WORLD END SCRAPYARD~ 廃棄された多元世界で治安がヤバイ女たちと悪運だけで硬派に生きてる 作:Schuld
「俺達が棄てられただと!? そんな理屈! 納得できるか!!」
強く、握り拳に叩き付けられた机が揺れて、ウイスキーが注がれていたグラスが倒れた。
神々にとって世界の運営はボードゲームやTRPGの卓に近いらしい。
広げる数に限界があり、終わった物はしまうか棄てるかしなければならない。
そして、どうしようもなく詰んだ、あるいは飽きた盤面がどうなるか。
その世界は棄てられるのだ。
人間が遊び飽きたゲームのデータをアンインストールするように。書いたはいいけれど、つまらないなと思って没にした小説や漫画のデータをゴミ箱に放り込むように。
そして、このスクラップヤードは、斯様な世界を受け容れるべく、奇特な神が自分の世界に他の神の世界を破却することを受け容れて生まれた。
とはいえ、それを直ぐに納得しろと言われても難しかろう。
少なくとも、自分達が造物主に見捨てられたなど、どのような観念の宗教を崇めていようと、そうそうに認められるはずもなし。
「では、理屈としてはどう納得されます? 外に無線は通じましたか? テレビは? 電話は?」
「それは一時的な異常で……」
「では、触れるだけで肌が爛れる黒い雨は? 兵士達は随分と酷い目に遭っているご様子ですが」
「む……」
「それに我々。現に棄てられて来た余所の世界の住民を如何にご説明なさいます?」
さぁ、と手を差し出されて前に出たフラグメンテ・マキナは、こういう時に見世物の如く扱われるのは気に食わなかったが、分かりやすさという点では何にも勝ることを理解していた。
『こういう時、首を外せれば分かりやすいんですが』
「それ、お前の世界でも鉄板ネタなのかよ」
『ロボじゃないよ、ロボじゃないよ』
ホロスクリーンに冗談めいた言葉を投影する様を見て、流石に大佐も理解せざるを得なかったようだ。
少なくとも、彼が知る技術体型で、このようなロボットは作れなかった。東の方や支援を受けている西側国家が、技術実験機としてそれらしき物を作ってはいたが、階段さえ昇れるか怪しい代物だったはず。
こんなビスクドールが自我を持ったような完成度の代物が作れているのであれば、冷戦構造で優位に立つため、秘匿するのではなく大々的に放送されてしかるべきだろう。
「こんなロボットが……」
『ですから、ロボじゃありません。ガイノイドです』
「そんなことはどうでもいい!」
アイデンティティ的に、トリニティからすれば単純作業用の自動機械に過ぎないロボットと同一視されるのは非情に不愉快なのだが――そもそも、彼女は廃棄される以前は市民権をちゃんと持った〝個人〟であった――SF小説すら読んだことのなさそうな人間に区別などつくまい。
「だが、だが、そんなことが……」
「直に分かることですよ。車が幾台か生き残っていましたね。市外へ偵察に出れば、嫌でもご理解いただけるかと」
これが都市全図ですね? とハジメが歩み寄った、黒板に貼り付けてあった地図を指させば大佐はそうだと首肯した。
であるならばと、見て取った様子から区画をぐるりと指さしてやるシヴィラツィオ。
「この首都は、世界が棄てられた衝撃で、この辺までしか残っていません。斥候を出せば十五分ほどで分かるのでは?」
「……分かった。誰か行ってこい」
「はっ」
側近らしい、比較的小綺麗な格好をした兵士が駆けていった。事実確認を重んじる軍人らしい采配だ。
「座れ。事情を聞きたい」
「では、謹んでご説明申し上げましょう」
大統領執務室の傍らには、応接用のソファとローテーブルがある。促されて案内された五人は、上座に座った大佐に続いて席に着く。
正面には交渉役のハジメが。トワイラは今まで座るよう勧められなかったことが不遜だと言わんばかりに腰掛けるが、他の三人は各々好いたように振る舞った。
デルタは背もたれに腰を下ろし、いつでも動けるように備えている。彼女にとって、安全圏と判断できる場所以外で腰を落ち着けることなど論外にも程があった。
トリニティはハジメの後ろに立っている。ガイノイドの身体構造的に、座っているよりも直立している方が、各所サーボモーターなどに負担が少ないからだ。普段電源を切るときにしゃがみ込んでいるのは、転倒を防ぐためであってリラックスできる体勢だからではない。
