モンスターハンター ライズ  ~明けの双星~   作:佐藤 磊童

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其ノ四

 ——アカヌコ爆誕より少し前。

 砂原のキャンプ地にて。

 

「そういえば、これはクエストになるのかにゃ? ――あ」

 

 古びてはいるが、手入れが行き届いた装備を着こむ最中。

 ふと沸いた疑問をルルカに問う。

 

 だが自分で聞いておいて重要な事に気付き、ヌコヌコの口が、がらんと開く。

 

 ユウは今、ルルカの護衛のクエストを受けている。

 救援の時とは違い、モンスターを勝手に狩る権限は無い。

 

 下手すれば密猟……。

 それは重罪。

 ヌコヌコは今更ながら、自分のやらかしを認識した。

 

「さ、先ほどのハンターは、クエスト失敗と……なりました」

 

 ルルカは潤んだ瞳を袖で拭い、鞄から何やら書類を取り出す。

 

 あれでもない、これでもないと色々な道具が出ては、再び鞄の中へと納まっていく。

 

 その鞄はどうなっているのか。

 

 ルルカの様子をいぶかし気に見ていると、目的の書類をようやく発見。

 大きな目を輝かせ、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

「な、なので、私がこの場でクエストを再発行致します」

「でもそれは、ハンター本人が受注しないとダメだと思っていたんだがにゃ……」

 

 これ以上、ユウに罪が重ねるのは気が引ける。

 自分の撒いた種である事をすっかり忘れたヌコヌコが、今更ながらユウの心配をしだす。

 

 ルルカは赤い鼻をすすりながら、頼もしそうに胸を張る。

 

「あなたが代わりに受注すればいいんですよ」

 

 ヌコヌコさん。

 

 と言いかけたところで言葉を閉じ、一つ咳払いをする。

 

「いえ、アイルー ヌコヌコ」

 

 久しぶりの言い方に、ヌコヌコも思わず釣られてニヤリとする。

 

「……おめえも悪だにゃ」

 

 ルルカの覚悟が伝わり、いぶし銀の件を背中に差す。

 

「はい。私の権限で今。あなたをハンターユウのパーティへ登録いたしました」

 

 ――思う存分、暴れて下さい。

 

 その言葉を背に、ヌコヌコは走り出した。

 

「……お願いします。ハンターユウを、導いてください」

 

 それは願いか祈りか。

 流れた涙は砂原の風に消えていた。

 

■■

 

 きりっ!

 

 ヌコヌコを乗せたアカメの顔が凛々しい。

 以前の水没林でのアカメの変貌はこれかと、ユウは納得した。

 

 まるで別人(狼)のように、軽やかに砂地に着地する。

 その勢いを保ったまま、流れるような速度で砂漠の暴君へと立ち向かっていく。

 

 一人ではないと思うだけで、こんなにも――。

 頼もしい背中に、ユウの口角が上がる。

 

 ユウはディアブロスの注意を逸らす為に、傷付けた巨角へと正面から剣斧を叩きつける。

 

 同時にアカヌコが、ディアブロスの足元をジグザグに駆け回る。

 アカメにまたがったヌコヌコは、道すがら笑いながら、ディアブロスの脚をきりつけた。

 

 その姿たるや、豪快、豪胆。

 その笑い声たるや、愉快、痛快。

 

 まるでこの場こそが、自らの戦場であると示さんばかりの攻撃。

 文字通り猫狼が一体となった、一人のハンターのようだった。

 

 ――見惚れて遅れるなよ。

 

 いぶし銀の剣の軌跡で、ユウに囁きかける。

 

 ディアブロスが、目の前のユウよりもアカヌコの攻撃を嫌う。

 鬱陶しいものをのけるように、脚下の異物を蹴ろうとする。

 

 右か左か。

 ディアブロスの僅かな迷い。

 そこに、アカヌコによる軸を崩す一撃。

 

 ついに砂漠の暴君の重心が、――ぶれた。

 

「今にゃ! 小僧!」

 

 アカヌコの声がするより早く、ユウが呼吸を細くする。

 力の流れを見極めるように。 

 

 ユウへと倒れ込むディアブロスの翼を、剣斧の刃を傾ける事でいなす。

 

 音を立てながら、ディアブロスが地に伏した。

 乾いた風が撒き上がった砂煙を空へと運ぶ。

 

 舞い上がった砂に、視界を歪めるユウが重なる。

 体重を乗せた、斧モードによる全霊の一閃。

 

 ついに、首元の硬い甲殻に刃が通った。

 

 両手に痺れを感じながら、背に左足を付き、もう一度――。

 

 それを感じたディアブロスは身をよじり、ユウを振り落とそうとする。

 

 ユウは左足で、ディアブロスの背を蹴り上げ、剣斧を剣モードへ。

 姿勢を崩しながらも、同じ場所へと斬撃を残した。

 

 ディアブロスの悲鳴。

 暴れる狂う巨角に巻き込まれまいと翔蟲の糸を引いて、一旦距離を取った。

 

