モンスターハンター ライズ ~明けの双星~ 作:佐藤 磊童
ヤツガタキの悲鳴にも似た鳴き声と、マガイマドの咆哮が洞内を揺らす。
直後に背後のハンターに気づき、跳ねるように大きく距離を取った。
偶然なのだろうか。
いや、必然だろう。
今、マガイマドが立つ位置。
その角度のみが、全てを見渡せる場所だった。
一瞬で状況を理解したマガイマドは、リーダーのレイズに目を付け、一気に跳躍。
右腕の妖怨刃を振るう。
その間にセレナが重量級の盾で割り込む。
ラングロトラの体当たり以上の圧力。
僅かに身体が浮く。
直後の体当たりでセレナを弾き飛ばす。
――戦線が、崩壊した。
ミイは咄嗟に駆け出し、翔蟲を使ってマガイマドに接近。
だが、それを無視するようにマガイマドはヤツガタキへと襲い掛かる。
セレナの時と同じように右腕の妖怨刃を。
いや、その爪でヤツガタキの身体を押さえつける。
紫紛が舞い、ヤツガタキの身体が爆ぜる。
ヤツガタキは四肢を藻掻いて抵抗しようとする。
だが、マガイマドは無常な右腕で、ヤツガタキの頭を押し潰した。
「――くそっ!」
ソウシが太刀を鞘に納めながら接近。
居合による抜刀を刃尾で受け止める。
ギリギリと刃が削れるような音が響く。
レイズが貫通弾を放つが、十手状の尾で太刀ごとソウシを絡め捕り、レイズの方向へと投げ捨てた。
水面を転げながら、体勢を立て直す。
だが。
その異常とも言える圧倒的な圧力に、身体が言う事を聞かなかった。
眼下のハンターたちを見下ろす。
紫魂の焔が、修羅へと誘うように燃え上がった。
「何なんだ、こいつはっ!?」
ヴァンの言葉に全員が同意する。
明らかに強い。
明らかに戦いなれている。
明らかに……。
「人を、殺し慣れてる……?」
セレナの言葉に、全員に戦慄が走る。
今、この場で狩られるのは――。
その暗闇を、二つの光が斬り裂いた。
ミイの双剣による斬撃を、横に躱して距離を取る。
渾身の一振りを空振りしたからだろうか。
ミイが激しく肩で息をする。
マガイマドが品定めをするように唸り声を上げた。
紫焔が笑うように燃え盛る。
まるで、人間の怨嗟を渇望するように。
ミイが作った僅かな時間で、レイズたちが戦線を立て直す。
ソウシが再びマガイマドに接近。
愚かな。
そう言いたげな禍威の圧に、右足を一歩踏み出す。
「――次は、斬る!」
その言葉の宣言通り、翔蟲の糸の反動を用いた高速移動。
鞘から出た刃が弧を描く。
一瞬でマガイマドの後方へと移動していたソウシが、太刀を鞘へと戻す。
静寂に、唾が鳴らす金属音が響いた。
直後、無数の斬撃が遅れてマガイマドの全身を切り刻んだ。
「いつの間に……」
ミイから感嘆の声が漏れる。
だが、ソウシが膝から崩れ落ちた。
――一人目。
左の妖腕刃から大量の血が流れ、それを満足そうに舌で舐め取る。
「くぉらぁ!」
ヴァンの頭上から、体重を乗せた大剣による一太刀。
それを爪でヴァンの身体ごといなし、地面に叩きつけた後。
圧倒的な圧力で、防具ごと踏みつけた。
――二人目。
次は貴様だ。
そう言いたげな目でセレナを見る。
フルフェイスの兜の奥。
恐怖で顔が滲む。
後方からミイの足音が響き、マガイマドが振り向く。
ミイは武器を構えながら、脚下を滑るように潜り抜け、岩壁を足掛かりに跳躍。
水しぶきが舞う。
水滴越しにミイとマガイマドの視線が交差した。
ミイに注意が向いた瞬間、レイズのヘヴィボウガンによる一撃が眉間に命中。
今だ。
ミイは身体を回転させながら、斬り込んだ。
だが、マガイマドは背中を丸めて刃殻を突き立て、ミイの斬撃を弾ききる。
咆哮と共にセレナへと襲い掛かり――。