一方でぬいぐるみを手放すことなく、ソファの足下に座り込んだクインは、柔らかい座面が苦手であった。長らく硬い地面を寝床にしてきた彼女にとって、柔らかすぎる座り心地は却って落ち着かない。
珍客達が落ち着くのを待って、大佐は咥えていた葉巻が短くなっていたことにようやく気付いたようだ。従兵に灰皿を持ってこさせて、新しい一本を取り出す。
そこで、やっと〝持て成し〟という言葉を思い出したのだろう。上等そうな木箱をずっと机上に滑らせて言った。
「一本どうだね。同盟国産の一級品だ」
「これはこれは、中々お目にかかれない代物ですね」
葉巻はスクラップヤードにおいて金貨に等しい。
製造には長い時間と職人芸が必要なソレが作れなくなって久しく、廃棄世界から手に入れてくるしかない。故に一本でシケモク煙草が数数百本分以上の価値を持つ葉巻は、大規模取引の際に用いられる、半ばシンボリックな物と化していた。
カッターで吸い口を切った葉巻を受け取ったハジメは、札束を燃やしているみたいなもんなんだがなと呆れつつ、シダー片で火を灯した葉巻を吹かした。どうやらこの大佐、貨幣経済が煙草と弾薬で成り立っているという説明を、さっきのさっき説明を受けたばかりだというのに忘れてしまったようだ。
口の中に広がる濃厚な煙草本来の味に、微かに混じる甘いバニラめいた芳香。どうやら、大統領は甘党だったのだろう。実際、大佐はあるから吸っているから仕方ないといった顔をしており、あまり気に入っていないようだった。
「それで、あー……Mr……」
「ハジメです。気軽にお呼び捨てください」
「ではハジメ、この世界? のことについて聞きたい。その、なんだ、君や後ろの彼女が腰にぶら下げているような骨董品が主流なのかね?」
目はショルダーホルスターのアーモリー・リボルバーに注がれており、見せろと訴えているのでハジメは特に逆らうことなく、発砲できない形で取りだして机上に置いた。
「パーカッション式か。独立戦争時代の博物館で並ぶような品だな」
「これはアーモリー・リボルバーと呼ばれています。近郊で最大の街、アーモリーの特産品。全傭兵垂涎の品ですよ」
頑健で、整備に易く、熟練者が装填すれば不発率も低い。
このスクラップヤードにおいて最も重視されるのは性能ではない。過酷な環境での適応性、そして部品の入手性だ。
どれだけ性能が良かろうが、整備のできない道具は使い物にならなくなっていく。それは正に、供与されたと思しき最新鋭の小銃を装備している大佐の部下にも言えた。
「そちらが装備なさっているのは、新式の小銃ですかね? 外殻はプラですか?」
「西側最新鋭の繊維強化ポリマーだ。軽くて頑丈」
「ですが、気候の変化に弱い。極端な温度変化にも」
「む……」
半月保てば上等ですな、そう呟くハジメの言葉に大佐は事実だろうと察した。
実際、納入されてから半年はトラブル続きだった。砂塵が多い地域に湿潤な西側諸国で造られた新型銃は適性がなく、本体の破損、暴発、装填不良が多発して兵士からの評判はすこぶる悪かった。今は現地改修を施して多少マシになりはしたが、故障の報告は今も途絶えていない。
それが更なる環境の激変を迎えたならばどうなるか。叩き上げの軍人である大佐には、深く考えるまでもなく理解できた。
「それと外に戦車も見受けられましたが……」
「あれは東側からの物でな。多少荒く扱ってもびくともせん」
「ですが、燃料備蓄が潤沢とは思えない。地図の北側にある軍事基地は根こそぎなくなっていましたよ」
宮殿には象徴のように戦車が一両配備されていたが、それが本気を出せる時間も限られている。
高純度のガソリンはスクラップヤードにおいて五十年もののウイスキー並に希少だ。燃費が劣悪なガスタービンエンジンを動かしたとあれば、多少の備蓄などあっと言う間に使い果たしてしまう。
真面に動くのは、ケチりながら動かしても一ヶ月くらいであろう。
「ですので大佐、貴方方は今、アドバンテージを持っているでしょうが、それを賢く使うことを進言いたします」
「何だと?」
「全て早晩動かなくなるということですよ。電気も、銃も、戦車も。今ある物が終わったら、ただのスクラップです」
