モンスターハンター ライズ  ~明けの双星~   作:佐藤 磊童

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チャプター④ 宿牙/後編 其ノ一

 テントの中に、獣のうめき声が足底から響き渡る。

 ――直後、雷がテントを直撃。

 

 轟雷は容易くテントを穿ち、ハンターたちの休息地を破壊した。

 

 ジンオウガの視界を人影が掠める。

 

 矢を番えたシェリーが、走りながらジンオウガを補足。

 三本の矢を同時に放ち、雷狼竜を牽制。

 

「目標視認! 報告の通り、角割れのジンオウガです!」

 

 その言葉にテントの奥で三人が別々の方向へと走り出し、ジンオウガと距離を取った。

 

 だが、角割れのジンオウガは迷いなく一人の姿を追う。

 

「そっちに行ったのにゃ、ユウ!」

「はい!」

 

 後ろを振り返るユウの目に、青白い雷光を纏ったジンオウガの軌跡が映し出される。

 

 行く手の巨木を前に、左足を踏ん張り横へ飛ぶ。

 間一髪のタイミングで、ジンオウガの爪を躱した。

 

 ユウの頭上を、寒気がする圧が通り過ぎる。

 

 破裂するように、巨木が砕けた。

 転びながら、姿勢を整え、再び走り出す。

 

 後方で、巨木がジンオウガの方へ音を立てて倒れる。

 しかし、それを弾きながら、再びユウへと肉薄。

 

 ユウは閃光玉でジンオウガの目を眩まし、翔蟲の糸を引いて、崖下へと降りて行った。

 

「お待たせしました!」

 

 キャンプ地を見下ろす崖下で、リーガルとアカヌコが出迎える。

 

「良い動きだった、少年!」

 

 盾を構えたリーガルを先頭に、ユウ。そしてアカヌコが武器を構える。

 

「お出ましにゃ。気を引き締めるのにゃ!」

 

 アカヌコの言葉に、ユウの全身に緊張が走る。

 

 崖。

 ユウの頭上――。

 そこには既に青雷を纏ったジンオウガ。

 迸る青い雷を携えた目は、王の縄張りを侵す無礼者を見下ろしていた。

 

 一人足りない。

 そう言うかの如く、ジンオウガは周囲を見回す。

 だが、早々に探すのを諦め下界へと降り立った。

 

 

 青い雷光、その化身。

 地を揺るがす咆哮に、空気が恐怖で震えあがる。

 

「気演! 気演! 気演!」

 

 リーガルがランスで盾を気迫と共に叩く。

 

 委縮した空気を、熱で返す。

 

 ドラムのような金属音。

 ユウとアカヌコの芯底に気合がみなぎる。

 

 気を巡らし、演舞とし。

 万丈にして、我が覇道、いざ征かん!

 

「――万丈ぉお!」

 

 それが、開戦の合図だった。

 

 ジンオウガが後ろ脚で立ち上がり。

 体重を乗せた体当たりを、リーガルが盾で防ぐ。

 

 ユウとアカヌコは、左右から同時に斬り込む。

 

 だが、ジンオウガは身を後方へ翻し。

 全身を捻りながら、渦を巻くように跳ね上がった。

 

 武器を空振りした両者を巻き込み、空気ごと焼き刻む。

 

 それを予見していたリーガルが、盾を構えながら二人の前へと立ちはだかる。

 

 まるで金属同士がぶつかるような鈍い音を立てながら、ジンオウガの虚を突く一撃を完全に防ぎ切った。

 

 リーガルが兜の奥で、空気を細める。

 防いだ盾から摩耗の煙が立ち上り、その威力の凄まじさを無言で語った。

 

 高台に人影が立つ。

シェリーが臭い消しのローブを捨て、弓の射線に立つ。

 

「何て威力なの。――あれを、……下位のハンターが退けたというのか」

 

 シェリーがユウへ畏怖と賞賛を口にする。

 

