モンスターハンター ライズ  ~明けの双星~   作:佐藤 磊童

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■チャプター② 焦燥  其ノ一

 およそ一年前、百竜夜行。

 

 繁殖期を迎えたイブシマキヒコとナルハタヒメが数年ぶりにカムラに飛来。

 

今回の行軍は小規模ながらも、自分の大事な相棒の命を奪った。

 

その槍のような尾による一閃。

 

 百竜の最後に出でて、怨念喰らうもの。

 その名は、マガイマド。

 

 ――珍しく夢を見た。

 

 どうやらあの小僧の熱に当てられたのだろうか。

 

 ガルクに跨り、攻撃をかいくぐり、刃を通す、あの感覚。

 隠退した身でありながら、血沸き肉が躍った。

 

 だが、そこで思考が止まる。

 

 なぜなら、大事な相棒を殺したのは、他ならぬ、自分なのだから。

 

 自分が油断さえしなければ、相棒は今も――。

 

「――ヌコヌコさん」

 

 二頭狩りを達成した後、カムラの里でふとルルカに声を掛けられた。

 

「また、ハンターに戻る事はありませんか」

 

 何度も断っている。

 しつこい。

 

 あれは、小僧を助ける為に致し方なくの行動だった。

 

 そして理解した。

 

 あの小僧は強い。

 正確には弱いが、生存の為の本能がずば抜けている。

 どんな過酷な状況でも生き残るやつは必ず強くなる。

 

 今は弱かろうとも。

 

 いつか、必ず。

 

 ――だから。

 

 そう言って自らの武器に布をかぶせた。

 

 もう二度と。

 光が当たらないように。

 

 指先が、冷え切った鉄のように冷たくなっていた。

 

 後悔の黒い渦が、ヌコヌコを飲み込んだ。

 

■■

 

 溶岩洞。

 灼熱の赤と冷たさを湛えた水の蒼が同居する異形なる世界。

 キャンプ地に到着したハンターたちの驚愕の声が響き渡った。

 

「――何で、お前が大タルの中に入っているんだ!?」

「……」

 

 長時間同じ姿勢だったからだろうか。

 大タルから無言で這い出てきたミイは、全身の筋肉を伸ばしながらゆっくりと息を吐いた。

「……おい、ミイ」

 

 パーティのリーダー、ヘヴィボウガン使いのレイズが三人を押しのけてミイの前に立つ。

 ミイは変わらず無表情のままレイズの視線を受け流す。

 

「帰れ」

「いや」

 

 一言を一言で返す。

 たったこれだけで、この場全体の空気が張り詰める。

 

「第一、お前は絶対安静のはずだろう!? 武器だって振れないって聞いたぞ」

「武器なら振れる」

 

 空気に耐えかねた大剣使いのヴァンの言葉に全員が同意する。

 だが、ミイは視線すら合わせず、双剣の具合を確かめる。

 そしてその場で演舞を行い、鮮やかに腰に差す。

 

 その動きは、数か月もベッドの上だったとは思えない程に流麗。

 全員が思わず息を呑む程だった。

 

 ――だが、それ以上に。

 

 火山からの熱すら忘れさせる程の冷たい空気。

 ユウが傍にいる時とは別人のような雰囲気。

 ユウには見せる事のない、本来のミイの姿がそこにあった。

 

「……私も戦える」

「駄目だ」

 

 レイズは元々口数が少ない。

 だが、プロのハンターであるミイがルールを無視してこの場に居る事に憤りを感じているのが伺えた。

 

「……黙って付いてきたのは、……悪かったとは思っている」

 

 レイズの圧力に耐えかねたのか、ミイが小さく謝罪をした。

 いたたまれない空気の中、キャンプ地の水辺の音だけが虚しく響く。

 

「……何をそんなに焦っているんだ?」

 

 やっとレイズが重い口を開いた。

 だが、その問いに今度はミイが押し黙る。

 

「――ユウは」

 

 遠くの火山の噴火で書き消えそうなくらいの、小さな声。

 

「……私はお姉ちゃんだから」

 

 ミイが独り言のように、悲しそうにつぶやく。

 その様子にレイズが腕を組んだまま、火煙で赤くなっている空を見上げる。

 

「ねぇ、レイズ。もう来てしまったのですから、私たちが全力でミイさんをサポートすればいいのではないでしょうか?」

 

 ガンランス使いのセレナの言葉に周囲が同意する。

 

 どのみちここまで来て帰れというのは流石にないだろう。

 