「…………」
「ですので、棄てられてくる前の世界がどうだったかは、早くお忘れになるべきです。速やかにこの経済圏に馴染み、新しい生き方をするのが一番いいでしょう。この災禍を生き抜いた〈悪運〉があるのですから、大事に使われるべきかと」
大佐は顎にてをやってやや考え込む。葉巻の煙を勢いよく吐いた後、自信満々に言い切った。
「だが、逆を返せば数ヶ月は全力で戦えるわけだ。この宮殿には地下備蓄倉庫がある」
「……世界征服でもなさるおつもりで?」
「悪くないな。そんな骨董品が主流なら、生き残りの我が軍でも十分に揉み潰せるだろう」
傲岸かつ不遜に笑う大佐にハジメは深い嘆息で応えた。
ああ、やはりかと。
「では大佐、わたくしから一つご助言が」
「何かね?」
「このゴミ捨て場は、そこまで甘くありません」
葉巻をもみ消し、銃をホルスターへ。そして、姿勢を崩し、常に眠そうでやる気の感じられない目を珍しく眇めるハジメ。
「こちらが親切にしているのは、顧客からの依頼があるからですよ」
「顧客だと?」
「ええ、我が親愛なるハイランダーは冷徹なれど慈悲深くあられる。新人に対して〝スクラップヤードの流儀を教示してやれ〟と仰せでしてね。貴方方のように生き残った廃棄世界の住人に優しく物事を教えているのは、仕事だからです」
「……では、自分の言葉は寛大に手を差し伸べてやっているのだと思えとでも言うつもりかね」
「お察しがよくて助かる。今まで嫌というほど見てきましたのでね。分を弁えず馳せ回って、最後には自滅していった廃棄世界の住人を」
「俺が背伸びした上で調子に乗っていると言いたいのか!!」
ローテーブルが力強く殴られ、握っていた葉巻が折れた。価値が分かっている者達は勿体ないと思いつつ何も言わない。
まだハジメが動こうとしていないからだ。
皆、分かっている。この男がのんびり構えているということは、まだ修羅場は遠いということを。
いわば風見鶏。場の雰囲気を空気を読むための指標。チグハグな五人が連み、仕事を続けているのは、何もハジメが顔役として便利だからではない。
異才というべきか。
このイモータンなどと大仰な異名を授かる男が〝今は死なない〟とのんびり構えているならば、焦ることはない。
死に反応するガイガーカウンターのようなものだ。静かにしているなら慌てる必要は何処にもない。
そして、甲高くなり始めたら、相応の対応をとるだけだ。
「今が分水嶺ということですよ、大佐。馴染むか、異物となるか。オススメは大規模な傭兵として新しく旗揚げすることですかね。この規模ならば、多くの集落が定期契約を持ちかけてきますよ」
「俺が、国家が、犬になれというか……大人しく近隣の情報を渡せば、それなりの立場で遇してやろうと思っていたのだがな」
「私は均衡を保てと顧客に命じられておりましてね。仕事の最中に別の仕事は受けない。傭兵が守るべき最低限のマナーですよ」
「そうかね。では、少し別室で〝頭を冷やしてきたら〟どうかね。考えが変わるかもしれん」
「……気が短いことで」
連れていけ、そう命じれば従兵が銃を持ち上げた。最初からセーフティーはかかっておらず、引き金に添えられる指は無遠慮に。
それでもハジメは動揺も焦りもしない。
今までこの五人で潜ってきた修羅場と死線を考えれば、調子に乗った独裁者に銃を向けられる程度、弁当に箸がついていなかった程度のトラブルに過ぎないのだから。
「別の部屋でお話だそうだ。行こうか」
銃口に追い立てられるように扉へ向かう五人。しかし、誰も臆していなかった。
西部劇に活躍の舞台を移したパーカッション式リボルバーと〝自転車屋でさえ作れる〟といわれた短機関銃、それから時代後れの大仰な長剣。
どれも武器にならないと軽く見られている。
それが命取りであることも知らず。
「では大佐、改めて歓迎申し上げますよ。ようこそ、世界の果てのゴミ捨て場へ」
「さっさと連れていけ!!」
扉がバタンと乱暴に閉じられる。
それは、一つの未来が潰えたことを暗示していた…………。
思ったより書き溜めが沢山溜まっているから更新よー。
コメントや評価を頂けると嬉しくて筆が進むと思いますので、お暇でしたら何卒よろしくお願いいたします。