モンスターハンター ライズ  ~明けの双星~   作:佐藤 磊童

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其ノ三

 ユウの前に三つの水柱が立つ。

 上空のリオレウスが進行方向を塞ぐように火弾を放っていた。

 

「くそっ!」

 

 ユウは来た道を戻るように方向転換をする。

 だがすぐに動きを止めた。

 尾の切れたリオレイアが目の前に迫っていた。

 

 強靭な脚であっという間にユウたちに追いつき、

空の王者と陸の女王に挟まれてしまった。

 

「私を置いて逃げろ!」

 

 背中でマキが叫ぶ。

 下ではキガニアが早く生きた肉を食わせろと騒ぎ立てる。

 アカメは震えながらもリオレウスに向かって懸命に吠えている。

 

 川の音。

 鳥たちの声

 

 様々な音や声がユウの頭の中を通り過ぎ、心の余裕が削られていく

 

「お前が死んだら、何もならないんだぞ!」

「――でも!」

 

 ざわつく頭の中で、あの言葉がよぎる。

 

 ――お前は、基本に忠実なんだな。

 

 その言葉に、息を呑み、自らの中で決断を下す。

 

「……僕のクエストは、貴女たちの救出です」

「何!?」

「この場の責任者は、……僕です」

 

 ユウは上空の火竜を警戒しながら、アカメにマキを括りつける。

 

「いいかい。彼女をヌコヌコさんのところへ」

 

 アカメが心配そうに鼻を鳴らす。

 

「……僕なら大丈夫。だから、早く」

 

 アカメは弱気に鼻を鳴らすが、意を決したようにキャンプ地へと走り出す。

 

 それを逃がすまいとリオレイアが大地を蹴る。

 

 スラッシュアックスを剣モードへ移行。

 リオレイアの足が一瞬止まった。

 

 その隙を突き、ユウが翔蟲を使い、空中へ跳ねる。

 だが、上空のリオレウスが急降下でユウに体当たりをする。

 激しく水面に叩きつけられる。

 

 雌火竜の追走を、マキムシで阻む。

マキビシのような虫の棘に触れ、リオレイアの動きが一瞬止まる。

 

 武器を素早く折りたたみ。

 リオレウスの火球が迫る中、間一髪――。

 洞窟へと避難した。

 

 壁に寄りかかりながら、回復薬を流し込む。

 

 狭い洞内で、次の手を探る。

 だが、大きな地響きがして洞窟が崩落をし始めた。

 

「な、何なんだ!?」

 

 困惑と共に、またしても間一髪、地上へと這い出る。

 そこには、二頭の竜が跳ねながら、洞窟を崩している光景があった。

 

 理解が追いつかず、一瞬、足が止まる。

 

 ユウに気付いた火竜の咆哮に鼓膜を破壊されそうになる。

 耳をふさいだ瞬間、雌火竜の体当たりが直撃した。

 

 圧倒的な質量をまともに受けて、意識が遠のく。

 

 揺れる視界。

 激しい耳鳴り。

 

 縋るように翔蟲の糸を手繰り、距離を取ろうとする。

 だが手に力が入らず、糸がすり抜けた。

 

 足に力が入らず、倒れた傍を火竜の毒爪が通過する。

 

 外したリオレウスは忌々しそうにユウを睨みながら、上空へと舞い戻った。

 

 湿度が高い為か、死への恐怖か。

 膝を突き、下を向く顔から大粒の汗が流れ出る。

 

 地響きと共に火竜が着陸し、二頭がユウへ迫る。

 

 濃密な、死の気配。

 

 もう、だめか。

 

 ――雷鳴。

 

 ユウの耳に確かにそれが聞こえた。

 

 あの日、あの夜。

 絶対的な死と対峙した記憶が、電撃のように全身を包んだ。

 

 視界が安定し、ユウの手に力が戻る。

 斧モードの剣斧を構え、腹から気を巡らす。

 

 雌火竜が火弾を吐く。

 

