モンスターハンター ライズ  ~明けの双星~   作:佐藤 磊童

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其ノ二

 ユウを乗せたアカメが、ディアブロスを中心に円を描きながら、岩場を跳ぶように走り抜ける。

 ディアブロスは槌のような尾を振り回しながら、アカメをできるだけ視界の収めようとするが、それ以上に機動力はこちらが上。

 

 死角に入った一瞬を突いて、ユウが転がりながらアカメから降りて武器を手に取り、姿勢を低くする。

 

 止まる物体よりも、動くものを目で追う習性を利用して、意識を吠えるアカメへと向けさせた。

 ディアブロスの足が止まり、首の反対側へ回ったアカメを目で追っているのを確認。

 翔蟲の糸で跳躍し、首の外殻へと斬り込む。

 

 ギチリ。

 

 固い甲殻と剣斧の刃が鈍い音を立てる。

 

 傷は入る。

 だが、一度では通らない。

 

 中空でそれを感じた直後――、右から巨角が眼前へと迫る。

 ユウは咄嗟に武器を手放し、腰に据え付けたあった閃光玉を起爆。

 

 爆ぜる閃光により角の直撃は受けなかった。

 しかし、荒れ狂う翼により地面へと叩きつけられる。

 

 両手と足で着地。

 武器を回収して、閃光により暴れ狂うディアブロスから一旦距離を取った。

 

 少し離れた岩場で、勇気を振り絞ったアカメが勇ましく吠える。

 

 ユウが短く息を吸い、深く吐く。

 

 ――どうすれば生き残れるか。

 その算段が、ユウの中で組み上がっていく。

 

■■

 

「おらおらおら~にゃあ!!」

 

 岩と砂の悪路を、ヌコヌコが荷車を引いて爆走。

 ようやくキャンプ地のテントが見えてきた。

 

「到着! ルルカ、降りるのにゃ」

 

 ヌコヌコに言われるまま、ルルカがちょこんと降りる。

 それを確認したヌコヌコが荷車で乙の字になっているハンターを睨む。

 

「お前はいつまで乙っているのにゃ! さっさと降りるのにゃ!」

 

 まるでゴミを捨てるように怪我したハンターを降ろす。

 

「三乙のお前はクエスト失敗だにゃ。さっさとテントで怪我の治療をするといいにゃ」

 

 そう言って、足取りがおぼつかないハンターを誘導。

 

 テントから出てきた顔は非常に清々しいものだった。

 

「ふぅ~。良い仕事をしたのにゃ」

 

 そしてそのまま、自分の仕事も終了と言うかのように、帰る準備を始める。

 ルルカは怒涛の展開に付いていけず、ただただ茫然としていた。

 

 ふと、救援要請に来たにしては、荷物が大きい事に気付いた。

 

「ま、待って、ください」

 

 吃音混じりでヌコヌコを静止する。

 

「ハンターユウは、ど、……どうなるんですか?」

「俺の仕事は、あのハンターを救助する事だにゃ。それが終わったら帰るだけにゃ」

 

 遠くでディアブロスの咆哮が、乾いた風に乗り小さく聞こえた。

 

「……ハンターユウは、今も戦っているんですよ」

「あの場に居たあいつがいけない、とは言わにゃいが、……それがどうした?」

 

 ヌコヌコから発せられる圧。

 引退したとは言え、元マスターランクのハンターの相棒だ。

 小さな身体から発せられる無言の圧に、一瞬気圧される。

 

 以前の自分なら、ここで黙っていただろう。

 ユウも、自分にとってはただの里の馴染み。

 その程度の関係。

 

 だが、今は違う。

 

 ユウは自分を断罪しなかった。

 

 ――ハンターだから。

 

 おそらくその一言で済ませる事も想像できた。

 

 なら、自分は?

