歩けば厄ネタにぶつかる世界同士ですが、シリアスに振り切る様な事はしません。設定崩壊などあるかもしれませんが、気楽にご覧ください。
「……♪……♪♪」
ここは、平時より人の姿で溢れかえるリゾート地『ピノコニー』。
現実での立場、環境、体調……その一切合切を忘れ、文字通り『夢に溺れられる』この世界では、通りを歩く人々は大抵『喜』か『楽』のどちらかに体を支配されている。
そして、そんなピノコニーの中でも一際目立つ者がいた。それは、灰色の髪と金色の瞳を持ち、白いシャツの上に黒と金を基調としたコートを纏いながら、鼻歌混じりにステップを刻む青年。
彼の名は、『穹』。今まさに一世を風靡している『星穹列車』において、最も注目されている『ナナシビト』。実際あまり役には立っていないが体の中に星核を持つという特異性を持ち、またすでに多くの世界を救った猛者。
時には開拓者とも呼ばれる彼がなぜここを歩いているのかと言えば……
「マネーウォーズ!マネーウォーズ!」
『朝露の館』にある『マネーウォーズ』、というシュミレーターに興じるためである。
というのも、カンパニーの『戦略投資部』に所属する三人の手によって開発された『マネーウォーズ』、彼はこれに大変どハマりした。
ジェイドの「また来たのね」という視線を浴びた回数は数知れず。雨が降っても風が吹いても、あまりにも模擬宇宙のテストに来ない事にキレたマダムヘルタ本人から直々のお叱りを食らっても、彼はマネーウォーズを遊んだ。
そして今日も遊ぶ、それだけのことである。
「今日はどうするかな……久しぶりに仙舟パでもやろうかな。でもあれエンブレム三つくらい必要だから面倒なんだよな……」
階段を昇りながら、穹が今日の目標を吟味していた時。
「おや、開拓者のお兄さんじゃないんですか?どうしたんです、そんな急いで」
「……うげ」
偶然にも、階段の角から現れたサンポ・コースキと鉢合わせた。何とも微妙そうな表情を浮かべ、穹は足を止める。
「出会って最初の言葉が「うげ」とは、酷くないですか?」
「だってお前胡散臭いじゃん……」
「そんな、誤解ですよ!このサンポがあなたを貶めるような事をしない事はお分かりでしょう?」
「それはそうだけどさ、お前絶対なんか隠してるだろ?」
「……確かに、そうですね。僕には……いえ、人には誰しも隠したい事がある物ですから」
「ほら誤魔化した……まあいいや、今日は何の用事だ?俺この後やりたいことがあるんだけど」
「用事、と言われましても……僕はただこの辺りを歩いていただけですので、そんなものは……あ、そうでした!」
サンポはわざとらしく手を合わせると、ズボンのポケットから何やら腕時計の様な形をした物を取り出した。
「そう言えば最近、面白そうな物を掘り出したんです。なんでも、『異世界の星に飛べる』んだとか」
「……なんだそれ?」
「僕も使ったことが無いので分からないんですが、どうやら横についているボタンを押すと起動して、ランダムな星、それもこことは違う世界に瞬間移動してしまうんだとか。ああでも、少なくとも生存可能な星にしか飛ばされないそうですよ」
急に口が回り出したサンポに、穹は訝しげな視線を向けた。
「使ったことが無いのに、なんでそんな詳しいんだ?」
「え?」
サンポは一度真顔で固まると、穹の発言の意図を理解したのか慌てて首を振り、またもやポケットから何かを取り出した。
「ああ!違いますよ、僕が使った事があるとかそういう訳ではなくですね……ほら、ご覧ください。一緒に説明書も掘り出したんです」
「ふーん」
それは一枚の紙で、両面にびっしりと時計についての説明が記されていた。「ここにアグライアが居てくれれば、これが本物かどうかサンポを尋問出来たんだけどな」なんて事を考えながらも、とりあえず穹はそれを本物だと見なす事にした。
代わりに、彼の視線は腕時計に注がれる。
「なあ、その時計ちょっと貸してくれ」
「お?やはりお目が高い!どうぞどうぞ、ぜひ付けてみてください!」
穹はサンポから受け取った腕時計を迷わず手首に巻きつけ、じっくりと眺めてみた。