 ともあれ、それは生きて帰ってからと自身を戒める。

 

 弓を番え、連続で放つ。

 

 だが、ジンオウガは大気の異変に敏感に反応し、シェリーに尾の先を向けながら、三人と戦闘を継続した。

 

 攻撃。回避。防御。更に攻撃――。

 

 目まぐるしく変化する状況。

 だが、どんな状況でも尾はシェリーを捉えており、まるで隙が無い。

 

「くそっ!」

 

 悪態を付きながら、更なる手を模索する。

 息を吸い、肺で留めて冷静な自分を呼び起こす。

 

 シェリーは弓の照準をジンオウガからずらして射出。

 当然、それはジンオウガには命中はしない。

 

 その時、ユウの剣斧による一撃が、ジンオウガの腕を斬り裂いた。

 

 続けて、二射、三射と矢を放つ。

 

 いずれもジンオウガには当たらず、地面に突き刺さる。

 だが、シェリーが矢を放つ度にリーガル、アカヌコの攻撃が、雷狼竜に傷を付けていく。

 

 ジンオウガの苛立ちが帯電を強く、加速。

 咆哮と共に、周囲に雷光虫を解き放つ。

 

 シェリーの矢を次々に撃ち落とす。

 

「そ、そんな!?」

 

 通常のジンオウガでは見られぬ戦術。

 先ほどからの尾による牽制といい、ウイルスの影響で知能まで向上している。

 

 再び狩り場の主の立場が入れ替わる。

 本来の、主の下へ。

 

 それを確信したのだろうか。

 ジンオウガは唸り声を上げながら、ユウへと突進。

 

 ユウは昼間に掴んだスラアクの基本的な動き、――回避、からの切り替えし。

 だが決定打とはならず、次の手が帯電する電気により阻まれる。

 

 ジンオウガの背中の雷光が更に活性。

 青白い光が発光。

 

 ――百雷穿つ、天空。

 

 雨のような稲妻が三人を襲う。

 

 ユウは咄嗟に翔蟲の糸で距離を取り、アカヌコも射程範囲外へと退避。

 

 降り注ぐ雷が、収束し、巨大な龍のようにリーガルへと襲い掛かる。

 

 ――直撃。

 

「団長!」

 

 高台でシェリーがリーガルの名を叫ぶ。

 

 リーガルの装備から煙が立ち込め、焼けた空気の臭いが周囲に充満する。

 

 仕留めたな、とでも言うように、ジンオウガが小さく口を開ける。

 

 煙る兜の、鉄面の奥。

 リーガルの口角が上がる。

 

「……そんな、ものか? 雷狼の竜よ」

 

 リーガルは盾をかざし、ランスを地上に突き立てていた。

 

 アース効果。

 流れた電雷を地上へ逃がす事で生還。

 

 リーガルは、左足を強く踏み込む。

 慢心のジンオウガがその反応に一歩遅れた。

 

 鉄面の奥で、リーガルの瞳に炎が灯る。

 仕留めたと確信した雷狼竜へ、帯電の熱が籠った一突きで肩を穿った。

 

 不意を突かれた一撃に、後ろ脚立ち上がるほどにのけぞるジンオウガ。

 

 シェリーは高台で、ジンオウガの背中の雷光が弱まり、尾がこちらに向いていない事に気付いた。

 

 シェリーは腰のポーチから矢に使う毒ビンを取り出し、ジンオウガへと投げつける。

 素早く矢を番え、毒ビンがジンオウガの背中に当たる前にビンを撃ち抜く。

 

 毒の原液がジンオウガの背中を覆い尽くす。

 

 毒に含まれる酸による激痛で、ジンオウガが暴れまわる。

 背中の雷光虫が次々と死滅していく。

 空気が弾けるような音がして、ジンオウガの帯電状態が解除された。

 

「皆さん、今です!」

 

 シェリーの声が周囲に木霊する。

 

「いざ、征かん! 来たれ、ハンターたちよ!」

 