身構えたセレナを素通りし、更に後方のレイズを左腕で吹き飛ばした。
――三人目。
壁面に叩きつけられ、落ちる。
だが、グラついた身体を十手状の尾で壁に突き立て、レイズの身体を張り付けた。
「な、何なの? 私たちを弄んでいるの!?」
混乱したセレナの絶叫に、紫魂が笑うように揺らめく。
直後、マガイマドの身体が痺れるように硬直した。
レイズが最後の力でシビレ罠を壁面に設置。
自分ごと、強烈な電流によりマガイマドの動きを封じていた。
「……よくも、よくもみんなをっ!」
セレナの目に憎悪が宿り、ガンランスの機工を解放する。
ビンの全エネルギーを圧縮。
圧力でまるで竜の口から炎を吐くように雄叫びを上げる。
フルバレットファイヤ。
オーバーヒート寸前の圧力を維持したまま翔蟲の糸で跳躍。
超高火力による一撃をマガイマドに突き立てた。
爆炎で周囲に煙が立ち込める。
セレナの痛々しいまでの息遣いが、ミイにまで届く。
――爆炎を穿つ槍のような一閃。
それが、セレナの盾を弾き飛ばした。
「そ、そんな! まだ麻痺の効力中のはず!?」
絶望がセレナを染め上げる。
戦意を喪失したセレナを尾で薙ぎ払う。
――四人目。
最後に、ミイだけが取り残された。
恐怖。
あの時のジンオウガ。
それ以上の、死の予感で呼吸が浅くなる。
――お姉ちゃん。
昔、ユウがまだそう呼んでくれていた頃。
いつの頃だったか。
生意気にもミイと呼ぶようになったのは。
ダメな弟だと思っていたのに。
その弟の躍進に嫉妬した。
病室で凄い凄いと聞かされ、焦る気持ちを抑えきれなかった。
「あーあ、ダメなお姉ちゃんだね……」
震える声が、洞窟に小さく溶けていった。
でも、ダメなお姉ちゃんなりに頑張らなくては。
揺れる視界を定め、双剣を構える。
帰ったらちゃんと謝ろう。
心配かけてごめんねって。
その為にはこいつを。
――狩る。
駆り立てろ、狩猟本能。
ミイの瞳に決意の焔が宿る。
それを嗤う修羅が牙を剥く。
ミイが深く呼吸をして鬼人化となり、水面を滑るように駆け出す。
瞬間、後方で閃光玉が弾け、マガイマドの目が眩んだ。
ミイの横を誰かの翔蟲が飛来。
その糸を掴むソウシが、居合でマガイマドを斬り付けた。
太刀の切っ先が闇を斬り裂くように、幾重にも弧を描く。
その右目からは大量の出血が見られる。
「俺に続け、ヴァン!」
「あいよぉ!」
ミイの頭上を跳躍したヴァンが、大剣による一撃を叩きつける。
「ハンター、舐めんな、猫やろう!」
左肩に深い傷を付けられ、マガイマドが距離を取る。
その着地点に、ミイがいた。
鬼人化で渾身の力で双剣を振るう。
斬り付け、斬り付け、斬り付け。
酸素がもうすぐ切れる。
だが、まだだ。
今、鬼人化を解いたら、反撃が来る。
もう少し。
限界を、越えろ。
「――気炎、万丈!」
気合と共に、双剣を振り抜く。
双剣の交差をなぞるように、怨虎竜の血が宙を舞う。
マガイマドが、のけぞるように倒れ込む。
スタミナが切れた。
ミイはチアノーゼでふらつく足で、僅かに距離を取る。
それをカバーするように、二人がマガイマドへと連続で攻撃を仕掛ける。
ミイの視界が、一瞬足元へと移った。
その刹那、閃光がミイの身体を貫いた。
尾による槍のような一撃が、ミイの装備をたやすく穿った。
ミイの身体が、その場に崩れ落ちる。
「――なっ!?」
二人の視線がミイへと移った瞬間、紫紛が爆ぜて周囲を吹き飛ばす。
再び紫の焔が嗤うように揺らめき、強靭な後ろ足で跳躍。
尾をふるい、設置していた大タル爆弾を次々と点火。
灼熱の爆発の中、マガイマドの咆哮が青の洞窟を地獄へと染め上げた。