WORLD END SCRAPYARD~ 廃棄された多元世界で治安がヤバイ女たちと悪運だけで硬派に生きてる   作:Schuld

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 何これ凄いと、まだ水溜まりが僅かに残る大地を踏みしめながらナナは叫んだ。

 

 大路を埋め尽くす人という人。生命の息吹が殆ど感じられない街と世界なのに、これだけの人間が存在していることに驚きを得る。

 

 まるで、休みの日に繰り出した繁華街のようだ。小汚さと穢れた雨の匂いは、洗練されたビル街とは程遠いが、買い物に繰り出した人々の熱気だけはアレと劣らなかった。

 

「えぇー、これ全部露店!?」

 

「ああ、嵐の日は納入が止まるだろう? 同じように隊商共や、売り物を抱えた武装行商も足が止まるから、バラバラにやってくるはずだった連中が一機に流れ込むんだ」

 

 スクラップヤードにおいて嵐は人間の運行をダムのように堰き止める。そのため、本来ならば三々五々にやって来ては、次の商売に出発していくはずの商人達が、動けるようになると一息にアーモリーへと流入する。

 

 そのため、店も仕入のキャパシティを完全にオーバーして、全ての業者から物を買い入れることができなくなる。だが、隊商も行商も在庫を抱えたくない。

 

 となると、露店を出して自分で販路を斬り開くのが最適なのだ。大路で店を出すことはアーモリーでは有り触れたことであり、一日幾本かの煙草を上納するだけで全ての商売が許される。

 

 食料であろうと武器であろうと、珍品奇品であろうとだ。

 

 この賑わいは嵐の時以外には、余程大規模な隊商が現れないと楽しめない。

 

 近郊最大、百以上の車列で移動する〝機動旅団〟を名乗る、定住は安全ではないとの理念に従い、常に動き続けて世界の残骸を漁ると共に、それを商売で各地に売り歩いている超巨大キャラバンの来訪以外で、ここまでの大市が自然形成されるのは荒天の後だけだ。

 

 嵐は煙草の流れを一時的に閉じ込める。そして、溜まりに溜まった水の流れは、解き放たれた瞬間に濁流となって受け皿へ注ぎ込まれる。

 

 それがこの、一夜にして現れた巨大な市だ。

 

「うわー、キッチンカーがある! 良い匂い!」

 

「お、ドネルケバブ。食ってくか」

 

 ハジメから一緒に掘り出し物を探しに行くぞと誘われてやって来たナナは、その色とりどりな店に目を輝かせた。いつもの灰色のションボリした空気とは異なり、まるで商機という熱に熱されて、沸騰したような活気が自然とテンションを上げていく。

 

「幾らだ?」

 

「シケモク三本」

 

「高ぇよ。二個買うから二本にしてくれ」

 

 何らかの変異を喰らってしまったのか、背中から機能している三本目の腕を肩から生やしている無愛想なサバイバーズの店主に、肘を突きながら注文したハジメは、さっそく値切りにかかった。

 

「三本だ」

 

「在庫きちぃだろ、こっちに捌きに来てるってことは。色合い的にネズミ肉だな。日持ちしないんじゃねぇか?」

 

 チッと舌打ちして、店主は手を差し出した。ハジメはニヤリと笑ってシケモクを四本渡し、店主が渋々と言った感じで肉を削ぎ始めるのを見守った。

 

「今のってなんで分かったの?」

 

「今の? ああ、値切りか」

 

 んー、と顎に手を添えて少し考え込んだ後、やっぱり経験値だなと長く生き延びてきたシヴィラツィオは応えた。

 

 相手の在庫状況、どれくらいで持ち物が腐り、利益を上げながら捌くか。これは肌感覚で手に入れるほかなく、一朝一夕に教えられる物ではない。下手な値切りは店主から嫌われて、お前に売る物はねぇと銃を突きつけられることにも通じるため、スクラップヤードでの生き方に馴染んだ人間の固有技能とも言える。

 

 しかし、値札通りの買い物をしていれば損しかしないのも事実であるため、何とも難しい。物の市場価格と、そのトリムを掴むのは大量の知識と経験が求められるのだ。

 

「まぁ、直ぐに慣れろとは言わないが、経済感覚を覚えてからだな」

 

「たとえば、今みたいに嵐で足止めされてたあと、腐り易いものを早く売ってしまいたいだろうな、みたいな話だよね」

 

「そうそう、食い物みたいな足の早いヤツ限定の理屈だ」

 

 ほれと差し出されたケバブを受け取って、ナナに一つ寄越してからかぶりつくハジメ。

 

 その味は無機質な世界の中で、生をあらためて実感させるほどに鮮烈だった。

 

 癖が強くひたすらに硬いミュータントネズミの肉を薄切りにすることで筋を断ち、繊維に従って噛めるようにすることで食感がかなり改善されている。更に匂い消しのため香辛料をかなり使っており、刺激的な香りと味わいで獣臭さや、変異した動物特有の嫌なケミカルさを打ち消している。

