モンスターハンター ライズ ~明けの双星~ 作:佐藤 磊童
テントの中に、獣のうめき声が足底から響き渡る。
――直後、雷がテントを直撃。
轟雷は容易くテントを穿ち、ハンターたちの休息地を破壊した。
ジンオウガの視界を人影が掠める。
矢を番えたシェリーが、走りながらジンオウガを補足。
三本の矢を同時に放ち、雷狼竜を牽制。
「目標視認! 報告の通り、角割れのジンオウガです!」
その言葉にテントの奥で三人が別々の方向へと走り出し、ジンオウガと距離を取った。
だが、角割れのジンオウガは迷いなく一人の姿を追う。
「そっちに行ったのにゃ、ユウ!」
「はい!」
後ろを振り返るユウの目に、青白い雷光を纏ったジンオウガの軌跡が映し出される。
行く手の巨木を前に、左足を踏ん張り横へ飛ぶ。
間一髪のタイミングで、ジンオウガの爪を躱した。
ユウの頭上を、寒気がする圧が通り過ぎる。
破裂するように、巨木が砕けた。
転びながら、姿勢を整え、再び走り出す。
後方で、巨木がジンオウガの方へ音を立てて倒れる。
しかし、それを弾きながら、再びユウへと肉薄。
ユウは閃光玉でジンオウガの目を眩まし、翔蟲の糸を引いて、崖下へと降りて行った。
「お待たせしました!」
キャンプ地を見下ろす崖下で、リーガルとアカヌコが出迎える。
「良い動きだった、少年!」
盾を構えたリーガルを先頭に、ユウ。そしてアカヌコが武器を構える。
「お出ましにゃ。気を引き締めるのにゃ!」
アカヌコの言葉に、ユウの全身に緊張が走る。
崖。
ユウの頭上――。
そこには既に青雷を纏ったジンオウガ。
迸る青い雷を携えた目は、王の縄張りを侵す無礼者を見下ろしていた。
一人足りない。
そう言うかの如く、ジンオウガは周囲を見回す。
だが、早々に探すのを諦め下界へと降り立った。
青い雷光、その化身。
地を揺るがす咆哮に、空気が恐怖で震えあがる。
「気演! 気演! 気演!」
リーガルがランスで盾を気迫と共に叩く。
委縮した空気を、熱で返す。
ドラムのような金属音。
ユウとアカヌコの芯底に気合がみなぎる。
気を巡らし、演舞とし。
万丈にして、我が覇道、いざ征かん!
「――万丈ぉお!」
それが、開戦の合図だった。
ジンオウガが後ろ脚で立ち上がり。
体重を乗せた体当たりを、リーガルが盾で防ぐ。
ユウとアカヌコは、左右から同時に斬り込む。
だが、ジンオウガは身を後方へ翻し。
全身を捻りながら、渦を巻くように跳ね上がった。
武器を空振りした両者を巻き込み、空気ごと焼き刻む。
それを予見していたリーガルが、盾を構えながら二人の前へと立ちはだかる。
まるで金属同士がぶつかるような鈍い音を立てながら、ジンオウガの虚を突く一撃を完全に防ぎ切った。
リーガルが兜の奥で、空気を細める。
防いだ盾から摩耗の煙が立ち上り、その威力の凄まじさを無言で語った。
高台に人影が立つ。
シェリーが臭い消しのローブを捨て、弓の射線に立つ。
「何て威力なの。――あれを、……下位のハンターが退けたというのか」
シェリーがユウへ畏怖と賞賛を口にする。
ともあれ、それは生きて帰ってからと自身を戒める。
弓を番え、連続で放つ。
だが、ジンオウガは大気の異変に敏感に反応し、シェリーに尾の先を向けながら、三人と戦闘を継続した。
攻撃。回避。防御。更に攻撃――。
目まぐるしく変化する状況。
だが、どんな状況でも尾はシェリーを捉えており、まるで隙が無い。
「くそっ!」
悪態を付きながら、更なる手を模索する。
息を吸い、肺で留めて冷静な自分を呼び起こす。
シェリーは弓の照準をジンオウガからずらして射出。
当然、それはジンオウガには命中はしない。
その時、ユウの剣斧による一撃が、ジンオウガの腕を斬り裂いた。
続けて、二射、三射と矢を放つ。
いずれもジンオウガには当たらず、地面に突き刺さる。
だが、シェリーが矢を放つ度にリーガル、アカヌコの攻撃が、雷狼竜に傷を付けていく。
ジンオウガの苛立ちが帯電を強く、加速。
咆哮と共に、周囲に雷光虫を解き放つ。
シェリーの矢を次々に撃ち落とす。
「そ、そんな!?」
通常のジンオウガでは見られぬ戦術。
先ほどからの尾による牽制といい、ウイルスの影響で知能まで向上している。
再び狩り場の主の立場が入れ替わる。
本来の、主の下へ。
それを確信したのだろうか。
ジンオウガは唸り声を上げながら、ユウへと突進。
ユウは昼間に掴んだスラアクの基本的な動き、――回避、からの切り替えし。
だが決定打とはならず、次の手が帯電する電気により阻まれる。
ジンオウガの背中の雷光が更に活性。
青白い光が発光。
――百雷穿つ、天空。
