モンスターハンター ライズ  ~明けの双星~   作:佐藤 磊童

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■チャプター③ 覚悟 其ノ一

 ――砂原。

 天から降りそそぐ灼熱が、生き物の生存を許さぬ不毛の大地。

 かつては緑栄えたこの地も、凶星告げる赫耀が招いたとされる異常気象により、砂礫へと姿を変えたのだという。

 

「……絶対嘘だろ」

 

 ユウがぼそりと呟く。

 見る限り、砂。岩。枯れかけた木。

 今の現状を見る限り、かつて緑栄えた時代など想像すらできなかった。

 

 日射に晒された白い岩の高台で、周囲を警戒しながら顔に手で影を作りながら、陽炎で揺らめく遠い風景を見回す。

 

「はぁ、はぁ……」

「大丈夫ですかぁー? ルルカさん」

 

 ユウの心配をよそにルルカはどんどん突き進む。

 

「は、早く、サブキャンプ地へ、む、向かいましょう……」

「……大丈夫とは言わないんだな」

 

 ルルカが灼熱の中、必死に歩いている。

 というのは、見せかけ。

 実際は日傘を差しながら、アカメに跨っているだけ。

 

 いかにも自分の足で歩いているかのような物言いに、ユウは少しだけ呆れた。

 

 巻き上がる風による、壁のような砂塵が遠くに見えた。

 

 ふと、今回のクエスト内容を記した依頼書を懐から取り出す。

 クエストは護衛。

 目的は。砂原のサブキャンプにいる、とある人物に会う為にギルド職員を護衛する事。

 

 護衛対象は――ルルカだった。

 

「少し休みましょうか?」

 

 ユウが高台から、軽やかに着地する。

 重い装備を感じさせない身のこなしに、少し目を丸くする。

 下位とはいえ、やはりハンターなんだなと、ルルカは汗を流しながらそう思った。

 

「ま、まだクーラードリンクは三本あり、ます。でも……ホットドリンク、は持参してないので」

 

 そこまで言うなら、早く目的地を目指しかない。

 

 砂原の気候は昼夜で、かなり温度差がある。

 夜間は氷点下になる事もあり、手持ちの装備では、このまま行軍を決行した方がよさそうだった。

 

 腰に手を当てて心配するユウの横を、ルルカが通り過ぎる。(アカメに跨った状態で)

 

 ユウは鼻で軽く溜息をつき、翔蟲を飛ばし、警戒に戻ろうとした、その瞬間――。

 

「ハンターユウ……」

 

 つぶやくようなルルカの声。

 

 ユウは飛ばした翔蟲の糸を手離した。

 浮いた身体が、着地の勢いで二、三歩前へ流れる。

 

「あ、……あの」

 

 ルルカは、砂風で乱れた前髪を整えながら、目を泳がせて伝えたい事を整理する。

 

「やっぱり、……す、少し休みましょう」

 

 ユウの視線に、ルルカは少し目を逸らし、俯いた。

 

 ■■

 

 ――今回の件は、ギルドには報告しない。

 

 稲光が集会所を穿ち、遠くで落雷が轟く。

 

 ザドの決断に、集会所の空気は騒然となった。

 だが、誰からも反論は出なかった。

 

 もしこれをハンターギルドに報告したら――。

 

 この研究をしていたルルカは懲罰対象となる。

 何より、ミイの確実な討伐に、里の外からハンターが派遣される。

 

「ルルカ」

 

 ザドの言葉に、ルルカが悲痛な表情で振り向く。

 

「もう自らを罰しようとする事はやめろ」

「で、……ですが」

 

 そこから先の言葉が出る事が無かった。

 代わりに大粒の涙が頬を伝う。

 

 事故だろうが、その原因を作ったのは自分だ。

 人や竜人族の為になると思いながらも、嬉々として研究に明け暮れた。

 

 里長の言葉を借りるなら、円環を侵した。

 それが越えてはならぬ一線だと理解していても、溢れる興味が尽きる事は無かった。

 

「……ルルカさん」

 

 ユウが胡坐から正座に姿勢を変えて、ルルカに向き直る。

 

「狂竜ウイルスがミイの身体に寄生して、段々とマガラ化していくというのは分かりました……」

 

 ミイの容態が急に安定したのも。

 完治しないと言われていた怪我がたった一か月で完治したのも。

 

 全ては狂竜ウイルスによる、マガラ化によるものだった。

 

「……ハンターユウ」

 

 どうか私を罰してください。

 その刃で、私を殺してください。

 

 あなたの双子のお姉さんを殺したのは、私も同然なんです。

 

 喉まで出掛かった勇気を、吃音が邪魔をする。

 

