モンスターハンター ライズ  ~明けの双星~   作:佐藤 磊童

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其ノ四

 ――思えば。

 自分たちの因縁はいつからだったのだろうか。

 

 ミイを傷つけられた時?

 リオレウスの死骸を見つけた日?

 

 いや、違う。

 もっと。

 もっともっと前から決められていたのかもしれない。

 きっと自分たちの争いは、生まれた瞬間に定まっていた。

 

 星が巡るように。

 生死が流転するように。

 

 どうやっても、どう生まれても。

 必ずこうなる運命を宿した魂。

 

 ――それは円環という大きな流れの中。

 

 自分も、こいつも。

 大きな自然の一粒、なのだから。

 

■■

 

 ヌシ・ジンオウガが身をよじらせながら、ユウへと襲い掛かる。

 

 爪には特大の雷撃。

 全ての雷を集中させている事が見て取れる。

 

 一手、ミスをすれば、死。

 ユウの集中力が高まる。

 

 ――あの時、リーガルはどうやっていた?

 ユウの脳裏に、リーガルの姿が思い浮かぶ。

 

 ユウは手にした武器――ランスを足元に突き刺し。

 翔蟲の糸を手繰り、後方へ跳躍。

 

 岩場に刺した剣斧を引き抜く。

 

 空振りしたヌシ・ジンオウガの爪が、ユウの居た足元に触れた瞬間――。

 

 金色の光が水面を伝い、地面に吸い込まれるように消えていった。

 

 ユウが藪の茂みの中で見つけた錆付いたランス。

 それは、かつてリオレウスの死骸に突き刺さっていた、因縁のランス。

 

 あの日、リオレウスの死骸ごと消えたランスは、このジンオウガによりこの場所へと運び込まれた。

 骨は餌に、そしてランスは縄張りの象徴として残置された、――名残。

 

 そして、ランスを突き刺した場所は、水たまり。

 タマミツネの潤滑油と川の水が入り混じり、澱んでいた場所。

 

 そこへ錆びたランスを突き刺した事でアースとなり、ヌシ・ジンオウガの帯電を。

 その力を根こそぎ大地へと流した。

 

 白む空に光を失いつつある月。

 その下で、両者の視線がぶつかる。

 

 一方は執念。

 一方は憤怒。

 

 ヌシ・ジンオウガの呼吸にユウも合わせ、細くしていく。

 

 雷鳴は遠く。

 今、目の前にあるのは、自然の脅威。

 

 ミイの顔が浮かぶ。

 

 自分は、カムラの英雄たちのように強くはない。

 

 でも。

 だからこそ、生き残る為に、ありったけを用いる。

 

 過去の因縁すらも、己の糧とする。

 

 ユウを睨む、ヌシ・ジンオウガの目。

 忌々しいものを見る目は、いつかの夜を想起させる。

 

 だが、それは自分も同じだ。

 

 次で、終わらせよう。

 自分たちを巡る、円環に終止符を。

 

 駆り立てろ。

 逸る気持ちがそう叫ぶ。

 

 高鳴なる心臓。

 だが、頭は不思議と冷静だった。

 

 まだ僅かに痺れが残る手で剣モードへと移行。

 自然と身体が。

 無意識に、それに応じた構えを取る。

 

 属性充填カウンター。

 

 その構えにヌシ・ジンオウガの警戒が、緊張と共にユウへと伝わる。

 

 ヌシ・ジンオウガの唸り声。

 震える空気。

 草木、獣、川辺の臭い。

 風の流れ。

 星々の瞬き。

 

 夜の終わりのイブシ。

 明けの明星ナルハタ。

 

 その全てがユウの全身を目覚めさせる。

 

 ――駆り立てろ。狩猟本能。

 

「来いっ!」

 

 そこ言葉に水しぶきが上がる。

 

 ヌシ・ジンオウガの強靭な後ろ脚が水底を蹴り上げた。

 

 その瞬間、ユウは自分の目を疑う。

 

 ヌシ・ジンオウガが頭蓋への電流を覚悟に帯電し始めた。

 

 だが、それは金色ではなく、通常の雷光虫による青。

 

 舞う水滴。

 

 青雷が空気を焼き進む。

 同時に頭蓋へと還る雷光。

 

 開けた大口から稲妻が迸る。

 

 ――決死。

 

 駆り立てられるがまま、死を賭した狩猟本能。

 その体現。

 

 ユウは右足を強く踏み込み。

 

 ――雷撃を纏った爪。

 

 そこに。

 剣斧の切っ先を、合わせた。

 

 地面にめり込むような圧は、以前の比ではない。

 

 駆り立てろ。

 生きる為に。

 

 圧壊しそうな身体が悲鳴を上げる。

 

 軸足を僅かにひねり、腰へと伝達させる。

 

 駆り立てろ。

 大切な、家族の為に。

 

 ヌシ・ジンオウガが更なる圧を加える。

 

 ユウの口からうめき声が上がる。

 

 始めは小さく。

 だが、次第に大きく。

 

 ヌシ・ジンオウガの咆哮と、ユウの咆哮が、重なる。

 

 駆り立てろ!

 狩猟本能!