雨のような稲妻が三人を襲う。
ユウは咄嗟に翔蟲の糸で距離を取り、アカヌコも射程範囲外へと退避。
降り注ぐ雷が、収束し、巨大な龍のようにリーガルへと襲い掛かる。
――直撃。
「団長!」
高台でシェリーがリーガルの名を叫ぶ。
リーガルの装備から煙が立ち込め、焼けた空気の臭いが周囲に充満する。
仕留めたな、とでも言うように、ジンオウガが小さく口を開ける。
煙る兜の、鉄面の奥。
リーガルの口角が上がる。
「……そんな、ものか? 雷狼の竜よ」
リーガルは盾をかざし、ランスを地上に突き立てていた。
アース効果。
流れた電雷を地上へ逃がす事で生還。
リーガルは、左足を強く踏み込む。
慢心のジンオウガがその反応に一歩遅れた。
鉄面の奥で、リーガルの瞳に炎が灯る。
仕留めたと確信した雷狼竜へ、帯電の熱が籠った一突きで肩を穿った。
不意を突かれた一撃に、後ろ脚立ち上がるほどにのけぞるジンオウガ。
シェリーは高台で、ジンオウガの背中の雷光が弱まり、尾がこちらに向いていない事に気付いた。
シェリーは腰のポーチから矢に使う毒ビンを取り出し、ジンオウガへと投げつける。
素早く矢を番え、毒ビンがジンオウガの背中に当たる前にビンを撃ち抜く。
毒の原液がジンオウガの背中を覆い尽くす。
毒に含まれる酸による激痛で、ジンオウガが暴れまわる。
背中の雷光虫が次々と死滅していく。
空気が弾けるような音がして、ジンオウガの帯電状態が解除された。
「皆さん、今です!」
シェリーの声が周囲に木霊する。
「いざ、征かん! 来たれ、ハンターたちよ!」
リーガルの全身を滾らせる言葉に、ユウとアカヌコが即座に反応。
一斉に斬りかかった。
ガルクの爪が地を駆ける。
低く、素早く。そして力強く。
アカヌコに跨ったヌコヌコは、いぶし銀の剣を構え、跳躍。
「にゃ、はぁあ!」
ジンオウガの鼻先を切る。
神経が集中している部分に深手を負い、ジンオウガが悲鳴のような声を上げる。
空中のヌコヌコをアカメが口で加え、跨り直して着地。
四本の脚を引きずるように、身体を停止させた。
横からユウが剣斧を振り抜く。
気合を纏った一振り。
斧モードによる重量ある刃が、ジンオウガの胸を斬り裂く。
ユウが振り抜いた、その脇――。
姿勢を低く構えたリーガルが、正確にユウが斬り裂いた傷口へ向けて、ランスを突き刺した。
「ぬぅうう!」
歯を食いしばりながら、奥へ奥へと穿つ。
必死のジンオウガが右腕を振るう。
ランスの切っ先が固いものに触れた感触が伝わる。
そこに、力を込めた。
「気演万丈!」
ジンオウガの巨大で恐ろしい爪。
その爪がリーガルへと届く寸前、ぴたりと動きが止まった。
リーガルのランスが、ジンオウガの心臓に到達。
雷狼竜の息の根を、止めたのだった。
ランスを引き抜き、静寂。
やったのか?
武器を構え、警戒しながらジンオウガの様子を伺う。
穿った穴から零れ出る血。
その量が、致命であった事を物語る。
ヌコヌコは恐る恐るジンオウガへとよじ登り、手にした雷光虫の弱い光で瞳孔反応を見る。
反応は……、無い。
「狩猟成功にゃぁー!」
ヌコヌコがジンオウガの頭の腕でガッツポーズを取る。
その瞬間、場の緊張が解け、ユウたちは武器を降ろした。
シェリーが高台から跳躍。
翔蟲の糸を引いて、リーガルの下へと降り立つ。
「団長、皆さん、お疲れ様でした」
「毒ビンの機転、見事だった」
リーガルからのねぎらいに、下を向いて小さく礼を伝える。
アカメはヌコヌコが降りた途端に、顔の表情が緩み、鼻水が垂れだした。
余程怖かったのだろう。
だが、ユウだけは、倒したジンオウガの違和感を拭えず。
倒れたジンオウガをじっと見つめていた。
あの日、あの夜。
確かに自分が、ジンオウガの片角を割った。
それで退けたというのは、覚えている。
だが、この違和感は、……何だろうか。
霞の中の記憶を呼び起こす。
角割れのジンオウガ。
割れているのは、右。
――思い出した。
自分が砕いたのは、“左”だった。
その瞬間、リーガルの巨体が吹き飛ぶ。
上半身の装備が砕け、岩に叩きつけられる。
「――ユウ!」
ヌコヌコが叫び、指さす、先。
そこには、雷光纏ったもう一頭のジンオウガがいつの間にか接近していた。
更にその後ろの森から、二頭目、三頭目が姿を現す。
遠くから矢のように。
ユウの全身に突き刺すような殺意が通り抜ける。
遥か先の高台、かつてザドが幼い自分とミイを連れ、夜空を見上げた場所。
そこに。
左角が砕けた、金色に輝く雷狼竜が、ユウを真っすぐに睨みつけていた。
雨が止み、雲間に真円の月。
闇夜に獣の声が響き、金色の雷鳴が月下を穿つ。