モンスターハンター ライズ  ~明けの双星~   作:佐藤 磊童

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其ノ三

 ヤツガタキの悲鳴にも似た鳴き声と、マガイマドの咆哮が洞内を揺らす。

 直後に背後のハンターに気づき、跳ねるように大きく距離を取った。

 

 偶然なのだろうか。

 いや、必然だろう。

 

 今、マガイマドが立つ位置。

 その角度のみが、全てを見渡せる場所だった。

 

 一瞬で状況を理解したマガイマドは、リーダーのレイズに目を付け、一気に跳躍。

 右腕の妖怨刃を振るう。

 

 その間にセレナが重量級の盾で割り込む。

 

 ラングロトラの体当たり以上の圧力。

 

 僅かに身体が浮く。

 

 直後の体当たりでセレナを弾き飛ばす。

 

 ――戦線が、崩壊した。

 

 ミイは咄嗟に駆け出し、翔蟲を使ってマガイマドに接近。

 

 だが、それを無視するようにマガイマドはヤツガタキへと襲い掛かる。

 

 セレナの時と同じように右腕の妖怨刃を。

 いや、その爪でヤツガタキの身体を押さえつける。

 

 紫紛が舞い、ヤツガタキの身体が爆ぜる。

 ヤツガタキは四肢を藻掻いて抵抗しようとする。

 

 だが、マガイマドは無常な右腕で、ヤツガタキの頭を押し潰した。

 

「――くそっ!」

 

 ソウシが太刀を鞘に納めながら接近。

 居合による抜刀を刃尾で受け止める。

 

 ギリギリと刃が削れるような音が響く。

 

 レイズが貫通弾を放つが、十手状の尾で太刀ごとソウシを絡め捕り、レイズの方向へと投げ捨てた。

 

 水面を転げながら、体勢を立て直す。

 

 だが。

 

 その異常とも言える圧倒的な圧力に、身体が言う事を聞かなかった。

 

 眼下のハンターたちを見下ろす。

 紫魂の焔が、修羅へと誘うように燃え上がった。

 

「何なんだ、こいつはっ!?」

 

 ヴァンの言葉に全員が同意する。

 

 明らかに強い。

 明らかに戦いなれている。

 明らかに……。

 

「人を、殺し慣れてる……?」

 

 セレナの言葉に、全員に戦慄が走る。

 今、この場で狩られるのは――。

 

 その暗闇を、二つの光が斬り裂いた。

 

 ミイの双剣による斬撃を、横に躱して距離を取る。

 

 渾身の一振りを空振りしたからだろうか。

 ミイが激しく肩で息をする。

 

 マガイマドが品定めをするように唸り声を上げた。

 紫焔が笑うように燃え盛る。

 まるで、人間の怨嗟を渇望するように。

 

 ミイが作った僅かな時間で、レイズたちが戦線を立て直す。

 

 ソウシが再びマガイマドに接近。

 

 愚かな。

 

 そう言いたげな禍威の圧に、右足を一歩踏み出す。

 

「――次は、斬る!」

 

 その言葉の宣言通り、翔蟲の糸の反動を用いた高速移動。

 

 鞘から出た刃が弧を描く。

 

 一瞬でマガイマドの後方へと移動していたソウシが、太刀を鞘へと戻す。

 

 静寂に、唾が鳴らす金属音が響いた。

 

 直後、無数の斬撃が遅れてマガイマドの全身を切り刻んだ。

 

「いつの間に……」

 

 ミイから感嘆の声が漏れる。

 

 だが、ソウシが膝から崩れ落ちた。

 

 ――一人目。

 左の妖腕刃から大量の血が流れ、それを満足そうに舌で舐め取る。

 

「くぉらぁ!」

 

 ヴァンの頭上から、体重を乗せた大剣による一太刀。

 それを爪でヴァンの身体ごといなし、地面に叩きつけた後。

 

 圧倒的な圧力で、防具ごと踏みつけた。

 

 ――二人目。

 

 次は貴様だ。

 

 そう言いたげな目でセレナを見る。

 

 フルフェイスの兜の奥。

 恐怖で顔が滲む。

 

 後方からミイの足音が響き、マガイマドが振り向く。

 ミイは武器を構えながら、脚下を滑るように潜り抜け、岩壁を足掛かりに跳躍。

 

 水しぶきが舞う。

 水滴越しにミイとマガイマドの視線が交差した。

 

 ミイに注意が向いた瞬間、レイズのヘヴィボウガンによる一撃が眉間に命中。

 

 今だ。

 

 ミイは身体を回転させながら、斬り込んだ。

 だが、マガイマドは背中を丸めて刃殻を突き立て、ミイの斬撃を弾ききる。

 

 咆哮と共にセレナへと襲い掛かり――。

 