 リーガルの全身を滾らせる言葉に、ユウとアカヌコが即座に反応。

 一斉に斬りかかった。

 

 ガルクの爪が地を駆ける。

 低く、素早く。そして力強く。

 

 アカヌコに跨ったヌコヌコは、いぶし銀の剣を構え、跳躍。

 

「にゃ、はぁあ!」

 

 ジンオウガの鼻先を切る。

 

 神経が集中している部分に深手を負い、ジンオウガが悲鳴のような声を上げる。

 

 空中のヌコヌコをアカメが口で加え、跨り直して着地。

 四本の脚を引きずるように、身体を停止させた。

 

 横からユウが剣斧を振り抜く。

 気合を纏った一振り。

 斧モードによる重量ある刃が、ジンオウガの胸を斬り裂く。

 

 ユウが振り抜いた、その脇――。

 

 姿勢を低く構えたリーガルが、正確にユウが斬り裂いた傷口へ向けて、ランスを突き刺した。

 

「ぬぅうう!」

 

 歯を食いしばりながら、奥へ奥へと穿つ。

 

 必死のジンオウガが右腕を振るう。

 ランスの切っ先が固いものに触れた感触が伝わる。

 そこに、力を込めた。

 

「気演万丈!」

 

 ジンオウガの巨大で恐ろしい爪。

 その爪がリーガルへと届く寸前、ぴたりと動きが止まった。

 

 リーガルのランスが、ジンオウガの心臓に到達。

 雷狼竜の息の根を、止めたのだった。

 

 ランスを引き抜き、静寂。

 

 やったのか?

 

 武器を構え、警戒しながらジンオウガの様子を伺う。

 

 穿った穴から零れ出る血。

 その量が、致命であった事を物語る。

 

 ヌコヌコは恐る恐るジンオウガへとよじ登り、手にした雷光虫の弱い光で瞳孔反応を見る。

 

 反応は……、無い。

 

「狩猟成功にゃぁー!」

 

 ヌコヌコがジンオウガの頭の腕でガッツポーズを取る。

 その瞬間、場の緊張が解け、ユウたちは武器を降ろした。

 

 シェリーが高台から跳躍。

 翔蟲の糸を引いて、リーガルの下へと降り立つ。

 

「団長、皆さん、お疲れ様でした」

「毒ビンの機転、見事だった」

 

 リーガルからのねぎらいに、下を向いて小さく礼を伝える。

 

 アカメはヌコヌコが降りた途端に、顔の表情が緩み、鼻水が垂れだした。

 余程怖かったのだろう。

 

 だが、ユウだけは、倒したジンオウガの違和感を拭えず。

 倒れたジンオウガをじっと見つめていた。

 

 あの日、あの夜。

 確かに自分が、ジンオウガの片角を割った。

 それで退けたというのは、覚えている。

 

 だが、この違和感は、……何だろうか。

 

 霞の中の記憶を呼び起こす。

 角割れのジンオウガ。

 割れているのは、右。

 

 ――思い出した。

 自分が砕いたのは、“左”だった。

 

 その瞬間、リーガルの巨体が吹き飛ぶ。

 上半身の装備が砕け、岩に叩きつけられる。

 

「――ユウ!」

 

 ヌコヌコが叫び、指さす、先。

 

 そこには、雷光纏ったもう一頭のジンオウガがいつの間にか接近していた。

 更にその後ろの森から、二頭目、三頭目が姿を現す。

 

 遠くから矢のように。

 ユウの全身に突き刺すような殺意が通り抜ける。

 

 遥か先の高台、かつてザドが幼い自分とミイを連れ、夜空を見上げた場所。

 そこに。

 

 左角が砕けた、金色に輝く雷狼竜が、ユウを真っすぐに睨みつけていた。

 

 雨が止み、雲間に真円の月。

 闇夜に獣の声が響き、金色の雷鳴が月下を穿つ。

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