「……だが」

「またジンクスですか?」

 

 セレナがレイズの言葉を遮る。

 

「ああ。五人パーティは失敗する。そういう――」

 

「四人+一人だよ。それなら文句ないでしょ」

 

 大ありだ。

 ミイの変な理屈にレイズの眉が更に歪む。

 

「ま、まあついてきてしまったもんは仕方ねぇよ、今さら帰すのもな。なぁリーダー」

 

 同じくらいの娘を持つヴァンがミイの側に着く。

 

「必ず役に立つから、……お願い」

「もうすぐマスターランクに手が届くパーティのリーダーがジンクスかよ」

 

 ヴァンの言葉にセレナが無言で頷く。

 

「……リーダー」

 

 太刀使いのソウシが眼鏡の淵に指を当てながら、レイズの判断の後押しをする。

 

「……サブリーダーのお前もか」

 

 レイズはついに溜息を付いてミイを見る。

「だが、分かっているのか? 俺たちの標的は尾折れのマガイマド」

 ミイが刃を研ぎながら頷く。

「やつはかつて、マスターランクのハンターを殺した化け物なんだぞ」

「……でも、ユウなら」

 

 そう言いかけたところでミイは口をつぐむ。

 そして大丈夫だと言わんばかりに黙って頷いた。

 

「大タル爆弾一つ分以上の仕事はするよ。……必ず」

 

 その目に言いようの無い焦燥を感じる。

 だが周囲の空気に圧され、ついにレイズは仕方なしにミイの同行を認める事にした。

 

 

■■

 

 ――その動きは本当に見事だった。

 熟練のハンターたちの息のあった狩猟風景に、ミイは言葉を失った。

 

 赤甲獣ラングロトラが長い舌をヴァンが大剣で受け止める。

 後ろからソウシがザドに引けを取らぬ一閃で、固い紅殻に傷をつける。

 

 よろめきながら身体を丸くさせ、レイズへと速度を伴った質量をぶつける。

 その間にセレナが入り、重量級の盾を構える。

 

 鈍い音と衝撃に兜の中で歯を食いしばらせながら弾き返し。

 べしゃりと倒れたところをヘヴィボウガンの連射が紅殻を削り、ダメージを与えていく。

 

 一見地味ではあるが、確実に得物を仕留める事を目的とした鮮やかともいえる戦術。

 

 ――まずは見ろ。

 

 そう言われた理由が、深く理解できた。

 

 ミイが双剣を手に取り、大きく息を吸い込み、細く吐き出す。

 

「スイッチ!」

 

 その言葉にソウシが後退。

 ミイと場所を入れ替える。

 

 再び大きく息を吸い込み、腹で留める。

 

 鬼人化。

 

 ミイは跳ねるようにラングロトラに迫り、連舞のように幾重にも斬り付ける。

 

 ラングロトラが立ち上がり、長い爪を振るう。

 

 それを身体の軸をずらしながら避け。

 右足の捻りを全身へと伝わらせながら、果敢に攻め続ける。

 

 溜め込んだ息を吐き出し、再びスイッチの号令と共に、ソウシへと攻撃を繋げる。

 

 たった今合流したばかりとは思えない程の連携と、理解。

 

 それ以上にミイの狩猟における天賦に、ソウシ含め全員が驚嘆。

 

 なぜ、ミイがカムラの炎。

 その再来と呼ばれるのか。

 

 理由以上に事実を目の当たりした瞬間だった。

 

 ミイは首を左右に振り、全体の状況を確認。

 双剣を構えたまま迂回するようにヴァンの後ろへと就く。

 

 再び号令と共に、ヴァンと位置を入れ替え。

 連撃によりラングロトラを釘付けにする。

 

 ラングロトラと歩幅を合わせながら、振るう腕を掻い潜る。

 再びスイッチという言葉と共に後退。

 

 そこには力を溜め切ったヴァンが足を力強く踏み込み、一撃を加え。

 更に身体全体を使った溜め攻撃で、脆くなった紅殻を粉砕した。

 

 追撃しようとするヴァン。

 その時、閃光玉が周囲を照らした。

 

 撤退の合図だった。

 

 咄嗟に全員が後退。

 ミイも後に続く。

 

 直後、八つの目を持つ異形が地響きと共に現れた。

 

 ――ヤツガタキ。

 姫蜘蛛の名を冠する、荒地の女王が瀕死の赤甲獣に覆いかぶさった。

 

 上位種による、捕食が始まった。

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