 身構えたセレナを素通りし、更に後方のレイズを左腕で吹き飛ばした。

 

 ――三人目。

 

 壁面に叩きつけられ、落ちる。

 だが、グラついた身体を十手状の尾で壁に突き立て、レイズの身体を張り付けた。

 

「な、何なの? 私たちを弄んでいるの!?」

 

 混乱したセレナの絶叫に、紫魂が笑うように揺らめく。

 

 直後、マガイマドの身体が痺れるように硬直した。

 

 レイズが最後の力でシビレ罠を壁面に設置。

 自分ごと、強烈な電流によりマガイマドの動きを封じていた。

 

「……よくも、よくもみんなをっ!」

 

 セレナの目に憎悪が宿り、ガンランスの機工を解放する。

 ビンの全エネルギーを圧縮。

 圧力でまるで竜の口から炎を吐くように雄叫びを上げる。

 

 フルバレットファイヤ。

 

 オーバーヒート寸前の圧力を維持したまま翔蟲の糸で跳躍。

 超高火力による一撃をマガイマドに突き立てた。

 

 爆炎で周囲に煙が立ち込める。

 

 セレナの痛々しいまでの息遣いが、ミイにまで届く。

 

 ――爆炎を穿つ槍のような一閃。

 それが、セレナの盾を弾き飛ばした。

 

「そ、そんな! まだ麻痺の効力中のはず!?」

 

 絶望がセレナを染め上げる。

 戦意を喪失したセレナを尾で薙ぎ払う。

 

 ――四人目。

 

 最後に、ミイだけが取り残された。

 

 恐怖。

 あの時のジンオウガ。

 それ以上の、死の予感で呼吸が浅くなる。

 

 ――お姉ちゃん。

 

 昔、ユウがまだそう呼んでくれていた頃。

 いつの頃だったか。

 生意気にもミイと呼ぶようになったのは。

 

 ダメな弟だと思っていたのに。

 その弟の躍進に嫉妬した。

 病室で凄い凄いと聞かされ、焦る気持ちを抑えきれなかった。

 

「あーあ、ダメなお姉ちゃんだね……」

 

 震える声が、洞窟に小さく溶けていった。

 

 でも、ダメなお姉ちゃんなりに頑張らなくては。

 

 揺れる視界を定め、双剣を構える。

 

 帰ったらちゃんと謝ろう。

 心配かけてごめんねって。

 

 その為にはこいつを。

 

 ――狩る。

 

 駆り立てろ、狩猟本能。

 

 ミイの瞳に決意の焔が宿る。

 それを嗤う修羅が牙を剥く。

 

 ミイが深く呼吸をして鬼人化となり、水面を滑るように駆け出す。

 

 瞬間、後方で閃光玉が弾け、マガイマドの目が眩んだ。

 

 ミイの横を誰かの翔蟲が飛来。

 その糸を掴むソウシが、居合でマガイマドを斬り付けた。

 

 太刀の切っ先が闇を斬り裂くように、幾重にも弧を描く。

 

 その右目からは大量の出血が見られる。

 

「俺に続け、ヴァン!」

「あいよぉ!」

 

 ミイの頭上を跳躍したヴァンが、大剣による一撃を叩きつける。

 

「ハンター、舐めんな、猫やろう!」

 

 左肩に深い傷を付けられ、マガイマドが距離を取る。

 

 その着地点に、ミイがいた。

 

 鬼人化で渾身の力で双剣を振るう。

 

 斬り付け、斬り付け、斬り付け。

 

 酸素がもうすぐ切れる。

 だが、まだだ。

 

 今、鬼人化を解いたら、反撃が来る。

 

 もう少し。

 

 限界を、越えろ。

 

「――気炎、万丈!」

 

 気合と共に、双剣を振り抜く。

 

 双剣の交差をなぞるように、怨虎竜の血が宙を舞う。

 

 マガイマドが、のけぞるように倒れ込む。

 

 スタミナが切れた。

 ミイはチアノーゼでふらつく足で、僅かに距離を取る。

 

 それをカバーするように、二人がマガイマドへと連続で攻撃を仕掛ける。

 

 ミイの視界が、一瞬足元へと移った。

 

 その刹那、閃光がミイの身体を貫いた。

 

 尾による槍のような一撃が、ミイの装備をたやすく穿った。

 

 ミイの身体が、その場に崩れ落ちる。

 

「――なっ!?」

 

 二人の視線がミイへと移った瞬間、紫紛が爆ぜて周囲を吹き飛ばす。

 

 再び紫の焔が嗤うように揺らめき、強靭な後ろ足で跳躍。

 

 尾をふるい、設置していた大タル爆弾を次々と点火。

 灼熱の爆発の中、マガイマドの咆哮が青の洞窟を地獄へと染め上げた。

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