 スラッシュアックスの機工が唸りを上げ、再び斧モードへと移行する。

 

 ユウの集中力に呼応するように――。

 ビン圧が蓄積され、属性エネルギーが充填されていく。

 

 ――その剣先。

 

 ユウが発する圧に、ディアブロスだけではない。

 ヌコヌコですら、髭がピンと張るのを感じた。

 

 膠着を嫌ったディアブロスが、意を決したように咆哮を上げてユウへと走り出す。

 

 巨大な翼を使い、道中の岩をユウへと投げる。

 咄嗟に翔蟲の糸で右に飛ぶが、そこに槌のような尾による薙ぎ払いが、ユウの鼻先を掠める。

 

 この一瞬でユウの間合いから外れた事で、ディアブロスが体勢を立て直した。

 

 砂礫が舞う。

 遠くでは見物の小竜たちの嘶き。

 夕陽が砂原を、茜色に染め始めていた。

 

 ディアブロスの咆哮が周囲に轟く。

 それは砂礫の主としてのプライドか。

 生存本能ゆえか。

 

 再び地に潜り、静寂。

 

「――そうはいかないのにゃあ!」

 

 ヌコヌコが音爆弾を炸裂させる。

 強烈な耳鳴りのような音が、ユウの聴覚を通り抜けた。

 

 空中で破裂した音塊が地中で増幅。

 それに耐えかねたディアブロスが堪らずに地上へと這い出てきた。

 

「今にゃ!」

 

 軽やかに、鋭く。

 アカメが岩場を跳ね、ディアブロスへと接近。

 

 その姿は、獲物を狩る、本来のガルクそのものだった。

 

 ヌコヌコと阿吽の呼吸で交互に斬り付ける。

 ユウも再び呼吸を細くして、ディアブロスへと跳躍。

 

 体重を乗せた一撃で、ディアブロスの巨角。

 ――その一角を破砕した。

 

「やるにゃ! 小僧!」

 

 咆哮を上げ、翼で周囲を牽制する。

 

 空に闇が迫り、やがて夜。

 灼熱を孕んだ風は、いつの間にか消えていた。

 

 ユウはディアブロスを見据えながら、アカヌコを見る。

 

 二人とも、やる気は十分だが疲弊の色が見え始めた。

 当然、自分も。

 

 剣斧の柄を握り直す。

 ディアブロスの荒い呼吸が、段々と整っていく。

 

 ――次。

 

 これで、決着を付ける。

 

 ユウの瞳に、覚悟の焔が宿る。

 

 砂漠の暴君が、一際大きな咆哮を上げ。

 同時に、ユウが駆け出した。

 

 ディアブロスの巨角が迫る。

 

 ヌコヌコの一閃で深い傷を負っているディアブロスの右足。

 

 ――その踏み込みの弱さが、命取りだ。

 かつて、僕もそうだったから。

 

 身体を滑り込ませるように躱す。

 砂だらけに鳴りながら、ディアブロスの腹部が頭上を通過。

 

 鈍い音が響き渡る。

 見ると、ディアブロスの巨角が、大きな岩に突き刺さっていた。

 

 黄昏の空が見えた瞬間、翔蟲の糸を引いて跳躍。

 

 だが、ユウの側面に槌のような尾が迫る。

 質量による圧倒的な速度と暴力の塊。

 

「甘いのにゃあ!」

 

 ユウに直撃する寸前で、ヌコヌコの一閃により、尾が宙を舞う。

 

「ありがとうございます!」

 

 足掻く背に、ユウが立つ。

 ユウは汗と砂にまみれながら、首元の一点に意識を集中させる。

 

 ――命絶つ、覚悟を。

 

 剣モードの切っ先。

 もはや迷いは、無い。

 

「気焔、万丈!」

 

 気合と共に渾身の一撃を、ディアブロスへと突き立てた。

 刃が骨に届く感触がユウの全身に伝わる。

 

 荒れ狂う背に跨り、剣斧を押し込むように全身で踏ん張る。

 

 死にたくない。

 死ぬのは嫌だ。

 

 そう叫んでいるようにも聞こえる断末魔。

 

 ――力を、籠める。

 

 最後の陽が落ち、周囲が闇へと染まる。

 

 音爆弾の残響か。

 耳鳴りの中に、命の最期がこびりついているようだった。

 

 遠くでは、名を知らぬ虫たちの音。

 蛍の光が、静かに舞っていた。

 

 動かなくなった背から、力が抜け、倒れるようにユウの身体が堕ちる。

 

 それを、アカメが中空で加え、ヌコヌコが全身でキャッチした。

 

「お疲れにゃ! よくやったのにゃ!」

 

 アカメもヌコヌコも、自分も。

 全身が砂だらけ。

 

 疲れ果てた笑みは出るが、声は出ない。

 

 狩猟したディアブロスを見る。

 暗闇がその亡骸を黒く染めていた。

 

 その首には、まだ剣斧が突き刺さっており。

 ユウには、それが砂漠の主の墓標のようだと感じられた。

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