なんら変わりない、ただの腕時計。1〜12の数字が刻まれ、長針・短針・秒針も異常なく機能している。横に小さなボタン、恐らくは起動用のボタンなのだろうが、それも見事に溶け込んでいる。この時計を付けていたところで、誰もその時計が奇物だとは気付かない。そう確信出来るほどに、変哲のない腕時計だった。
「…………」
「……あの、どうされたんです?急に黙り込んで……もしや、あまりデザインがお好きではない?」
「いや、ボタン押したらどうなるのかなって」
「ボタン……まさか、もう使うつもりなんですか?ちょ、ちょっと待ってください。説明書に書いてあるでしょう、ほらここ!『この奇物は絶対に夢境内で使わないでください。破損し転移に失敗します』って!」
「えー、じゃあどうするんだ?」
「そんなに食いつくとは……分かりました。でしたら一度夢境から出ましょう、それでしたら問題ない筈ですから。ではとりあえずそれは返していただいて」
「ん」
「確かに。ではそうですね、ホテルのロビーで合流する事にしましょうか」
「分かった、出来るだけ早く来いよ?逃げるのもなしだからな」
「勿論です!このサンポ、風よりも早くあなたの元に参上いたしましょう!」
そう言って、足音もなく人混みに紛れていくサンポ。穹はその様子を見届けると、先ほどまで向かっていた朝露の館に背を向け、自らも夢境から出るため歩き出した。
*
「……そんなこんなで、貰ってきた訳だけど……」
数十分後、星穹列車。
サンポから無事時計を受け取った彼は自室の椅子に座り、時計を眺めていた。ちなみに時計を貰う際、「説明書も持っていきませんか」などとサンポに言われたが、穹は速攻で拒否した。
彼からしてみれば、説明書などと言うのはただのネタバレに過ぎない。こう言うのは自分で作ったり、使い方を探したりするのが楽しいのに、最初から説明書を見てしまっては楽しみが無くなるではないか……と、そう言う訳である。
「よし、早速使うか」
彼は思い立った様に椅子から立ち上がると、時計横のボタンに指を添えた。そしてそのまま押そうとして……「あ」と声を漏らした。
「なんだっけ、ボタンは一度につき一回しか押しちゃいけないんだっけ」
確かそんな事をサンポに言われたな、と穹は思った。
「いいですか!絶対にダメですからね!……何ですかその顔、フリじゃないですからね!本当に危ないんです!」……そう何度も何度も、念を押す様に言われた記憶が、彼の脳裏を駆け巡る。その時は適当に頷き、受け流した訳だが……
「……………」
彼はもう一度、ボタンを一瞥した。
このボタンを押していいのは、一度だけとのことらしい……だが、
事前に敷かれたレールを走るだけでいいのか?自らの意思を押し殺して、そんなつまらないルールに従うのか?果たしてそれは、
「……いや」
───否、断じて否!それは決して『開拓』の、『主人公』のすることではない!『開拓』は未知の世界を切り開き進むこと!つまり、今すべきなのは───!
「ルールは、破るためにある!」
何十回でも、何百回でも、何千回だって!
恐れずに、常識を覆すことだ!
「うおおおおお!!!」
そうして彼が『開拓』の目的を思い出し、全力で時計のボタンを連打した瞬間。
「!?」
時計から溢れ出した、眩い光に呑まれ───彼は咄嗟に目を瞑った。
*
「……ったく、何なんだよどいつもこいつも……!口を開けばヌオバ・ウォルシーニ、ヌオバ・ウォルシーニ……!俺らは邪魔者ってか!?」
煉瓦作りの建物に挟まれ出来た路地裏。そこを、数人のスーツ姿の
「ファミリーの連中もそうだ!仲間ヅラしておきながら、あいつらも結局企業の真似事してるだけじゃねえか!」
「兄貴、今日は随分とお怒りのようで」
「当たり前だろうが!あの*シラクーザスラング*共に腹を立てねえ奴がどこにいる!?」
彼らはとある
力による支配を望みマフィアになった彼らは、ここ最近出来た『ヌオバ・ウォルシーニ』という都市に怒りを抱いていた。『ファミリーのいない街づくり』などと謳い、長年シラクーザの歴史に名を刻み続けたマフィアを排斥しようとしているからである。
「もういい、我慢の限界だ!上の連中がどう言おうが関係ねえ、俺はあそこを吹き飛ばす!」
