WORLD END SCRAPYARD~ 廃棄された多元世界で治安がヤバイ女たちと悪運だけで硬派に生きてる 作:Schuld
アイスを食べたら解散の流れかなと思っていたら、しかし話はそこで終わらなかった。
女子高生の駄弁り力を舐めてはいけない。女が三人寄って姦しいとは、伊達でも冗談でもないのだ。
そして、同年代の初めて顔を合わせた相手というのは、話題の火口としては十分に過ぎた。
「えっとさ、ナナって呼んで良い!?」
「え、ああ、まぁいいけど」
「ナナってサイバネ希望!? 熱信に話聞いてたけど、いーよね、ウチも片っぽだけ義足じゃなーんかダサいから、両脚やろうかと思ってんの」
「だ、ダサ……?」
たしかに、毛染め剤のため仕事を受けたという点で、ナナも結構酔狂な人間だが、流石にお洒落のために健康で残っている片足を切り落とす精神は理解できなかった。普通そこは、可愛いソックスや靴が履けないから生身に戻りたいとかではなろうか。
「もうさ、思い切って股関節から置換したいんだよねー。その方がセクシーじゃない?」
「え、でもメンテ部品が大変だって聞いたけど……」
「半端にしちゃうからだよ。次々取っ替えてけば良いの。お洒落と一緒」
そうかな……いやそうじゃないだろ、と思ったが、他のスクール二人が何も言わないことがナナには不気味でしかなかった。
彼女は最新の世代を生きてきた女子高生なので、正直に言うと軽度の身体改造には抵抗がない。といっても、それもプチ整形やタトゥーやピアスくらいのものであって、ゴリゴリに肉体を機械と置換するのは、話の段階が違う。
普通に動いている片足を叩き落とすのと、目頭からワイヤーを差し込んで二重まぶたにするのでは、同じ土台で話されると困る。
たしかにハジメが言うように、親から貰った大事な体という感性は古臭い。
だからといって、お洒落が主目的で足を切り落とすのは如何なものか。
「あとさー、ウチ制服可愛いけどスカート短いじゃん? ジャージで戦場出たら怒られるし」
「当たり前でしょう。校則だし。何よりスクールの生徒が活躍してるって分かりづらくなるじゃない」
「いや、だから膝撃ちの姿勢だと膝に色々刺さって痛いんだよね。だから次は膝関節から上にしよって決めてたんだ」
「ニーパッドでよくない……?」
ナナから溢れた当然の疑問に、ミホは手を振りながら冗談と笑う。
「購買で売ってるのダサいんだもん! デコったら視認性上がるし! それなら普通に機械の足が良いよ!」
「替えも効くものね」
「あたし、肺をフラグメンテ・マキナ製にしたいな。長距離走しんどいんだもん」
そっちこそ冗談だろうとナナは言いたくなった。購買でプロテクターを売っているなら、それを買えば良い。そうすれば片足を切り落とさなくても膝立ちしようが、膝蹴りを叩き込もうが痛くなんてなかろう。
単なるスペックアップのため、まるでネイルチップを切り替えるような気軽さで四肢置換を語る様に、一般的女子高生であった彼女は正気が揺らぐ感覚がした。
特に、あまり深い仲というほどではないが、彼女はトリニティとの付き合いがある。
歌唱用と名乗っているのに唄えない不便さ。そして、あのハジメまでもが気を使って、こういう大きな市が立てば部品が売っていないか探しに行ってやるのだ。もし壊れた時の不便さを知っていて、この会話をしているのだろうか。
特に、怪我をしてナンボ。無傷で終われば祈る相手もいないのに、祈りたくなる巷で銃の撃ち合いをするというのに。
「いや、でも……壊れた時のこと考えないわけ? あーし、先輩にフラグメンテ・マキナがいるから、ちょっと分かるんだけど」
抑えきれずに溢れた疑問を聞いて、スクールの三人は顔を見合わせた後で大きく笑った。
疎外感。
ああ、この感覚は知っているとナナは悟る。勿論、ハイ・カーストで実家が太かった彼女は、いつも物を知らない流行遅れを笑う側だった。そして、コスメにせよスマホにせよ、知らない相手に見せて説明してやっていた。
「ウチん足、見て」
「こら、お下品。下着見えるぞ」
「スパッツ穿いてまーす」
椅子の上に靴が届くほど義足を持ち上げたミホをハジメは反射的に叱ったが、スカートから覗くのはたしかに下着ではなく太股の半ばまでを隠す合成繊維ではあった。
「そういう問題じゃないだろ。年頃の娘が足を大きく上げるな」
「ふる……」
「何時代の人?」
ミホとシィの言葉遣いにカナだけが注意したが、実際に自分が女子高生の年代からしたら〝オッサン〟と呼ばれても仕方ないことを理解しているハジメは、その点には異論を差し挟まなかった。
まぁ、もう来年には概念的に言うとアラサーなのだから、抵抗をする方が無様と言えよう。
若干の寂寥感を覚えつつ、煙草の煙を吐くハジメの向かいで少女の足が展開した。
飛び出してくるのは、剃刀のような刃。脛に沿って弧を描き伸びるそれは、間違いなく使用した形跡がある。
一度や二度、拭った程度では落ちない、金属の微細な穴に染みついた人の脂。
「ほら、こういうのも仕込める。蹴りで殺せる火力が出るのって中々便利だよ」
「そういうの、内部構造が脆弱になりやすいだろ」
「造りがシンプルだから、替えが一杯あるんだよー」
足首を掴んで高らかに右足を垂直に持ち上げて見せ付けるミホを、もうハジメは叱ろうと思わなかった。
