モンスターハンター ライズ  ~明けの双星~   作:佐藤 磊童

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其ノ四

 目が覚めると見慣れない天井。

 ユウは寝ぼけた状態で布団から起き上がった。

 

 病院で家が火事になった知らせを受け。

 そこには二人の死体があった。

 更に犯人はミイで。

 ヌコヌコは自分のお見舞いが無かったと騒いでいた。

 

 ヌコヌコの事はどうでもよかったが、問題はそこじゃない。

 ミイが犯人だと言われている。

 死体とミイ。

 何度考えても、その二つが結びつかなかった。

 

 夢でもミイに会いたいと思い、目を閉じる。

 だが、瞼の裏に映るのは漆黒。

 

 しばらくは、孤独な夜を過ごしていた。

 

 その後、リーガルの紹介で騎士団の施設に泊まり込む事になった。

 ギルドが経営する騎士団の宿舎の一室。

 そこで、人知れずユウは溜息をついた。

 

■■

 

「――よう、今日も寝れてないみたいだな」

 

 二段ベッドの下から声がして、欠伸で応える。

 

「僕、寝言言ってなかった? ヒム」

 

 ヒムと呼ばれた少年がベッドから降りる。

 

「静かなもんだったよ。……あ」

「何?」

「むにゃむにゃ、もう食べられないよぉってな」

「まじか!?」

 

 二人で笑いながら、ヒムは訓練に行くために装備を整える。

 ユウはまだ療養期間中ではあるが、動きやすい服装へと着替えた。

 

「ユウ。お前はこれからどうするんだ?」

「そーだな。そろそろ僕の武器が出来上がる頃だから」

「へぇ! 楽しみだな!」

「まぁ、みんなから色々と融通してもらえたから」

 

 自分だけの成果ではない。

 ユウが少しだけ寂しそうに首をかしげる。

 

「真面目だねぇ。俺なんかラッキーとしか思えないけどな」

「真面目なんだよ。お前と違ってね」

 

 ヒムとは同い年という事もあり、関係は良好。

 里に同年代のハンターがいないユウにとって、初めで出来た友達とも言える間柄だった。

 

「それじゃ、訓練……気をつけて」

「そっちもな。ちゃんと療養しろよ」

 

 拳を突き出し、右腕を交差して軽く合わす。

 それが、自分たちのいつもの挨拶だった。

 

 宿舎を出て、準備運動。

 そしてランニングをしながら里へと向かう。

 

 草木に朝露。

 鳥の鳴き声。

 川で魚が跳ねていた。

 

 身体の鈍りがすさまじく、すぐに息があがる。

 

 森の間から訓練場が見えた。

 掛け声や怒声が小さく聞こえる。

 新人たちがベテランにしごかれている様子が伺えた。

 

 あの中に、ヒムもいるのだろう。

 思えば、ヒムには心身ともに助けられた。

 

 自分ひとりだけだったらミイの件で押しつぶされていただろう。

 だが、ヒムは積極的に声を掛けてくれた。

 

 退院してからおよそ一か月。

 塞ぎこむ事もあった。

 ミイの事は今も腹の深いところに沈殿している。

 

 それでも同い年のヒムには、何となく負けたくないという気持ちが沸いてくる。

 

「気焔……万丈」

 

 ユウは訓練場に背を向けて、力なく呟いた。

 

■■

 

 カムラは長い坂を上った先にある。

 大粒の汗を流し、肩で息をしながら何とか到着。

 

 赤い橋を渡る途中。

 下の谷から吹き上げる風が、火照った身体から熱を奪う。

 

 行く当てなどない。

 だが、身体が自然と集会所を目指していた。

 

「あ、ユウさん!」

 

 集会所へ向かう途中のうさ団子屋で呼び止められて振り向く。

 

 そこには茶屋の恰好をしたユイファ。

 お盆を片手に元気よく手を振っていた。

 

「あ、あれ。ユイファ、さん?」

「はい、ユイファです! お体は大丈夫ですか?」

「え? ええ? 看護師さんじゃなかったの?」

 