先頭の男が口走った、あまりにも無謀で危険な発言。彼の後を歩く部下たちさえ顔を顰めてしまったが、男がそれに気付くことはなかった。何故なら。
「いいか、ありったけの武器を───なっ、なんだ!?」
彼らが角を曲がろうとしたタイミングで、その先が突如として光始めたからである。光から離れていた最後尾の者たちさえも思わず腕で遮るほどの、眩い光。
その光は数秒間に渡って奇妙な音を響かせながら輝き続け……やがて、電球の寿命が切れた様にパッと消えてしまった。
「クソッ、何なんだよ……!?」
焦点の合わない目を押さえながら、男は光源を見極めようと必死に頭を動かす。そして、ようやく目がまともに見える様になった直後……そこに、一人の男が立っている事に気がついた。
「ああ!?誰だテメェ!?」
男たちは即座に臨戦体制をとる。目を血走らせ、それぞれが得意とする得物を取り出す中……彼らの前に現れた男は気取ったように笑った。
「俺か?俺の名は……」
そして腰に手を置き、胸を張って叫んだ。
「銀河打者だ!」
「…………」
「…………?」
しばしの沈黙が、路地裏に満ちる。
ループス達は皆眉を顰め固まり、最初は自信ありげに叫んでいた穹も流石に異常に気付いたのか首を傾げ……そして気付いた。
「あ、そっか。ここ別世界だから誰も俺のこと知らないんだった」
「意味分かんねえこと言ってんじゃねえ!この*シラクーザスラング*野郎が───!」
我慢の限界とばかりに、先頭の男が短剣を振りかぶって飛びかかった。
いくら新人とはいえ腐ってもマフィア、一般人を容易く始末できるくらいの力を持っている彼からすれば、目の前の戯けた灰色を殺すことなど容易いことだった。
……容易い、はずだった。
「フンッ!」
「ぐぼぉあっ!?」
瞬きの間に、男の上半身が煉瓦の壁に突き刺さった。即座に失神したのか、尻尾も足も力無く垂れ下がっていて、まるで意思を感じなかった。
背後から見ていた者たちはその状況を理解できず、ただ瞬きをするばかり。そんな彼らに向かって、何処からか取り出した愛用のバットを肩に置きながら、穹は真顔で言った。
「ったく、出会っていきなり物騒だな。で?お前らはやるのか?」
「…………」
数秒の閉口。そして、すぐに。
「こいつを殺せェ!!」
激昂。
馬鹿にされたと解釈した彼らが、一斉に飛びかかった。
「よっ!」
穹は一歩下がって男達の初撃を躱すと、一番前にいた男の頭目掛けてバットをフルスイング。
「うげっ!」
先ほどの男と同じ様に吹き飛ばし壁に突き刺してやると、そのまま返す様にバットを振り下ろし、近づいてきた二人目の男の顔を地面に叩きつける。
「がっ!」
三人目が突き出したナイフを首を傾けて避けると、体を捻ってバットを振り抜き、アッパーカットの様に顎を叩き吹き飛ばした。
「がゎば!」
振り上げた隙を狙って剣を構えた四人目には、バットから離した右手による裏拳をこれまた顎にお見舞い。そうして姿勢が崩れた瞬間を逃さず、腹に膝を突き刺す。
「ほぁたぁ!?」
「……*シラクーザスラング*……うおあああああああ!!」
そして最後に、ヤケクソで突撃してきた五人目の顔面を───
「喰らえッ!」
渾身のストレートで、思い切り殴り飛ばした。
五人目は何メートルも吹き飛んだ矢先、壁に大の字になって激突。ズルズルと落ちて……そのまま、力無く倒れ込んだ。
以上、これにて戦闘終了。異世界初の戦闘は、僅か十秒間の瞬殺劇で終わる形となった。
「……ふう、一体なんだったんだこいつら。というか……ちょっとやりすぎたか、これ」
「一応手加減したんだけどな……」と独りごちながら、地面に倒れ込む男をバットでつつく穹。
しかし背後から拍手が鳴り響いた瞬間、彼のバットはそちらに向けられた。
「誰だ?」
「あれ?驚かせちゃったかな。ボクは別に、そこに転がってるボロ雑巾の仲間って訳じゃないよ。君のショーがあまりにも痛快だったから、喝采を送りたくなっただけさ」
そう言いながら路地裏に足を踏み入れたのは、若い銀髪の
「ボクはラップランド。キミは何て名前なのかな?」
「俺は銀河……って通じないんだった。穹だ」
「キュー……なるほど。けどキミも面白いね、こんな街中でファミリーの連中に喧嘩を売るなんてさ」
