モンスターハンター ライズ ~明けの双星~ 作:佐藤 磊童
「あー、死ぬかと思った……」
寒冷群島からクエストを終えてカムラの里へ戻ってきた。
いや、あの後の事を思い出したら、……いや思い出したくもない。
縄張り争いしてたはずの二頭が、なんであんな綺麗に連携してくるんだ。
ティガレックスの飛び掛かりを避けたと思ったら
ゴジャハギの中段からの斬りかかり。
それを避けた直後、
死角からウルクススが滑り込むような体当たり。
翔蟲や環境生物がいなければ
本当にやられていた。
避けても避けても次がある光景。
しばらくはトラウマになるのは必須。
その為、戻ってこれたという表現が正しいのだろう。
クエスト達成を報告しようとヒノエの姿を探す。
「あ、ハ……ハンターユウ」
聞き覚えのある吃音に振り返ると、
小柄で白髪の竜人族の女が立っていた。
「ルルカさん。ただいま戻りました」
軽く頭を下げ、視線でヒノエの姿を探すが、やはり見当たらない。
「クエスト、の討伐報告であれば……私で、受けつけます」
整った前髪を手で隠しながら、周囲をきょろきょろと見る仕草は
里の者であれば馴染みの動きだった。
カウンターに周り、テキパキと書類に記帳するルルカを見て、
そういえば、ルルカさんも受付嬢の資格を持っていたのだと自覚した。
「……そ、そういえば」
視線は書類に注がれたまま、ルルカが唐突に話を切り出す。
「ガルクの、アカメとの連携は、問題無さそう、ですか?」
そう言われて、アカメの様子を見る。
ユウの思いを知らずか、呑気に鼻先をそよぐ蝶々を追いかけていた。
ユウは溜息を一つついて、問題ないと短く答えると、
ルルカは興味無さそうにそうですかとだけ呟いた。
自分で聞いたくせに。
そうぼやくと、ルルカの目の下に隈が出来ている事に気付いた。
彼女の仕事は元来、モンスターの生態についての研究者であり、受付嬢は本職ではない。
おそらくとある研究を徹夜で行い、
その上受付嬢としての仕事もこなしている事が想像された。
ユウは自分の思いを恥じ、視線を外し、
頭を掻く仕草で場を濁した。
「ヒ……ヒノエさんを、お探し、ですか?」
「いえ、そういう訳では」
「ルルカさん」
「はい?」
「……少しは、休んでくださいね」
その言葉に筆が一瞬止まり、再びさらさらと動き出した。
「……ありがとうございます」
その言葉に吃音はなく。
ユウは心底からの言葉であると受け取った。
■■
「――ただいま」
ユウの声が誰も居ない部屋に虚しく消える。
久しぶり装備を降ろし、普段着へと着替えた。
自分でもできる限り部屋を綺麗にして
クエストに出ているつもりではある。
だが、どうしても散らかって見えてしまう。
ふと、机の上に置かれたチラシを手に取る。
ギルドの交流会としてユクモへの慰安旅行とあった。
期日はだいぶ前。
ユウは無言でゴミ箱へと捨てた。
居心地の悪さの正体は理解している。
生まれてから今までずっと一緒だったミイの不在。
喪失感だ。
早々に家を出る。
小屋を覗くとヘソ天で寝ているアカメに肩の力が抜けた。
起こさないでやろう。
そう思い、踵を返す。
ひとりだ。
何となく、世界に取り残された感覚。
自分の素はこんなに弱いんだな。
そう思い、ユウは里の病院へと向かった。
■■
「ヒノエさん?」
病院の廊下でヒノエとすれ違う。
「こんにちは。ユウさん」
普段と変わらないヒノエの声。
だが、病院という場所のせいだろうか。
違和感から、ミイの部屋の方角を見る。
「……ミイさんの意識が、戻りました」
「ほ、本当ですか!?」
「……ですが」
――そこから先の言葉は。
ユウにとって、現実感が薄いものに思えた。
ヒノエと別れ、ミイの病室の前に立つ。
どんな顔をすればいいか。
普段の顔の筋肉。
その位置が、分からない。
「ユウ。そこに居るんでしょ?」
扉越しに言い当てられ、慌てて入室する。
「や、やぁ、ミイ。僕が居るって、よく分かったね」
悪戯がばれた子供のような。
自身でも態度がおかしいと思えて恥ずかしくなる。
「……分かるよ。お姉ちゃんだもん」
寂しそうにつぶやく声に、心のさざ波が引いていくようだった。
そっと扉を閉めて、ミイのベッドの傍にいく。
ミイさんのハンター復帰は――。
ヒノエの言葉通り、雷狼竜に噛まれた腕には
痛々しい程の包帯が巻かれていた。
「ユウが助けてくれたんだってね?」
――ありがとう。
そう言ってミイがほほ笑む。
だが、ユウはミイの顔をまともに見る事が出来なかった。
アケノシルムに止めを刺す瞬間。
命を奪うという最大の暴力。
その瞳に、自身が映り込んだ気がした。
剣斧を振るっている時、自分はどんな顔をしていた?
その一瞬の躊躇の結果が、これだ。
謝罪は、できない。
それは許しを請う言葉だ。
心の負担を、軽くする為の。
「強く、なったんでしょ?」
ミイから意外な言葉が聞こえ、思わず顔を見る。
「聞かせてほしいな」
その優しさに、我慢が限界を迎えた。
目でせき止めていた涙が、流れてしまった。
一度流れ出た本音。
もう止める事など、できなかった。
■■
重い足をどうにか動かし家に着く。
既に日は落ち、疲れた目で玄関を見ると、
食事を待ち焦がれているアカメの姿が目に入った。
玄関の前をウロウロしており、
ユウの姿が見るとリードの限界まで近づき、ワンと吠える。
舌を出しながら座り、ユウの到着を待つ。
歩幅を変える事なくアカメの下へ行き
黒い毛並みを撫でると嬉しそうに尻尾を振った。
「……待ってろ。すぐにご飯を持ってくる」
そう言って、真っ先にアカメの食事を用意する。
人の気も知らないで。
夢中でかぶりつくアカメの頭を優しく撫でまわす。
――ミイの腕。
ミイの怪我の治療にはお金が必要だ。
ギルドの保険でも賄いきれないかもしれない。
なら、どうすればいい?
自分はハンターだ。
ならばやる事は、たった一つだろう。
決意とは程遠い、小さな想い。
ユウの胸に小さな火が灯った。
――翌日。
「ハ、ハンターユウ?」
里のクエストカウンターに顔を出したユウを
ルルカが驚いた顔で迎えた。
どうやらミイの傍にいる為、
しばらくは里で療養すると思っていたらしい。
「何か僕にできるクエストはありますか?」
その言葉にルルカは何かを言いかけ、すぐに押し黙る。
諦めたようにユウのランクで受注可能なクエストを見繕った。
「――救援要請?」
曰く、水没林でのクエスト中に思わぬ事故が起こり、
キャンプ地から動けないのだという。
見ると里の中で見かけた事のある、四人パーティだった。
ユウのクエストは、救助アイルーたちの道中の護衛。
それには、怪我をしたハンターの救護も含まれる。
「……分かりました。早速向かいます」
「あ、ありがとう、ございます。では、道中はか、彼と同行してください」
ユウの背後に気配を感じ振り返ると
一匹のアイルーの姿があった。
「……にゃんだ。こんなひよっ子に護衛なんか務まるのかにゃ?」
その声に聞き覚えがある。
半年前の百竜夜行でマスターランクの相棒を失ったアイルー。
ヌコヌコが、ユウを怪訝な目で見ていた。