 

 のみならず、豪勢かつ大量にかけられた暗褐色のソースは発掘品であろう。力強いソースの味に加え、後味に微かなフルーティーさ。ハジメはこの味に故郷の雰囲気を感じた。恐らく、自分達と似た時代、似た風土のシヴィラツィオ世界から見つけられたと思われる。

 

 野菜は可食性の野草を探して摘んできたのだろう。青臭さはあるが、肉の下味とソースの濃さで気にならない。しゃくりとした食感が面白くて、歯応えが単調にならないよう気遣われているのが良かった。

 

 なるほど、これならたしかに普通は一食一本で賄える食事三食分の価値はある。

 

「どうした?」

 

 しかし、ナナはじっとケバブを睨んで固まっていた。

 

 どうやら、何かの仕事で駆除したことがあるミュータントネズミを使っていることに忌避感があるのだろう。彼女はサバイバーズではあるものの、滅んで間もない世界から棄てられて来たこともあって、デルタのように食えれば何でも良いというだけのハードな経験を積んでいないのだ。

 

 その点において、彼女は実に珍しいサバイバーズであろう。

 

「慣れろよ、出所が分かってる分マシだぜ。火も通ってるし、糸も引いてない」

 

「いやぁ、でもネズミって時点でね……」

 

「私はぺーぺー時代、もっと酷い物で食いつないだことがあるぞ。これくらい丸かじりできないなら、もっと酷い死に様を晒すことになる」

 

 一応、先達としては信頼も信用もしている男の言葉だ。ナナは覚悟を決めた後、これはただの美味しいケバブなのだと自己暗示し、腹を括って齧り付いた。

 

 咀嚼し、数秒。舌に伝わった感覚をたしかめていた彼女は、目を見開いた。

 

「お、美味しい」

 

「このゴミ溜めでも美味いモンを作るヤツはいるんだぜ。縺れパーチに多頭魚でも生け簀に移して泥抜きする店もあるし、それっぽいハーブをプランターで育てる店もあるからな」

 

「凄い、缶詰以外で美味しいものに初めてであったかもしんない」

 

 元が汚染物質によって奇形変異を起こしたネズミであることから目を逸らせば、そのケバブはちょっとしたものであった。休みの日に出くわしたキッチンカーで食べた物と比べても、目隠しして食べれば違いが分からないだろう出来映えだ。

 

 嵐で宿に封じ込められていた間、国民栄養食で食いつないで彼女は、久方ぶりの舌を楽しませてくれる味覚に惚れ込み、あっと言う間に完食した。少しお行儀が悪いが、指についたソースまでなめ取って。

 

「久し振りに新鮮で美味しいもの食べた」

 

「そりゃよかった。ところで、なんでシャシュトゥ誘ってやらなかったんだ?」

 

 二人で並びながら人混みを泳いでいると、ハジメは巨漢の青年がいないことに首を傾げた。

 

 彼は今、宿でダウンしている。というのも、新人にありがちな国民栄養食の食べ過ぎで腹が膨れ、吐き気を催す膨満感でノックアウトされるという、一度はやらかすアレに呻いているからだ。

 

 どうやら明日には買い出しに行けるからと、残っている物を食べすぎたらしい。

 

「アイツは……気を付けろつったろ、体感腹六部から更に膨れて満腹になるってのに」

 

「まぁ、もう何時間かしたら起き上がってくるでしょ。そん時に連れてくるよ」

 

「そうか。この賑やかさを楽しめないのは残念だろうから、是非に連れてきてってくれ」

 

 誰もが踏みうる迂闊さで苦しんでいる青年に祈りを送ってやってから、二人は出店を回った。

 

 多くは雑多な物を扱っているが、中には中々馬鹿にできない取りそろえをしている専門店もある。

 

 その中でも、ハジメは中型バンを開け放ち、ブルーシートを広げて営業している〝高性能義肢〟の露店に目を付けた。

 

「ほぉ、これは中々……」

 

「何? オタクくん、機械化したいの?」

 

「まさか。親から貰った大事な体だぞ。第一、人間の体を甘く見たもんじゃない。イニシャルコストは怪我しなきゃ飯だけで済む。レストアでひぃこら言いたくないだろ」

 

「お客様、冷やかしでしたらご遠慮願いたいのですが」

 

 店員のフラグメンテ・マキナが嫌そうな声を出した。完全人型の筐体であるが、彼女も方々にガタが来て、無理矢理入れ替えた部品が多い。右肘から先は棒きれのような前腕と細い三本指のマニピュレータに置き換わっているし、ホットパンツで曝け出した右脚は股関節を境目にメタリックシルバーの素体が丸出しになっていた。

 

「冷やかしのつもりじゃない。声帯ユニットはないか? タンパク質部品不使用で、女性型。音域広めでメンテナンス性が高いのがいい。調音用ソフト内蔵型だと尚良しだな」

 