「喧嘩売るって言うか、あっちから襲ってきたんだぞ。俺のこれは正当防衛だ」
背後に転がる惨状を指差して言う穹であったが、目の前のループスは愉快そうに口を歪めるばかり。
「ハハッ!そんなこと関係ないさ。何処のファミリーであれ、自分の所の奴がやられたとなれば黙ってはいない。連中は体に必死で縫い付けた威厳を剥がされるのが何よりも嫌いだからね」
「何だそれ、無茶苦茶じゃん!」
「そいつらの顔面をぐちゃぐちゃにしておきながら、そんな事を言うのかい?キミも中々イカれてるね」
「いやしてないって!」
心外だ、とでも言わんばかりに抗議する穹。
顔がぐちゃぐちゃになっているだって?そんなことはない。これでもかなり加減はしたのだ、確かに地面にはひびが入っているし、二人くらいは壁に突き刺さっているし、何だったら奥の壁まで吹き飛んだやつもいるが、そんな事にはなっていない……はず。
「まあいいさ。ただ、こんなショーを見せてもらったんだ、ボクも少しばかりキミにサービスしてあげよう」
「サービス?」
「ついて来なよ」
そう言ってくるりと振り返り路地の外へと出ていくラップランド。穹は警戒しつつも、彼女の後を追いかけていく。すると、そこには───
「……何だこれ」
「見たことないの?タクシーだよ」
如何にも……というか、もはやタクシーそのものがあった。黄色い車体、見慣れた形……人が想像するタクシー像にピッタリ当てはまる車が、そこにはあった。
「それは見れば分かるんだけど……もしかしてお前、タクシードライバー?」
「意外だったかな?乗りなよ、運賃はタダでいいから」
「んー……」
マフィアをぶちのめした後に現れた謎の女性に、車に乗れと言われた。こんな物、罠である可能性の方が高いに決まっている。
だが、罠にかかったらかかった時にまた考えればいい。穹は自らが導き出した合理的な結論に頷き、タクシーに乗り込む事にした。
「さて、そうだね……キミ、ピザは好きかい?目的地に行く前に、ちょっと食べて行こうか」
「お、いいな! ……って、ちょっと待った。『目的地』ってどこだ?」
「ああ、言ってなかったね……『ロドス・アイランド』って知ってるかな」
「……ごめん、分かんない」
「キミはきっとあそこに合う。それこそ、お友達も沢山できる筈だよ。それにね、キミを見てると思うんだ───キミはきっと、あそこで思いもよらないイベントを起こしてくれるってね!アハハ!」
ひび割れた瓶の様な笑い声を上げるラップランド。しかしながら、彼女の纏う何となくヤバそうな雰囲気に反して態度は丁寧だし、タクシーの運転は非常に快適かつ安全なのだから、人間は不思議な物である。
(ロドス、ロドスか……まあなんか面白そうだし、まだ帰らなくてもいいか)
一方の穹も、流れていく燻んだ街の風景を眺めながら『ロドス・アイランド』とやらに思いを馳せていた。そこは一体、どの様な所なのだろう?アイランド、と言うからには島か何かなのだろうか?いやいや、もしかしたら全然違うかもしれない……なんてことを考えていた時。
とある疑問が、彼の脳裏に煌めいた。
「ラップランド、聞きたい事あるんだけど。それも俺にとって死活問題の奴」
「何だい、言ってみなよ」
「あのさ」
それは、彼にとって最も大事な質問だと言っても過言ではない。この世界に来てからまだ『アレ』を見ていない彼にとって、『アレ』があるかないかは本当に話が変わってくるのだ。
もし『アレ』がなければ、例え世界で最も美しい布で作られたベッドに横になり、至高の料理人の作ったフルコースを食したとしても、全く足りない。
だがもし『アレ』があれば、例え冷水のシャワーをかけられた上で残飯を食えと言われてもなお、満足出来る。
だからこそ、彼は質問した。
「ロドスって、ゴミ箱あるのか?」
「……………………………………………」
エンジン音が車内に響く中、ラップランドは数秒黙り込んで。
「ハハッ……やっぱり、キミもイカれてるね」
感情の読み取れない平坦な声で、そう言ったのだった。
ラップランドとかいうエミュ難度がありえないぐらい高いキャラに何故手を出したのか。
続きはあるかもしれないし、ないかもしれない。