多分、こういうのが恥ずかしくない世界から来たか、女子ばかりの環境で育てば羞恥心の形も変わるのだろうと。
「てか、上級生だと一部のマジで凄い人以外、大体どっか機械だし」
「フルボーグの人もいるもんねー」
「フルボーグ?」
「全身サイボーグのこと。脳味噌以外全部、フラグメンテ・マキナの機械と入れ替えんの。もう実質フラグメンテ・マキナだよね」
その言葉にナナは思わずゾッとした。
彼女も自分が命を場代に金を稼いでいる自覚はある。何時か肉体が欠けた時、それを機械で補うこともあるだろう。周りのイカれた先輩達は、何故か最前線を突っ走っても当たり前のように生身だが、チグハグな機械のパッチワークで生きている人間は存外多い。
しかし、脳以外をフラグメンテ・マキナの体に入れ替える。その発想がイマイチ理解できなかった。悍ましくないのだろうか。
だが、本来は〈ローン・サバイバー〉気質の彼女であっても、学校で培った、口にした瞬間にクリティカルな話題くらいは分かる。だから、何も言わないで肯定でも否定でもない安パイ。
ただの微笑を返す。
「全身義体はオススメしねぇなぁ。ほっときゃ治るもんが治らなくなるし、煙草がかかってしゃーねーぞ。適合部品を毎日探して彷徨き回ることんなるし」
「でも、ちょっとした弾なら止まるじゃん」
「調子こいてっと皮下プレートの隙間から弾が潜り込んで、ビリヤードみたいに体ん中弾けまくって死んでも知らねーぞ」
それぞれのフラグメンテ・マキナ製義肢に体を置き換えることを議論していると、甲高い電子音が空気を割った。
三人が左手に付けている、同じ形の電子時計がタイマー設定によって刻限を報せたのである。
「やっば! 戻んないと!」
「大丈夫よ、五分前に設定したでしょ」
「あっ、ごちそうさまでした!」
それぞれ急いで銃を手に立ち上がるスクール生達。ハジメは煙草をもみ消しながら頷き、ナナは小さく手を振った。
「またねー! 縁があったら仕事しよー!」
「制服仲間だから、覚えておきます」
「元気でー!」
小走りで小銃とスクールバッグを揺らしながら駆けていく三人が人混みの中に消えたあと、たっぷりと十数秒時間を置いて、ナナは机に額をぶつけんばかりの勢いで突っ伏した。
「強烈だったろ?」
「オタクくんがややこい組織だって言うのがよく分かったわ……」
うんざりしたような声は、ほんの数十分の会話で十分に彼女の正気と常識が削れたことを示している。ゾンビが涌いて滅びの最中にあった世界から棄てられたとはいえど、もとは普通の女子高生。
もっと幼い内から、スクールの武装女子高生として育てられた人間の感性は、相当に堪えたと見える。
「ナニアレ、マジで正気なん?」
「狂気は自然の事実ではなく、文明の歴史のなかで構築されたものである……つったのは誰だったかな?」
「どーいう意味?」
「正気も狂気も育った社会次第ってこと。謝罪のためにハラワタ取りだして、そっから首落とされるのが一番だったって時代もある国生まれの人間としての忠告だ」
反吐を吐きそうな顔をして項垂れた彼女だが、どうにか美味しかったアイスクリームと再会はせずに済んだようだ。
そして、忘れようと体を持ち上げる。
「他に何か面白いお店ないか探そ」
「それよか、結構時間経ってるぞ。シャシュトゥの様子でも見に行ってやれ」
「えー?」
面倒くさがるナナに、ハジメは煙草を一本放った。シケモク一本、水を差し入れしてやるのに十分なものだ。
「今日か、長くて明後日までの喧騒だ。味わい損ねたら損だぜ。煙草も貯めてるだけでカビさせちゃ勿体ないだろ。適度に遊べよ」
「はぁい」
自分も何か珍品探しでもしようと椅子から立ち上がったハジメは、ふと思い立って足を止めた。
「ああ、それと、こういう場所だと結構仕事も転がってるから、注意して色々見てみろ」
「仕事?」
「店番、荷物運び、デモンストレーション役のサクラと……」
「どれも湿気てそ……」
「あと、護衛の追加募集とか」
護衛? と聞いて、人類居住地を往き来するキャラバンのお守りだとハジメは仕組みを教えてやった。
専属の護衛を雇うのは、中々に大変なものだ。食わせてやらないといけないし、育ててやらなくてもならない。その上、商売がキツくなったからと言って、簡単にさようならともいかぬ。戦えなくなった後の面倒を見てやる義理もあるだろう。
だからこそ、信頼できる者を一人か二人雇い。後は傭兵で補うのが商売人達の定石だった。
「こないだの大雨で体調崩してリタイアしたヤツが幾らでもいるだろ。代わりを求めてる隊商は多いはずだぜ」
「ああ、やっぱ具合悪くなったらポイなんだ」
「大怪我してもな。ただ、その危険の割りに実入りは良い。お前さんなら日当シケモク三本は堅いぜ」
三本も!? と驚くナナに、この巷を彷徨くのには、それだけで命の危険が付きまとうから当然だと先達は返した。
「ナナも一回はアーモリーの外を味わっといた方が良い。規模がでかくて、自分以外の弾除けが多そうなところがあったら手ぇ上げとくのもいいぞ」
「意味は分かるけど弾除け言うなし」
人間だれだって誰かの弾除けさと達観したことを言って去って行く戦果を見送り、ナナは一度、宿でくたばっているオーガが快復したかを様子見するために戻ることにした…………。
マッポー武装サイバネ女子高生集団。
好きな属性を詰め込めるだけ詰め込みました。