、そんなことを気にするタマだったかしら」

 

「いや、思えば中に戦利品もあったかもしれねぇだろ? 今回はガスマスク付けて入っても防ぎきれねぇから、勿体ないことしたかなと」

 

「どうせ湿気てた内容ですわよ。それともプッシャーに転向でもご希望で?」

 

「ざけんな」

 

 ぷかりと煙が空に溶ける。この場で容易く死んだ者達のように。

 

 終わったとばかりに顔を出す馬鹿がいないかと半刻ばかしじっくりと待った二人であるが、その内にデルタは胸に熱を覚えた。

 

 手を突っ込んで取り出したるは、罪と責任の教会にて渡された帳面。

 

 それには神がかり的な力を使ったのか、市中に耳目を飛ばしているのか、復讐すべき、応報されるべき人間の名前が記されている。

 

 今回は全員の抹殺が目的だったので、これといって難しい仕事ではなかったが、時にはあの〝贖罪の広間〟にて死よりも重い罪を償うべく呵責するため生かして捕らえる必要があるのが難儀だ。

 

 熱気を帯びた手帳が、皮膚を焦がすことのない紫色の炎を帯びて燃え上がった。

 

 仕事が完了したことを示す証拠だ。

 

「やれやれ、終わったか」

 

「じゃあ、お代を受け取りに参りましょうか」

 

「ま、連中、あのザマだから表に出てこねぇしな」

 

 復讐は不毛だと訳知り顔で宣う者がいる。

 

 しかし、それは大事な人間を理不尽に屠られたことのない、平和ボケした自称善人の寝言に過ぎない。

 

 憤怒が煮詰まれば、自分の仇が同じ天の下で息をしていることが我慢ならないことが分かるだろう。

 

 自分の愛した人が死んでいるのに、ヤツらがさも当然のような面をして飯を食い、煙草を吸い、クソをひる。それが受け容れられて堪るものか。

 

 それに、このスクラップヤードにおいて復讐は全く以て不毛だとは言えない。

 

 少なくとも、今日この日、二人の煙草入れをパンパンにするだけの雇用を創出したのだから…………。




あかん、暴力の塊二人をメインにしたら話がすぐに終わりすぎる。
行った、殺した、帰った、なので山もオチもねぇ……。

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