 

 強大な圧を流しきり、静寂の刹那――。

 

 剣斧を、振り抜いた。

 

 ユウたちを中心に烈風が周囲に吹き荒れる。

 舞う木の葉が月に重なる時。

 

 ユウは翔蟲の糸を引き、跳躍。

 空中で身をよじり、突き刺したクナイを握る。

 

 零距離解放――。

 

 だが、ヌシ・ジンオウガはユウごと頭を地面に叩きつけ。

 その衝撃でクナイが目から抜ける。

 

 舞う血。

 舞う、ユウの身体。

 

 それを巨大な腕が、地面へと押し込むように叩きつけた。

 

 全身を強打し、一瞬意識が飛ぶ。

 

 ユウの顔前に、血走ったヌシ・ジンオウガの瞳。

 

 どこから食ってやろうか。

 小賢しい頭か。

 いや、その忌々しい武器を握る腕か。

 

 いいや、腹だ!

 

 ユウの腹部に雷撃を纏った牙が食い込む。

 全身を貫く激痛に、悲鳴にも似た声を上げる。

 

 雷の獣が、笑みを浮かべているようだった。

 

 電流が脳内をかき乱す。

 関係ない景色。

 思い出が脳裏を掠めては消えていく。

 

 身体が硬直していく。

 

 もう、ダメか。

 

 意識が遠のく、その瞬間。

 

 ヌシ・ジンオウガの左目が噴血。

 電撃も、牙も。

 その全てが、停止した。

 

 ここだ!

 意識を取り戻したユウは、血流れる左目に臨界寸前の剣斧を突き刺す。

 

「――気焔、万丈!」

 

 属性解放――フィニッシュ。

 

 臨界を超えたビンが砕け、衝撃で剣斧本体を引き裂いていく。

 

 超高圧縮された衝撃の解放。

 

 それにより、ヌシ・ジンオウガの頭蓋――。

 その、左半分を消し飛ばした。

 

 耳鳴りが響く。

 周囲を覆っていた熱が急激に冷めていく。

 

「……やった、……のか?」

 

 破砕した剣斧から立ち上る煙が風に流されていく。

 剣斧を持つ力が失せ、ガランと地面に落とした。

 

 ヌシ・ジンオウガは、動かなかった。

 下から這い出るようにその場を離れる。

 

 狩猟、……成功。

 そう思った途端、全身から気力が抜けてくる。

 剣斧も、壊れてしまった。

 

 噛まれた腹部に激痛が走る。

 いや、それだけではない。

 全身も雷撃による火傷状態だ。

 

 装備を外して患部を見る。

 ヌシ・ジンオウガの雷撃が、噛み付きと同時に傷口を焼いていたのだろう。

 思っている以上に出血はしていない。

 

 ユウは壊れた防具を破棄。

 ポーチから狂走薬を取り出し、痛み止めと混ぜて一気に喉へと流し込む。

 

 ここで出来る応急処置は限られている。

 早くどこかで身体を休めなければ。

 少し行ったところにあるサブキャンプ地を思い出し、そこを目指す。

 

「そうだ……。僕の武器は……」

 

 ふらつく身体で剣斧を手に取る。

 

 ザドから貰ったスラッシュアックス。

 機工の半分が吹き飛んでしまっていた。

 耐久限界を超え、死に絶えた相棒を腰に差す。

 

 行かなくては。

 生き残る為に。

 

 岩で身体を支えながら立ち上がり、歩き出す。

 

 奥から足音が聞こえる。

 リーガルたちだろうか。

 

 だが、そこに現れたのは傷ついたジンオウガ。

 リーガルたちから逃げおおせた個体だった。

 

 ユウは浅く息を吐き出す。

 身体も支えきれなくなり、岩に寄りかかるように座り込む。

 

 ユウに気付いたジンオウガが真っすぐ歩いてくる。

 

 ユウは剣斧を取り出し、ジンオウガへと向ける。

 刃は、無い。

 

 ここまでか。

 悔いなら、ある。

 それもたくさん。

 

 ミイを、人として死なせてあげたい。

 ……そんなんじゃない。

 そんな、ハンターらしい考えは、今はいらない。

 ミイを、助けてあげたい。

 

 指から力が抜け、壊れた鉄塊が小さな音を立てて地面に落ちる。

 遅れて肩からも力が入らなくなった。

 

 ミイ。

 ミイとユクモの温泉まんじゅうを食べて。

 そういえば、温泉たまごも外せない。

 他に、やりたい事。

 ミイと。

 …………ミイと。

 

 疲労感で瞼が閉じかける。

 

 ふと、誰かの瞳を思い出した。

 吸い込まれそうなほどの。

 

 ――緑色の、瞳。

 

 ジンオウガが大きな口を開き、よだれを垂らしながらユウへと迫る。

 

 牙が、ユウの赤い髪に触れた瞬間。

 

 金色の雷撃が、ジンオウガを焼き貫いた。

 

 轟音と共に、倒れるジンオウガ。

 

 何が起こった?

 そう思い、振り返る。

 

 そこには、ヌシ・ジンオウガが。

 残った右半分の顔で、ユウを見ていた。

 

 痛む腹部を抱えながら、王を見る。

 

「……どうして?」

 

 だが、その瞳は動く事は無く――。

 

 立ったまま、絶命していた。

 

 遠く、ユウの耳に雷鳴の残響が木霊する。

 

 我ハ誰ゾ。

 我ハ、誰ゾ?

 

「お前は……」

 

 我ガ名ハ……。

 

「お前は、ジンオウガ。……僕の、宿敵。そして、この自然の、……王だ」

 

 耳鳴りに応えるように、ユウが小さく呟く。

 

 我ハ……。

 

 それを最期に。

 ユウの耳に、二度と。

 雷鳴が響くことは無かった。

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