 

 受付嬢として、ユウの為に一体何ができるのだろうか。

 

 鼻で大きく息を吸い込み、胸で留める。

 ルルカは鞄のすそを強く握り、一歩、足を踏み出した。

 

「ほ、本当は、行きたいんじゃ、……ないですか?」

 

 ルルカの一言に、ヌコヌコの尻尾がぴくりと反応する。

 

「どこへにゃ?」

 

 次第にヌコヌコの毛が逆立つ。

 

「……狩りに」

 

 背中越しに感じられる圧が高まる。

 

「知った風な口を聞くなにゃ」

 

 ヌコヌコがルルカをぎろりと睨む。

 ルルカの表情は口をへの字にして、自分の圧に必死に耐えているようだった。

 

 いつの間にか日が傾き、光の差し込み方が変わっていた。

 ルルカの胸元には日が差し、自分は暗く冷たい影の中のまま。

 

 ふと思った。

 この娘が他人の為に、ここまで饒舌になるのは珍しい。

 

 なぜだろう。

 

「か……、彼は」

 

 ルルカの言葉を静かに待つ、自分がいた。

 

「彼は、あなたの助力がないと生き残れなかったと、……言ってました」

 

 吃音で長く話すのが辛いであろう事は、痛いほど伝わる。

 

 だが、それを押してでも。

 

 自分に伝えないといけない事があるのだろう。

 そう思い、正しくルルカに向き直る。

 

 上手く言い表す事が出来ない言葉を補うように。

 目には大粒の涙を貯めて、自分を見つめるルルカの表情があった。

 

「あなたもご存じの通り、ハンターユウは。……まだまだ弱い」

 

 ヌコヌコは無言でルルカの次の言葉を待つ。

 

「わ、私のせいで、ハンターミイは……。でも、私はあなた達のように、狩りができない」

 

 ヌコヌコの毛並みが静かに戻っていく。

 

「ハンターユウには。……彼には、まだ誰かの導きが必要なんです」

 

 ――でも、それは自分にはできない。

 

 その言葉に。

 己の無力を認める言葉に、どれだけの覚悟が必要だったのだろう。

 

 溢れた涙が、ルルカの目から零れる。

 

「お願いです、ヌコヌコさん。彼の、助けになってあげてください!」

 

 彼には。

 あなたのような背中が必要なんです。

 

 ルルカの真っすぐな瞳に、ヌコヌコの手に熱が灯る。

 

 だが。

 

「どうして、俺にゃんだ? 俺の見立てでは、あいつは勝つ」

 

 別に自分が助けなくとも。

 

 英雄みたいに強くなくとも。

 生き抜く事に特化した思考のやつは強い。

 そして生きてさえいれば、必ず強くなる。

 

 思うのは、死んだ相棒の事。

 終わったと思った百竜夜行。

 気が緩んだ、一瞬の出来事。

 

 それは自分の油断が招いた事故だった。

 

 ――いや。

 自分が。

 

 相棒を、殺したのだ。

 

 身体を包む日陰が、熱を奪っていくようだった。

 

「ハンターミイを失った彼に、一番寄り添えるのは、あなただけなんです。ヌコヌコさん」

 

 そうかもしれない。

 でも、そうじゃないかもしれない。

 

 自分は、胸の奥に淀む後悔を抱えて生きると決めた。

 罪を。そして罰を帳消しになどできない。

 

 足元を見ると、陽が自分の足元を照らしていた。

 

 大きく息を吐き出すと、肩から力が抜けた気がした。

 

 振り返り、積み荷の中で、一際大きな荷物を見つめる。

 

 そろそろ見直すべきなのだろうか。

 

 罪の在り方を。

 そして、罰の行く末を。

 

 死を想うだけが、贖罪ではない。

 

 次の世代を守る事が、今の自分に課せられた償いの仕方なのだろうか。

 

「……ヤンシ」

 ヌコヌコの口から、かつての主の名が漏れた。

 

 風が二人の間を通り抜ける。

 

 何かが、自分の頭を撫でたようだった。

 

 それが風ではないと信じたいと思う気持ちに応じるように、髭がぴんと張っていく。

 

 握りしめる拳は、すでに熱く――。

 

 鈍く、力強い金属音。

 

 積み荷から布に包まれた“それ”を取り出す。

 強い風が、布を振りほどこうとバタバタと音を立てる。

 

「ルルカ」

「はい……」

 

 ヌコヌコがゆっくりと、ルルカの前に歩み寄る。

 

 影から抜け、自らの覚悟で光差す場所へと立つ。

 

「里に戻ったら、登録しておけにゃ」

 

 風が、巻かれた布の封印を解いた。

 そこには、使い込まれたいぶし銀の剣。

 

「オトモ ヌコヌコ。――戦線復帰にゃ!」

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