 人より長く生きてきた中で、ここまで自分の臆病と体質を呪った事は、無い。

 

「ハ、ハンターミイの、異変には。……き、気付いていました」

 

 運ばれた当初、右腕の全体にあった黒い斑点が消え、会話も順調。

 その為、既に死んでいたという可能性を、除外してしまった。

 

 その可能性を。

 もっとしっかりと里長に伝えるべきだった。

 

「わ、私は。……研究者、失格です」

 

 畳を爪で掻きむしるように、音を立てて握りしめる。

 

 震える肩に、ユウが手を添える。

 

「まだ、そうと決まったわけではありません。仮にそうだとしても――」

「ですが!」

 

 ユウの悲しそうな表情にはっとする。

 腹の底から沸き出す後悔と慚愧。

 

 ルルカはユウを正面から見る事が出来なかった。

 

■■

 

「――ハンターユウ」

 

 日陰での小休憩。

 ユウが温い水を飲んでいると、ルルカの思い含んだ声に振り向く。

 

 その表情はいつかの時のように弱弱しくはなく、意を決した覚悟を孕んでいた。

 

「ハンターユウ。あ、あなたには、私を裁く権利があります」

 

 そういって押し黙るルルカ。

 

 人と話すのが苦手な彼女が、どれほどの覚悟で――。

 

 ユウは空になった水筒を腰のポケットに差し込み、砂塵で濁った空を見つめた。

 

 ――裁く権利。

 だが、ルルカはこんなにも自分を責めている。

 罰し続けている。

 

 仮に自分が裁いたとしても、それでも更なる贖罪を求めるだろう。

 おそらく、自らの命が尽きるまで。

 

 だがそれを言うなら、ミイを無理やりハンターにしてしまった自分も同じなのではないだろうか。

 

 幼い頃、ミイには夢があった。

 その夢が思い出せないけど、もしその夢に一緒に歩んでいれば。

 

「……ルルカさん。あの時言いかけた通り僕は、まだミイが完全に死んだとは思っていません」

 ユウがルルカを見る。

 その目には、嘘偽りは感じられなかった。

 

「それに……分かるんですよ。ミイは、まだ生きている」

「どうして、……ですか?」

 

 そんな事はあり得ない。

 ルルカが怪訝な顔でユウを見る。

 

「だって、双子なんだもん」

 

 笑うユウの顔。

 

 奥から、一陣の風がルルカの前髪を揺らした。

 影で冷やされた風が、少しだけルルカの横を通り過ぎていった。

 

 それが、ユウの優しさ。

 

 だが。

 ――だとしても。

 

 ルルカは、胸に手を当て、ユウを見る。

 

 言葉を発しようとするが、息が詰まり何も言い出せない。

 

 ふと、何かが迫る音。

 それに反応したユウが剣斧に手を掛ける。

 

 奥から砂ぼこりを巻き上げながら、何かが近づいてきた。

 

「どけどけにゃあー!!」

 

 見ると荷車を引いたヌコヌコが、こちらに爆走。

 荷車には乙ったハンターが身体を上下に揺らし、あちこちにぶつけている。

 

 その後ろには、いきり立ったディアブロスが巨角を向けて、こちらに迫ってきている。

 

「にゃ! あの時の坊主か!」

「ぬぬ、ヌコヌコさん!?」

「丁度いいのにゃ! あいつをよろしく頼むのにゃ!」

 

 たっち。

 

 灼熱の砂漠の中、アイルーの手はひんやりと冷たい。

 いや、そうじゃない。

 

「ではハンターユウ。後は頼みます」

「あ、ええ!? いつの間に……」

 

 ルルカはすでに荷車に乗っており、ヌコヌコの乱暴な運転で、あっという間にこの場を去ってしまった。

 

 さっきまでの雰囲気は何だったのだろうと、少し呆気にとられる。

 だが状況が変わった以上、気持ちを切り替えねばと、呼吸を深くする。

 

 後に残されたユウは相棒のアカメを探す。

 だが、はるか遠くの安全な場所で、勇ましくワンワンと吠えていた。

 

「あ、あいつは……。って、おわぁ!?」

 

 ユウは間一髪でディアブロスの体当たりを交わし、翔蟲で高台に避難。

 

「アカメ! さすがに助けて!」

 

 アカメが爪をカチカチ鳴らしながら、ワンテンポ遅れて岩肌を蹴る。

 

 ディアブロスの尻尾がユウの足場を崩し、崩落。

 だが、同時にアカメに飛び乗り、距離を取った。

 

 円を描くように、アカメがディアブロスとの間合いを計る。

 

 水が僅か残る干からびた湖跡で、ディアブロスを迎え撃つのだった。

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