「声帯かぁ、あったかな。アンタぁ」

 

 彼女がバンに声をかければ、髭面矮躯の男性が顔を出した。ドヴェルクの男性で、片手には歪んだフェイスプレートが握られていた。種族にしては珍しくフラグメンテ・マキナの構造をきちんと学んだメカニックのようで、歪んだそれを叩き直して再利用できるようにしている最中だったようだ。

 

「悪いがウチは強化義肢メインだ。内臓系パーツはあんまねぇぞ」

 

「腹部内蔵式のだと有り難いんだが、一個くらいないか? 喉は生きてるらしいんで、発声の母体になるようなのを探してるんだが」

 

「オートマタか? アンドロイドか?」

 

「アンドロイドだ」

 

 何かあったかなと在庫の帳簿をたしかめるドヴェルクだが、ボロボロの紙束を捲った後、小さく首を振った。

 

「悪ぃな、そこら辺の在庫はねぇ。先月まであったんだが、売れちまったよ。街の緊急無線用スピーカーに使うとかで」

 

「そうか、それはアイツの〈悪運〉が足りなかったな」

 

 残念と首を振るハジメに、彼がぶら下げている銃を見たドヴェルクは、バンの座席を取り外して作った棚の中から義手を取り外して見せてくる。

 

「それよっか兄ちゃん、こういうのはどうだ? アーモリー・リボルバーなんて大口径ぶら下げてたら、肩とか肘とかガタガタんなるだろ。コイツは良いぞ、軍用グレードのクロームでFCS内蔵型だ。パルスライフル以外ともリンクできる。手術費はオマケしとくぜ」

 

「だから、私は生身を大事にしてるんだよ。予備部品が見つからなくて、交換できるブツがあるかお祈りする日々は御免被る」

 

 残念そうに義手を戻すドヴェルクは、よく見れば左目と両手が機械化されていた。細かな作業に対応するべく、種族が誇る鉄梃のような指すらも捨て去った、本気の精密作業に傾倒した義肢職人らしさを感じられた。

 

 しかし、商魂の逞しさは一度断られたくらいで緩まない。彼は次に両膝から下の義肢を取りだした。それも珍しいことに片方ずつ別企画ではなく、同じ規格の右足と左足だ。

 

「じゃあ、そこのお嬢さん、コイツはどうだ? 生身の足じゃ疲れも出るだろ。コイツのショックアブソーバは別格だ。一日100km歩いても疲れやしねぇぞ」

 

「え、いや、あーしは……」

 

「今なら両足セットで新品煙草十本でどうだ? 手術費は勉強させて貰うぜ」

 

「えーと……」

 

 べらべらとスペックを捲し立てられて困惑するナナ。ハジメは自分のポリシーとして機械化していないだけだが、ナナがどう考えるかは自分次第なので口出しするつもりがないようだ。取りだしたシケモク煙草を吸って、滅多にない青い空を眺めている。

 

 ただ、機械化は本当に善し悪しだ。部品を調達しなければ、日々劣化していくそれを眺めていくしかない辛さはあるが、良い面もある。

 

 部分置換であれば手術のリスクは少ないし、交換部品を手に入れる必要性が、機械化した箇所に留まるためランニングコストも抑えられる。その上で性能は生身など比較できない物となるため、戦力の単純かつ即物的な向上には適している。

 

 問題は〝運が悪く〟メンテナンスができなかった時だ。破損して仲間に連れ帰って貰ったあと、交換できる足が売ってなかったら?

 

 人間なら吹き飛びでもしない限り、一月二月生きていく糧があれば治りはするが、フラグメンテ・マキナの部品と入れ替えるとオーバーホールせねば動かない。最悪、治すよりも取っ替えた方が早いこともあろう。

 

 そのリスクを受け容れての性能アップを手に入れるか否かが重要なのだ。

 

「あれ?」

 

 さて、ナナはどんな答えを出すだろうかと思っていると、甲高い少女の声が雑踏を裂いた。

 

「げっ」

 

 何だと声の源を見たハジメは低い呻き声を上げた。

 

 そこにいたのは三人組の少女。ナナと同じような学生服を着込み、スクールバッグを持ち、その上でタクティカルベストを纏って武装している。二人はガタガタのパイプガンだが、一人は質の良さそうな自動小銃をスリングでぶら下げていた。

 

「ウチの子? ここに派遣されている人って他にいたっけ?」

 

 武装JKという単語がある人間には浮かぶだろう。

 

「スクールかぁー……ややこいなぁ」

 

「スクール?」

 

 ハジメは面倒臭そうに後頭部を掻いて、説明がややこしい組織だと答えた…………。




発売日までもう僅か!!

8月9日 大阪のTGFFと8月15日の夏コミでも頒布します!
地方の方には通販もありますし、電子版もありますよ!!
割と、割と洒落にならない学の全力をツッパているので何卒、何卒……!!
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