 ユウの驚いた顔に気を良くしたのか、ユイファはふふんと鼻を鳴らした。

 

「ある時は看護師、またある時は茶屋の看板娘!」

「しかしてその実態は?」

「ひ・み・つ、です!」

「何それ」

 

 ユイファが人差し指を口元に添える。

 そして二人同時に笑い出した。

 

「あはは。なんか、久しぶり笑った気がします」

「それは良かったです。どうです? 一本」

「なら、この『限定すぺしゃる?』をお願いします」

「おお!? ユウさん、見る目ありますなぁ」

「ちょ、ちょっと、限定って言葉に弱くて……」

 

 限定に弱いというのは、本当はミイの方。

 それを、心の奥に隠し込んだ。

 

「それでは、しばし待たれよ!」

 

 そう言って店の奥へと入っていく。

 見上げると、青空。

 万年桜の花びらがひらひら。

 

「……ユウさぁん?」

「あ」

 

 気付くと美味しそうな匂い。

 だが、青色のうさ団子が目の前にあった。

 

「こ、……これは!?」

「んふふー。ニガムシの粉を混ぜた団子に甘辛いタレを付けた逸品です」

「……」

「さぁ! ご賞味あれ!」

 

 予想の斜め上のうさ団子に、食べようとする手が拒絶する。

 ちらりとユイファを見る。

 そこには、期待と希望に満ちた、目。

 

 そういえば、ユイファを見た時に感じた、あのメル・ゼナ。

 あの違和感はどこへ行ったのだろうか。

 

「さぁさぁ!」

 

 ユイファの笑顔。

 メル・ゼナの気配は、無い。

 

「……い、逝ただき、ます」

 

 ユウは、意を決して。

 ――一口で、食べた。

 

 天地がひっくり返る。

 響くユイファの悲鳴。

 ああ、やっぱり空は綺麗だなぁと、ユウは思った。

 

■■

 

 青空を刻むような、カンカンと鉄を打つ音が鳴り響く。

 

「――スグハ。いるか?」

 

 ザドが鍛冶屋に顔を出した。

 

「珍しいね、里長が研ぎ以外でここに顔を出すなんて」

「まぁな」

「ああ、ユウのスラッシュアックスの事だろ?」

 

 スグハと呼ばれた若い女鍛冶師が、汗を拭きながらザドの前に立った。

 

「もうすぐ完成するけど、本当に大丈夫なのかい?」

「何がだ?」

「まだ下位のハンターに、こいつを扱えるのかって、事さ」

 

 そう言って、機工を組み立て途中の剣斧へと視線を送る。

 

 ユウ専用の――剣斧。

 

だが、それは本来ならマスターランクのハンターに所持を許される一本。

 

「まだ私は信じられないんだよねぇ。あの子がヌシ・ジンオウガを一人で狩ったなんてさ」

「まぁ、そうだろうな」

「信じられないのと、信じないのは別だからね。仕事はきっちりとやるさ」

 

 ザドは品物の剣斧を手に取り、刃の具合を睨むように見る。

 相変わらず、良い仕事をしていると感じた。

 

「――前に」

「え?」

「だいぶ前に、ユウは凄いハンターになると言った事があってな」

 

 ザドが手慣れた手つきで機工を解放。

 ビンの収まり具合を確認する。

 

「あの時は、みんなに笑われたもんだ」

「そりゃぁ、そうだろうね。私もそう思うよ」

「――だが」

 

 ガチンと、機工を閉じる。

 

「あいつは、自力でここまで来た」

「……そうだね」

「だから、そいつもすぐに使いこなす」

 

 必ず。

 

 最後の言葉に力を込め、剣モードの剣斧を片手で振るう。

 

「だからこれは。未来の、……マスターランクハンターへの投資だ」

 

 その言葉に、スグハは店の壁に寄りかかりながら、口角を上げた。

 

■■

 

 カムラの里より、少し離れた騎士団の修練場。

 下位の騎士たちが切磋琢磨する声が規則正しく響き渡る。

 