 それに向かい、前転で回避。

 直後に舞い上がった爆水が、雨のように水面を穿つ。

 

 地を駆け、斧から剣へと移行しながら斬り付ける。

 

 雌火竜は寸前で身を回転させて避け、そのまま折れた尾でユウの身体を薙ぎ払う。

 腹部への強烈な一撃。

 

 だが直撃を受けながらも、すぐに武器を構えリオレイアへ切っ先を向ける。

 

 気迫が剣先から漏れ出るようだった。

 

 雌火竜は一歩後退し、弱々しく鳴き声を上げた。

 

 それを庇うように火竜が間に入る。

 

 だが、ユウは二頭の脚を掻い潜り、雌火竜の腹部に剣斧の一撃を叩き込む。

 

 固い腹部の鱗を斬り裂き、流れた血が濁った水を染め上げた。

 

 ユウは翔蟲を使い、岸へと着地。

 同時に、小さな魚の群れが、腹部の傷に群がる。

 

 キガニアたちの小さく、獰猛な牙が新鮮な肉の味を求めて水面を跳ねる。

 

 堪らずに苦痛の声を上げるリオレイアが上空へ逃げると、

 同時に跳ね飛んだ火竜の火弾がキガニアの群れに直撃。

 

 その視線が、ユウへと向けられた。

 

 おかしい。

 産卵期でも無いのに、ここまで連携が取れるのだろうか。

 

 ユウの中に生まれた疑念。

 それを突き詰める時間をくれる程、狩りは甘くない。

 

 浮きそうになる足。

 それを、傘鳥の夜が繋ぎ留める。

 一瞬の戸惑いに、死は容易く牙を剥く。

 

 大きく息を吸う。

 

 駆り立てろ、狩猟本能。

 

 空の王者が急降下でユウへと迫る。

 それを翔蟲で横に飛び。

 

 着地点に目掛けて体当たりを仕掛ける姫火竜を掻い潜る。

 

 だが、その巨体がユウの死角を作った。

 

 ――リオレウスは!?

 

 視線を火竜に向けた時、既にその場にはおらず。

 交差するように、赤い巨体がユウの身体を跳ね飛ばした。

 

 暗転する視界。

 直後に全身の衝撃で無理やり意識が覚醒させられる。

 

 ユウは這いつくばり、口に入った泥を吐き出した。

 

 すぐに立ち上がろうとする。

 だが、当たり所が悪かったのか、足に力が入らない。

 

 地響きを鳴らしながら、ゆっくりと迫る二頭。

 眼前に肉薄する雌火竜が翼を広げて咆哮を上げる。

 

 

 ――ここまでか。

 

 その瞬間、鮮やかな一閃が、空を斬り裂いた。

 

 朦朧とする視界が捉えたのは、見覚えのある黒いガルク。

 

 そして。

 

「無事か、坊主!」

 

 アカメの上に乗っている何者かの声に、視線を上げる。

 

 そこには、使い古され

いぶし銀の光を放つ武器を携えたヌコヌコが、

二頭の前に立ちふさがっていた。

 

「中々ガッツがあるじゃねぇか!」

 

 そういってユウを鼓舞する物言いに、ザドに似た雰囲気を感じ、

剣斧を突き立てながら、立ち上がる。

 

「おうおう、こいつは確かに異常な連携だにゃ」

 

 視界が安定し、最後に残った砂利を吐き出し、口を拭う。

 

「たぶん、僕たちを逃がすつもりは、無いんだと思います」

「同感だにゃ。……で、どうするのにゃ?」

 

 このまま逃げてもキャンプ地で治療中のハンターのたちも危ないのは明白。

 ならば、答えは一つしかない。

 迷いはあった。

 だが、もう心は決まっていた。

 

「――やりましょう」

 

 その言葉に、ヌコヌコの口角がニヤリと上がる。

 

「僕たちで、二頭狩りを!」

 

 その決意に、焔は宿る。

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