 手には剣。

 反対側には盾。

 

 相手と交互に突き合わせて、細やかな動きを身体に覚えさせる。

 

「中々、剣盾の扱いも上達してきたな! ヒム」

 

 ヒムは先輩の上位騎士に指導を請いながら、訓練を重ねる。

 

「そこで斧モード!」

「はい!」

 

 ヒムは剣を盾へと接続させ、自身の武器を巨大な斧へと変化。

 

「そのまま叩きつけろ!」

「はい!」

 

 ビンのエネルギーを纏った斧モード。

 それを渾身の力で、上位騎士へと叩きつける。

 

 だが、ランスを装備した上位騎士は、鉄壁のガードでそれを耐え。

 ――弾き返した。

 

 のけぞり、後方へと大きく吹き飛ばされる。

 

「痛ってぇ……」

 

 ヒムが後頭部をさすりながら、上体を起こす。

 

「今の一撃は中々良かったぞ」

「ありがとうございます」

 

 ヒムは差し出された手を取り、起き上がる。

 

 ふと見上げた青い空。

 その中に赤い線が一瞬、引かれたような気がした。

 

「先輩、あれって――」

「――全員、傾注せよ!」

 

 部隊長の一喝で、鳴っていた金属音がピタリと止まる。

 同時に決められた位置へと全員が集合する。

 

 上位騎士とヒムもそれも漏れず。

 ヒムは肩で息をしながら、部隊長へ視線を送る。

 

「訓練ご苦労。皆、これより実戦訓練に移ってもらう」

 

 部隊長の言葉に、僅かに動揺が走る。

 

「また、部隊長の思い付きか」

 

 ヒムの隣に付いた上位騎士がつぶやいた。

 

 確かに予定には無かった訓練。

 だが、カムラで百竜が迫っている状況なのだ。

 これは中々良い手なのではないかと思った。

 

「……珍しいじゃん」

「そこぉ! 何か言ったかぁ!?」

「い、いえ! 何も言っておりません!」

「良い返事だ。貴様には訓練後、修練場を二十周のランキングを褒美にくれてやろう!」

「あ、ありがとうございます!」

 

 口は災いの元。

 ヒムは自分の軽い口を恨んだ。

 

 修練場の奥の檻が、暗い口を開くように上がっていく。

 重々しい鎖の音と歯車の音。

 解放された暗闇から、巨大な生物の足音。

 

 ハンターによって、捕獲されたヨツミワドウ。

 河童蛙が騎士団たちの前に姿を現した。

 

 ヨツミワドウは本来、水辺でその真価を発揮できる。

 だが、訓練用である為か、弱り切っていた。

 

 ――だが。

 

「見たところ、だいぶ弱っているな。よし、そこの口が軽いお前!」

 

 ヒムが自分? という顔をする。

 

「そうだ! お前、一人で狩ってみせろ!」

「ええ!?」

「返事!」

「ささ、サー、イエッサ!」

 

 とんでも無い事になった。

 そう思いながら、ヒムがヨツミワドウの元へと走る。

 

 近くで見ると、想像以上に弱り切っているのが分かった。

 

「これなら、楽勝かも」

「気を抜くな! 軽口やろう!」

 

 地獄耳か、あいつは。

 小さい声で言ったはずなのに。

 

 そう思いながらも、息を整える。

 盾から剣を引き抜き、チャージアックスの構えを取る。

 

 息を、次第に細くしていき、集中を高める。

 

「いくぞ!」

 

 ヒムが力を込め、ヨツミワドウへ駆け出した瞬間。

 

 赤い光が。

 ――流星のように地上へと落ちた。

 

「な、なんだ!?」

 

 漂う土煙から赤い光が漏れ、ヨツミワドウの悲鳴が聞こえた。

 遠くでも仲間からどよめきが走っている。

 

 バチバチと放電のように溢れる龍気。

 やがて、土煙が収まっていく。

 

 そこに現れるは、銀駆の赫――。

 凶星の、バルファルク。

 

 翼から発する龍気が、ヒムの思考を吹き飛ばした。

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